忘れ傘とグリモわーる   作:ホワイト・ラム

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さて、今回はとある大事な部分が書かれます。
やりたかったストーリーの導入に成ります。


魔術と雪の日と別れ

「へっ……へぇ……へプチっ!」

自身の家の中、小傘が一切の愛嬌を捨てた顔で、くしゃみをする。

オルドグラムは飛んでくる飛翔物を霊体化して回避する。

 

「…………」

 

「ずずッ……なによ、その眼は……」

まるで汚い物でも見るかのように、オルドグラムが視線を飛ばす。

 

「いや、普通の薄汚い妖怪を見る目だが、どうかしたか?」

 

「薄汚くて悪かったね!!」

若干傷つきながら小傘が言い返した。

だが、小傘の態度も無理はない。

なぜなら――

 

「こんなに、寒くちゃくしゃみも出るよ!!」

指さす窓の外には尚も、白い雪が降り続けている。

 

 

 

事の始まりは、1週間前。

地下での生活を終え、オルドグラムと地上に帰還した小傘を持っていたのは一面の銀世界。

絶えず降り積もる雪、雪、雪。

空も地面も分け隔てなく、白に染まっていた。

 

「あ”~……確かにもうすぐ冬だけど……」

流石に速すぎる。という言葉を鼻水と一緒に啜った。

相手は自然現象だ。一妖怪の自分が何を言ったところで事態は変わりはしないと理解している。

だが、それでも一縷の望みに縋ってしまうのは、人間も妖怪も同じなのかもしれない。

 

「ねぇ、雪を止ませて、あったかくする道具って、ない?」

 

「あるぞ。地上を焼き尽くし、草木を枯れさせ、水を干上がらせ、大地を砂漠に変える死の魔道具異様な太陽(ザ・シャイン)だ」

 

「……そんな物騒なのじゃなくて、もっと普通にあったかくなるのない?」

 

「湯たんぽで我慢しろ」

ぴしゃりとオルドグラムが言い放つ。

 

「…………」

小傘は、あまりの言葉に黙りこくった。

そして、ちらりとカレンダーを見る。

 

(今日って、実はオルドグラムと初めて会った日なんだよね……)

去年の丁度今日。小傘は最低最悪の魔術師、オルドグラム・ゴルドミスタと出会った。

唯我独尊、自意識過剰、傍若無人な魔術師は様々な意味で小傘の生活をめちゃくちゃにした。

 

(だけど、そんなに悪い人じゃないんだよね……)

様々な面で助けられ、自身では一生叶わないであろう冒険までした。

全て、彼が連れて来てくれた新しい日常だ。

 

(そのお礼って、訳じゃないけど……今日の夕飯ぐらいは豪華にしたいなって……)

耳を澄ませば、吹雪いた雪が壁に叩きつけられる音。

 

「こんなんじゃ、外に行けないよ~」

がっくりと小傘がうなだれる。

 

「なんだ。この寒いのに外に行きたいのか?おかしな奴だ。

だが、ふむ、気が向いたら、この雪の原因を止めに行くか」

 

「……『止めに行く』?どういう事?」

 

「この降雪量は異常だ。

まぁ、絶対に無いとは言えない程度で、普通の異常気象の可能性はあるのかもしれんが――

実はこの雪には、微量に魔力が含まれている」

オルドグラムが指先に乗った、雪を親指で挟んですりつぶした。

 

「おそらく、我が魔道具の一つの仕業であろうな。

天候を変える魔道具か、冷気を発する魔道具か、はたまた、雪が降っていると思い込ませる魔道具なのかは、分からんが……」

 

「え、また道具なの!?」

さらりと語るオルドグラムの言葉に、小傘はもはや既視感すら感じた。

 

「ふむ、どこぞの愚か者が起動させたのだろうな。

全く迷惑極まりない」

やれやれと、肩をすくめ立ち上がる。

 

「我が魔導書の鍵を開くのに魔力が不足している。

丁度良い。回収に向かう」

 

「あ、ちょっと――!」

体を実体化させたオルドグラムはそのまま出かけて行ってしまった様だ。

 

「ま、まぁ、夕飯の準備がこっそり出来るし……

ほんとは、ちょっと、手伝って欲しかったけど」

去っていくオルドグラムを小傘は見送った。

 

 

 

 

 

「あれは――『降りしきる雪(フォーリンスノー)』か……なるほど」

真っ白な平原の先、一本の錫杖が風で先端の九連環を揺らす。

 

「さて――貴様が我を此処に呼んだのであろう?

