忘れ傘とグリモわーる   作:ホワイト・ラム

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さてさて、2話目です。
3話目位から、別のキャラと絡めていきたいですね。


魔術と欲望と黄金の塊

人里の一角、小さなあばら家が小傘の家だった。

いや、正確には家ではなく彼女の仕事の為の『工房』だった。

一人の男が、その家を目指し歩みを進める。

 

「あれ、どうしたんだろコレ?」

小傘の家の前はまるで鋭利な巨大な刃物で切り刻まれた様に、真横に大きな亀裂が入っていた。

誰かが応急修理したのか、切れ目を縫うように板と釘で打ち付けられている。

訝しがりつつも小傘の住む家の扉を開ける。

 

「小傘ちゃーん?俺の包丁のヤツ……おわ――うぉ!?」

男が、びくりと身を縮こませる。

それもそのはず――部屋の真ん中に居たのは、いつも笑顔で迎え得てくれる小傘ではなく、胡乱な目をした怪しげな顔と派手な服装の男。

 

「よく来た――依頼か?それとも、受取か?」

 

「え、あ……いや……その……」

 

「ふぅむ?言えぬか?言えぬのなら――体に聞くしかあるまい」

怪しげな男が立ち上がると、周囲に何か不気味な力が胎動した。

その男を中心に空気が歪んでいくのを感じる、ビリビリと肌に深いな感覚が広がっていく。

 

――マズイ!!――

 

男の精神が全力で危険を知らせる!!

此処幻想郷は、妖怪が闊歩する場所。

夜中に腹を空かせた妖怪、機嫌を損ねた神、退屈している邪仙など触れてはいけない相手は無数にある。

この男はそれらと同種、あるいはそれ以上の非常に危険な存在だと感覚的に分かる!!

人は圧倒的な恐怖に駆られると、足が地面に縫い付けられた様に動けなくなってしまう。

哀れにも、震える以外の事が出来なくなってしまったのだ。

 

「どれ、まずは足を……」

怪しげな男が、ステッキを構える。

一方客人の男は痛みに備えようとぎゅっと目をつぶる。

その時――

 

「何してるの!?」

突如里奥から買い物袋を抱えた小傘が走ってきて、怪しげな男を押しのける!!

 

「小傘ちゃん!?」

思いも寄らぬ救いの女神に男が、感謝をする。

 

「あ、2丁目の料亭さんですよね?包丁はもう出来てますから!!」

営業スマイルを浮かべて、家の中に入ると非常に良い出来の包丁を2本持ってきた。

 

「あ、あははは、すいません……ちょっと、この人留守番代わりの人で――」

隠す様に怪しげな男をドアの向こうへ押しやる。

料亭の主人である彼は、所謂「お得意様」で彼を失う訳にはいかなかったのだ。

 

「あ、ああ……そうなんだ……鍛冶屋も大変なんだね……」

苦笑いを浮かべて、料亭の主人が小傘に研いでもらった包丁を確認する。

 

「うん、相変わらずいい仕事だね。

じゃ、じゃあ、僕はこれで……」

 

「ありがとうございます」

お金をもらい、小傘が逃げる様に去っていく男の背を見送る。

料亭の主人が去っていくのを確認した小傘が、ドアを開けて部屋の中へと飛び込む!!

振り返って扉を開けるまで、僅か0.5秒余りそのわずかな時間で小傘の営業スマイルは悪鬼を討つべき修羅のごとく変化する!!

 

「オルドグラム!!何してるの!?」

開口一番、ついこないだから勝手に居候を始めた同居人を叱りつける。

しかし件の魔術師は――

 

「何って、ティータイムだが?」

畳の上に白いお洒落なテーブル&椅子に腰かけ、紅茶を楽しんでいる。

 

「あーそっかぁ、あふたぬーんてぃーって奴だね……

ってどこから持ってきたの!?」

 

「我がグリモワールから、具現化(マテリアライズ)させた。

私が工房と認識した空間で、グリモワール内の道具を出現させるのだ。

この国では結界という概念が近いか?条件は閉鎖空間である事と――」

 

「そんな事良いから!!」

長々と説明を始めるオルドグラムを小傘が怒鳴りつける。

 

(こいつは何が気に入らないんだ?)といった顔をして、オルドグラムが自身の耳を人差し指でふさぐ。

 

「はぁ、いい?私言ったよね?騒ぎを起こさないでって!」

 

「お前の都合など知らぬわ!」

小傘の言葉を無視して、紅茶を一口飲む。

 

「あー!!もう!!」

そのこちらを全く気にしない優雅さに、小傘が頭を引っ掻いて地団太を踏む。

 

 

 

数日前、小傘は森の中で不思議な魔導書を拾った。

里の外、自身の頭上に落ちてきた魔導書から出現したのがオルドグラムなのだが……

 

