忘れ傘とグリモわーる   作:ホワイト・ラム

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さてさて、今回も投稿。
諸事情で遅れてしまい申し訳ありません。
夏場は、筆の速度が落ちるのかもしれません。


魔術と姉妹と地獄の屋敷

地底の世界の旧地獄。

そこは地上に居られなくなった様々な者たちが集まるゴロツキの町。

逃げ込んだ者、追い出された者、自ら舞い込んだ者。

様々な理由があるが、いずれも他から来た「よそ者」は町の中で手荒い歓迎を受ける事に成るだろう。

 

「邪魔だ」

うっとおし気にオルドグラムがつぶやく。

目の前には複数の妖怪が地面に倒れ伏している。

彼らはその手荒い歓迎をした末路だ。

 

「いやー、オタクの連れさん強いねー、ヒック!」

 

「え、ええ、まぁ……」

小傘の隣、居酒屋の屋台の椅子に座る妖怪が酒を飲みながら笑う。

 

「ぐぅ!」

 

「お、おお……」

 

「がっは!?」

複数の妖怪たちが皆軽々と吹き飛ばされ地面に倒れていく。

そして、周囲に立っている妖怪が居なくなった頃オルドグラムがため息をついた。

 

「全く、これだから蛮族は好かんのだ」

疲れたと言わんばかりに、オルドグラムがマントについた埃を払った。

そして、小傘に預けていた帽子を回収する。

 

「ひゅー!アンタの強さに乾杯!ひっひっひ!」

酒の飲み妖怪が杯を掲げて見せるがオルドグラムは華麗に無視をする。

 

「お、お疲れ様……」

小傘が苦笑いを浮かべる。

圧勝、相変わらずの圧倒的力。

だが――

 

「我はこんな事望んではいないのだ……やれやれ」

困ったようにため息をつく。

 

事の初めは、通りすがりの妖怪が吹っ掛けて来たいちゃもんだ。

道行くオルドグラムに、やれステッキが当たっただの、やれこちらをにらんだだの因縁をつけて来た。

見た目だけならば優男のオルドグラムを妖怪は組みやすしと考えた様だったが、数秒後には地面を舐める事に成った。

それだけならば良い。良いのだが喧嘩好きな地底妖怪が次から次へと集まって来て、ちょっとした乱闘騒ぎにまで発展したのだ。

 

「先を急ぐぞ」

 

「うん、これ以上、騒ぎが大きくなる前に……」

小傘がそそくさと立ち上がり、隣にいた酒飲み妖怪に別れを告げる。

 

「だが、その前に――」

オルドグラムが再度ステッキを振り上げる。

 

どがっ!

 

「いでぃえ!?」

酒飲み妖怪を打ち据え、その拍子に妖怪の懐から財布が転がり落ちる。

 

「あー!私のお財布!!」

小傘が立った今転がり落ちた財布を拾う。

 

「うぐぐっ!?」

酒飲み妖怪は一瞬でシラフに戻り、冷や汗をかく。

 

「やれやれ、酔っ払いに見せかけたスリか……

ずいぶんとまぁ……」

酷く馬鹿にした様子で、オルドグラムが妖怪をにらむ。

 

「い、いやぁ、出来心でして……」

 

「小傘よ。財布の中身は全部あるか?」

妖怪の言葉を無視して、オルドグラムが尋ねる。

 

「え?ちゃんとある……よね?

うん、ある!」

ゴソゴソと中身を確認する小傘。

だが――

 

「いや、足りないぞ?うむ、これは足りない。

我はここに来る為に多額の金額を財布に入れたハズだが――

足りていないなぁ?」

じろりと妖怪をにらむ。

 

「な、なんの事ですかい!?

あっしは、中身なんて抜いて――ひぃ!?」

妖怪の足元にステッキを突き付けるオルドグラム。

 

「貴様は我が嘘を言ったと?」

 

「ひゃ、ひゃい!?」

オルドグラムは腰を落とし、妖怪の顔を両手で包み込む様に持つ。

 

「スリをした貴様の言葉が真実で、我が嘘をついていると貴様は言うのだな?」

オルドグラムがゆっくりと妖怪にしみ込まれる様に再度言葉を紡ぐ。

 

「ひゃい、すいませんでした……」

 

「言葉のみの謝罪など、我は求めていない。

我は金を返せと言っているのだぞ?」

オルドグラムの言葉に妖怪は怯えて首を縦に振る事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

「ふぅ、まさかここまで持ってるとはな」

にんまりとしたオルドグラムが、ずっしりと重くなった小傘の財布を持って喜ぶ。

 