こんな大層な、道具でまで仕掛けて」

とある開けた荒地。

吹雪が吹き付け、すべてが白く染まった中で、黒い魔術師(オルドグラム)はもう一人の魔術師と対峙する。

 

「初代……」

吹雪の白い幕の中から姿を見せたのはネクだった。

 

「やれやれ、地下で倒されたというのにまだ懲りていないと見える?」

 

「懲りる?違う違う。僕は僕に与えられた命題を果たしているだけさ。

僕の持った封印された道具たち。持ち主を探して、眠り続けている。

そして力を、奇跡を、運命を望む者たちに渡す――

それってすっごく魔法使いじゃない?」

ネクが両腕を広げる。

それと同時に、ネクの持つ本が光を放った。

 

「初代――決着を付けよう。生き残るのはどっちか?

『オルドグラム』の名にふさわしいのはどっちか!」

ネクが雪原にある『降りしきる雪』を引き抜き、九連環を鳴らす。

その瞬間、吹雪きが蠢動して竜巻の様に渦巻いた。

そしてそれは蛇の様に唸りオルドグラムに襲い掛かる。

 

「甘い」

オルドグラムはマントを振りかざし、吹雪きの蛇を薙ぎ払った。

 

「その道具は……」

地底世界でも見たマント。

だが、その時よりも明らかに性能が上がっている事に、ネクが驚く。

 

「我が魔道具の中でも指折りの作品だ。

あらゆる物を遮断する、一種の盾だ。無論魔力を嫌というほど喰うが――

雪の中の魔力が満ちた空間では、異様な強さを発揮するぞ?」

オルドグラムは腰のステッキを引き抜く。

 

「ならば!」

ネクの振るう錫杖の先端に雪が固まり、氷の刃へと変化する。

 

「再度言おう、甘い」

氷の刃をオルドグラムのステッキは簡単に叩き壊した。

 

「貴様の敗因は我をおびき出す為に、魔力を大量に与えた事だ」

 

「敗因?僕が負けているだと!?まだ決着すら着いていない!!」

ネクが魔導書に手を伸ばす。

 

 

 

数時間後

「はぁ、はぁ……はぁ……」

ネクが肩で息をする。見るからに体力の限界だ。

あれからオルドグラムは一切の攻撃をしなくなった。

ただ延々とネクの攻撃を無効化し続けた。

結果として、ネクはオルドグラムをたったの一歩も歩かせる事自体出来なかった。

 

「ふっ、やはり貴様では『オルドグラム』を名乗るのは、役不足なのだ」

オルドグラムがネクの手から、杖を払い落とす。

次の瞬間オルドグラムの全身のベルトが伸び、ネクに絡みつく。

 

「んな!?魔力が――」

 

「我は慢性的な魔力不足に悩んでいるのでな。

貴様を拘束するついでに、貰っていくぞ?」

 

「あ、かぁ……くっ、力が、ぬけ……て」

数十秒後、ほとんどの魔力を吸いつくし、オルドグラムは漸くネクを解放した。

雪原に用済みとなったネクが放りだされる。

魔力の枯渇を示す様に、吹雪いてた雪が止んだ。

 

「くハぁ……やっぱり、勝てないか……僕の力じゃ……太刀打ちできない……

けど、()()()()()()()

諦めた様にネクがつぶやいた。

だが、その顔は不思議な事に、安堵しているようにも見えた。

 

「これでも良い?」

 

「ようやく、僕の仕事が終わる……800年の、月日にようやく『終わり』が来た」

 

「何を言っているのだ?」

オルドグラムがネクに尋ねる。

しかし、ネクは意に返す様子はない。

 

「ねぇ、知らない方が良い。覚えていない方が良いなんて事はいくらでもあるんだよ?

『オルドグラム・ゴルドミスタ』という最低最悪の魔術師を思い出す覚悟、キミにはある?

過去なんて知らなくていい。誰も覚えていない過去なんて、無かったのと同じ。

だから、今を生きればいい。使命も役目も全部忘れて自分のしたい事だけをすればいい。そうは思わない?

これは罠なんかじゃない、ましてや敵意でもない。

ただね?君に今のままでいたいなら、こうすべきだというアイバイスなんだ」

 

「貴様とて『オルドグラム』を名乗るなら理解出来よう」

ネクの言葉を正面から、受けてオルドグラムは応える。

問答の時間などない、最初から彼という魔術師に答えは既に出ているのだ。

 

「ああ、未知を見逃せない。知らないままではいられないんだよね?

