うーん、原作キャラが……
次回からは、元にもどりますので安心を。
旧地獄の町は、その名の通りの地獄絵図を見せている。
暴れだす肉体を持った人の亡霊たち。
地獄の業火で焼かれ、擦り切れ、それでも残った『憎しみ』という執着を果たそうと、魂を失った亡者が街中で暴れる。
「あはは、満たせ、満たせ……この世界を願いで満たせ」
この事件の元凶であるネクが歪んだ笑みを浮かべる。
この道具は決して笑顔を作る物ではない。
この道具は決して誰かの助けに成ったりはしない。
この道具は使用者の悪意を飲み込み、周囲に痛みと悲しみをばらまくための道具である。
「さぁ『
ネクが背後の砂時計の、無限の記号を描く砂を見る。
黒から金へ、金から黒へ絶えず色を変え続ける魔道具を仰ぐ。
そしてその下の地獄の穴からは、体を得た亡者たちが絶えず湧き出ている。
「楽しいなぁ、嬉しいなぁ……
800年前に国を滅ぼした力が僕の手で動くんだから」
ネクが心底嬉しそうに『
その時――
ドゥン!!!
遠方で竜巻が発生した。
自然界の様な自然的な発生では無く、突然なんの前触れも無く出現した。
「……あの力、初代か。派手好きだなだぁ。
けど、こっちを探してるんでしょ?」
ネクが指で、鉄砲のような形を作る。
そしてそれを頭上に上げて――
パァン!!!
まるでオルドグラムを挑発するかの様に、指先から光弾を発射し自身の位置を教えた。
「来なよ。6つある破壊兵器の内の一つの力をたっぷり見せてあげるからさ」
「む、向こうか」
オルドグラムが地下世界に上がった光弾を見て帽子を深くかぶりなおす。
その足元には多数の亡者が縛られていた。
「このっと!このっと!」
縛られた亡者の上で小傘が跳ねて、気絶させようとする。
「もうよい、小傘よ。こやつらは仮初の体を与えられた人形に過ぎない。
いや、制御されていない分他に言い方があるか?
まぁいい。とりあえずこいつ等に攻撃は効かない様だからな、縛って動けなくしろ」
オルドグラムが本からロープを召喚して小傘に投げ渡す。
「あっとと!?」
ロープの予想外の重さに小傘がよろめく。
更に――
「わっぷ!?なにこれ、暗い暗いよぉ~!!」
「我のマントだ。ステルス性は十分だし防御能力も申し分無い。
いざとなればそれで隠れていろ」
マントを脱ぎ捨てたオルドグラムが小傘に言いつける。
「そっちは何とかなるか?」
オルドグラムは今度はさとりに話す。
「ええ、この地底は私が任された地。
本来は私が出るべきですが……この状況下では……」
歯がゆそうにさとりが爪を噛む。
妖怪として腕力で劣るさとりは、こういった状況下では活躍の場が少ない。
「大丈夫だよ!おねーちゃんには私がいるから!」
こいしが自身の胸を叩く。
「我は行くぞ。この下らない状況を止めねばならぬ」
一瞬後には既にオルドグラムの姿は消えていた。
ネクの元へ向かったようだった。
「わー、早い早い早い!」
こいしがパチパチを手を叩いてはしゃぐ。
「オルドグラム……」
なぜか小傘の胸に不安がよぎった。
「ひぃぎ!?」
「ふぅが!」
道行き先を体を得た亡者たちが邪魔をする。
オルドグラムはそれらをすさまじい勢いで跳ね除け、突き進んでいく。
死者に与えられた仮初の体。あるいは魂を閉じこめる為の虚ろな入れ物。
生きる者からも、死する者からも尊厳を奪う非常の道具。
「まさか……まさか、我の作りだした物にこんなおぞましい道具が有るとはな……」
オルドグラムが尚も死者を蘇えらさせ続ける悪夢の道具を見る。
「おぞましい?酷いなぁ。これは魔術師オルドグラム・ゴルドミスタの最後の作品の一つ。
そう、かの偉大なる魔術師の最高傑作の一つなんだよ?」
ネクが無限を描く砂時計を見て口を開いた。
「最高?こんな物が?他者を害すことしか出来ぬ道具が?」
オルドグラムが不快な感情を示した。
「そうさ、国すら飲み込んだこの道具。
出来るか?出来る訳ないよね?