「う、うん……そうだね」

小傘は非常に、非常に気まずい気分を味わっていた。

 

「気にするな。外の世界でいる慰謝料の様な物だと思え」

 

「……最近忘れ気味だったけど、オルドグラムはやっぱり悪人よりなんだよね……」

小傘がため息をこぼした。

 

「こいしよ。貴様の家はまだなのか?」

 

「うーん、見えて来たよ!」

オルドグラムの持つ縄の先、まるで犬の様に紐を付けられたこいしが遠くに見える屋敷を指さした。

 

「え、結構な豪邸……!」

 

「そうだよ?おねーちゃんの名前を出せば地底なら大体好き勝手出来るからねー」

あっけらかんとしながらがこいしが話す。

 

「オルドグラム!?まずいんじゃないかな!!

地底の偉い人の妹にこんな事したら……」

一体どんな罰を受けるのか、小傘が想像して震えあがった。

 

「ふむ、まぁ、良いだろう。最悪の自体になってもこちらはこいしを預かっている」

 

「何をする気!?」

サラッと不穏な単語をオルドグラムが吐いた。

 

 

 

 

 

「そう……話は大体読めたわ」

地霊殿と呼ばれる屋敷の接客室で、この屋敷の主である古明地がオルドグラムと小傘を見る。

 

「貴様のデータは既に我は知っている」

 

「そうね、鈴奈庵にある書物から読み取ったのよね?

あの賢者、こういう場合を想定してないハズないのだけど……」

さとりがが小さく悪態をつく。

 

「えっと、なんか話が読めないんだけど?」

次々と話を進める二人に、小傘が困惑する。

その様子をみたオルドグラムがため息をついた。

 

「……小傘よ。妖怪の情報を纏めた本が有るのは知ってるであろう?」

 

「え?あ!あの阿求の所のやつ!」

思い当たる本に小傘が手を叩く。

 

「アレには主要な妖怪の名のデータが書かれている。

我は――」

 

「閲覧して、覚えているのですよね?

錬金術師で魔術師のオルドグラム・ゴルドミスタさん?」

オルドグラムの言葉を継ぐ様にさとりが話した。

 

「覚妖怪……他者の心を覗く力がある、か」

 

「貴方は覚えていない様ですけど、こいしもその本に書かれているんですよ?

もっとも、重要なのは能力だけで私個人の事など興味が無いのでしょうけど」

若干毒のある言い方をさとりがする。

 

「なら、話は早い。我が欲しい物は分かっているであろう?」

 

「こいしの話に有った、貴方の魔導書によく似た本ですね?

正確な所在は分かりません。

本などあまり読みませんから、特に曰く付きの魔導書は……」

 

「貴様の事情など関係ない!

我は我のかけらを集めるのみ!」

オルドグラムが立ち上がり、腰のステッキに手をかけた。

実力行使もいとわないという事だろう。

 

「オルドグラム!?そんないきなり……!」

自らの一部である魔導書が賭かると、オルドグラムは若干自身を見失う。

小傘はそのことを諫めた。

 

「構いません。貴方のその態度の底に隠れた不安は『見えて』います。

こいしをここまで連れてきてくれた恩もあります。

使っていない本一冊もっていってくれても構いません」

 

「え、本当!?オルドグラム、良かったね!」

こいしの扱い含めて、非常に荒れると思っていた交渉があっさり上手くいき、小傘が喜んだ。

 

「…………しかし、貴方が欲しい物があるかどうかは分かりませんね」

さとりが目を片方だけ閉じて話す。

 

「書庫は有るのであろう?

ならば、我は我が力の一端を回収するのみ。

案内してもらおうか?我が直々に探し出す」

オルドグラムが意欲的な姿勢を見せて立ち上がる。

 

「……良いでしょう。貴方が思っている様に、力づくで探されても困りますから」

諦めた様に、さとりがため息をついて、ついてきなさい。と先導し始めた。

 

 

 

廊下を歩きながら、さとりが説明を始める。

「残念ながら、書庫はあるにはあるけど、そこまで充実している訳じゃないの。

どちらかと言えば『書庫』というより資料室かしら。

いえ、それすら言いすぎかもしれないわね。

地獄で管理している悪霊の調査報告表を押し込めておく部屋、が一番性格かしら?」

そう言ってさとりはとある部屋を開く。

そこは紅魔館ほどではないが、大きな書庫で壁に無数の本棚があった。

だが、奥の棚には蜘蛛の巣がかかり、埃も溜まっている様に見えた。

その一方で、ひもで纏められた紙の束が床に置かれている。

 

