忘れ傘とグリモわーる   作:ホワイト・ラム

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さて、今回は数話前に出した彼です。
オルドグラムと小傘は一寸だけしか出ません。


少年とウサギと初めの一歩

「ばいば~い、小傘ちゃん」

一人の男が小傘に手を振り去っていく。

 

「むむむむ……」

その男の背中を小傘はふくれっ面しながら、にらんで居る。

別にこの男と小傘は知り合いと言う訳ではない。

ただ単に、いつもの様に脅かそうと物影に隠れ、無作為にターゲットに選んだ男の一人だったというだけだ。

偶然通りかかった。それ以上でもそれ以下でもない。

 

結果は失敗。

 

だが、問題はここからだ。

男は脅かした小傘を見て、指をさして笑ったのだ。

 

『あっはっはは!あ~噂の「小傘ちゃん」って、コレか~

へぇ、本当にいたんだ』

その酷く馬鹿にした態度が小傘には、とても悔しく感じた。

こうなっては意地でも誰かを脅かしてやろう、という気概が湧いてくる。

 

「よし!お墓のある命蓮寺へ行こう!お墓なら無条件でみんな怖がるから!たぶん!」

根拠のない自身を胸に小傘が走り出した。

 

 

 

「あ、オルドグラム!」

命蓮寺の前、自身の家に住み着いている自称魔術師の姿を見て、小傘が声を上げる。

 

「む、小傘か。今日は誰かを脅かしに行ったのではないのか?」

 

「その途中だって!」

午前中は完全に失敗したことを小傘は隠した。

 

「オルドグラムこそ何を――しているのかな!?」

小傘の目がとあるものを見て、鋭く尖る!!

しかしの先にはオルドグラムのマントに体をこすりつける、響子の姿があった。

 

「うむ、この寺に来るたびに撫でているのだ。

最初は多少抵抗したが、今では自ら寄ってくる様になってな」

小さく笑みを浮かべ、響子の頭に手を置く。

響子は満足そうにオルドグラムに撫でられ、時折尻尾を振っている。

 

「むぅ~~~!!帰るよオルドグラム!!」

 

「む?なんだ急に……仕方ないな。

響子よまた来る」

 

「はぁい……また来てください……」

響子は顔を赤らめながら、箒に先で顔を隠した。

 

「とにかくお茶!帰ったら、お茶を淹れて!!」

 

「ほんとうにどうしたのだ?」

不思議そうにオルドグラムが尋ねた。

 

 

 

 

 

「一体、どうなっているのだ!?」

 

ダァン!!

 

オルドグラムが不機嫌に、テーブルを叩く。

紅茶の表面に、さざ波が立ち、数枚のクッキーが崩れる。

ついさっきまで、上機嫌だったのだが、数枚の長方形に折られた紙の束を広げ終わった後に急に不機嫌になった。

 

「どうしたの?なんでそんなに、機嫌が悪いの?」

怯えながら小傘が小さく尋ねる。

 

「ああ、すまない。怯えさせてしまった様だな。

最近とある物をコレクションしているのだが、それがなかなかコンプリート出来ないのだ」

 

「これくしょん?」

小傘が首をかしげる。

魔術の怪しげな研究や、新しい道具の発明、更には未知の存在に対する尋常ではない興味。

オルドグラムの好きな物は概ねそれらばかりだ。

 

「切手でも集めてるの?」

 

「いや、おみくじだ」

オルドグラムが本の中から、額の中に綺麗に並べられたおみくじを取り出す。

 

「それ、集める物じゃないとおもうけど……」

 

「我は集めたいのだ!!」

 

「あ、ああっそ……う?」

小傘はあきらめたように、賛同した。

日常。何でもない、何時もの光景。

そんな日々がずっと続くと思っているハズだ。

誰しも、こんな当たり前の生活が続くと、無意識に思いそして願っているに違いないだろう。

 

