忘れ傘とグリモわーる   作:ホワイト・ラム

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今回はだいぶ遅れました。
大変申し訳ございません。


小傘と魔術師と噂話

何処までも透き通る青空と、所々に生えた木が乱雑に並ぶ拾い空間でオルドグラムが指先で時計の様な物を触る。

 

「ふむ、『昨日を刻む(イエスタ・ディ)』か……」

オルドグラムがその時計を確認すると、手を離した。

するとその時計は、重力から解放された様にふわりと浮かび上がった。

この屋外にしか見えない空間は、その実オルドグラムの持つ魔導具たちの保管庫なのだという。

 

「さて、次は……」

オルドグラムの視界の先、空中に無数に道具たちが浮かんでいた。

その数は目算だけで、悠に100を超えるだろう。

 

「まだやるのぉ?」

足元から響く不満げな声に視界をそちらの方へと向ける。

閉じた傘を抱き、赤と青のオッドアイがオルドグラムを捉える。

 

「小傘よ、暇ならば先に帰るが良い」

 

「いやだ!」

即座にオルドグラムの意見を却下し、小傘が頬を膨らませる。

オルドグラムが密かに起こした計画が頓挫してから、もう一週間。

未だに小傘はオルドグラムが何処かへ行かないかと、無意識に心配している様だった。

 

「やれやれ、貴様がそうして駄々をこねるから道具の整理が終わらないのだぞ?」

 

「知らないもん!」

ぷんすかと頬を膨らませ、小傘がふわりと近づいてきた道具を空に指ではじく。

 

「貴様なぁ……」

本来なら、この一撃で道具の効力を暴発させる可能性さえある、大変に危険な行為なのだがオルドグラムは何とか言葉を飲み込んだ。

その代わりに自身の頭を押えため息をこぼした。

 

「ネクの宝物庫を取り込んだのだ、どの道具が手に入ったのか調べる必要があるのだ」

 

「じゃぁ、道具を整理する道具出して!

ここ、ひま~」

ゴロンと小傘が芝生の上に寝転がる。

小さな子供の様に退屈そうに唇を尖らせる。

 

「ちぃ……分かった。今日はここまでとしておこう」

小さく舌打ちをしたオルドグラムが指を鳴らすと、一瞬で景色が変わる。

太陽輝く青空の下は、一瞬で赤い調度品がひしめく部屋へと姿を変えた。

 

「ふぅ、かなりの数をネクは所持していた様だな。

だが、ヤツの口ぶりからして以前にいくつもの道具をばら撒いた様だ。

相当数が流失したと見て間違いないだろう……」

ぶつぶつとオルドグラムが腕を組み不満そうに、ため息をつく。

 

「そうだ、甘味処で奮発して高い羊羹買ってきたんだ。

一緒に食べよ!オルドグラムはお茶を淹れてね」

小傘はオルドグラムの考えを途中で遮る様に口を開いた。

 

「……仕方ない奴め」

小傘の意図を理解したのか、部屋の片隅に扉を呼び出し、ドアノブをひねる。

 

「今回の羊羹はほんとに奮発したんだから!

きっとオルドグラムもびっくりする――え?」

 

「あ、出てきましたね!待ちくたびれましたよ~」

二人の視界の先には、射命丸が羊羹を齧りながら待っていた。

 

 

 

「奮発したのに~~」

小傘が半分以下のサイズになった羊羹を眺め、涙を流す。

 

「いや、すいません……実は1週間ほど飲まず食わずでして……

机の上においしそうな羊羹が有ったので、我慢出来ずについ……」

射命丸が罰の悪そうな顔を珍しくする。

 

「で、天狗が我に何の用だ?

金属の加工ならば、今日は休みだぞ」

 

「ちがいますよ、ちがいます。

以前オルドグラムさんが不思議な道具を蒐集しているのを思い出しまして。

偶然取材の最中に手に入れた物ですから、ちょっと見て頂こうかな?って」

そう言って取り出したのは、何かの模様が複雑に彫られた長方形の箱だった。

 

「これって、寄木細工?」

最初に反応したのは小傘だった。

箱に見える小さな切れ込みたちは、以前何処かで見たカラクリ箱に見えた。

 

「よくわかったな。これはこの国のその道具をモデルに我が作り出した魔導具『ノット・レス』。

この箱の中は時間が進まない。一種の特殊空間となっているのだ。

そして開錠には複雑な手順が必要となる」

 