「ずいぶんと人の手がかかっていない様だな」

 

「あまり本は読まないの。

偶に買いに行く物語なんかは、自室の小さな本棚で済ませちゃうから。

資料とははあっちからあっち。目星としてはこれ位ね」

さとりが軽く説明して、その場を後にする。

後は自分で探せ、と言いたいのだろう。

 

「良いだろう。我が探し出して見せる。

何にも代えられぬ、我が一部なのだからな」

オルドグラムがそう言って、本を手にした。

 

 

 

 

 

「ねーねー見つかったー?」

 

「……邪魔をするな」

一体いつからいたのか、もしかしたら最初からいたかもしれない、こいしの姿をみてオルドグラムはうっとおし気に話す。

しっし!と手でこちらを払うジェスチャーまでする。

 

「ぶー!つまんない!」

こいしが不満げに唇を尖らせた。

 

「あはは……オルドグラムにとっては大事な事だから」

小傘が愛想笑いを浮かべてこいしを落ち着かせようとする。

 

「ふーんだ。私だって、他の本読むからいいもん!」

そう言ってさとりが差した場所とは違う場所から数冊の本を持ってくる。

 

「なんの本?」

 

「恋の物語の本!仙人に弟子入りした男の子と仙人のキョンシーのお話!

二人が結婚するまでが書いてあるの!」

ばばーんと自身の口で効果音まで入れてしまうが、その本はとてもごつごつした飾り気などない表紙で、とてもそんな恋愛モノの本とは思えない。

 

「へぇ、そんな物語まであるんだ」

純粋に資料室と言う訳では無く、楽しむための本まであるのかと、小傘が本を受け取るが……

 

「それは……すまない。良く見せてくれるか?」

 

「え、あ、うん、いいけど……」

オルドグラムが態度を変え、小傘からその本を受け取る。

そして素早くパラパラとめくっていく。

 

「むっ、これは」

そして、その手は尚も速くなっていく。

 

「オルドグラム、どうしたの?ちょっと怖いよ?」

だんだんと形相が激しくなっていくオルドグラムに、小傘がおずおずと声をだす。

 

「すまない。少し夢中になっていてな」

僅か数秒だが、すべてを読み終えたオルドグラムが本を閉じる。

 

「オルドグラムが恋愛小説なんて、何か意外……」

 

「これは恋愛小説ではない。おそらくだが……我の道具だ」

僅かに迷った素振りを見せるもオルドグラムが宣言した。

 

「ええー!魔導書のページじゃなくて道具!!?」

久しぶりに見る危険な道具に小傘が身を慌てて引いた。

 

「恐れるな、これは……そう、お前には害を及ぼさない道具だ」

 

「???」

自分にだけ害がないという言葉を聞き、小傘が首をひねる。

 

「これはそうだな……いわば恋愛の成就の為のハウツー本だ。

この本に記されている儀式を恋人同士がクリアする事が出来れば、その2人には絶対の幸福が約束される」

 

「……オルドグラムそんな物まで作ってたの?」

危険なイメージのある魔道具の中にしては異質な効力、それと同時に恋愛に全く興味などないであろうオルドグラムが製作者という事実。

それらがまぜこぜとなり、小傘のなかに言葉で言い表すのが不可能な感情が巻き起こる。

 

「読むだけでは、なんの効力もない。

自らの恋人と共に、この魔道具に触れるて起動させることで初めて効力が発生する。

だが……さて、我は何を思いこのような道具を作ったのだ?」

オルドグラムが不思議そうに顎に手を当てて本を見る。

 

「覚えて無いの?」

 

「正直言うとこのような道具を作った覚えは全くない!

だが、使っている魔術式のクセ、更には製作者の名に我のサイン、それにこの魔道具には我の使用する『異端五属性』の内『魂』に深く対応する魔術だ。

我以外に制作できる者などいはしない」

オルドグラムが断言する。

だが、それでも本人はこんな道具作った覚えはないという。

 

「記憶の欠けた部分なのかな?」

 

「だとしてもだ。この儀式は意図的に条件を難しくしているのだ。

本来、ここまでの条件を儀式の成功条件にする必要はない。

まるで、失敗する事を望んだ様な……だが、道具としては使われるのが目的のハズ……

我はなぜ?」

再度オルドグラムが考え始める。

オルドグラムから本を借り受け、パラパラと内容をみた小傘だがその条件は唖然とする物ばかりだ。

曰く――嫉妬深い一族の血を引く者から祝福の言葉を受け取る。

曰く――聖別された神聖な材質を使い怪力を誇る者にしか作れない道具を作らせる。

曰く――蜘蛛の妖の紡ぎだす糸を使いドレスをこしらえるなどなど……

どう見ても成功させる気などみじんも無い物ばかりだ。

 

