忘れ傘とグリモわーる   作:ホワイト・ラム

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さて、なかなか進まないこの話。
不定期更新ですが、ゆっくりと待っていてください。


魔術と発明と別れの儀式

「な――、まー………――、――――、――あ、――」

ポクポクと木魚を女僧侶――白蓮と名乗ったか?が叩いている。

死者への手向けの言葉を、ゆっくりと唱えていく。

 

「ふむ……」

オルドグラムは慣れない和風の文化を観察していた。

畳に座布団に正座。

借り受けた数珠を手に、目の前に置かれた白い棺を見る。

 

「短い間であったが、世話になった……さらばだ()()よ」

聖の座る仏前には、黒い写真立てに飾られたオッドアイの少女が舌をだし笑っていた。

参列者が思いを胸に、写真の中の優しい笑顔の彼女との思い出が、線香の臭いに消えていく。

 

 

 

 

 

少し前――

 

「はぁう……ひもじい……」

小傘が空腹を覚え、ちゃぶ台にもたれかかる。

仕事も済ませ、いざ午後から出かけようとした矢先に空腹を、認知してしまったのだ。

 

「根を詰めすぎたのだな、無様な……」

部屋の真ん中、どこからか拾ってきたガラクタを手にしながらオルドグラムが話す。

 

「ちょっとー!もうすこし、心配してくれても良いんじゃないの?

ガラクタが欲しいって、無縁塚まで本を運んだの私だよ?」

 

「この前、金を錬成したやったろう?

それ以上に何を欲するのだ?それに――これはお前の為にもなる事だ」

 

「へぇ?……なんでも良いけど変な事しないでよ……?」

オルドグラムの、言葉に小傘が疑問を持ったが空腹に耐えかねたのか、少しでも気を紛らわすために眠る事を選んだようで布団を敷いてその中に潜り込んだ。

徹夜での作業もあったのか、そのまま数分も持たずに小傘は眠りついた。

 

数時間後――

 

「ふぅあ……よく寝た……なに、コレ?」

眠りから覚めた小傘の目に着いたのは、ちゃぶ台の上にある箱。

大きさは一抱えで少し大きい。

恐らくこの箱の持ち主であろうオルドグラムはいない。

なんと言うか、なんと言うか非常に嫌な予感がする小傘。

 

「本の中で休んでるのかな?

おーい!オルドグラム!!オルドグラムってば!!」

バシバシと、自身の腰にぶら下がるグリモワールを叩いてみる。

すると音もなく、グリモワールが開いて――

 

「なんだ。我を呼びつけようとは……些細な用事では済まさんぞ?」

不機嫌な顔をしたオルドグラムが、姿を現した。

こちらも眠っていた様で、ご丁寧に寝間着にナイトキャップまで被っている。

恐ろしい事に、その服装の色はご丁寧に彼のイメージカラーである赤黒だった。

 

「……えっと、この箱なんだけど、どうしたの?

買ってきた訳じゃないよね?」

そう言いながら、ちゃぶ台の上に鎮座する怪しい箱を指さした。

その瞬間オルドグラムの口元がニヤリと吊り上がる。

寝間着が一瞬にして、いつもの服装へ変わり、朗々と語りだす。

 

「ほう、気が付いたか?これこそ我作品の一つ!!

名づけるなら『小傘箱2号』!!

外界のガラクタを我魔術を用いて動力を代用したものよ」

そう言って、自信満々に例の箱を持ってくる。

 

「何その名前……勝手に使わないでよ……」

まさかの自分の名前を使用した物に、心底困ったように小傘が答える。

 

「んで?一体何をする道具なの?」

 

「驚きを吸収する回収機だ」

 

「うそッ!?」

あまり期待していなかった小傘、まさかの機能にうれしい驚きの声を上げる。

 

「ふははは、我は恩には恩を返す質でな……

成り行きとは言え、我に魔力を供給しているお前に感謝を持っているのだ。

妖怪の生態は分からんので少し手間取ったが、ついに完成させたのだ!!」

 

「さっすがオルドグラム!!頼りになる魔法使いだね!!」

 

「ふっはっはっは!!もっと褒めるが良い!!」

クルリと手のひらを返した小傘が、オルドグラムを褒め、オルドグラムも自身ありげに高笑いをする。

 

「で?どうやって使うの?」

 

「まぁ、待て。今、見せてやる」

そう言ってオルドグラムが、箱の底にあるスイッチを入れ――

 

「こうして、人気のない場所へと置いておくのだ」

 

「ふむふむ」

今度は、畳の上に礼の箱を置いて、手を近づける。

 

「人間が近づくと、生物を感知する魔術が作動して――」

パカッ!!

『驚けー!!驚けー!!驚け-!!』

 

「うわぁわわわわわわ!?」

突如箱の上部が開き、デフォルメされた小傘の顔を模したパーツがバネで揺れる!!

 

「どうだ!?これさえあれば、自動で驚きの感情を回収することが出来る――ぞ?