「やっぱり!これに鍵とかは無いんですね?」

射命丸が立ち上がる。

 

「天狗、貴様……この箱を開けようとして失敗したな?」

オルドグラムの視線が射命丸を射抜く。

 

「あや!?ば、バレてましたか……

厳重な箱故、開けてみようと弄繰り回していつの間にか1週間たってしまって……

ここまでくると、どーしても中身が気になるじゃないですか!」

一瞬だけバツの悪そうな顔をしたが、すぐさま開き直った。

 

「やれやれ、ふてぶてしいというか図太いというか……

だが良いだろう。

我も、この道具の中身が気になる」

ひょいっとオルドグラムが箱を受け取る

 

「さぁて、持ち主の手に戻ったのならさっさと開くでしょう」

射命丸が残りの羊羹に再度食いついた。

 

「あう……高級羊羹が……」

 

「まぁまぁ、一人の天狗の空腹を救ったと思えべ良いじゃないですか。

代わりに最近私たちが合同で出してる雑誌を一部あげますから」

腰に下げるカバンから一冊の本を取り出す。

 

「ナニコレ?」

 

「ちょっとした噂話から、生活のお得な知恵まで!

様々なジャンルを合わせた天狗の合同雑誌ですよ。

お互いの得意な記事と得意な記事が合わさって――」

 

「纏まりが無くなっちゃたんだ……」

 

「うぐっ……痛い所を突きますね……この弱小妖怪は……」

 

「今、一瞬本性見せた?!」

 

「さて、そろそろ開きましたかね?」

露骨に話題をそらして、射命丸がオルドグラムの様子を見る。

見るのだが――

 

「……こうか?いや、こっちか?」

非常に難しい顔をして、オルドグラムが寄木細工の箱を弄繰り回す。

 

「む、むう?むむむ……」

一体二人が見ない間にどれだけのトライ&エラーが行われたのか、カチャカチャと弄繰り回す。

 

「あれって、本人も開け方、忘れ――」

 

「しっ!オルドグラムこういうの変にプライド有るから、言っちゃダメ!」

 

「聞こえているぞ!!」

小傘の言葉に被せる様にオルドグラムの怒声が響く。

 

「すこし待っていろ!!我とて、数百年ぶりの開錠だ、記憶が一部忘却していること位あるのだ」

二人にそう言い放つと、オルドグラムは再度寄木細工に向かっていく。

 

 

 

「……読みます?雑誌」

 

「うん、読む」

しばらく掛かりそうだと、小傘は雑誌を読み始めた。

 

 

 

 

 

「へぇ~、念写で捉えたウサギっぽい謎の妖怪かぁ」

 

「ああ、それは多分永遠亭の誰かをピンボケさせたのか、命蓮寺のぬえさん辺りでしょうね」

翼の様な物を生やした、頭にウサギの耳の様な特徴の見える人物のピンボケ写真を眺める。

 

「こうか?こうだったか?いや、おそらくは――」

 

 

 

 

 

「あっ、この料理美味しそう!今度作ってみようかな?」

 

「外界から来た人物の料理らしいですね。

私も以前から興味があるので作ろうとしてるんですよ」

 

「このっ……コイツ……このっ!」

 

 

 

 

 

「あ、あわわわわ……こんな事しちゃうの!?」

 

「あちゃ~、おぼこい小傘さんには、この手の記事は早かったですかね?」

恋愛の体験談記事を見た小傘が、過激な内容に顔を真っ赤にして両手で顔を隠す。

しかし指先の間からはしっかりの記事を追っている。

 

「まだまだ、ありますよ~。

何せこれは人気のある記事なので――」

 

メギャン!!

 

「!?」

 

「!?」

突如走る衝撃に二人が雑誌を落とす。

 

 

 

「待たせたな、天狗よ。開錠に成功したぞ」

机の上にある寄木細工は半分ほど、形を失っていた。

オルドグラムの手には、戦闘に使用するステッキが握られていた。

 

「あ、開きましたかー、良かったー」

露骨な棒読みで射命丸が受け取る。

今なおブチ切れんばかりのオルドグラムを刺激するのは不味いと、彼女も思ったのだろう。

オルドグラムが破片を手で払いのけ、中身を取り出す。

 

 

 

「ほぉ、懐かしいな。それは『ゴシップ・ガム』だ」

半透明の小さなボトルの中で、紫色の球が軽い音を立てる。

 

「ほほぉ?何処となく、興味を引かれる名前ですね」

射命丸の目がキランと光ったように見えた。

 

「ガム?」

 

「口に入れて味を楽しむ嗜好品だ。

飲み込んではならん。腹を下すからな」

興味を持った小傘に、オルドグラムが説明する。

 

「へぇ~、食べちゃダメなんて、煙草みたい」

命蓮寺のマミゾウの持っていた煙管を思い出す。

 

「それでそれで?コレの機能と使い方は何ですか!?

