せっかく原作あるから、やりたくは無いのですが……
どうしても必要だったので……
ととととと……
小さな影が廊下を歩く。
ふわり、ふわふわ……
古明地こいしの歩いた足跡から、丸いシャボン玉が生まれていく。
そして――
その足音と共に、廊下から『色』が抜ける。
床の赤は、まるで垂らした絵の具を逆再生するように赤いシャボンを吐き出す。
壁の白は、触れられた部分からふわりと色が白く丸い球体に変わり抜けていく。
燭台の炎の色も、ドアの色も、影の色も全てが抜けて、『抜け殻の白』だけが残っていく。
ふわふわ、ぷかぷか……
「きれい、すごく、きれいだなぁ」
こいしが自分の後についてくる、色のシャボン玉を見て目を輝かす。
「あはっ!」
シャボンを指先でつつけば、まるで水中の気泡の様に小さな複数のシャボンに変わる。
そしてそれをくっつければまた大きな一つのシャボンに戻る。
「あはは、たのしいなぁ。たのしいなぁ」
どこか気の抜けた顔でこいしが渇いた笑みを浮かべる。
首からぶら下がる、ストローの様な緑の筒を口に咥える。
「もっと!も~っと、色をちょうだい!」
筒をふいた瞬間、床から、天井から、窓から、様々な場所から色が抜け始めた。
「ん?ナニコレ?」
最初に異変に気が付いたのは小傘だった。
目の前を、黒いシャボン玉が飛んでいく。
最初は一つ。だが、机や椅子、更には本からも『色』が抜けシャボンに変わり始めた。
「なに、これ?」
突然の自体に小傘が驚きの声を上げる。
そして興味をもったのか、指先でシャボンに触れようとする。
一瞬遅れてオルドグラムも異常に気が付いた。
「これは――!」
それはオルドグラムも気が付いた様で、すぐに立ち上がり近づいてきたシャボンを避ける。
「小傘!このシャボンに触れるな!」
「え、なに――わひゃ!?」
オルドグラムの注意むなしく、小傘の指がシャボンに触れる。
その時、小傘の指から肌色の色が抜けてシャボンに吸収され始める。
「ちぃ!!」
オルドグラムが本の栞を引き抜き、シャボンに突き刺した。
するとシャボンは栞の色を取り込みふわりとまた浮かびだした。
「なにこれ、なにこれ!?」
次々起こる自体に小傘が、パニックに陥った。
「おそらく何かの道具だ……我が近づいた事で休眠状態だった物が再起動したのか?
この様な道具全く以て記憶に無いが、なんにせよ――」
オルドグラムがマントを掴み、小傘を守る様にその中に引き入れる。
「オルド――むぐ!?」
「黙っていろ。今、貴様に構っている暇はない。
大人しくじっとしているのだ」
オルドグラムがぼそぼそと、口の中で何かを唱えて手に平に魔法陣を形成する。
そしてそれをマントに押し付けた。シャボンがマントにが触れて、そのまま何事も無かった様に滑っていく。
その様子を見てオルドグラムが安心して、一息ついた。
「よし、性質を似せれば誤魔化せる……小傘よ。
このマントの中に本を引き込み脱出するぞ」
「脱出って、逃げるって事?」
「ああそうだ。大規模な魔術の汚染とも言えるな。
起きている事はベクトルは違うが、以前の嵐の時と同じだ。
何処かの誰かが、魔術を暴走させているのだろう。
幸い、このマント越しならば魔術を誤魔化せる。
我らは急いでこの書庫から目当ての本を回収するぞ」
オルドグラムがマントで全身を覆ったまま、再度本棚へ向かう。
「待って!」
小傘がオルドグラムのシャツを掴んだ。
「……なんだ?」
心底めんどくさそうに、この後小傘が何を言うか予測出来ている風に口を開いた。
「この近くで起きた事件なんだよね?」
「おそらくは、な」
「……オルドグラムのかどうかは分からないけど、魔法の道具なんでしょ?」
「おそらく……ではあるが、ほぼ確定だな」
「道具は誰かが使って初めて、動き出すから……
動かした人も一緒にいるよね?助けに行こう!」
「断る!」
オルドグラムがきっぱりと断った。
「この道具はおそらく物体の『情報』を『色』として盗んでいるのだ。
このままいけば、この書庫の本も皆『色』を盗まれる。
その前に、全ての本を閲覧して我が魔道具を回収するのだ。
第一、この規模だ。道具の使用者はすぐに力を使いつくして気絶して自滅する」
オルドグラムが説明しても、小傘の視線は揺るがない。
「貴様はおせっかいなのだ。
無駄ごとに首を突っ込みすぎる!