ん?どうした?あまりの発明に声も出ないか?ん?」

オルドグラムが自身ありげに説明するが――

 

「ただのびっくり箱じゃない!!

あー、期待したのが間違いだった……

ねぇ、2号って事は一号も有るの?」

ほぼほぼ期待していないが、小傘は気になった点を聞く。

 

「うむ、一号は音による驚きを目的とした風船を使ったもので――」

 

「もういいよ。割れるだけでしょ?」

諦めたような小傘の視線にオルドグラムが悔しそうに歯噛みする。

 

「くッ……次こそは――」

 

「あー、いいって。もう自分で動くから……」

酷くがっかりした様子で小傘が外へ出る。

結局は自分で驚きを手にしなくてはと思った様だった。

 

「くそ!必ず……や!!」

閉じた本の中、オルドグラムは小さく闘志を燃やしていた。

 

 

 

カァン……カァン……カァン!!

 

その日の夜。

小傘が寝静まった中、オルドグラムが作業を進める。

設計段階から、小傘箱を見直すこと数時間。

「他人を驚かす」という一点を様々な方向からアプローチし、音、光、シチュエーションという面を取り込み、複数の材料を持って相手を脅かす手段とする。

 

「必ず……!」

オルドグラムは燃えていた。

自身の絶対の自信があった、道具がバカにされた。

そう、すっかり忘れていたのだが時代は変わったのだ。

生半可な力では、今の時代に取り残される。

その危機が、かえってオルドグラムの心を熱くさせた!!

 

「すぅ……すぅ……」

そんな事はつゆ知らず、小傘が自身の布団で小さく寝息を立てていた。

 

 

 

 

 

翌日――明け方――

 

「ふぅーい、さみぃさみぃ……」

一人の男が、手をこすり合わせながら人もまばらな人里を歩く。

吐く息が白く濁り、こんな日は朝なのに熱燗が欲しくなってしまう。

 

「んあ?」

そんな男が、路地の木材の上に置かれた小さな箱に気が付く。

なぜ?と問われたら応えられない様な、小さな違和感によってとしか言えない不確かな感覚でその男は呼び止められた。

 

「んだ、この箱……」

近づいた瞬間、その箱が独りでに木材から転がり落ちる。

そして蓋が空いて――

 

「ひぃ!?」

その箱の中には、近所で噂の妖怪の首が!!

だが恐怖はまだ終わらない!!

小さく声が聞こえる、そしてその声はだんだんと大きく!!

恐ろしい事に、その声は目の前にある妖怪の生首から聞こえてえ来る。

 

「くるしい……助けて……お願い……寒いの……だから……一緒に来てぇ!!」

 

「おぎゃぁああああああ!!」

カッと目を見開くと僅かに浮いて見せた!!

恐怖に続く恐怖に、男が赤ん坊のような声を出して逃げ出した!!

 

 

 

「ふむ、成功だな……」

男の泣く姿を、小傘の家の窓からオルドグラムが見て、満足気に頷いた。

男の恐怖の感情を取り込み、魔力に変換する事であの箱は、また別の場所へ移動する。

移動した先でまた同じ様な事をして、3回ランダムに移動した後此処へ戻ってくる。

これこそがオルドグラムの完成させた『小傘箱ニューΩ』だった。

 

「ふむ、素晴らしい……!」

小傘箱から送られてくる驚きの感情を受けたのか、眠っている小傘が幸せそうに微笑んだ。

 

 

 

「た、助けてくれ!!よ、妖怪が――!!」

 

「まぁまぁ、どうしました?」

オルドグラムの発明をみた、男が偶然通りかった女に話しかける。

 

「路地裏で、よ、妖怪の首が、妖怪が死んでた、んで、俺を連れて行こうと……」

酷く混乱しているのか、男のいう事が理解できない。

しかし、何か問題が起きている事は分かった。

 

「分かりました。とりあえず、その路地裏へ行ってみましょうか」

そう言って女――聖 白蓮は優しい笑みを浮かべた。

 

 

 

「あれ――ですね?」

聖が一人で件の路地裏へと足を進める。

男はすっかり怯えて何処かへ逃げて、それでも気になった聖は一人進んでいったのだ。

 

「ここは確か、小傘ちゃんのお家のすぐ近く……大丈夫でしょうか?」

生来のお人好しな聖が、たまに寺に顔を見せる小傘を心配する。

そして目にするのは――

 

「ひもじいよぉ……寒いよぉ……くるし――」

 

「ああっ、小傘ちゃん……!」

手を伸ばそうとした聖の目の前で、小傘箱が消える様にワープした。

その瞬間、聖が口元を抑えた。

 

「可哀そうに……妖怪でも不死という訳ではないんですね……

良い子だったのに……悲しいですね……」

めそめそとその場で、聖が涙を流す。

数分間、その場で手を合わせ消えていった唐傘お化けの冥福を祈った。

 

「後の処理をしてあげないと……」

祈りの言葉を唱え終わった聖は、そのまま小傘の家の扉を開ける。

 

 

 

「む?客人か?」

聖の訪問をオルドグラムが迎える。

 

「えっと貴方は……?」

今まで見たことのない男の姿に、一瞬だけ聖がためらう。

 

「我が名はオルドグラム、オルドグラム・ゴルドミスタ。

偉大なる魔術師にして錬金術師よ」

 

「まぁ、魔法つかいなんですか。少し親近感が――じゃなくて!