そこら一帯に転がるどの道具にも不可能だ。世界を滅ぼせるこの道具こそが、もっとも素晴らしいんだよ!!」
「ふん、貴様とはどうやら相容れぬ様だな。
いや、魔術師とは本来究極の個人主義者の集まり。
自らの欲するままに世界の理を狂わせる者」
「ならさ、ならさ!その個人主義者たちが正面からぶつかったんなら――」
「ああ、答えは一つだ!!」
オルドグラムとネクの両名が、自身のグリモワールを同時に開いた。
「あは、あはははは!!さぁ。ボクのお気に入りを見せてあげるよ」
ネクの姿がマントに覆われた。
オルドグラム纏う背後にのみ伸びる物では無く、前後両面を覆う見ように寄っては雨合羽の様にも見えるマントだ。
黒く甲虫の手の様な物が首身元から規則的に伸び、互いを赤い蜘蛛のようなデザインで合わされている。
甲虫の爪が蠢き伸びる。
「ぬっうぅ!」
オルドグラムのステッキでの攻撃は、前に伸びた甲虫の様な足が2本クロスしてガードしていた。
それだけではない。
他の足も伸びてグネグネと動き始めた。
そしてオルドグラムを引き裂こうと爪を立てる。
その寸前所でオルドグラムは逃げ出した。
「あはッ!僕は戦闘は得意じゃないからね。
戦闘を補助してくれるこの子はお気に入りなんだよ」
蛸のようにも蜘蛛の様にも見えるマントをネクが自慢する。
移動、攻撃、防御。まさに変幻自在の能力だ。
「さぁ!初代!!僕の最新式の魔道具を見せてあげるよ!!」
その道具はネクのオリジナルらしかった。
言われてみれば、さっき小傘に渡したマントに似ているかもしれない。
「さぁ!行くよ!」
ネクが両手を広げると、マントの爪が伸びる。
そして地面に突き刺さり、地中を潜る。
「なに!?」
「そぉれ!」
ビュン!
地中から突如姿を現した爪がオルドグラムの帽子を弾く。
弾かれた帽子が、地面に落ちそうになりオルドグラムが手を伸ばす。
そこを狙ったように、再度地中から爪が出てオルドグラムの手に平に突き刺さる。
「!? グくっ!?」
「わー、痛そう」
地を流すオルドグラムの姿を見て、ネクが意地の悪い笑みを浮かべる。
「貴様……」
「初代ー、その体人間と変わらないんだよね?
魔法使いなら身体の向上がデフォルトなのに。
爪で傷つくほど脆いなんてありえないよ。
足りないんだね?魔力の精製が、圧倒的に」
「…………」
ネクの言葉にオルドグラムは応えない。
「傷も治らないし、いや、治せないのかな?
そんなに、あの傘の女の子が大事?
あれは妖怪、あれはただの『物』だよ?」
オルドグラムの魔力は小傘に妖力を変換したものだ。
多大なる使用は小傘の負担となる。
「ふん。貴様はおしゃべりが過ぎるぞ。
どれ――とっておきをくれてやろう!」
オルドグラムが両方の指を広げる。
そして空中に、魔力の流れを作る
どうやら、身体強化や回復させる分の魔力をずっと、練り続けていた様だ。
「魔術プログラム起動――【集める】さらに【凝縮】」
オルドグラムの指を通し、周囲の空気が凄まじい勢いで吸収されていく。
それは旋風を巻き起こし、風の刃となって近づく者を切り裂かんとする!
「な、吸われ――」
ネクがマントの爪を地面に突き刺し、体を固定する。
「そうだ。貴様の動きが止まるのを我は待っていた」
左手を突き出し、右手を顔の横で構える。
それはまるで、弓を引かんとしている様で――
「まさか――」
「魔術技――『
ネクに向かって、風の弓が発射される!!
(少しはあの天狗も役に立ったな……)
オルドグラムの脳裏を、文屋の天狗の姿がよぎる。
あの天狗の風を操る術は、オルドグラムにとって研究に値する物だった。
だが――
「惜しぃ、すごく惜しいよ!この道具は移動にも使えるんだよ。
残念だったね?」
ネクがマントの足を延ばし、空中に回避する。
防御に使ったのか、数本の足が無くなりマントもボロボロだ。
だが、オルドグラムの攻撃を回避する事には成功していた。
ネクが勝ち誇った笑みを浮かべる。
「いや、道具の特性上その動きが出来るであろうことは予測していた。
我が望んだのは、貴様を倒す事ではない。
そして、自身の背後に目をやる。
「さて……」
そうつぶやき、オルドグラムは尚も稼働を続ける兵器に向き直った。
「……我は知った。心を持つ道具の存在を――
さて、古の眠りより覚めた殺戮の為の兵器よ。
貴様に心が有れば何を思う?
