ネクが出てきて以来微妙にシリアス……
個人的には、頭空っぽにして読める作品を目指しているのですが。
カラン、コロン、カラン、コロン……
しとしと雨が降る幻想郷の中で、小傘が力なく歩く。
小傘がネクと遭遇してから早2週間。
驚くほど何も無く、オルドグラム一人がせかせかと何らかの形で動いている様だ。
『様だ』と形容したのは、彼が何をしているのかは深くは小傘自身も知らないからに他ならない。
「はぁ……」
せっかくの雨だというのに、やはり小傘の気分は暗い。
本当は分かっている。
自信は妖怪の中でも力が弱い存在である、と。
知り合いの命蓮寺のぬえの様な大妖怪では無く、ただの古ぼけた道具が意思を持ったに過ぎない。
オルドグラムと並ぶ事など出来る訳が無いのだ。
「ただいまー、オルドグラム」
「む、帰ったか。そろそろ昼にしようと思っていた所だ」
座っていたオルドグラムが背筋を伸ばし立ち上がる。
「私がやるよ!オルドグラムは休んでて」
結局ネクと会った事さえ言えずに、小傘は自分に出来る家事をしようとする。
「そうか、ならば任せる」
「うん、わかった」
日常は平穏を装いながら続いていく。
「む、美味いな」
「え、本当?揚げ出し好き?」
小傘の作った揚げ出し豆腐を食べて、オルドグラムが頬をほころばせる。
状況は芳しくは無いが、こんな時こそ平穏が大切なのだと小傘は思った。
「えへへ、うれしいな……これからは毎日作っちゃうからね!」
「毎日は困るな。流石に飽きる」
オルドグラムが小さく喉を鳴らした。
「そう言えば、オルドグラム。
今日はなんだか機嫌が良いね。
なにかあったの?」
「おお、気が付くか?表には出さない様にしていたのだが……
ふむ、お前の観察眼は思ったより高いらしいな。
素直に言ってしまうと、コイツを捕まえたのだ」
オルドグラムが指を鳴らすと、本が開きその人物を吐き出した。
「むぅ、ぶぶぅ……」
その人物は、明らかな子供だった。
白っぽい髪に黄色みのある服に、スカート。
幼い体躯はオルドグラムのベルトによって縛り上げられ、目隠し、猿轡がされて、後ろ手と両足が縛られていた。
「ふっふっふ、今の我は気分が良いぞ!」
楽しそうに笑うオルドグラムを見て、小傘は全身の血が引いた。
「アウトー!!オルドグラム、アウトー!!!」
精いっぱい大きな声を出して、小傘が喉がつぶれんばかりに叫ぶ。
「五月蝿いぞ。一体どうしたのだ?
む、以前こんな事があったような……むぅ?」
記憶に小さな引っ掛かりを感じたオルドグラムが、顎を指先で撫でる。
「針妙丸ちゃんの時だよ!!」
「おお、そうであったな!」
「全く!次から次へと小さい子を誘拐して!!
ロリグラム!!ペドグラム!!実は私の事も、そ、そんな目で、みてりゅんでししょ!!」
小傘は自分で言っていて、自分の耳が真っ赤になっていくのを感じた。
「最後まで言えていないぞ。
それに我は子供は嫌いだ。五月蝿く、感情に任せて動く。
倫理的で論理的な動きが出来んからだ。
それと、僅かに口角が上がっているのはなぜだ?」
「あ、上がってないし!!」
まぁよい、とオルドグラムが一息ついて再度口を開く。
「こいつを捕獲した事により我は前々から我が抱えていた問題が一つ解決したのだ」
「問題?」
オルドグラムの言葉を小傘が繰り返す。
「以前我が研究室を召喚し、内部で魔力の精製に従事していた時、侵入者があってな。
また以前の様に、お前が入って来たのかと調べたが侵入者の形跡はあれど姿は無し。
そんな事が数かい続いてな。
我も困っていたが、今日遂にその下手人を捕獲したのだ」
「へぇ、そんなことが有ったんだ」
自身が思っていたよりも身近で、そんなことが有ったのかと、小傘が声を漏らした。
「こいつが捕獲した侵入者だ」
オルドグラムは再度、先ほど捕獲した少女を指さす。
「オルドグラムの研究室に入るなんて……なんて無謀な事を――ん!?」
小傘が哀れみを持って倒れる少女の胸から、藍色のチューブのついた球体がこぼれる。
それが一瞬小傘は何か分からなかった。
だが、ゆっくりとそれが何か考えると、それは目をつぶった人の目の様に見えた。
「ひ、め、眼ぇ!?」
小傘が後ろに後ずさり、オルドグラムが受け止める。
「今さら気が付いたのか?