そのため、どれだけ損をした?
我らに何の得がある?」
オルドグラムは必死になって小傘を説得しようとする。
「オルドグラム、
この道具を使ったかわいそうな人を助けて」
小傘が確固たる意志を持って、その言葉を発した。
「ちぃ……我は貴様の魔力の一部を使い具現化している。
貴様は我に魔力を供給し、我は貴様の願いを聞いてやる……」
二人の間の約束事だ。
「魔法使いは契約を守るんでしょ?」
「ああ、分かった。ああ!分かったとも!貴様が救いようのない愚か者だとな!!」
オルドグラムがマントを纏い立ち上がる。
地霊殿の廊下をオルドグラムが駆ける。
オルドグラムに背負われる様に、小傘が背中にぶら下がってついていく。
「どこへ、いくの?」
「使用者の特定は驚くほど簡単だ。
このシャボンは遠くへ遠くへ向かい『色』を奪う、そして奪った『色』を持ったまま周囲に滞留する。
奪うべき『色』が無いならばシャボンは半透明。
要するに、半透明のシャボンが大量に流れてくる方向に、使用者が居る」
オルドグラムがステッキを構えた目の前、色が抜け落ちた廊下とその廊下にぎっしり詰まったシャボンが行く手を阻む。
「邪魔を――するなぁ!!」
オルドグラムがステッキを廊下に向かって投げつける!
その瞬間ステッキから炎が噴き出す。
「周囲の物を強制的に吸収する特性……
だが、取り込んだ物が自身の性質に相容れない場合はどうなる?」
その答えを示す様に、シャボンが次々割れていく。
「どうなってるの!?」
「シャボンは基本は液体。炎を取り込めば蒸発して消える。
ただそれだけだ」
廊下を走り抜け、落ちたステッキを拾い一つの扉を開ける。
その向こうは中庭に成っていた。
「こいしー!いるの!?どこにいるの!!逃げなさい!!」
中庭の中、さとりがこいしを探し声を上げる。
「貴方は!逃げなさい、ここは危険よ」
「危険は承知の上だ」
オルドグラムがそれを無視して、中庭に降り立った。
(シャボンの発生源はおそらく、ここ……
そして、あの妖怪が無傷であるという事は、無意識に手心を加えているということか……ならば犯人は――)
ふと気が付くと、さとりが悲痛な顔をしてこちらを見てる。
(なるほど、読んだな?我の心中を――)
オルドグラムの心を読んだという事は、オルドグラムが思い至った出来事は全て理解できているという事である。
犯人がこいしである可能性の高さも、魔道具の危険性も、分かってしまっているという事だ。
「ならば!!」
オルドグラムが地面にその手を突いた。
瞬間、その手から蜘蛛の糸が広がる様に一瞬青い光が瞬いた。
「ちぃ、魔力が……小傘よ!!15日から20日ほど、貴様には働いてもらうからな!!」
「え、うっそ!?」
小傘の返答を聴く前に、オルドグラムが魔術を発動されていた。
「湧き上がれ風よ!!巻き起こせ突風!!」
両手をついて力を入れた瞬間、地面から風が吹きあがりシャボンを上空に飛ばす。
「これで、漸くあの妖怪を探せる」
オルドグラムが立ち上がり、庭を見渡す。
モノクルの能力を使うが、ここにいるハズのこいしは見つからない。
「姿を消せる能力は驚嘆に値する。我のモノクルからも姿を消すとは少々自信を無くす所だったぞ。
だが、その『消せる』あるいは『認知させない』という部分が攻略の鍵なのだ」
オルドグラムが再度モノクルを指先で撫でる。
「知覚能力最大出力!!」
オルドグラムを囲むように、複数の魔法陣が展開される。
そしてそれが消えた瞬間――
「そこだ」
庭の一角、そこに魔法陣が何かを捉える様に巻き付いた。
そして、魔法陣が人の形を作り出す。
「な、なんで、ここが……」
じたばたと魔法陣の拘束されてこいしが暴れる。
「こいし!」
さとりがその影の形を見て声を張り上げる。
「知覚されないのが貴様のメリットでありデメリットなのだ。
