忘れ傘とグリモわーる   作:ホワイト・ラム

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ずいぶんかかってしまいましたね。
読者の皆様申し訳ありません……
大引でずいぶん、時間を空けてしまった事を謝罪します。


小傘と魔導書と……

燃える、燃える、全てが紅に飲まれていく。

町が燃える、人が燃える、昨日までの日常が燃える。

 

悲鳴を上げ、逃げ惑う人々の中。

一人の男だけが狂気に身を任せ、魔術を行使し続ける。

 

燃えた、燃えた、全てが黒く燃え尽きた。

町は残骸、人は炭に、昨日までの世界の全てが燃え尽きた。

 

無人となった町の中、黒と赤を身に纏い、黄金(ゴルド)の名を持つ魔術師だけが立っていた。

 

ぽつり、と一滴の水が頬を撫でる。

黒く澱んだ空から雨が降りしきり始め、燃やした町から熱を奪っていく。

 

『……、……――……、、…』

雨と炎に囲まれ、彼が何をつぶやいた。

 

 

 

「あれ……?」

一瞬のラグを経て、小傘が正気を取り戻した。

見える限り全てが燃えた世界が消えている。

人も、町も無くなっている。

有るのは霧のような靄に、満たされた何処かの屋敷の廊下だった。

次の瞬間、自身が『誰か』の記憶を体験したのだと気が付く。

 

「うっ……痛ぅ……」

小傘が頭の痛みを感じ、両手で押さえる。

だが、思い出すのはさっきの記憶。

まだ、自身の頬を炎がかすめた熱さを覚えている。

人が燃える匂いも、耳に強く残る悲鳴も自身の中に刻まれている。

そして、だんだんと自身がなぜここに来たか思い出していく。

 

「そうだ……私、ネクに頼んで、ここに来たんだ……

オルドグラムを探さなきゃ……」

小傘はズルズルと、体を引きずって歩き出した。

此処はオルドグラムの魔導書の中。

ネク曰くここは、心の中の世界――むき出しのオルドグラムの感情や考え方、記憶までが乱雑に投げ込まれている。

 

何をすべきなのか?何をすれば良いのか?

どちらも分からない。

だが、小傘は自分が()()()()()()だけは決めて歩いていく。

 

 

 

「あ、あった……」

薄暗い赤い廊下の中、厳重に鍵の閉じられた部屋を見つける。

錠前に鎖に扉に掛かる進入禁止のテープ。

だが、それは小傘が触れた瞬間、音もなく虚空に消えていく。

 

「……ネクが最後にやってくれたのかな?」

不思議に思いつつも、小傘が扉に手を掛ける。

そう、以前オルドグラムの魔導書の中に入った事はあったが、その時は全てオルドグラムの管理の中でだった。

姿を消したオルドグラムが自身を歓迎してくれないのは、当に分かっている。

だが、それでも前に進めるという事は、ネクが少しだけ助けてくれているのだと思いながら部屋の中へ入った。

 

「……ん」

扉の中で、小傘は光を感じ目を瞑ったその瞬間、眼を閉じたハズの小傘の脳に映像が流れてくる。

再度オルドグラムの記憶が流れこんできたのだろう。

 

 

 

「世界を構築する『火』『水』『風』『土』の四つの元素……

かの極東の島国には陰陽道と云う物があり、それらは五行で表され四大元素にはない『金気』が存在する。

だが、世界の在り方を斜めに見る事で新たなる、一面が生まれていく。

ならば――私の元素は『気体(ガス)』『液体(リキッド)』『物体(マテリアル)』そして『肉体(ボディ)』と『霊体(ソウル)』」

一人の魔術師が、カリカリと何かを研究している。

流れこんでくる記憶から、そこがオルドグラムの身を寄せているとある王国の研究所だと分かる。

 

 

 

「うっ……」

再度景色が消えて、小傘が戻ってくる。

今度は雷の轟く、怪しげな実験施設に立っていた。

 

「これで、5回め……」

オルドグラムの魔導書の中は複雑怪奇を極めた。

館の様に形を持った場所もあれば、砂漠の様に延々と砂が続く場所もある。

石造りの暗い、おそらく地下を思わせる場所に、霧がかかった森の中もある。

 

「だけど、だんだんやることが分かって来た……」

どんな場所であろうと、必ず扉が存在する。

そして、厳重に鍵のかけられた扉を開くことで、オルドグラムの記憶を垣間見る事が出来る。

そうすれば、新たな場所に飛ばされる。

 

「……根拠はない、ないけど……オルドグラムに近づいてる確信はある……」

小傘はその確信を頼りに、暗い廊下を一人で走った。

 

 

 

「む……今、何か?」

とある場所でオルドグラムが顔を上げる。

何かが、ここに侵入してきたことに気が付いたのだ。

 

「この世界に侵入者だと?」

思い当たるのは、たった一人。

 

「ネクめ……小傘を此処に呼び入れたのか?