「へぇ」

小傘が自分には絶対無理だな。なんて思いながら条件を読み上げていく。

そして同封されている過去の成功した話や、失敗した話などを見ていく。

 

「我には理解出来んな」

オルドグラムが再度理解出来ないと語るだが小傘には、この道具の『意味』が理解出来た。

それは――

 

「ねぇ、オルドグラムこの道具って――」

 

「もう良い。下らん事で時間を浪費した。

探すぞ。我の目的はそれではない」

興味を失ったオルドグラムが小傘の言葉を遮って、作業を再開し始める。

 

「えー、あ……仕方ないなぁ」

自身の意見を言えない事を不満に思いつつも小傘は、作業を再開する。

そして、そんな二人が気付きもしない内に、空いていた書庫のドアが閉まった。

 

 

 

 

 

たたたた……

古明地さとりの妹、古明地こいしが地霊殿を走る。

さっきの現場、こいしはずっとそこにいた。

だが、その存在は忘れられ、何度話そうともう二人は気が付いてくれはしなかった。

まただ、また自分は誰にも見えなくなった。

心のそこに在る悲しみを、忘れる様にこいしはその場を逃げ出したのだった。

そして気が付くと、地霊殿の中庭の中、屋敷で飼っているペットたちが各々自由に過ごしている。

こいし本人は気が付いていないが、さみしくなるとここに来る癖があるのだ。

 

 

 

「やぁやぁ、こんにちは。小さなレディ」

こいしの頭上から声がかかる。

 

「あなたはだあれぇ?」

地霊殿の屋敷の屋根に、まるで重力を無視したかの様に軒下に腰かける洋装の少年を見つける。

名前を尋ねるが少年は意地悪く笑うだけ。

 

「ふぅーん……?かわいそうに」

一人の少年が柔和な笑みを浮かべる。

 

「あなたは何を言ってるの?」

少年の言葉に意図せずこいしの心臓が跳ねた気がした。

だが――

『かわいそう』と口に出しているモノの、その表情からは一切の同情など感じ取ることは出来ず、寧ろ相手の不幸を心底楽しんでいる様にすら見える。

 

「君はいつも一人なんだね」

 

「?」

 

「分からないの?それとも分からないフリかな?

いや、もしかしたら、そんな事も分からなくなるほど痛みを受け続けて心を麻痺させちゃたのかな?」

子猫が獲物で遊ぶ様に、子供が蟲の足をもいで遊ぶ様に。

少年は残酷な言葉でこいしの心に傷をつける。

 

「誰も君を見ない。君はいつも炉端の小石。

在っても無くてもだぁ~れも気にしない。

君は無くていい存在なんだ。誰にとってもどうでも良い存在なんだ。

だってそうだろ?誰も君を瞳に映さない」

 

「やめて……私は」

こいしが自らの両耳をふさぐ。

だが、そんなことで少年の言葉は遮れない。

 

「君を助けてあげるよ。僕は魔道具使いさ。

君の心が望むモノを君が、自分の手で手に入れるんだ。

僕が手伝ってあげるからね?」

 

「どういう、こと?」

 

「魔道具使いは、魔法使いじゃない。

不思議な道具を貸す事しか出来ないのだ。

だから、君は自分の力で、自分の望みを叶えなくちゃいけない。

さっきも言ったように、僕はそのお手伝いをするのさ」

一体いつからか、少年とこいしの周囲は深い霧に満ちていた。

特に足元など、真っ白で自身の靴さえ見る事が出来ない。

 

「さぁ、どうぞ?」

少年――ネクがこいしにボロボロの釣り竿を渡す。

今にも壊れそうな釣り竿で、糸の先には針すらついていない。

 

「これが、私を助ける道具?」

 

「あははは、違う、違う。

これはね?道具を呼び出す道具さ。

この釣り糸を垂らしてゆっくりと糸に自らの願いを込める。

すると、願ったモノをこの釣竿は呼び出してくれるのさ」

 

「私の、欲しいもの……」

こいしがふらふらとその竿に手を伸ばした。

そして、ゆっくりとしかし確かに握り……

 

ネクがその様子を見て、歪んだ笑みを浮かべた。

だがこいしはそんな少年の表情に気付く余裕すら持ってはいなかった。




実はひょっこり出て来た、募集した魔道具たち。
使いやすい設定なので、早速使用しました。

募集して下さった方、ありがとうございます。
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