忘れ傘とグリモわーる   作:ホワイト・ラム

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うーん、最近なんだか停滞気味のこの作品。
がらっと、大きなイベントそろそろやりたいですね。


魔術と散歩と妖の領分

妖怪の山。

そこは規則的に妖怪たちが暮らす場所。

元来妖怪はみな自由な存在であり、個人主義者ばかりだ。

だが、妖怪の山に住む天狗はそうではない。天狗同士の中にも互いに上下関係があり、河童や鬼などもその天狗の作った上下関係に組み込まれている。

 

そんな妖怪の山のとある一角、とある家、とある部屋にて、射命丸が気合を込めて、自身の新聞に打ち込んでいる。

一見静かに見えるが、近づいてみればその『静かな猛々しさ』が理解できるだろう。

 

「来ました、来ました、どんどん来てますよぉおお!!」

何度も筆を動かしては、次々と紙に書き込んでいく。

 

不思議な事に、なんにでもなぜか「上手くいく」と確信出来る瞬間がある。

数日前まで、筆が進まず「今回の入稿はあきらめるか」と半場捨てていた記事だが、天啓とも思えるひらめきで、非常にうまい記事が出来上がり始めたのだ。

大胆にして緻密。斬新にして王道。

自分でも不思議な位、素晴らしい記事が書けている実感があった。

走り出した筆は止まらない!傑作に向かって、まるで最初から墨と筆がそうあろうとしたように、導かれるように射命丸が新聞を制作していく。

 

「わははー天才!!やはり文ちゃんは天才だったんですねー!!!

あややややや!!マッハで仕上げれば印刷にも十分間に合いう!!

今回の新聞の優秀大賞は私の『文々。』新聞に決て――」

 

「精が出るな、天狗」

 

「あやぁあああ!!?」

突如後ろからかけられる声に、射命丸が驚き後ろを振り向く!!

そして、そこに居た人物を認め、姿勢を正す。

若干上がったテンション、自身の部屋というプライベートルーム。

そんな、酷く個人的な空間に突然声が聞こえたのだから、彼女の反応も無理はないだろう。

 

「お、お、脅かさないでください!!っていうか、妖怪とは言え、乙女の部屋に勝手に入ってくるなんて――

いえ!それより、一体どうやってここまで来たんですか!?

妖怪の山(ここ)は、簡単にあなたが入って来れる場所では、第一怪しい幽霊が居れば見張り者が――」

射命丸がその人物に驚きを隠せない。

だが、自身の発した質問に途中から射命丸は答えを見出していた。

そう、この男はタダの胡散臭い男ではない。

自称だが、この幻想郷でも随一の実力の――

 

「我に掛かればこの程度、容易いわ。

妖怪の山と言えど、侵入できぬ訳など無い」

射命丸の部屋。いつの間にか立っていたオルドグラムが自慢げに鼻を鳴らす。

おそらく、黙って入ることは勿論、立ちはだかる天狗を一ひねりして侵入する事も可能だと言っているのだろう。

おそらくだが、数人の天狗はもうすでに倒されている可能性もある。

 

「……教科書に乗せたいくらいのドヤ顔ですね」

 

「ふんふん……天狗の部屋と言うのはこうなっているのか」

ゴソゴソと周囲の道具を触り始める。

 

「ちょ!やめなさい!何をしてるんですか!!」

オルドグラムを後ろから殴ろうとして、回避される。

実体を捨て、霊体へと変わり攻撃をすり抜ける。

 

「ちょ!この!ソレ卑怯ですよ!!」

 

「ふっはっはっは!悔しいか、悔しいか!」

尚も攻撃をすり抜け続けるオルドグラムに、遂には射命丸が音を上げる。

 

「はぁーはぁー……この古本は……貴方の所有者は何処へ行ったのですか!?」

 

「小傘は家で休んでいる。昨日、街中で子供を脅かしていたら、通りすがりの巫女に手痛くやられた様だったからな」

やれやれとオルドグラムがため息をつく。

 

(一応、小傘さんを持ち主として認めてはいるんですね……)

そんなことを考えて、うんうんと射命丸が首を振る。

 

「それで?一体なぜここに?」

嫌な相手にでも、質問をしてしまうのは彼女に『記者』という仕事が骨身に染み付いているからだろう。

 

「ふむ、人里も大方見たのでな。

今度は妖怪の領域にも興味が出たのだ。

そして、『神社』という場所にも興味がある。

おみくじという物を全てコンプリートしたいのだ」

 

「いや、それ、全種類集める類の物じゃ……

それとここは妖怪の領域……基本、人間はここには入っちゃいけない――

あー……そう言えば、もう人間じゃないんですよね。

魔法使いの幽霊?魔法が使える幽霊?」

 

「我は人間だ!」

一瞬オルドグラムの定義に迷った射命丸にオルドグラム言葉が飛ぶ。

 

