忘れ傘とグリモわーる   作:ホワイト・ラム

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新年おめでとうございます。
今年も「忘れ傘とグリモわーる」をヨロシクお願いします。
余談ですが、作者の中の略称は「忘グリ」です。

皆さんは各自自由に「傘モわーる」や「グリ傘」「作者が定期的に狂うやつ」とでも呼んでくださいね。


竹林とウサギと奇妙な妖

「それじゃあ師匠、往診に行ってきます」

一人の人物が、とある建物の中から出てくる。

彼女の名前は鈴仙・優曇華院・イナバ。一体何の冗談かと問われそうな名前だが、それでも彼女の本名なのである。

そんな時、聞こえる大きなため息が一つ。

 

「……暇そうで、何よりね。てゐ」

編み笠をずらして、建物の入口付近にたたずんでいた、そのため息の主に少女が声をかける。

 

「鈴仙は分かってないな。これでもここ数日大変なんだから」

そう言って再度、てゐと呼ばれた童女がため息をこぼした。

 

二人はここ、永遠亭に住む妖怪だ。

方や月の生まれ、方や神代より地上に住む兎と出身は大きく違うが、『妖怪兎』という点では同じと言えるかもしれない。

 

「なに?なんか、あったの?」

いつも快活で元気なてゐの珍しく弱った声に、鈴仙が反応する。

 

「ここ数日、変な妖怪に――」

 

「っと、いけない。ごめん。話に興味はあるんだけど、患者さん待たせてるからまた後でね」

話が長くなると踏んだのか、それとも実際にやることが有るのか、鈴仙はそのままそそくさと走っていてしまった。

 

「あ、鈴仙――ったく!

あーあ、忙しい、忙しいばっかりだよ。

対岸の火事じゃないけど、こっちはこっちで大変なのに」

事の始まりは数日前。

いつもの様に落とし穴を掘って、鈴仙をハメようとしていたがその日は別の存在がかかっていた。

見た事の無い顔、人間には思えない青白い肌。しかしその体からは明らかに人間ではない雰囲気がしていた。

だがそれ以上に――

 

「ぶっはっはっは!何その間抜けヅラ!!あっはっはっは!!」

余にも間抜けな姿と顔にてゐは噴き出してしまった。

 

それ以来……

 

 

 

 

 

「てゐちゃーん!てゐちゃーん!!うっふっふっふ!」

 

「うげ!?出やがった!!」

突如掛かる声に、てゐが露骨に身構える。

声のする方を睨みつけ、草食動物の様に周囲を伺う。

がだ声の主は姿が見えない。

 

「――居ない。聞き間違い……な訳ない、か……」

一瞬だけ浮かんだ希望的観測を即座に切り捨て、てゐが再度警戒に戻る。

そう相手は只者ではない。

油断してしまえば、たとえ自分と言えど――

 

「てゐちゃん大好きぃぃいいいいいいい!!」

 

「うわぁああああああああああああああ!!」

突如、地面から男が姿を現し、後ろからてゐに抱き着いた。

そして無遠慮にその頭に顔を埋め、うさ耳の間に顔をこすりつける。

 

「こぉんの!!変態野郎!!」

何とか男を振りほどき、相手の顎に蹴りを叩き込む!!

 

「へヴん!!」

顎を蹴られ、脳を揺らされた男はその場に倒れる。

 

「全く!いっつも何なんだか!!」

腕を組んで、てゐがぷんすかと怒りをあらわにする。

 

この男は数日前より、現れた謎の妖怪(仮)だ。

何の前ぶりもなく突然出現して、てゐにちょっかいをかけて去っていく、という事を繰り返しているのだ。

 

「ふぅー……てゐちゃん良い物持ってるねぇ」

男の姿が一瞬で霧の様に消え、次の瞬間には映像が映し出される様に何事もなく立っていた。

 

「妖怪に褒められてもうれしくない、うさ……」

 

「ひっどい!?妖怪じゃないよ!!お兄ちゃん人間だよ!!」

男は心外だ!と言わんばかりにオーバーなリアクションをして見せる。

 

「何をトチ狂った事、言ってるんだが……アンタどう考えても、人間じゃないでしょ?

登場の仕方、消え方、どうあっても人間には不可能だよ……

もうちょっとマシなウソ吐きな」

余に分かりやすすぎるウソにてゐがげんなりする。

 

「そんなこと無いよ!!お兄さん人間だよ!!

まいいや!そんな事より、一緒に遊ぼうぜ!!」

サムズアップをして、男が無駄に良い笑みを浮かべる。

 

「……帰る」

 

「待て待て、まてぇい!!」

てゐは踵を返して、永遠亭に帰ろうとする。

しかし男は必死になっててゐの足にしがみついた!!

 

「はーなーせー!きーもーい!!」

 

「キモくないよ!!絶対にキモくないよ!!?

そんな事よりてゐちゃん足すべすべだね!!