自身の力を振るえる喜びか?人の生を冒涜する悲しみか?」
だが、とオルドグラムが一息つく。
「残念だが。貴様のいるべき場所ではない。
名も知らぬ我が傑作の一つよ。争いの時は終わったのだ。
永遠の眠りに就くが良い……」
オルドグラムが右手を構える。
「まさか!?や、やめろぉおおおおおお!!!」
ネクが跳んでくる。
甲虫の足の様なマントで地面を引っ張り、たった今逃げてきた方に飛び出す。
「この道具の制作者が我ならば、壊すのも容易い」
パキィン!
『
そして、絶えず色を変える砂に触れる。
「異端五属性の一つ『魂』――魂を苦しみより解放する」
オルドグラムの手が光、一瞬にして『
「分かっているのか!?それがどれだけの物か――」
ネクが触れるその一瞬前に――
「さらばだ。悲しき遺産よ」
『
ネクが爆風の中、砕けていく『
「あああああ!!!ああああああ!!!
消える!!!たった、たった6つしかないオルドグラムの破滅兵器が!!
分かってるのか!?コレの価値が!!コレのすばらしさが!!
世界を壊せるほどの兵器だぞ!!
6つ全部……いや、5つもあれば世界の全てを手にする事も容易いの――」
ネクが必死になって砕け散る『
甲虫のマントを使って消えゆく破片を必死に回収する。
その時、ネクの目の前に影が躍る。
「……あ!?」
ネクが目を見開いた。
そうだ。逃すハズが無い。
「消えよ。我の名を語る不届き者よ――」
巻き上げられた砂埃を払いのけ、赤と黒の魔術師が姿を見せる。
オルドグラムがステッキを振り上げ、素早くネクに振り下ろした。
防御のための足は既に移動に使ってしまっている。
今のネクを守る物はない!!
「――ん、のぉ!!」
ネクがとっさに、自身のグリモワールに手をやり、人差し指と中指の間に青白いエネルギー状の栞を呼び出し防御する。
「ぐぅぅぅぁあああああ!!」
ネクがその攻撃を受けて後ずさる。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
ネクの右肩から左腰まで、オルドグラムのステッキで切りつけた大きな傷が出来ていた。
「おお、良かった良かった。安心したぞ。
貴様にはまだまだ聞きたいことが有るのでな。
何らかの手段で防御する事を前提に攻撃したのでな。
もしも何も防御手段が無ければ危ない所だった」
はっはっはと笑いながらネクを見る。
「それに――貴様が
オルドグラムの視線がネクの傷口に投げかけられる。
傷口からは血など出ず、墨を水の中にこぼした時の様な黒い煙が漏れ出している。
「貴様はやはり人間では無いな」
「で?だから、何?」
何でもない事に用に、ネクが立ち上がる。
その表情には今まで笑み意外の感情を見せた事のネクの、初めての怒りが込められていた。
「そっか……『ルーラー』だけじゃ足りないか。なら――」
血走った目をしたネクが一瞬だけ、視線を横に向けた。
そして――
「ウン、また会おうか。お互いまだ生きていたならね!」
コロッと笑顔に変わると、空中に飛び上がる。
その一瞬後には、空間に体が解けるようにして姿を消した。
「逃げたか……だが――今回ばかりは……」
今度はオルドグラムが倒れた。
そして今度は、オルドグラムの体が消失していく。
「ちぃ……魔力が、足りんな……」
薄れる視界の先、傘を持った少女がこちらに走ってくるのが見えた。
地霊殿の客室。
人里ではまだまだ珍しいベッドでオルドグラムが横になっている。
その部屋にさとりが入ってくる。
「これをどうぞ。貴方が欲しがっていた物です」
「む?」
オルドグラㇺが取り出すのは、一冊の本と数枚のバラバラになったページたち。
どれもこれも魔術に関連がありそうな物ばかりだ。
「貴方が回復の専念している間に、書庫から探しておきました。
それと、町の中に心当たりのある住人から譲ってもらったのが少々……
こんな事しか出来ませんが」
さとりなりのお礼の積もりなのだろう。
オルドグラムはその本と紙の束を受け取る。