 

 

 

 

そして、そんな願いが「叶わないかもしれない」人間も居る。

 

「……………………ぁ」

しずかな病室。

昼の穏やかない日差しに照らされ、一迅の風にカーテンが揺らめく。

そのカーテン越しに竹の香りが鼻をくすぐり、永遠亭のベットの住人が目を覚ます。

 

「あら、起きた様ね?」

気が付くと少年の手を取り、赤と青の派手な色の服をきた女性が脈をとっていた。

 

「死んでない。から、生きてるへ変わったって所ね。

てゐー!貴女の患者が起きたわよ」

声をあげて数秒。ドタドタと足音がこっちに向かってくる。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……アイツ、起きたって?」

息を切らし、薄桃色にワンピースを身に纏った、小さな少女が姿を見せる。

頭上にあるふわふわした、うさ耳を揺らして肩をいきらせながら歩いてくる。

 

「少し待って、今データを取るから。

その後は任せるわ。いろいろと聞いてちょうだい」

 

「分かってる」

女医の言葉など、半分も聞いていない態度で廊下から、こちらを伺っている。

 

「まさか、少し目を離した隙に起きるなんてね?

今までさんざん、からかってくれたお礼をしてやるんだから」

 

「………………ん、っ……」

今にも消え入りそうな声で、ベットの住人が声を漏らす。

そして、その様子を見ていた少女が、涙を流しながら笑みを浮かべる。

 

「奇跡の生還おめでとう、ようこそ、地獄(現実)へ」

にししと尚も涙を流しながら、少女が笑う。

 

「幸運。としか言いようは無いわね。

半死半生――いえ、九死一生、もっと低確率かしら?」

永遠亭の名医、八意 永琳がベットで横になる住人の脈を診る。

 

「……ぁ、お……れ……」

少年が何か話そうとするが、まるで舌が鉛でも流し込まれたように重い。

腕も足も、頭までぼんやりする。

 

「無理に話さなくて良いわ。一月と12日。それだけ眠っていたのなら、舌が回らなくて当然だもの」

その様子に気が付いたのか、永琳が気遣いを見せる。

 

「うん、平熱。脈は健常者と比べれば弱いけど、それでも貴方にしては安定してるわね」

脇から体温計を抜き取り、脈を測って永琳はカルテに書き込んだ。

 

「………………?」

ぼおっとする頭で少年が、眼だけ動かして周囲を観察する。

 

「後の事は、あの子に聞いて。いつもなら優曇華に頼むけど、今回は別ね。

じゃ、お大事に」

永琳はそう言って立ち上がると、扉を開けて出ていった。

そして、それと入れ替わる様に――

 

()()()()。いつまで寝てるんだか」

 

「……て……ゐ……ちゃ……」

てゐが姿を見せた。

 

 

 

 

 

「ほら、少しでも良いから、食べて」

 

「…………う……ぐ……」

木製のスプーンの先に、薄いおかゆが差し出される。

ベットの脇の棚の上には、小さな土鍋が置かれている。

 

「味は保証しないけど、何も食べないのは許さないから」

 

「………………ん」

口を開けると、おかゆが流し込まれる。

おかゆと言っても、ほとんど水ばかりで、米も溶けてしまっており、味も薄い。

 

「不満?悪いけど、急に食わせる訳にはいかないんだよね。

点滴の栄養剤ばっかりでいきなり、胃に物を入れちゃいけないの。

こーんな薄味で、こーんな水かっばりので慣れさせるしかないんだよね」

かわいそうに、とてゐは笑いながら再度スプーンを傾ける。

 

「お、れ……は……」

どうしてここに?と言いたかったが、言葉が続かない。

舌がもつれ、酷くもどかしい。

聞きたい事話したいことはたくさんあるが、どれもこれも口に出すことは出来ない。

いや、物理的にてゐが口をふさぎ話させないというのがある。

 

 