だけど――いや、何を言っても無駄か……」

ネクが再度杖を拾い上げ構える。

オルドグラムも対応して、腰のステッキに手をかけた。

そして――

 

ネクは力なく、その場に崩れ落ちた。

 

「ボクはどうやら、ここまでの様だ……」

 

「ここまで?」

オルドグラムの目の前で、ネクの体から黒い霧の様な物が立ち上り始める。

その様は以前見た、黒い血の様に思えた。

 

「魔力で騙し騙し動かしてきたけど、ボクも限界ってワケさ。

800年前、僕はオルドグラムによって、魔道具の管理用魔導具として生まれた。

僕は妖怪でも人間でもない。意思を持った魔道具その物なのさ……

一つ、また一つと居場所を失っていく同胞を僕は眠らせ続けた。

他者に『オルドグラム』の力が渡らない様に封印し続ける事が、僕の役目……

けど、君が目覚めたなら、僕の役目は、おわ、りだ……これで、ようやく、ねむれる……」

水に垂らした墨汁が色を失う様に、あっさりとネクはその姿を失った。

 

「800年にわたる、我が道具の番。

ご苦労であった」

オルドグラムは帽子を脱いでネクに敬礼をした。

ネクの居た場所には、古ぼけた一本の真鍮製の鍵が有った。

 

「……魔道具の保管庫の鍵か」

オルドグラムは嘗てネクと名乗っていた鍵を拾いあげた。

そして、地底で回収した本を取り出す。

 

「――我は我を取りもどす」

 

『知らない方が良い。覚えていない方が良いなんて事はいくらでもあるんだよ?』

先ほどのネクの言葉が脳裏をよぎる。

一瞬だけ、指先が躊躇うが鍵は本に刺さり、かちりと鍵の開く音がした。

その瞬間、もう一冊のオルドグラムの魔導書の中身がオルドグラムの中に入ってくる。

 

「こ、これは――!」

 

 

 

 

 

「うっ、さぁむ!?」

突如部屋に吹き込んだ風で、小傘が震えあがった。

風の発生源を見ると、扉を開けて立ち尽くすオルドグラムの姿が有った。

 

「あ、お帰り。寒いから早くドア閉めて!」

 

「小傘か……?そうか、我は……」

茫然としていたオルドグラムが、小傘の言葉に我を取り戻す。

 

「オルド、グラム?」

小傘はその姿を見て、小さな違和感を感じた。

何時も感情の起伏の少ない彼だが、1年もの付き合いとなるのだ。

多少の異常は分かる様になった積りだ。

 

「ねぇ、結局道具の回収は済んだの?」

 

「ああ、済んださ。しかと手に入れた」

弱弱しくオルドグラムが微笑んで、手に持っていた見慣れない杖を落とす。

 

「……なにか、あったの?」

 

「いや、何でもない。すこし、そうだ、少しばかり出かけてくる」

オルドグラムが立ち上がり、たった今入って来たばかりのドアを開ける。

 

「え、ちょっと、今帰ってきたばっかり――」

 

「……ただの散歩だ。気にするな」

 

「う、うん、早く帰って来てね!」

そんな事は気のせいだと、小傘は思いオルドグラムを送り出した。

そして彼が出ていったのを確認して、先ほど自分が思いついたアイデアを実行に移す。

 

「さぁ!ささやかだけど、お祝いだよ!

腕によりをかけて準備しなくっちゃ!」

元気よく台所に走っていった。

何故だか落ち込んだ様子のオルドグラムを励ます為にも、と力を入れる。

そして、数時間後には豪華な料理と、とっておきの酒が食卓に並んだ。

 

「ふっふっふ、オルドグラム絶対にびっくりするよね。

今日こそ、驚きの感情を食べちゃうんだから!」

悪戯心を迸らせ、小傘が企み笑いを浮かべる。

だが――

 

 

 

 

 

「オルドグラム……遅いな……」

一向に帰らないオルドグラムを小傘が心配する。

とうの昔に完成させた料理は、すっかり冷めてしまっている。

 

ガタッ!

 

帰ってきた!そう思った小傘は扉に向かって走り出した。

 

「オルドグラム――じゃない、か……」

しかしそれは、扉が風で揺れただけ。

肝心の彼の姿は無かった。

 

「どうしたのかな……?」

開きかけた扉の隙間から、驚くほど冷たい雪が小傘の掌に落ちた。

そして結局オルドグラムは帰っては来なかった。




個人的には、ネクはお気に入りのキャラクター。
生意気ショタ魔術師って、良くない?
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