決してエタった訳ではないんです。
なかなか、モチベーションが上がらないんです……
その分、今回は長めになっています。
「ねぇ、オルドグラム」
「なんだ、小傘よ?」
平和な日常。静かな朝。
小傘はオルドグラムの作った食事を食べながら、前々から思っていた疑問をぶつけた。
「オルドグラムの使う魔法ってちょっと変わってるんだよね?」
パンを齧っていたため、気が付かなかったがオルドグラムの動きが一瞬止まる。
「うむ、そうだ……な」
「あんまり魔法って詳しく知らないんだけど……
前、紅魔館の魔法使いさんが、オルドグラムの名前から連想した位だから珍しいんでしょ?」
「ああ、そうだ。我の扱う『異端五属魔術』は埋もれていた技術を我が取り込み、そして完成させた物だ。
完成することも無かった系譜であり、我の固有の能力と言えるな」
オルドグラムが目の前の目玉焼きに、ナイフを突き刺し説明する。
「ふぅーん……じゃあさ、五属って事は五つの属性が有るんだよね?
具体的にその内容は何なの?」
目の前の食事に夢中なのか、オルドグラムの雰囲気がさらに剣呑になったことに気が付かなかった。
「貴様と我は同盟関係。教えるのは構わんがその前に我の方も良いか?」
「ん?いいけど、何?」
目玉焼きの黄身を残して白身を食べ終わった小傘が、箸で黄身を掬いながら答える。
「貴様の体に興味がある。脱げ」
「ああ、そのてい――ど!?」
べしょ……!
小傘の箸から、黄身が皿に落ちてつぶれる。
「え、え?いま、なんて言ったの?」
何を言われたか、完全には理解できずに小傘が聞き返す。
「貴様の体に興味が有るのだ。という訳で脱げ。
まずは上、その後は下だ。無論下着も全て脱げ。
より詳しく知りたいからな、その後触診だ」
一切の冗談を感じさせない言葉でオルドグラムが小傘を見る。
「え、あ、ちょっと……」
胸を両手で押さえて、後ずさった。
彼の言葉には、ふざけている様な雰囲気は一切なかった。
「さてと、食事前に済ませるか……」
オルドグラムがゆっくりと立ち上がり、近づいてくる。
「あわわわわわわ……わ、私オルドグラムの事、嫌いじゃないけど……
ちょっと、こういう関係になるには、早いっていうか、もっとお互いを良く知ってからだと思うな!?
……けど、オルドグラムがどうしても、今すぐっていうなら……優しくしてくれるなら――」
顔を赤らめた小傘が、胸の前で組む腕をどかす。
そして、意を決したように目を固くつぶり――
「愚か者」
オルドグラムの指が小傘の額を叩く。
「痛った!?」
叩かれた額を押さえて小傘が涙目になる。
「魔術のからくりとは、決して他者には教える物ではない。
貴様とて、自身のすべてを晒したいと思わぬだろう?
魔術とはそういう物だ。技は見せるが決して根本は教えぬ」
コイツは何を言っているのか?と言いたげなオルドグラムがため息をつく。
「うー、なんだか弄ばれた感……」
小傘が不満そうに、唇を尖らせる。
「ふん、知らんな。第一貴様の肉体の興味などありはしない」
「オルドグラムはもっと、乙女心を知るべきだよ!!
私だってね!?私だってすごい、決心をして――」
「貴様は妖怪だろう?」
憤る小傘がオルドグラムの言葉でピタリと止まる。
「あ、そう、だけど……」
「さらに言うと、お前は道具が元であろう?道具に欲情するなど――
ふむ、しかしよく考えてみれば……意思を持たぬ道具が自我を持ち、尚且つ人に近い資質を持つとは……
持ち主の性質を模倣した?いや、そもそも『意思』とは?いや、道具に対して人に近い体を持っている事を加味して――むぅ……?」
考え込む様に、オルドグラムが腕を組む。
そして、何かに思い至り――
「小傘よ。やはり気になる。脱いでくれ」
「絶対にイヤ!!」
小傘はオルドグラムの頼みを反射的に断った。
昼前――
「オルドグラム、何を作ってるの?ハンカチ?」
オルドグラムが机の上で何かを縫っている。