 

「どうして?そんなの、わたしが運んだからに決まってるじゃない」

 

「……え、あ……そ、ん……」

そんなのおかしい、と言おうとして再度スプーンで口をふさがれる。

てゐは自分の家を知らなかったハズだ。仮に分かったとしても家族がここに入れてくれるハズは無い。

 

それと連鎖する様に思いだすのは、ここに至るまでの記憶。

不思議な道具をくれた、少年。

そして、初めて感じた生きる事の心地よさ、そしてその代償に削り取られた『命』。

 

「まぁ、順を追ってアンタの命の恩人、てゐ様が説明してあげるよ。

まず、どでかい屋敷の奥で死にかけてたアンタを見つけたのは偶然だね。

前々からアンタ言葉の節々に、結構金持ってる系の発言してたからね。

けど、まさか、あの針金御殿とはね」

 

「……う、……ん」

そうだ。自分の家は人里でも有数の呉服屋だ。

もともとは裁縫道具の針を作ることから始まり、絹糸の生産、染色、最後には呉服屋へと変化していき、最後には里有数の服の製造まで引き受ける巨大な御殿にすんでいた。

針の一本から発展したことから、『針金御殿』と呼ばれている。

 

「悪いけど、半分強引に入らせてもらったから。

急病人を迎えに来たって。屋敷の住人はぎゃあぎゃあ騒いでたよ」

 

「…………」

妖怪が家に押し入り人を連れていったとなれば、大ごとだ。

最悪博麗の巫女に退治される

だが、てゐの言葉からはそんな事はうかがえない。

 

「…………」

てゐがそんなリスクを冒してでも自分を探してくれた事。

それと同時に、もう一つ胸に飛来する感情が有った。

 

 

 

 

 

「ちょっとさ、出歩かない?

ああ、安心してよ。出歩くって言ったって、あんたを歩かせはしないから」

そういうと、てゐは車椅子を持ってきた。

 

「???」

初めて見る道具に、少年は怪訝そうな顔をする。

 

「前に河童に作らせたんだよね」

外界の道具だよ、とてゐが説明する。

 

「これでアンタを運ぶんだよ。いつまでも病室じゃ気が滅入るでしょ?」

そう言って、小さな手を少年の体に回した。

すると、少年の体が軽々と持ち上がる。

 

「あ、か……!?」

 

「何驚いてるの?すっかり忘れてるけど、ワタシだって妖怪だよ?

人間一人持ち上げるのなんて、訳ない――あんたみたいな軽い病人なら特にね」

そう言って、少年の体が車椅子に座らされた。

そしてそのまま、廊下を進んでいく。

 

「あんたの体、軽いね。もうウチの因幡抱いてるみたい……」

 

「…………?」

因幡が何のことかわからずに、眼で少年が疑問を呈す。

てゐはすぐに少年の、意図が分かった様だ。

 

「因幡ってのは、この竹林にいるウサギの事だよ。

み~んな妖怪だから、下手すりゃアンタなんて、簡単に食われちゃうんだから」

頭から一口よ。なんててゐが話すのを聞きながら、少年は廊下を見る。

 

見た事の無い場所だ。とても上等な作りで、手入れも良く行き届いている。

自分の家は、人里ではかなりの富豪になるだろうが、そんな家と比べても遜色は無い。

少年はそのまま竹林の中を散歩する。

 

 

 

「ど……こ……」

 

「もうすこし、ウサ……」

竹林の奥へ奥へと、少年は連れていかれる。

ここは妖怪も居るという。不思議な道具で仮の体で来たときは怖くなかったが……

そんなことを考えているウチに車椅子が止まり、てゐが手を離す。

そして、ぐるりと回り、少年の目の前に立つ。

 

「アンタ、生きる事を諦めてるね?」

 

「あ……、」

ドキリと心臓が跳ねた気がした。

 