ほんの少しだけ力を残してやったが、まさか……

いいや、構わん。あ奴がここに来れるハズが無い。

なぜならここは――」

 

 

 

 

 

「あ、ああ……ああああ……」

小傘が頭を押さえる。

今回はオルドグラムの戦いの記憶だった。

見知ったはずの相手を、国の戦争という都合で数万単位で虐殺する記憶。

オルドグラムが感じた怒り、悲しみ、憤り、嘆きなどのマイナス感情が、無理やり入ってくる。

 

ドさっ!

 

小傘が意識を失い、倒れた。

だが――

 

「まだ、まだ止まれない……オルドグラムに、オルドグラムにもう一回会うまでは……」

傘を杖の様にして立ち上がる。

そして、膨大な空間の中、扉を探し歩き出した。

 

それから幾つ扉を過ぎただろうか?

どれくらいの時間が過ぎたであろうか?

前も後ろも分からなくなり、ふらふらになった所へ、オルドグラムの過去の記憶を無理やり追体験させられ続けた。

 

キィ――

 

また一つ扉が開き、その先に光るオーブが浮かんでいる。

半場引き寄せられる様に、小傘がソレに手を触れる。

その瞬間、再度オルドグラムの記憶が流れこんでくる。

 

「これ……」

それは、ここに来て最初に見たオルドグラムの記憶だった。

怒りと悲しみに囚われ、自らの力で王国を滅ぼした記憶、そのすぐ後の記憶だった。

 

 

 

土砂降りの雨の中、魔術師がついさっきまで町だった焼け跡を歩く。

お気に入りのサンドイッチを出す店は何処だったか?

探していた魔導書を見つけた書店は何処だったか?

章も無い事で自身を頼る男の家は何処だったか?

楽しかった記憶の沢山あるハズの町並みも、全て焼け落ち何処が何処だったか分かりはしない。

だた、まだ冷めない怒りだけが、魔術師の中を焦がす。

そして――

 

落雷がすぐ近くに落ち、水たまりが魔術師の表情を露わにした。

 

「コレって……」

小傘は自身の見た物を、かみしめる様につぶやいた。

 

「……探さなきゃ、オルドグラムを探さなきゃ!」

小傘は再度走り出した。

 

不思議な事に、何処へ行けば良いのか小傘には分かっていた。

何らかの力が自分を導いている。

そんな確信が小傘の背中を押していた。

 

そして遂に――

 

「みつ、けたぁ!!」

小傘が大層な扉を開く。

そこは、無限に広がる石畳の荒野だった。

上空には四つの太陽に、巨大な雲がその周囲を渦巻いている。

 

そして、その中央にはオルドグラムが立っていた。

 

「オルドグラム!見つけた!

かえろう!家にかえろうよ!!」

小傘の言葉に、オルドグラムがこちらを向いた。

 

「貴様、そんなことを良く言えるな?

ここまで来たのだ……貴様も見たのであろう?魔術師、『オルドグラム・ゴルドミスタ』が国を亡ぼすその瞬間を。

人の慄く姿を、逃げ惑う姿を、生きたまま燃やされ死んでゆく姿を!

我が、どれだけ残酷な事を出来るのかを――」

オルドグラムが恫喝する様に、腰のステッキを引き抜き小傘に突き付ける。

 

「貴様など一ひねりだ……だが、今まで世話になった義理がある。

今回だけは命を奪わないでおいてやろう。帰れ」

 

「ちがう、違うよ!『オルドグラム』が滅ぼした国は確かにあった!!

けど、けど!滅ぼしたのは貴方じゃない!!」

小傘が力いっぱいに叫ぶ。

その瞬間、オルドグラムの顔から表情が消える。

 

「そうか……そこまで知ってしまったか……」

 

「うん……ここにくる途中に見たよ」

 

そう、封印されていた最後の記憶。

水たまりに映った姿は、今のオルドグラムとは違う存在だった。

()()、今までずっと見て来た記憶は別の人物の記憶だった。

だが、記憶の人物は間違いなく『魔術師オルドグラム・ゴルドミスタ』だった。

ならば、彼は?彼の魔導書だけは本物だった。

オルドグラムの名を名乗り、彼と同じ魔導書を使い、『オルドグラム』にしか知りえない情報まで知っている存在――小傘はそんな存在にたった一つだけ心当たりがあった。

800年物時を渡った魔導書。

長い時の間に、道具が意思を持つ可能性は十分ある。

 

「オルドグラムは……私と同じ付喪神なんだよね?」

 

「そうだ……我は……『我』では無かったのだ!!

人ですらなかった!!我は!!我ではなかった……

だが、我にはまだオルドグラムの残した知識が存在する!

それを使えば、問題の解決は容易だ!!

見せてやろう。他の誰でもない!『我』の魔術を!!」

オルドグラムの全身から魔力が迸る!

 

その時、地下から地面を破り何かがせり出してくる。

 

それは一言で言えば巨大な臓器に見えた。

錆び切った鉄格子が丸く歪み、中心の球体は心臓の様に脈打っていた。

何本もの管が伸び、天井や床に張り付いた。

真ん中の球体では何か青白い炎の様な物がぬらりと揺らめいていた。

 

「ならば、簡単な話だ……我は我に成れば良い……我は我を『作り上げる』」

 

「つくりあげる?」

その言葉は小傘にとってすさまじく恐ろしく感じた。

 

「そう、仮初の命しか持たない我だが……

コイツを使い、この幻想郷全てから生命を吸い上げるのだ!