「我は、我が人であることに誇りを持っている」

 

「なぜです?」

射命丸が疑問を呈した。

人の中には、『人を超えようとする人』が多くいる。

魔術師しかり、仙人しかし、幽霊しかり、妖怪しかり。

何らかの手段を持って、人間から逸脱することを夢見る存在は多くいる。

そい言った者達は、自らが人間であったことを忘れようとさえする。

 

「我は無力な人だ。爪も牙も無い、だが知恵だけはある。

貧弱な、それこそ100年も耐えられぬ体を持ち、それでもより高みを目指す。

今すぐにでも消えてしまう、そんな弱者であるが故に我は、強く力を求めるのだ。

我は自らを『弱い』と思う限り『強く』なれるのだ」

 

「……ずいぶん力説しますが、やってることは有象無象と変わりませんね。

力を求める理由なんて、どうでもいい。

それは、禁忌を破る為の方言でしか、無いのです」

射命丸が目を細めた。

そうだ。

人のもっとも特徴的な所は、理由を付け禁忌を容易に破る事。

彼らは『法』を定めながら、いざという時には大義名分を作り簡単にその『法』を破る。

それだけではない。

人間はそれに飽き足らず、妖怪や神ですら触れぬ『禁忌』に容易に手を伸ばす。

それが人間の恐ろしい所、だから外の世界から妖怪や神は消えていっているのだ。

 

「貴方が使っているその、幽霊を実体化させる力は『反魂香』ですね」

 

「――この国にも伝わっていたか」

『反魂香』それは、死者の魂を呼び戻す香の一種。

死者に使い一時的に魂を呼び戻す道具。

だが、その効果は永遠ではなく。呼び戻された魂は香がきれることで、再度死を味わう事に成る。

生死という、魂の領分を容赦なく犯すその道具は、許されるものですらない。

 

「ノウハウはそうだ。死者に魂を呼びもどす。その一点を我が魔術は取り込んだのだ。

我はこの本を本体を肉体と定義し、我が魂を宿す拠り所としている」

オルドグラムは悪びれもせず、そう言い放った。

 

「さてと、もうしばらくこの山を散策するか」

 

「あ、ちょっと!」

射命丸が何かを言う前に、オルドグラムは姿を透過させて消えていった。

 

「全く!騒がしいったら、ありゃしませんよ!

すこし時間を食いましたが、今から書いても新聞は十分入稿時間に――ああ!?」

射命丸の視界の先。

そこには、書きかけの原稿を真っ黒に塗りつぶす、インクが有った。

思い当たるのはさっきのオルドグラムとの会話。

彼に話かけられた時、自身の羽が机に当たった感覚があった。

おそらくそれで――

 

「……なんか、私、あの人と驚く位、相性が悪いですね……」

 

 

 

 

 

「探せ!必ず見つけろ!!」

 

「最悪、応援を呼ぶか?」

数人の天狗たちが、空を飛び駆けていく。

その様子をオルドグラムが木の間から覗く。

 

「ふぅむ……もう起きたか。やはり妖怪は回復が早いな」

オルドグラムが、さっき自身に絡んできた天狗を思い出す。

天狗本人はただ仕事をこなしていただけなのだが、仕事の中で溜まっていた不満をオルドグラムにぶつけようとしたのが失敗だった。

結果としてオルドグラムの怒りを買い、軽く捻られたが今度は仲間を呼んだようだ。

 

「さてと、あの数なら十分処理できるが――」

再度実体化しようとした時、小傘の顔が思い浮かぶ。

 

「ふむ、魔力を使いすぎるのは良くないな」

小傘の事を思い直し、オルドグラムが武器を収める。

 

「山を適当に見て帰るか。だが、この姿はちと目立つか……」

マントを掴み、自身の姿を近くにあった水面に映す。

赤と黒の洋装はやはり目立つ。

以前、小傘がオルドグラムを追跡したが、やはりこの色合いは派手で簡単に見つかったらしい。

 

「解決策は簡単だ。姿など簡単に変えられる」

オルドグラムが万華鏡の様な道具を取り出し振った。

 

「だが、誰に化けるべきか……

そう、なるべく無力で、弱そうで、敵意を感じさせない、見ていて安全と思わせれる妖怪は……」

オルドグラムの脳裏に再度小傘が浮かぶ!

 

「うむ、無力で、弱そうで、敵意を感じさせない。絵に描いたような雑魚妖怪だな」

本人に知られたら、抗議間違いなしの感想を言いながら、道具を使い小傘の姿を模す。

 

「チぃ、下駄は山道を歩きにくいて……目線が下がるのも失敗か……」

オルドグラㇺは文句を言いつつも、そのまま歩き出した。

目に光が入っている小傘と違い、オルドグラムは通常は無表情、または不機嫌顔なので現在の小傘は、彼女を良く知る者には非常に違和感のある顔をしている。

余談ではあるが、オルドグラムにしては非常に珍しい事に小傘の左右の目の色が左右反対に成っているというミスをしている。

 

「とりあえずは、山の頂上を目指してみるか」

左右が反転した小傘が、山頂を目指し歩き出す。

 

 

 

 

 

「ほう、この国の宗教施設か。確か、神社と言ったか?