常識に疎いのだ、非常に。

いや、疎いというか他者に興味がないというか……

いずれにせよ、自分本位すぎる自由人だ。

 

先ほどの様に見知らぬ相手に、警戒をして魔法を容赦なくぶっ放そうとするし、小傘の家の中だという事を全く気にせず、紅茶やテーブルを召喚する。

などな悪い意味で非常にマイペースな人間なのだ。

そして極めつけは――

 

「あう……なんだか、空腹に成って来た……

ちょっと!!勝手に私の妖力利用するのをやめてよ!!!」

自身の空腹に耐えかね、腰にぶら下がった魔導書を手にしながら、小傘がオルドグラムに指を突きつける。

 

「仕方ないのだ。道具の具現化(マテリアライズ)は魔力を食うのだよ」

なんて言いながら、平然とケーキに手をつける。

 

「ちょっと!!無駄に召喚しないで!!」

小傘の声が、むなしく響いた。

 

 

 

 

 

「(これは、調査が必要かも……)」

突如自身の生活に、乱入してきた魔術師に対して小傘はあまりにも無知過ぎた。

そして、彼女は件の魔術師について調査をすることに決めたのだ。

 

「ねぇ、私にもそれちょうだい!」

 

「ん、かまわんぞ?」

オルドグラムが、部屋の中で別の椅子を召喚して、手早くティーカップとケーキを置く。

 

「い、いただきます……」

目の前のカップをみて、小傘は恐々と手を伸ばす。

得体のしれない魔術師(しかも幽霊)が用意した紅茶だ、何が起きるか分からない。

 

スンスン……

 

警戒した小傘が、紅茶の臭いを嗅ぐ。

正直いって日本茶以外にはあまりなじみがない小傘だが、なかなか良い茶葉なんだという事はなんとなく分かる。

 

「ねぇ?これって、このまま飲んで大丈夫?

そのまま飲むと、胃が爛れたりしない?」

 

「ん?胃が爛れる紅茶の方がよかったか?

拷問用だが……用意してやろうか?」

さらっと拷問用紅茶が有る事を告白して、小傘が必死に断る。

恐る恐る紅茶に口を付ける。

 

「おいしい……」

 

「そうか」

何処か自慢げに口角を上げると、オルドグラムもカップを持ち上げた。

 

「ねぇ、いろいろ聞いても良い?」

 

「かまわないが?」

お互いの視線が一瞬だけ交差する。

すぐに両人とも、カップに視線を戻すが。

 

あなた(オルドグラム)って何なの?」

 

「前に言った通りだ。

我は魔術師にして錬金術師、たったそれだけの事よ」

オルドグラムが紅茶を飲み干すと、ティーポットから再び紅茶を注ぐ。

 

「そんな訳ないでしょ?

私魔法使いに会った事あるモノ。

捨虫だっけ?捨食だっけ?そんな魔法を覚えた魔法使いは年も取らないし、何も食べないんでしょ?」

小傘の言葉に、オルドグラムがケーキを切るフォークの動きを止める。

小傘の指摘通りなら、紅茶を飲みケーキを食うオルドグラムは――

 

「そうだ、ある一定の魔術を覚えた魔法使いは年を取らない。

何かを食べる必要もなくなるだが、私はそのどちらも満たしていなかった。

まぁ、今は幽霊である為、どちらも必要ではないのだがな?」

あげた右腕が、すぅっと透ける。

幽霊。それが今の彼なのだ。

今の彼は「魔法を使う」という点のみが小傘のしっている魔法使いと共通している。

そして、彼のもっとも異質な点は――

 

「じゃあ、これは?」

小傘の腰に巻きついた、グリモワール。

タイトルは「グリモワール・オブ・オルドグラム」。

 

「これが我が本体だ。

肉体を失った我は、我が魔導書に魂を移植し、魔術の吸収機関を利用して今の我を現世にとどめている。

勿論、魔力以外の力も吸収できるのだがな」

 

「ああもう!!ソレ止めてよね!!ドンドンお腹空いていくんだから!!」

ここ数日の小傘の空腹の原因は、それに有る。

オルドグラムは小傘から容赦なく魔力を吸い上げている。

かろうじて倒れないのは――

 

ガラッ!

 

「すいませーん、うちの鍋穴が開いちゃって、修理を――!?」

 

「はーい、承ります」

椅子から下りて、修理を頼む客人に近寄る。

 

「あの……後ろの人は?」

 

「えっと……居候?」

 

「へ、へぇ……そうなんだ……」

手早く修理を頼むと、客人は帰っていった。

 

「ふむ、人の顔をみてずいぶん無礼な奴だ」

若干不機嫌になりながら、オルドグラムが話す。

 

「いきなり現れたからびっくりしたのよ!!」

悔しい事に、小傘が餓死しないのはオルドグラムをみて驚いた驚きが入ってくるからである。

空腹の原因がオルドグラムならば、何とか生きているのもまたオルドグラムのおかげなのだ。

 

「どっちかっていうと、悪いことの方が多いのに……」

 

「そう、落ち込むな。

我が力を使えば様々な事が出来るぞ?