それは、黒い生地に白いフリルが無数についている。
見ているだけで、作るのが大変だと分かる代物だが、オルドグラムは器用に縫っていく。
「ずいぶん器用だね……」
「我に掛かればこの程度、造作もないわ」
少しずつだが、完成していくその様。
小傘が感心して話すうちに、完成したのかオルドグラムが糸を切り離す。
2度、3度と見直し数秒後、納得したようにうなづいた。
「まぁ、ちょっとした贈り物だ。さてと――
出かけてくるぞ。夕方までに帰る。昼食はいらん」
「あ、いってらっしゃい……」
オルドグラムが立ち上がると、一瞬で服装が変わる。
黒い服に全身にまとわりつく赤いベルト。そして同色のマントにシルクハット。
マントを翻し、オルドグラムは魔導書とステッキを腰に下げ出かけていった。
「さてと、私はっと――」
自身の傘を手入れしようとした時。ふと、とあることに気が付く。
「私ってオルドグラムの事あんまり知らない……よね?」
考えてみればそうだ。
あの魔導書を手に入れ、かれこれ半年近く。
だが、それだけの時を過ぎてのあの魔導士の事を、小傘は殆ど知らなかった。
そのことに改めて気が付くと、どうにも気になり始めてしまう。
先ほどの魔術の話題と同じく、彼の多くの部分は謎に包まれている。
「後を付いて行って、みようかな……?」
言葉に出すと同時に、小傘が外行き用の服に着替える。
家の扉に掛かる看板を『休業』側へと変えて急いで外へ飛び出す。
「えっと、どっちに――」
小傘がオルドグラムを探して、きょろきょろする。
「あやや、何かお探しですか?」
「あ、射命丸……さん」
小傘の後ろに立っていたのは、変装した射命丸だった。
彼女がこうして、里の中で取材をすることは珍しい事ではない。
「いえいえ、何時もは隠れて人を脅かす貴女が、人探しですか?」
「オルドグラムの私生活ってそういえば知らないなーって思って……」
反射的に答えた後で、小傘が『しまった』と思うがもう遅かった。
射命丸は面白いネタを見つけた、とばかりにニヤニヤした笑みを浮かべる。
「確かに気になりますね~。
私も、大切にしていたネタ帳の中身
謎に包まれた、魔術師様の生きざまがついに見えるんですね!」
厄介な事になったと小傘が思うが、その時すでに射命丸が小傘の腕をつかんで走り始めていた。
「さぁ~て、一体何をしているんでしょうね?」
オルドグラム自身は簡単に見つかった。
というよりも、着物が主体の人里で、赤黒の服装の洋装の男は言うまでもなく、非常に目立つ!!
人をかき分ける様に、堂々と闊歩していく。
「さて、まずは何処に――ややっ!?さっそく店に入っていきますよ!」
射命丸が興奮気味に話す通りオルドグラムは、暖簾をかき分け店の奥に姿を消す。
店の看板には『鈴奈庵』とあった。
「ほぅ、この店を知っていますか……なるほど、なるほど……」
射命丸がメモ帳に何かを書き込んでいく。
「え、普通の貸本屋じゃないの?たまに、家でも借りてきた本読んでるよ?」
「あやや、小傘さんは知らないんですね~
この店は確かに、貸本屋ですがそれと同時に店の子がいろいろとやってるんですよ?
独自の占いを開発したり、蔵書の一部は通常の人間には読めなかったり……
あ、読めないっていうのは外来の文字という意味と、妖魔本で精神に影響を与える物が有るからという意味です。
もっとも、どっちともあの人には、影響は無さそうですが……」
「うーん、大本を正せば完全に人間らしいけど……」
射命丸の言葉に小傘が言いよどむ。
詳しくは知らないが、オルドグラムは元は普通の人間で、魔術を志し魔導士へと変わり自身の死後、魂を自身の魔導書に封印し、今は魔術で借りの体を作り活動しているらしい。
「……改めて考えると、人間じゃない」
少し聞くだけで分かる離れ業に、小傘がつぶやいた。
恐ろしいのは妖怪よりも、無限の欲望を持つ人間という事だろうか?