「本は我の一部だ……数枚のページは……おお、こちらも我が力の一端。
全てでは無いが、かなりの進歩だな。
僅かに魔力も帯びている、この状況下では助かるな」
オルドグラムがざっと目を通し、自らの魔導書にしまっていく。
「良かったねオルドグラム」
横にいて様子を見ていた小傘が声をかける。
「ああ、そうだな……」
欲しい物を手に入れたというのに、オルドグラムは何処か浮かない顔をしている。
いや、浮かないというより何処か気の抜けた様な感じだ。
「魔力が足りない?」
「ああ、そうだ……地上に帰る分も不足している。
また、あの妖怪どもを倒して地上に帰るのは、しばらくは困難だ……
チぃ」
半分心が無いような、気の入らない顔をして天井を見上げる。
「それなら私が地上に連れてってあげる!」
「わわ!?」
ドアを勢いよく上げ、こいしが姿を見せた。
「一人分位なら、一緒に行けるよ!」
両手をあげて、自身の存在をアピールする。
「そうか……ならば、準備をしておけ。
今から地上に帰る」
「ちょっと、それはいくらんでも急じゃないかな!?」
オルグラムの言葉に小傘が声を上げる。
「さとりさんも、ゆっくりしていけって言ってくれてるんだし……
魔力回復なら此処でも出来るでしょ?ある程度十全になってからの方が――」
「いいや、今だ!」
小傘が止めようとするが、オルドグラムが否定する。
「どうして?何か急ぐ理由でもあるの?」
「……いや、ない」
ぶっきらぼうにオルドグラムが小傘から視線を外す。
「ならもう少し此処に居ようよ。
ご飯美味しいし、お風呂大きいし、お布団柔らかいし……
あ!動物たちも可愛いよ!」
とろんと蕩けた様な顔を小傘がする。
どうやら、すっかり地霊殿の生活が馴染んでしまった様だ。
「っ~~~~~!!」
小傘のセリフを聞いた瞬間、オルドグラムが苦々しい顔をする。
「?」
珍しく自らの意見を言わないオルドグラムに小傘が不振に思う。
それもそうだ。オルドグラムは物事をズバリという性格で言いよどむという事自体少ない。
こんな事は始めてだ。
「苦手なんですよね?動物が」
「貴様!」
さとりの言葉にオルドグラムが怒気を荒げる。
「へ?」
小傘はさとりの言葉の意味が分からず、すっとんきょうな声を上げた。
「どゆこと?!?!?」
「彼は動物が苦手なんですよ。犬も猫も、鳥類も。
理由は主に服に毛が付くから。
後は、動物は理屈で言いくるめる事が出来ないからだそうですよ」
オルドグラムの心を読んださとりがすらすらと話す。
「おっと、言わない方が良かったんですか?」
「我の心を読んだのならば、分かっているだろう!!」
実体化していたら、間違いなくステッキを振り下ろしていたであろう形相でオルドグラムがにらむ。
「そうですか、では失礼」
さとりは嫌な笑みを浮かべるとそそくさと部屋を出ていった。
「……オルドグラム、動物苦手なの?」
小傘がオルドグラムに尋ねた。
「得意ではない。所詮ケダモノだ」
「けど、お寺で響子ちゃんには会いに行ってるじゃない!」
小傘が証拠を見つけた刑事の様に、証言する。
「響子は良いのだ。奴は妖怪だからな」
オルドグラムの撫で方は完全に、犬を撫でる飼い主の様だったがそれでもオルドグラムは動物が苦手らしい。
「し、針妙丸ちゃんはどうなの!?
何だかんだ言って、飼おうとしていたし……あ、動物みたいな毛はないか……」
言っている間に、自身の発言の矛盾に気が付き小傘が口を閉ざす。
「お前はしばらく黙っていろ……」
オルドグラムはそうつぶやいて姿を消した。
「あ、オルドグラム?オルドグラムー!!全く、仕方ないんだから……」
小傘が困ったように笑みを浮かべ、自身の腰のグリモワールを撫でる。
「みんなを守ってくれてありがと。お疲れ様」
そう言って、小傘もベットに横になり目をつぶった。
願わくば、次に起きた時にオルドグラムが機嫌を直してくれている事を期待しながら
過去の自分の道具を否定する行為……
それが示す物とは?