貴様がこの周辺に居ると確定しているのなら、可能な限り『全て』を知覚するのみだ。
それでもなお知覚できない場所が貴様の居場所だ。
さて、我を手こずらせたな……この地味妖怪めが……」
オルドグラムが悪態をつきながらこいしに近づく。
そして、腰のステッキを引き抜いた。
「ひっ!?」
こいしの顔が青くなった。
無理もない。オルドグラムの戦闘能力は既に知っている。
地獄のチンピラ相手に簡単に無双した程度だ。
動けない自分があんなのを受けたらどうなるか、想像はしたくない。
「さて、対処しておこうか」
オルドグラムがステッキをこいしに向かって振り下ろし――
ザッシュ!
オルドグラムは自身の作った魔法陣の拘束を破壊した。
「貴様の能力に対するアンチはすでに開発してある。
使用者の注目度が異常に上昇する」
こいしの頭に一凛の薔薇を添えた。
「こいし!!」
さとりが走って来て、こいしに抱き着いた。
「おねえ……ちゃん?」
「ごめんなさいね、私貴方のことをひとりにしてたみたい……」
抱き合う姉妹を横目に、こいしが落としたストローの様な道具をオルドグラムが回収した。
「さてと……我の仕事はここまでだな」
さっきの戦いで汚れた帽子とマントをはたいて埃を落とす。
ため息をついてオルドグラムが抱き合う姉妹を見る。
「お疲れ様。案外、あっさりだね」
「ほう?そう見えるか?貴様にはそう見えるのだな?」
横から姿を見せた小傘に、オルドグラムが一瞬で笑みを張り付けそのまま小傘の両頬を指でつまむ。
「いひゃい!、いひゃい!!、いひゃい!!!」
「貴様の頼み故、聞いてやったが今回の件は我にとって何の利益も無いのだぞ?
グリモワールの回収の許可は得ている。目的の物さえ手にすればここがどうなろうと関係ないのだ。
たとえ、姉妹の関係が拗れようとも、地獄の経営が経ちいかなく成ろうとも、我には全く関係がないのだ。
だというのに、我が貴重な魔力を使い、貴重な道具の一つを一つ無償で渡す事となったのだぞ?
貴様が我に 頼 ん だ ば か り にだぞ?」
ぐぐぐとオルドグラムが小傘の頬を掴む手に力を籠める。
「いひゃい!いひゃい!」
「まったく……貴様は我の都合を考えるべきなのだ」
小傘から指を話オルドグラムがため息をつく。
その時――
「む!?」
「えぅ!」
「!?」
「おねえちゃ――」
その場にいた全員が、何かの大きな気配を感じた。
「なに、この感じ……すごく、こわい……」
小傘が怯えてオルドグラムのマントを掴む。
「おねーちゃん!」
「大丈夫よ、大丈夫だから……」
それはこいしも同じなのか、さとりに抱き着き震えている。
「おびえな――っ!?」
さとりが自身の胸のサードアイを押える。
「なに、コレ……何が……起きて……」
明らかな異常、明らかな異変、明らかな異質。
何かが変わってしまったのだと、小傘はぼんやりと思った。
「この気配、まさか!?」
オルドグラムがモノクルを撫でて、何かを見た瞬間血相を変える。
そしてすさまじい勢いで走り出した。
数分前、旧地獄の死者を燃やす釜の上で一人の少年が降り立った。
「さて、と――事件は進んでいる。
僕の目的はここ……」
『あ”あ”あ”』『熱いぃ』『苦しい……』『出して……』『ここから……』
無数の亡者が一瞬だけ人の形を作り、ネクに絡みついていく。
燃料として燃やされる亡者たちは未だに意思を持ち続けているのだ。
ネクはそんな亡者たちを見て、口角を上げる。
「異端魔術五元素のひとつ――『魂』」
そうつぶやいたネクがグリモワールのページをめくる。
「ここなら十分。ここなら始められる。ここならボクの力を動かせる。
魔術プログラム発動!!『叶える』」
両手を広ると同時に、虚空に奇妙なガラスが姿を見せる。
それは2つの大きな球体がくびれを伝ってくっついている。
もっともイメージが近いのは砂時計だろうか?