小傘がそんなことを考えている中、オルドグラムが再び本屋から姿を現した。
「――、―― ――、――」
何か、ここから出は聞こえないが本屋の中に声をかけ、借りた本が入っていると思われる風呂敷を掲げ、愛想よく手を振りながらその店を後にする。
「ほほぉ……妖魔本を手にしてご満悦ですね」
「まだ決まった訳じゃ――あー、けど……そんな気がするな……ん?」
何処か諦めた様に小傘が声を漏らす。
尻すぼみな言葉になってしまったのは、オルドグラムに違和感があったからだ。
何時もの彼ではない。そんな確信めいた感覚が小傘にあった。
「むむ、ホシが動きましたよ!」
「ホシって……犯人じゃないんだから……」
射命丸の言葉通り、オルドグラムが魔導書の中に本をしまい歩き出す。
何か目的があるのか、やや速足で進んでいく。
「あやや……結構歩きますねー」
「結構足早い……かも……」
僅かに息を切らせながら、小傘が進んでいく。
人の居る大通りから、少しづつ人の居ない里の外れへと進んで行く。
「あれ、この先って――」
この先は小傘もよく知る場所だ。
「命蓮寺ですね」
射命丸の次の言葉が、紡がれる前にオルドグラムが命蓮寺前で足を止める。
「あやや、これほどミスマッチな組み合わせもありませんね……」
異様な姿のオルドグラムと命蓮寺は確かに組み合わせが悪い。
以前、白蓮と話していたことが有るので、知り合いではある様だ。
もっとも、まだ交流が有るとは知らなかったが……
「おはよーございます!!」
「わわ!?」
突如聞こえた声に、小傘が驚く。
目を向けると、オルドグラムの前に響子がいた。
小傘に向けた挨拶ではないにかかわらず、ここまで聞こえる事から相当な大声であることがわかる。
「うむ、良い挨拶だ。撫でてやろう」
「あうぅ!」
オルドグラムが小傘にすら滅多に見せない穏やかな顔で、響子の頭に手を乗せる。
響子もまんざらではない様で、大人しく撫でられている。
「うむうむ……」
「はぁう……てくにしゃん……」
会話すら挟まず、オルドグラムがゆっくりと撫で続ける。その手は次第に頭から顎の下、背中お腹へと移動していく。
だが響子は大人しく嫌がるそぶり所か、恍惚の表情で尻尾を振っている。
「あややや……響子さんを妖怪としてみるか、犬としてみるかで大きく解釈が変わる映像ですね!!」
カシャカシャと射命丸がカメラを乱射する。
スクープの香りに興奮気味の射命丸だが、小傘はどうしても面白くない。
それどころか――
「そう言えば、鈴奈庵の小鈴ちゃんもアレくらいでしたっけね?」
「!?」
何気ない射命丸の一言が、小傘の体を硬直させる。
「そんな、まさか……?」
小傘の脳裏で、本屋の前での違和感の原因が分かった。
オルドグラムが『笑み』を浮かべていたのだ。
いつもは無表情で、ほとんど表情の変わらないオルドグラム。
だが、さっきの本屋では優しい笑みを浮かべていたのだ。
そして、その笑みは今は響子に注がれている。
「オル――むぐぅ!?」
「何をする気ですか!?そんなことをしたら、バレちゃうでしょ!!」
飛び出そうとした小傘を、射命丸が背後から口を押える。
「離して!!なんか、なんか、上手く言えないけど、むかつくから!!」
「せっかくの取材を台無しにする気ですか!?
このままじゃ、見つかって――あ!?」
もみ合う二人。だが一瞬目を離した隙にオルドグラムが消えていた。
残るのは命蓮寺の前で、ぐったりと気の抜けた笑みを浮かべ腰砕けで地面にへたり込む響子と、お土産と思わしい袋だけだった。
「あー、もっと取材(盗撮)したかったのに……」
「何言ってるの!!オルドグラムは目立つから、すぐに見つかるから!!」
諦めモードの射命丸に小傘がはっぱをかける。
突然の事に、射命丸が呆ける。
「何してるの!?行くよ!!」
「あ、は、はい!」
小傘の語気の圧倒されて、射命丸が連れていかれる。
「空からなら、見つかるよね?やって」
「あや!?いや、こう見えても、人里では、人間という事に成って――」
小傘の迫力に押されながらも、射命丸が断る。
もし飛んでいるところを見られたなら、人里での取材が困難になる。
射命丸の心配はごく普通の物だったが――
「やって!!」
「はい!!」
半場無理やりに、射命丸が空を飛びオルドグラムの姿を探す。
そして、キョロキョロと見下ろす中で、例の目立つ姿を発見する。
「いましたよ、どうやらまた大通りへと戻った様です」
「分かった!」
聞くや否や、小傘は大通りに向かって走り出した。
「あややぁ……何ですかね、この気力は……」
ため息をつきつつ、小傘の後を追った。
「見失った……」
「これは、丁度買い物時間ですからね」
人里の大通り。夕刻も近いそこは多くの人間の姿でごった返していた。
買い物に行く主婦。仕事を終えて家に帰る者、気が早く飲み屋に駆け込む者、友人と家へ急ぐ者。
兎に角この時間は、人が多い。
その時――
「たぁす、けて~~!!」
小さな影が小傘の横を通り過ぎる。
頭にかぶったお椀に、着物がはだけるのも構わず走り去ってく。
「あれは、針妙丸ちゃん?」
なぜ、こんな所に?と小傘が言葉をつづけようとした瞬間――
ばさぁッ!
針妙丸を追うように、黒赤のマントを着た男が走り去った。
「オルド――グラム!?」
見失った相手からの、接近に小傘が驚く。
だが、オルドグラムは小傘に気が付かなかったのか、何も言わずしん針妙丸を追いかけていってしまった。
「とぉう!!」
オルドグラムは逃げる針妙丸を追いかけ、あっさりと彼女の目前に回り込んだ。
そして、自らの本を広げ――
「あ、拉致った」
「え?あー!!!あー!!!」
小傘の見ている前で、オルドグラムは白昼堂々と針妙丸を自身の本の中に閉じ込めたのだ!!