そして、その生命を我に注ぐ」

オルドグラムの言葉に呼応する様に、背後の怪しげな道具が脈打った。

 

「そんな事に何も意味はないじゃない!!」

オルドグラムの言葉に反射的に小傘が叫ぶ。

 

「意味ならある!我は欲しいのだ!!

命が!!魔力と妖力で動く仮初の存在ではない!!

確固たる一つの生命体としての命が!!」

オルドグラムの声に反応して、魔力炉が激しく脈打つ。

魔力の一部がスパークして、火花を飛び散らせる。

 

「命を我に……大量の命を持って、魂無きこの体に命の灯を……」

心酔する様に、オルドグラムが手を広げる。

その姿は、小傘が散々見て来た最低最悪の魔術師(オルドグラム)を思い出させた。

 

「だめ……そんなこと……そんなことしたら、オルドグラムは……」

 

「帰れ。妖怪」

オルドグラムが小傘にステッキの先端を突き付けた。

 

「帰らない、私は――ぐあ!?」

ステッキで鳩尾を突かれ、小傘の視界が揺らぐ。

 

「かえるなら……わたしと、いっしょ――にぃ!?」

立ち上がる小傘をオルドグラムが蹴り飛ばす。

 

「ねぇ、ねぇ……今なら、ゆるして、あげる……から……一緒にごはんたべ……」

 

「……………」

オルドグラムが無言で、小傘の傘を奪い取る。

そして傘の骨に指を掛けた。

 

ポキッ!

 

「あ……」

小傘の目の前で、傘の骨が一本折れた。

その傘に無意識に手を伸ばした瞬間、オルドグラムがその傘を地面に思い切り叩きつけ、更に踏みにじった。

 

「返してやる」

オルドグラムが骨が折れ、泥だらけになった傘を蹴飛ばす。

 

「オルドグラムは……怖いんだよね?」

小傘は大事そうに傘を抱くと、口を開いた。

 

「うん、そうだよね……起きたら知らない場所で……知らない人だらけで……」

 

「黙れ」

 

「自分の記憶もあやふやで……」

 

「黙れと、言っている」

 

「やっと、集まった記憶を覗いたら、自分が自分じゃ無かったって分かって……怖かったんだよね?」

 

「この――言わせておけば!!」

オルドグラムが小傘の首を掴み、無理やり立たせる。

 

「大丈夫、だから……私が、助けて、あげる……から……怖がらないで……」

小傘がオルドグラムに手を伸ばし、優しく抱きしめる。

 

「っ~~~~~無駄だ!!我の気は変わらん!!下らぬ情に引導を渡してやろう!!」

オルドグラムが小傘を払いのけ、ステッキを振り上げ、小傘の脳天に振り下ろした!

弱小妖怪の頭を魔術師の力が容赦なく砕く、その瞬間――

 

「こいつ……」

オルドグラムは既に小傘に意識が無い事に気が付いた。

最早まともな意識は無い。だが、それでも一歩踏み出し、オルドグラムに倒れこんだ。

 

「……かえ、ろう?もう、こんな……かなし……旅は……終わり……し……よ……」

 

「………………」

オルドグラムが自身にもたれ掛かる小傘を無言で見る。

そして――

 

 

 

 

 

「ん?良い匂い……」

眠い目を開け、小傘が布団から体を起こす。

目の前のちゃぶ台には、出来立ての料理が並んでいる。

その横には人品同然の傘が立てかけられている。

 

「起きたか」

オルドグラムが味噌汁を机に置いた。

 

「あれ?オルドグラム……どうして?」

外から聞こえてくる喧噪は、里が平和に活気づいている事を教えてくれている。

 

「貴様があまりにも無様なのでな、同情してやったのだ。

それに――――まだ、全てのおみくじをコンプリートしていない。

全ての住人の魂を取り込むのは、我にもデメリットが大きいのだ」

そっぽを向いて、オルドグラムがそう嘯いた。

 

「そっか、そうだよね。

オルドグラム、ここ以外行く場所無いもんね」

 

「なに?」

 

「道具の妖怪は横のつながりが強いんだよ。

目覚めたばっかりの魔導書の付喪神の世話位、先輩妖怪の私が――」

 

「図に乗るな!」

オルドグラムの手刀が、小傘の脳天をはたく。

 

「いったぁ~~~!!」

思った以上の痛みに、小傘が悶絶する。

 

「我はオルドグラムの名を名乗る。

そして、これからも()()()()()……

『我』の為にオルドグラムの魔術を集める!

さぁ、食事が済んだら早速出かけるぞ、今回は天界という場所へ向かうからな」

 

「はいはい、分かりましたよ」

頭を押えながら小傘が食卓に着く。

そして――

 

「お帰り、オルドグラム!」

 

「フン、我は……『オルドグラム』はここにいる。

ただ、それだけだ」

オルドグラムが不遜な態度で答えた。




まだ、続きます。
とりあえず、一部の区切りと思ってください。
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