おかしい所はそれがあまりにも巨大である事、そして本来ならあるべき砂が一粒も入っていない事。
だがそれも今の内。
すぐにその状態は変わっていく。
「さぁ、願望成就の時間だよ!!いま一度800年の眠りから目覚めろ!!」
砂の無い砂時計が震え、回転を始める。
そして、周囲にある亡者の魂を取り込んでいく。
「満たせ、満たせ、その器。
叶えろ、叶えろ、その願い。
歪めろ、歪めろ、世界の理」
歌う様にネクが唱える。
そして――
ゾクッ……!
「む?」
「あ?」
「……?」
旧地獄。
その世界で生きる住人のほぼすべてが、不吉な予感を感じ取った。
『何か』が違う。『何か』がさっきまでと異なっている。
『良くない何か』が動き出している。
「貴様!!そこで何をしている!!ぐぅ!?」
オルドグラムが地獄の怨霊たちを煮込む釜の近くで佇むネクを見つける。
ネクの背後の装置、それを見た瞬間オルドグラムに頭痛が走った。
「やぁ、初代。ボクのプレゼントは楽しんでくれたかな?」
ネクが手を振り笑いかけた。
「あの混乱騒ぎは貴様のせいか……
次は何を企んでいる!!その道具は何だ!!」
「あはっ!初代はまだ思い出せない?
これはオルドグラムの極致の力のひとつだよ」
ネクが再度笑った。
だが今度は無邪気な笑いではない。
邪悪な、邪な、いびつな笑みだった。
「我の力のひとつ……だと?」
ネクの言葉にオルドグラムの頭痛が激しくなる。
知っているハズなのだ。この道具を自分は、絶対に知っているハズ。
「800年前に、滅びたのは国だ。
だけど、滅ぼそうとしたのは国だけじゃない。
最悪の魔術師、『オルドグラム・ゴルドミスタ』が滅ぼそうとしたのはこの世界の全部。
この世界にはびこる生物全てを消し去ろうとしたんだ。
そして、そのために作り出された全部で6つ存在する魔術兵器の一つがコレだよ」
ネクが掌に呼び出したのは砂時計のガラス部分。
それは、横になり内部の砂が金と黒に色を変えながら内部でゆっくりと巡回している。
その様は砂時計の形と相成って無限を表す記号にも見えた。
「そ、れは……」
記憶の彼方のそのまた彼方。
オルドグラムにはその道具の姿が確かにあった。
「願、望具現……機……『
「あははっ!そういう事だね」
楽しそうにネクが笑って見せた。
800年の眠りから目覚めた、道具が再度その機能を果たそうとする!!
魔術兵器は全部で6つあるオルドグラムが制作した上級の魔道具です。
願望具現機『理想の理(ザ・ルーラー)』
普通の道具と違うのは、何かを『助ける』や何かを『起こす』のではなく、『壊す』事に目標が向いている点。
包丁が料理の為の道具で、間違った使い方で人を刺す道具になるならば、兵器たちは最初から人に害を与える為の道具なのですよ。