……うぁ、ガチで引いている」

怯えたような蔑む様な目をして、てゐが男を見下ろす。

こんな事がここ数日続いている。

男はこんな風に、ちょっかいをかけてくるが決して悪意を見せることなく、ただこれだけで帰っていく。

 

(目的が分からないっていうのも、不気味……)

若干の不思議さと、多大な不快感を残しつつてゐが今日も男をいなす。

 

「あ!てゐちゃん知ってる?ここの竹林、少し奥へ行くと池が有るんだよ。

遊びに行こうぜ!!」

 

「知ってるよ!っていうか、ここの主である私が知らない訳ないでしょ?

……にしても、よく見つけたね?あそこ、かなり奥の方だから簡単にはいけないハズ……」

 

「半日以上迷った末に辿り着きました!!」

 

「あ、うん……頑張ったね」

疲れを感じながらてゐが、おざなりに答える。

 

「んじゃ、行こっか!」

男は素早くてゐの後ろに回り込んで抱きかかえる。

所謂お姫様抱っこの持ち方だ。

 

「ちょっと!?離しなさいよ!!」

 

「さぁ、二人で水浴びしようねぇ……うふふふ、夏場にはピッタリの遊びだよねぇ?」

男がひどく興奮した様子で、血走った目をしながらぺろりと唇を舐める。

「」

その様子についにてゐは絶句した。

 

 

 

一時間後……

 

「あれー?水場はどっちだっけ?」

 

「忘れたのかい!!」

 

更に一時間後……

 

「水場ぁ……水場ぁ……てゐちゃんと遊ぶ水場ぁ……」

 

「こんなに抱いててよく疲れないね?逆に尊敬するわ……」

 

「おにーたまと呼んでくれてもいいんだよ?」

てゐは無言で男の顔を蹴った。

 

「ありがとうございます!!」

 

更に10分後

 

「んで、あそこの角を曲がって……」

 

「よぉし、頑張るぞい!!」

遂に折れたてゐが道案内を始める。

そして――

 

「水場だぁ!!ひゃっほう!!お水ぅ!!」

 

「あ、こら走んな!!」

水場を発見した男が、てゐを抱きかかえたまま走り出す。

そして――

 

「あっ!」

 

「あ”!!」

男が足元に、生えていたタケノコにつまずき、転倒する。

当然抱きかかえられた、てゐは宙を舞い――

 

どっぼ~ん!!

 

「あ、てゐちゃんごめん……けど、濡れてゐちゃんスゲーエロい……」

 

「……一回、殺す」

水を滴らせながら、てゐが殺気を放った!!

 

 

 

 

 

「あっはっはっは!あ~楽しかった!!」

 

「こっちは散々だよ……」

てゐが水で濡れたスカートを絞って、悪態をつく。

 

「まったく!毎日、毎日、毎日!!相当暇なんだね?」

数本の竹を燃やして、暖を取りながらてゐが話す。

 

「そんな事……有るか、な?家でもずっと寝てるだけだし……

薬飲んで、寝て、何か食べて……また寝る?」

 

「はいはい、結構な身分な訳ね」

薬という部分が気になったが、こんなに元気なのだ。

何か病を治すのではなく、健康維持の為なのだろうとてゐは推察する。

 

「あ~今日も楽しかった。んじゃ、そろそろかな?」

 

「ん?帰るの?」

男の言葉にてゐが反応する。

 

「うん、そろそろ終わりが来たみたいだから」

男はそう言って、立ち上がる。

そしててゐに近づき……

 

「てゐちゃん、ありがと。すっごく楽しかった。

僕、君の事が本気で大好き()()()よ」

てゐの両頬に手を置き、顔を覗き込みながら言った。

 

「は?何言って――」

てゐの言葉を最後まで聞かず男の姿は消えた。

まるで霧が大気に薄れて消える様に、てゐの目の前で人の形を失って消えた。

 

「え、あ、ちょっと……!?」

声を漏らすが、その言葉に返してくれる男はもういない。

ただ、それきり。

男は男がここにいたという証拠さえ、何も残さずに消えていった。

 

 

 

 

 

人里にて――

 

とある大きな屋敷。そのもっとも奥にある部屋にオルドグラムは小傘を伴って立っていた。

 

「……」

二人の前には、顔色の悪い男。

その男はさっきまで竹林にてゐと一緒にいた妖怪と同じ顔をしていた。

 

「オルドグラム……」

小傘の視界の先。金色の砂のたまった砂時計があった。

砂金にも見える砂は、下に落ちると共に黒く変色していく。

なにかが、消えていっているのは小傘の目にも明らかだ。

そしてそれは、何らかの超常の力を持つ道具であることも……

 

「我の道具だ。返して貰うぞ?」

 

「ははっ……あの人の言う通りだ……迎えが来たん……だね?」

布団に寝たままの男が力なく笑う。

 

「あの人?」

 

「その道具をくれた人さ……僕に……使い方と……この体の……事を詳しく教えてくれた……

!?ごっほ!!げぇっほ!!えっふ!!」

男が激しく餌付いた。咳と一緒に血のような物が喉からこぼれた。

もう永くはないのは誰の目に見えも明らかだった。

 

「この道具を使えば、己の分身を生み出せる。

これで医者を呼ぶなど方法はあったはずだが?」

本来この男の事情などオルドグラムには興味が無い。

それどころか知るべきなのは、この男に道具を渡したという別の男の存在。

だがオルドグラムは自然と、別の疑問が口をついて出ていた。

 

「はは……うん、そうだよ。竹林の奥にあるっていう場所を目指してた……

僕も最初はその気だった……

けど、出会っちゃったんだ。

僕を見てくれる人を……ああ、妖怪だったかな?