交通の不便が悪いな。何を考えたのか……」

反転小傘が鳥居を超えて、周囲をきょろきょろと見回す。

そして、目当てのおみくじの道具を見つける。

 

カラカラ、カラ

 

カラ、カラカラ

 

「あれ?お参拝です――か?」

 

「む?」

おみくじの道具を振り回し、一個一個集めていくオルドグラムにこの神社の風祝、東風谷 早苗が話しかける。

昨日退治した妖怪が、まさか直接自分の神社に来ているのは思いもせず、面食らった。

 

「何をしているのですか?」

 

「知らんのか女。おみくじを引いているのだ。

小吉、末吉、中吉、吉、大吉、凶、大凶とすべてをコンプリートするのだ。

む、またも吉がダブったか……」

要らないと言わんばかりに、小傘がおみくじを捨てる。

 

「何をしているのでしょうね?昨日の復讐ですか?

良いですよ~、私は妖怪退治は嫌いではないので――」

 

「出んな。排出確率はどうなっているのだ?」

小傘は完全に早苗を無視して、おみくじに戻った。

 

「この妖怪は――!」

早苗がお祓い棒を構える。

そして、無防備に頭を晒す小傘に向かって振り下ろした。

 

「――そう言えば、我が居ない間に、小傘が世話になった様だな」

早苗のお祓い棒が、空を切る。

当たる寸前、小傘は姿を消していた。

 

「え?」

 

「その行為は、我に敵意が有ると。判断して良いのだな?」

早苗のすぐ後ろに、小傘が立っていた。

馬鹿にされたと思った早苗が、再度お祓い棒を振り上げる。

 

「私が!!こんな所で――え?」

 

キンッ!

 

「ふぅ――……身の程を知れ。喧嘩を売る相手を間違うな」

いつの間にか、小傘がすぐ横に居た。

そしていつも抱えている、傘の芯を手にかけている。

その芯の部分に一瞬だけ銀色の刃が見え、それが仕込み笠だったと分かる。

理解した瞬間、小傘は刃を傘の中にしまう。

 

ぽろっ……

 

「え、え?」

早苗の持つお祓い棒は、二つに切れる。

手元に残るのは、ただの棒だ。

 

「帰る。おみくじとやらのコンプリートはまた今度だ」

悠然と去っていくオルドグラムの後ろ姿を、早苗は茫然と見ていた。

ジワリジワリと、恐怖が染み渡っていく。

圧倒的な実力。それは久方ぶりに、早苗に妖怪の恐怖を思い出させた。

 

 

 

 

 

数日後……

里の中、木製の台の上で、早苗が守矢神社の宣伝をしている。

守るべき神社の名を広めるのも、風祝の仕事だ。

 

「皆さんー!守矢神社は――あ……」

そんな中、早苗は歩いていく小傘の姿をその眼に入れた。

思い出すのは、数日前の恐怖。

あれは何かの間違いだと、自身を納得させようとするが、それでも刻み込まれた恐怖は消えない!!

 

「ひ――ぎ!?」

僅かな動揺、小さな一歩の後退。

その一歩は箱の上に乗っている早苗が、足を踏み外すのには十分な理由だった。

その結果。

 

ずったーん!

 

早苗は足を開いて、地面に転んだ。

その様子を小傘は不思議そうに見ていた。

 

 

 

「ん、何だったんだろ?急に驚いて……?

けど、まぁ、お腹膨れたからいいや。

ねぇねぇ、見たオルドグラム!きっと私の隠れた脅かしの才能がついに芽をだしたんだよ、きっと!」

小傘が、腰にぶら下がるグリモワールに話しかける。

すると小傘のすぐ横に半透明の霊体化したオルドグラムが姿を見せる。

 

「小傘よ。貴様に、他人を脅かす才能など無い。

無い物が開花などするはずも無かろう。

無から有を作り出すなど、我にも不可能だ」

 

「もー!なんて事言うのよ!!オルドグラムのバカ!!」

 

「知的なる我を捕まえて馬鹿だと!?

おのれ……!

少し甘い顔をすれば付け上がりよって!!

折檻が必要か!!」

 

「うひぃ!?ごめんなさい、許して、オルドグラム様は偉大な天才魔術師です!!」

 

「分かれば宜しいのだ」

怯える早苗を無視して、コントの様なやり取りをして二人は去っていった。

 




割と早苗は調子に乗るイメージ。

相手を舐めて、手を出していけない物に手を伸ばすのは、射命丸が言っている様に人間の性かもしれませんね。
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