アイツは妖怪の一種だ。妖力が検出できた」
「あ、そ、そうなんだ……」
意外な事実に小傘が驚く。
「小傘よ。貴様、驚かすより驚かされる方が多いのではないか?」
「いや、そんなことは……ない……と、おもう……多分……」
否定したいがオルドグラムが来ていらい、彼の魔法など様々な出来事に驚かされてばかりであり、否定できないのが悲しい所だ。
「で、結局この子どうするの?」
「この子じゃないよ!私はこいし!」
小傘の目の前で、口が外れた妖怪が自らの名を名乗る。
「あ、どうも丁寧に。多々良 小傘です」
「む、名乗りが遅れた。これは無礼を働いた、我はオルドグラム、オルドグラムゴルドミスタである」
目隠しされ、縛られた少女と交わす不可思議な挨拶。
「えっとー、オルドグラムは私をどうするのー?」
こいしがころんと体を転がして話した。
「ふむ、とりあえず我の研究室に無断で入り込んだ罰として、貴様を滅そうとおもう」
「うーん、痛いのは嫌だなー。
お金なら払うから許して――」
「許さん。貴様は殺す。とりあえず妖怪は殺せるかどうかの実験をしたい。
頭蓋を叩きつぶし、首と胴を分離させ胴体部分に風穴を開ける気だ」
すました顔でオルドグラムが述べる。
その様子を小傘が怯えながら聞いていた。
「わーお、怖いね。なんでもするから許してくれない?」
こいしの声にわずかに焦りが混ざったように聞こえた。
「断る。では、妖怪よ。来世と言う物があるなら元気で過ごせよ?」
そして、オルドグラムの声には楽しそうな感情が混ざった。
そして一切の躊躇の無い冷酷な審判。
「本気なの!?本当に本当なの!?」
その声を聴き、じたばたとこいしが暴れだす。
「往生際が――悪い!」
ひゅんと風を切る音がして、こいしの頭部にステッキが叩きつけられた!!
小傘は恐ろしさのあまり目をつぶった。
「あう!!…………あれ?」
しかし聞こえて来たのは、破壊音では無く間の抜けた小さな音だった。
『ぺし』あるいは『ぺち』と表現するべきだろうか?
いずれにせよ、とても相手を害する音には聞こえなかった。
「……簡単なトリックだ。我が力を以てすればな」
オルドグラムのシルバーのステッキは、その形を失いまるで布の様に柔らかい素材に変化しこいしの頭に乗っていた。
「おおー、おみごと」
小傘が両手を叩いた。
「さて、妖怪よ。これに懲りたら不用意に――む?」
オルドグラムがこいしの目隠しを取ると、白目をむいてぴくぴくと痙攣していた。
「あ、これ完全に気絶してる……」
小傘はその様子を気の毒そうに見ていた。
「全くもう!!本当に怖かったんだからね!?」
尚も縛られたままのこいしが、ぷんすかと怒りを見せる。
「我とて舐められる訳にはいかんのでな。
不本意だが、今回は恐怖を優先させてもらった。
それに、我が相棒の小傘は他人の恐怖を定期的に吸収しなくてはいけない質でな?」
オルドグラムはあくまで、今の行為は自分の為だけではなく、小傘の為でもあると告げる。
だが――
「オルドグラムほんっとうに楽しそうにやってたよね!?」
「そんなこと有る訳ないであろう?我が、そんな非道な事を……」
ワザとらしくオルドグラムが驚いた真似をする。
「……とにかくほどいて欲しいな~」
こしはそんな二人のやり取りを尚も縛られ、転がされながら見ていた。
「分かった、分かった。十分懲りた様だからな。
ほどいてやろう」
オルドグラムがグリモワールを手にすると、こいしに絡みついていたベルトが一人でにほどけグリモワールの中に入っていった。
「帰れ。もう来るなよ」
オルドグラムが扉を開け放った。
その時、こいしの瞳がグリモワールの表紙を見ていた。
「コレが珍しいのか?まぁ、そうであろうなて……
表紙から内容まで、暗号化されており普通では読み解く事も――」
「私、この本、見た事ある……気がする!」
「なに!?」
オルドグラムがこいしの言葉に驚いた。
「何処だ?どこで見た!!」
オルドグラムがこいしの肩を掴み揺らす。
「あう、あう、あう」
オルドグラムは必至なのか、ゆらしたこいしの頭がゆれる。
「うちの……書庫に……あったとおもう……うえっ……」
振られすぎて顔を青くした、こいしが話す。
「家、貴様の家か……」
「探しに行くの?」
小傘がオルドグラムに尋ねる。
「あながち偽物とは言えんのだ。
吸血鬼の館で我が発見されたように、ここには『忘れられたモノ』が集まってくる。
我が道具たち、我がページに一端いずれもここで見つけている。
ならば、今度も……」
「オルドグラム……」
小傘が思うのは、ネクの存在。
オルドグラムを名乗る少年は様々な道具を手にしていた。
ならば、オルドグラムは自分のグリモワールを再生させようとするのが最優先にするのは当然と言えるだろう。
「それで?貴様の家はどこだ?