一体何が出来るんですか!!」

射命丸がグイグイと聞いてくる。

 

「これは嘘を真実に思わせる道具だ。

ガムを噛み、広めたい噂を息と共に込めて、吐き出すのだ」

 

「風船ガムって奴ですね!

では、早速……」

 

「ぬ、待て――」

射命丸がオルドグラムの手からガムをひったくり、手早く口に含む。

そして――

 

「小傘さんの下着の色は黒!」

 

「ちょっと!?なにいってるの!!」

射命丸の口から、ガムが離れ空中で破裂し消えた。

 

「……このガムの効力でここから、今の噂が広がっていく」

 

「えええええ!?」

無常なるオルドグラムの言葉に、小傘が所在なさげにスカートを押える。

 

「これって、里中の人が……」

 

「ふむ、無意識に貴様の下着の色を『黒』だと思う様になるだろうな」

 

「なんでぇぇぇぇぇぇ!!何てことを――いない!?」

責任を問いただそうと、下手人を問いただそうとするが既にその姿は無かった。

がっくりと小傘が力なく崩れ落ちた。

なんという羞恥プレイ、なんという非道。

小傘は妖怪であるが、心は乙女。

見ず知らずの人にまで、自身の下着事情を思われているとなると、気分の良い物では無かった。

 

「明日から、外で歩けない……」

 

「さて、我は再度道具の整理に戻るか。

ノット・レスを再生させなくては――」

オルドグラムが再度扉を出現させた時、その背中に小傘が飛びつく!

 

「ぶ、ふえぇえええええん!!!お願いだから捨てないでぇ!!!」

小傘がオルドグラムにしがみつく。

 

「小傘!?貴様、一体どうしたというのだ?」

いきなりの言葉に、オルドグラムが珍しく目を白黒させる。

 

「外出られないじゃない!!絶対変態妖怪かなんかだと思われるし!!

オルドグラムだけはここにいて!!もう一生、私外でないから!!」

 

「案ずるな、噂は永遠ではない。一週間程度ですぐに薄れる」

 

「ほんと?嘘つかない?」

 

「無論だ。定着すれば別だが……」

そこまで言ってオルドグラムはしまったと、表情を変えた。

 

「出ないから!私しばらく、絶対外に行かないからぁ!!」

再度小傘がオルドグラムにしがみついた。

 

 

 

 

 

一方その頃――

 

「いやぁ~、ずいぶんいい道具を手に入れましたね。

これさえ有れば、これさえ有ればどんな噂も流し放題。

ゴシップ記事つくりまくりですよ~」

ここいらで、もう一回。

そんな事を言いながら射命丸が再度、ガムを口に放り込んだ瞬間――

 

ぎゅるるるるるるるるるる

 

「はぁう!?なんです、なんですか、コレ!?」

突如腹部を襲う急速な違和感!!

正直言うと、お腹痛い!すごく痛い!!

 

「なんでです!?このガム、まさか――」

射命丸は知らなかった。

オルドグラムの道具『ノット・レス』は中身の時間を止める道具。

しかし、外に出した瞬間からすさまじい勢いで、時間が進んでいく効果があるのを知らなかった。

当然、このガムの賞味期限など()()()()()数百年前に過ぎた事に成っている。

 

「と、トイレ……トイレは何処です!?」

これ以上の展開は、射命丸本人の精神衛生上好ましくない為、秘匿とさせてもらう。

 

 

 

 

 

「は、はぁう!?私のお腹さん、もうすこし、もうすこしだけ持って~~~~~」

急いで飛ぶ射命丸。

一瞬だけ、その瞳が青と赤のマフラーをした少年を捉えるが、見間違いだろうと無視してトイレへ急いだ。




因みに作者はキシリトールガムを2個以上食べるとお腹を壊してしまうんですよ。
何気に実体験なんです。
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