はは……いきなり落とし穴におとされて、いきなり馬鹿にされて……けど、楽しかったんだ。

彼女といる時だけが、この体の事を忘れられた……

僕は僕はこの家のお荷物じゃない!僕は初めて自分の足で走った、初めてお腹が痛くなるほど笑った……初めて、初めて……誰かを好きになった。

僕は満足……だよ……」

そう言うと青年は目を閉じた。

この道具は、魂を取り出し仮の体を与える。

いわばオルドグラムの現在の体を作っている能力を道具に落とし込めた物だ。

無論、魂を一時的とは言え失うか体は酷く衰弱するが、この男は生まれついての病弱らしい。

今はまだ、微かに胸が上下しているが、ここからどうなるかはわからない。

彼の持つ生命力と()()だけが頼りだ。

 

「……帰るぞ小傘」

 

「え”!?帰るの?!」

オルドグラムの言葉に小傘が反応する。

 

「我は医者ではない。道具さえ回収すればここに用はない。

無論してやれる事もありはしない。お前とてなにかしてやれる事はないだろう?

コイツは、自らの運命を自ら捨てたのだ。

我らに出来る事などもうありはしない」

後ろ髪を引かれる思いで小傘がオルドグラムにつれられて行く。

道具を回収したというのにオルドグラムの表情は晴れない。

 

 

 

「下らんな。実に下らん。なぜこいつはみすみす自分の運命捨てたのか……

我には理解に苦しむ。

自ら機会を捨てるとは、我には到底理解出来ん!」

オルドグラムが、回収した魔道具を仕舞いながらつぶやく。

その言葉には、少なくとも小傘には悔しさが滲んでいた気がした。

 

「……わからない?本当に?」

気が付けば小傘の口から言葉が漏れていた。

 

「む?」

 

「私には分かるよ!何となくだけど……

あの人はね?自分にしっかり向き合ってくれたのがうれしかったんだよ!

医者に行く途中で見つけた妖怪が、大好きだったんだよ。

たぶん自分よりも、ずっと……」

 

「向き合った?何を言っている?奴の世話なら屋敷の人間がしていたハズだ。

家督を継ぐ人間ではないとはいえ、あの家ならば相応の扱いはあったはず。

事実、医者を呼びよせ薬を買ってた痕跡はあったではないか?」

 

「違う、違うよ、オルドグラム。それは、他の人が言われてやっただけ、そうじゃないんだよ。

本当はね?何も知らなくても、病人だって知らなくても、お金持ちの家の子供だって知らなくても、ちゃんと向き合ってくれる人が欲しかったんだよ!!

だから彼は――」

 

「理解に苦しむな。我にはやはり分からない。

奴には我の様な強さが無いのだ。病を跳ね除け、運命すら覆す強さが。

奴には生きるという欲望が足りない!!」

そう言って小傘の言葉を切る。これ以上の話は無駄だと判断したのかオルドグラムが歩き始めた。

 

「オルドグラム……」

夕焼けに照らされオルドグラムの影が伸びていく。

さっき自分はオルドグラムの事を『強い』と言った。

だが、今更だがその言葉には語弊がある気がして来た。

 

(オルドグラムは独りなんだ……ずっと、ずっと魔法を独りだけで研究してきた……

オルドグラムの魔法は確かにすごいけど……それは独りでも生きていける理由に成らな……)

なまじオルドグラムの魔法が便利であったのが、今回ばかりはマイナスに作用している様だ。

彼の力は彼が孤独でも生きていける力を与えて『しまった』のだ。

 

(きっと、オルドグラム自身も気づいてない……それとも気づいてないふりなのかな?)

小傘は忘れ傘だ。忘れられ、打ち捨てられた傘。

その『必要とされない孤独』は誰よりも知っている。

だから――

 

ドン――!

 

「……何をする?」

自身の背中に突如抱き着いた小傘に、怪訝な顔を見せる。

 

()()()()()()、お家へ」

 

「無論だ」

そう言うとオルドグラムに続いて、小傘が歩き出した。

いつもは自分より遠くに、そして大きく見える背中が今日だけはなぜか、小さく感じた。

彼の様に独りにしたくない。小傘は何となくそう思った。

 

日陰の中、歩く二人のすぐ横を、うさ耳を付けた小さな童女の影が横切った。




てゐちゃんかわええなぁ……
すっごい、かわええなぁ……

前半は作者の願望全開で書きました。
後半は……うん……

彼がどうなったかは、読者の想像にお任せします。
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