「永琳が言ってたよ。目が覚めないのは心理的な物もあるんじゃないかって。

アンタ、あの日、あの時生きるのやめてるでしょ?」

 

「そ、う……だ……」

思い出した。そうだ、自分はあの時、生きる事を投げ出した。

生まれつき弱い体、家族からは居ないものとして扱われ、死の時を待つだけの自分。

ある日部屋に現れた、魔導具師の言葉に乗り、道具に手を伸ばした。

無論その先に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()でだ。

死んでも良かった。ただ、暇つぶしがしたかっただけだ。

 

「死にたい奴を生かす事は出来ないって、さ」

少年は漸く、永琳がてゐに言っていた「後は任せた」の意味を理解した。

 

「アンタは、どうしたい?ここで、ゆっくりしてれば妖怪が処分してくれるよ。

そっちの方が楽だろうね。

ここから生きるのは地獄だよ。もうアンタには帰る家もない、家族も今更帰って来たアンタを良い顔で迎えてはくれないよ。

どうする?」

てゐが一歩身を引く。

 

「あ……」

少年が手を伸ばす。

だが、当然てゐには手が届かない。

 

「アンタを勝手に助けた責任は取る」

ざざっと、てゐの足元にウサギたちが集まる。

さっき話した妖怪ウサギだ。

 

「ん、ん、ふぅん、ふぅんんんんん!!」

両足に力を入れる。まるで棒の様だ、全く力が入らない。

自分の体では無いかの様にさえ思う。

喉も、腕も、まるで思ったように動いてくれない。

深い、深い泥の中に全身が埋め立てられたようにすら感じる。

 

だが、諦める訳にはいかない。

 

そうだ、自分は確かに一度はあきらめた。

だが、最後の最後で、どうしても欲しい物を見つけたのだ。

今、それが目の前にある。それが離れていこうとしている。

 

「お、れ、は!俺は……!!」

足を動かし、車椅子から立ち上がる。

そして、一歩だけ歩いて、体制を崩す。

だが、少年は地面に叩きつけられはしなかった。

 

「ねぇ、あんた名前は?無い訳じゃないでしょ?」

てゐが少年を抱きとめていた。

 

「…………ぁ…………?」

少年の脳が一瞬フリーズする。

名前。そう言えばずいぶんと使っていない気がする。

両親は自分に干渉しない。兄弟たちは自分など顔も見に来ない。

世話役たちは自分の名前を呼んではくれない。

ずっと一緒に在ったハズなのに、ずっと使われていなかったような気がする。

 

「だーかーら、名前だって!

それとも名乗んないつもり?」

一体いつまでフリーズしていたのか、てゐがしびれを切らす。

ここに来て、少年は久しぶりに自身の名前を思い出した。

 

「琥珀……玄鋼(くろがね) 琥珀(こはく)……」

 

「くろがねぇ?こはくぅ?なんというか、ずいぶんと大層な名前だこと。

名前だけなら、強そうだけど。完全に名前負けしてるウサ。

なら、あんたは今から『ハク』ね。

いい?ハク?」

それはあだ名。仲のいい友達がいればつくことが有るというそれは、琥珀にはとんと縁が無い物だと思っていた。

 

「……あ……あ、てゐ……ちゃん」

琥珀がなんだかうれしくなって、笑みを浮かべた。

 

「さぁーて、こっちの道を選んだんなら、簡単には死なせてやらないから。

アンタが散々ワタシをからかった仕返しをするまで、絶対に死なせてなんかやらないんだから。

健康マニアの実力、じっくり見せてやるから」

てゐがワザとらしい邪な笑みを浮かべて笑った。

琥珀は生まれて初めて、自分の体で風が気持ちいいと思った。




ハクの物語は、始まったばかりです。
一応この作品の主人公はオルドグラム一派なので、たまに会話に出てくる程度のつもりです。

場合によってはがっつり絡んだりするかもしれませんが……
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