人里か?妖怪の山か?それとも吸血鬼の様に、どこぞに住処があるのか?」
「私のお家は妖怪の山から行ける地底にあるよ~」
「地底!?」
こいしの言葉に小傘が声を上ずらせる。
「ほう、地底などあるのか……
地底世界……個人的に興味があるな」
オルドグラムが興味深そうに話す。
「あわわわわわ……」
「小傘よどうしたのだ?」
オルドグラムは小傘の様子がおかしい事に気が付いた。
「地底は不味いよ!!とっても怖い所なんだよ!?
昔は地獄で、地上にいられない様な乱暴者や凶悪な妖怪がゴロゴロしてるんだよ!!」
小傘は言ったことは無いが噂は何度か聞いていた。
狂暴、凶悪な妖怪がうろつく危険なエリアそれが地底にある『旧地獄』。
人間はおろか、小傘の様な力の弱い妖怪にとっても危険な場所だった。
「ね、ね、ね?やめよ?命の方が大事だよね!?」
必死になって小傘がオルドグラㇺを止めようとする。
「そうか……なら、『来い』。貴様に拒否権は無い」
「だよねー、分かってたよー」
オルドグラムの非常な言葉に小傘は滂沱の涙を流す。
だが……
「けど、私オルドグラムについてく!
オルドグラムは昔の伝説では悪い魔法使いだってみんな言ってるけど、私はそうは思わない!
オルドグラムの無くなった記憶のかけらが有るかもしれないなら、私ついてく!!
後悔なんか、絶対しないから!!」
約30分後……
「いやぁあああああ!!!!来なきゃよかったぁああああああああああ!!!」
小傘の涙が
「そう驚くことか?」
今小傘とこいしはオルドグラムに縛られぶら下げられながら旧地獄へと道を落ちていた。
普通は歩いていく方法もあるのだろうが、これが最もショートカット出来るとオルドグラムはここを選んだのだった。
「わー、はやいはやい!」
オルドグラムの言葉に、背中のこいしが楽し気に笑う。
「よく平気――ハッ!?」
こいしを見ると目の焦点が合っていない。
どうやら恐怖によって、正気を失っている様だ。
「む――道が分かれた……」
地面に当たる寸前で急停止したオルドグラムが、目の前に広がる2つに分かれた道を見る。
「目的地は地下のそのまた地下……より深い方へ進むべきだが……」
試案するオルドグラムの前に二つの影が踊り出でた。
「ききぃ!!」
「しゅるるる……」
羽の生えたサルの様な妖怪と2メートル以上の身長がある人の顔のついた妖怪が立ちふさがる。
2匹の妖怪は自らのテリトリーに入ってきた獲物を互いに品定めしている様に見えた。
どちらがこの獲物を食らうか。妖怪は両方ともオルドグラム達を餌としてしか認識していなかった。
「道を聞く訳には――いかんな」
「きしゃぁあああ!!」
「ききぃいいいい!!」
2体が同時に襲い掛かって来た。
「いやぁあああああ!!!」
「わー、すごい、すごい!」
悲鳴を上げるこがさ、なおも現実逃避を続けるこいし。
2匹の爪が彼女たちに触れる寸前――
「邪魔をするな」
オルドグラムの姿が一瞬ブレた。
そして、一拍おいて2体の妖怪が同時に吹き飛び、二つの穴へと同時に飛んでいった。
「ふむ――右の方が音が響くな。
左の奥が行き止まりという事だ、右へ行くぞ」
「……もっと早く助けてくれないかな!?」
どちらかの妖怪の垂らしたよだれで、顔をベタベタにしながら小傘が叫んだ。
「この国の言葉に『能ある鷹は爪を隠す』というものがある。
自身の力を誇示するのは確かに愚かしい事だが、あまりにも力を行使しないと、相手の力量を読めない馬鹿が絡んでくる……
全く嘆かわしい……」
「え?――ひっ!」
オルドグラムの言葉を聞き、今まで来た洞窟を見上げるとそこには無数のシルエット。
どうやら、まだまだ他にもこちらを狙う妖怪はいたらしい。
オルドグラムは黙って、道を進み始めた。
「あ、ここ見覚えある!!
もうすぐだよ!!
なんか、ひさしぶり~」
遠くに見える明かりを目にして、こいしが笑みを浮かべた。
「まさか、地下にこんな世界が有るとは……」
「すごい、これが……旧地獄」
目の前の遥か彼方に見える町の明かりに、小傘が目を輝かせた。
こいしは微妙に性格が読みにくい……
作者によってバラつきが出る性格だと思いますね。