えっと、小傘ちゃんとの関係は?」

疑問を持った聖が尋ねる。

そうだ、いきなり知りもしない男が自身の知り合いの、しかも非常に大変なタイミングで居るのだ、何かの関連性を疑ってしまう。

ほんの僅かだが、まぎれもなく彼が『加害者』の可能性も――

聖がこっそりと身構えるが――

 

「ああ、数日前に森で拾われてからこの家で厄介にしてもらっている。

小傘の客人か?悪いが今、小傘は――」

 

「分かっています。大丈夫です……まさか、いきなりでひどく混乱しているでしょう?」

 

「混乱?ん?」

何か、微妙におかしい気がしてオルドグラムが顎に手をやる。

 

「小傘ちゃんの様子はどうでしたか?」

 

「ああ、昨日までは苦しんでいたが、今はこの通り安らかに眠っている」

オルドグラムの差した布団の中で、小傘が横になって眠っている。

昨日までは空腹で苦しんでいたが、今はオルドグラムの発明によって安らかに、とても安らかに眠っている。

そう語るオルドグラムの表情は優し気で、聖は彼を疑ったことを恥ずかしく思った。

 

「まるで生きているよう……けど、お別れはいつ来るか分からないんですね……

見た所外国の方ですよね、葬儀は私の寺で面倒を見ます。参列をお願いできますか?」

聖がオルドグラムに話す。

せめて、葬式くらいは家の寺でやってあげたいの言うのが彼女の心境だった。

 

「必要な式があるのか?残念だが、我は詳しくない。

出来るなら、頼みたい……えーと、名を……」

 

「聖、聖 白蓮です。

今後もよろしくお願いしますね、オルドグラムさん」

 

「うむ!」

そうして聖の指示の元、命蓮寺で葬儀が始まる事となった。

その日のうちに、話は広がり……

妖怪の小傘に家族はいない為、命蓮寺のメンバーのごく少数で葬儀は行われる事となった。

オルドグラムが、布団で寝ている小傘を起こさない様に棺に入れ、静かな空気の中お堂で聖がお経をあげる。

噂を聞きつけたのか、彼女の鍛冶屋の客人も来てくれたようで、会場には人妖含めておよそ20人程度の人数が集まっていた。

 

 

 

そして!!

「では、皆さん。最後の贈り物として花を添えてあげてください……」

お経を読み終わった聖が、棺に寝かされた小傘に一輪の花を添える様に言う。

参列者が花を棺に入れてゆき……

 

「最後には、一緒に入れましょうね?」

勝手の分からないオルドグラムを連れ、聖が花を棺に入れる。

 

「あら?花粉が……」

花からこぼれた花粉が、小傘の鼻を一瞬くすぐり――

 

――ハックシュン!!

 

「え、ええ……?」

 

「あー、なにコレ……鼻が、ムズムズする……また、オルドグラムが何か……あれ?」

棺から小傘が起き上がる。

くしゃみをしたせいか、目の前の聖の顔に自分の鼻水が掛かっている。

 

「え?……なにこれ?」

今度は小傘が驚く番だ。

起き上がると、周りに花。

黒と白の垂れ幕、喪服の参列者たち、そして自身の写真の遺影。

 

「な、なにこれぇええええ!!!」

少し休もうと眠って起きたら、まさかの自分の葬式!!

驚かないハズが無かった!!

だが、驚くのは小傘だけではない!!すっかり死んだと思っていた、会場の全員がまさかの展開の仰天する!!

 

「良かったではないか、小傘。驚きの感情をたらふく食えたではないか?」

 

「うん……確かにお腹いっぱいだけど……」

オルドグラムの後ろ。

自身を心配して集まった参列者たちから、怒りのオーラが滲みだす!!

 

「小傘ちゃん?」

 

「は、はいぃいい!!」

聖が珍しく、青筋を立ててにじり寄ってくる。

笑みを浮かべてはいるのだがそのプレッシャーは非常に厳しいモノがある。

 

「やっても良いイタズラと、悪いイタズラが有るんですよ?

これは、悪い方のイタズラです……覚悟は出来てますか?」

 

「ご、ごめんなさーい!!!」

 

「それでは、いざ!!南無三!!」

聖の制裁が小傘に降り注いだ!!




オルドグラムは悪人なのだと思います。
多分、善悪の感情よりも自身を優先するタイプ。
しかし、彼にも彼なりの恩と情が有るのです。
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