「白昼堂々なにしてるの!?」
遂に小傘が、声を荒げオルドグラムに食って掛かった!!
「小傘ではないか?何をしているのだ?」
「それはこっちにセリフ!!小さな女の子にばっかり声をかけて!!
挙句に誘拐なんて、どういう事!?
言い訳したって、無駄だからね!!私はオルドグラムが今日何をしていたか知ってるんだから!!」
小傘の言葉に、オルドグラムが息を飲む。
「そうか、ついにバレてしまったか……
実は――」
小傘が息を飲み、オルドグラムの言葉を待つ。
「鈴奈庵で見つけた刺繍の本にハマってしまってな……」
「は?刺繍?」
「うむ、細やかな技術は素晴らしく、更に完成品は目を見張る物がある……
芸術と近しい物が有るな」
何度もうなづいて、本の中から今朝がた作っていた布を取り出す。
それは、小さな服で高級な人形の為の調度品の様に見えた。
「え、作ってるの?」
「うむ、作っている」
自慢げにオルドグラムが、作った服を見せてくる。
そのクオリティは高く、既製品や売り物を思わせる様だった。
「うわぁ……すごいけど……いや、すごいんだけど……」
オルドグラムは基本無表情だ。強いて彼の感情を表すなら不機嫌顔だろうか?
そんな彼が、こんなかわいい物を一人で作っていると思うと、なんだか異様な雰囲気だと思った。
小傘は苦々しい乾いた笑みを浮かべた。
個人の趣味に口を出すべきではないが、あまりオルドグラムにあった趣味では無い気がした。
「丁度、使い道も見つかったのでな」
「使い道?」
「うむ、そろそろ良いだろう」
オルドグラムが、本を開くと机の上に何かが呼び出される。
一瞬小傘は人形だと思った。
小さな、抱き上げられるほどの体躯に、オルドグラム謹製の服。
新たな作品だと小傘は思ったのだが――
「この服、可愛いけど動きづらいよ……」
その人形は瞬きをして、声を上げた。
そしてその声には聞き覚えがあった。
「え、まさか!針妙丸ちゃん!?」
「あ、ひさしぶりー」
小傘に気が付いた針妙丸が手を振ってくれた。
「どうどう?魔法使いさんが作ってくれたんだけど……」
フリルのあしらわれた服を針妙丸が翻す。
「か、かわいい……よ?」
小傘は茫然としながらもそう答えた。
「人間一人分は作れんが、小人のサイズなら容易い。
針妙丸には以前より、モデルを頼んでいたのだ。
今日、完成品を渡す予定だったが――」
「猫に襲われて……」
「小人というのも大変なのだな」
結局オルドグラムの作った服を針妙丸はもらって、帰っていった。
小傘宅
「ねぇ、せっかくの服上げて良いの?」
「ああ、ひとしきり作る物は作ったしな。
しばらくはいい」
「ふぅん……けど、オルドグラムにあんな趣味が有るなんて意外」
「我は熱しやすく冷めやすいのだ。気に入ったものはひとしきり極めるが、飽きたらそこまでだな……
さてと、趣味と言えば……小傘、お前はなかなかいい趣味を持ってる様だな?」
オルドグラムの言葉で、小傘が固まった。
「えっと……何のことでしょうか?」
ぎこちない笑顔を作り、小傘が振り向く。
「他人の後を付け回す趣味とは……やれやれだ。
我は悲しいぞ?我の信頼していた貴様が我を信用できないとは……」
ワザとらしい笑みを浮かべたオルドグラムがゆっくりと近づいてくる。
「わ、わかってらっしゃった?」
「貴様は追跡は不得意な様だ。無論、あの天狗も大差ないが……
さて――どうするかな?」
ギロリとオルドグラムの瞳が小傘を捉える。
「す、すいませんでしたぁあああああああああああ!!!」
小傘が必死になって、畳の上で謝った。
「さぁて、今日の成果は――アレ?」
射命丸が写真を現像しようとカメラを、持った瞬間、フィルムが開く。
せっかくの写真が感光していく!!すべてのスクープが消える!!
「なんで!?なんでですか!?」
混乱する、射命丸の目の前で感光したフィルムにオルドグラムの姿が映る。
そして――
『無様である』の文字が浮かび上がった。
「あぁあああ!!またやられたぁ!!」
射命丸の声が山に響いた。
割とこの作品では射命丸は、下手を踏みます。
相性が悪いんでしょうか?何時か、かっこよくて威厳にあふれた彼女を出したいですね。