特に金属器とは相性がいい、錬金術は得意分野だ」

立ち上がると小傘から、鍋を取り上げ何か小さくつぶやきながら鍋の表面を撫でていく。

 

「うむ、これでいいか?」

その鍋を弧を描く様に小傘に投げ渡す。

 

「わわっと!」

慌てて、鍋を受け取ると開いていたハズの穴が閉じている。

後は仕上げをするだけという所まで終わっている。

 

「すごい……本当に魔法使いなんだ!」

 

「今更か……」

尚も疑っていた小傘に肩を落としながら、オルドグラムがため息を付く。

小傘が改めて、鍋を見るが本当にしっかり直っている。

それと同時に、小傘の中に欲がむくむくと湧いてくる。

 

「ね、ねぇ、錬金術って金属を操るんだよね?

こう……金属を他の金属に変えるって出来る?」

 

「他の金属へ?出来るぞ?」

オルドグラムの言葉を聞いて小傘が飛び上がり、指を鳴らした!!

 

「やった!!それ、本当だよね?」

 

「あ、ああ」

再度確認をした、小傘が走って家中の古い使わなくなった道具、または金属で出来た道具などを持ってくる。

 

「これを今すぐ金に変えて!!黄金にして!!」

小傘とて金の価値は知ってる。

これが高く売れる事も十分理解している。

 

「……本当に良いのか?」

 

「いいに決まってるじゃん!!この際多少なら、私の妖力を使ってもいいからさ!!」

小傘の心中では、大量に金が手に入れば今の切れ目が入った家を新築出来るし、新しく金を使って手にした現金でまたぼろ鉄を買い上げ、オルドグラムに金へと変化させ、またぼろ鉄を買いそして……

いずれは大金持ちに、成り紅魔館よりも大きな豪邸に住んで……

なんて、未来設計図が出来上がっている!!

 

「ささ!!早く!!すぐやって!!」

 

「分かった、分かった」

急かされたオルドグラムが魔法陣を床に書いて、その中心に小傘の集めた家中の金属を置く。

 

「では、始める」

ぼそぼそと呪文を唱え、小傘の妖力が変換され――

 

カァ!!

 

すさまじい光が瞬いて、余剰魔力が排出される!!

 

「金は?金はどうなったの!?」

 

「安心しろ、成功だ」

眩む視界の中、小傘がオルドグラムの声を聞いてほくそ笑む。

 

これで自分は大金持ち――

 

「これだ」

 

「え”!?」

オルドグラムが、小指の爪ほどの金をこちらに投げ渡す。

 

「なにこれ……なにこれ!?」

手の中、小さな小さな金を小傘が手にして大声を上げる!!

 

「金だが?」

 

「小さいよ!?あれだけあった鉄からこれだけなの!?」

まさかの超少量の黄金に小傘が動揺する。

彼女の中では、出した鉄と同じ量の黄金が手に入る予定だったのだが……

 

「ああそうだ。

なぜ、金が貴重か知っているか?

それは金が魔術師にとっても、精製が困難だからだ。

考えてもみろ、金がその価値を保っているのはその希少性からだ、金を生み出す魔術師が居ても尚貴重であるという事は、それだけ精製が難しいのだ。

良かったな、私は金を生み出せる貴重な魔術師だぞ?」

 

「え、いや……コレだけあっても……

精製するのに使った、鍋が買い戻せるかどうか……

え?これだけ?あんなに有ったのに?え、豪邸は?大金持ちは?」

オルドグラムの説明を聞きながら、小傘が光りの消えた目でぼうっと自身の掌の金を眺める。

ぼそぼそと、力なく。

無気力に、幽鬼の様に朧につぶやく。

 

「ふむ、感動のあまり言葉が出ないようだな!!

はっはっは!!気分が良い!!」

オルドグラムの高笑いが大きく響いた!!

笑い声で数人が驚き、幽鬼のような小傘をみてさらに数人が驚き、ほんの僅かに小傘の腹が膨れたのは秘密。

 

「良かったではないか、小傘よ」

 

「こんなグリモわーる、いやぁー!!!!」

 




実は日常生活では傘を使わない作者。
外に出ないという訳ではなく、雨が好きだからです。

それに「雨に濡れたい!!」となった時、雨を任意で振らせられないので、雨に濡れることは出来ないんですよ。
雨に濡れれるのは、雨の時だけなので、雨の日は雨に濡れる事にしています。
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