忘れ傘とグリモわーる   作:ホワイト・ラム

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久しぶりの投稿です。
たまーに、書くとなかなか筆が進まない。


魔術師と忘れ傘と魔術師

それは何時もの様に、ずっと続くと思われていた日常の中で起きた。

 

 

 

「えっほ……えっほ……えっほ……」

暗い穴倉の中で、小傘が土をスコップで掘り進む。

彼女の周囲を浮かぶカンテラが、土の中を照らしている。

土を掘る小傘の手が次第に遅く成っていき、遂には止まる。

そして――

 

「疲れた……手が痛ーい!足も痛ーい!服もドロドロー!!」

その言葉通り、小傘がの服は土埃に塗れ、顔にも泥が多数付着している。

突如始まったオルドグラムの魔導具の反応。

小傘が魔術の掛かった道具を渡されて、地面を掘らされて最早3時間ほどが経過していた。

 

「泣き言を言っている暇など、貴様には無いぞ?」

小傘の背後に、霊体化したオルドグラムが姿を見せる。

 

「ちょっとは手伝ってくれても良いじゃない!」

 

「我は既に力を貸している。

穴を掘るための道具を貸し、暗闇でも見える道具を貸し、これ以上何を望むのか?」

やれやれというジェスチャーを穴の中で霊体化したままのオルドグラムがする。

 

「せめて実体化して、一緒に掘ってくれても良いんじゃない!?」

 

「それでは効率が悪い。

我は貴様より、二回りほど背が高い。

その為、我が作業する為により広い穴が必要になる。

小傘よ。お前がちんちくりんなおかげで開ける穴が小さくて済むのだぞ?」

 

「半分以上馬鹿にしてるでしょ!?」

オルドグラムの言葉に小傘が声が荒げ、その拍子にスコップが手から滑り落ちた。

 

ガキィン!

 

「む、この音は……」

音のした方へオルドグラムがしゃがみこむ。

手先だけを実体化させて、土の中から何かの道具を取り出す。

 

「何それ?」

 

「これは……ハズレだな」

 

「ハズレ!?ハズレってなによ!!

私、この道具の為にずっと穴掘ってたのよ!?」

オルドグラムの言葉に小傘が憤る。

 

「待て待て、ハズレという言い方は良くなかった。

これは土を耕す道具なのだ。

だが、本来はもっと不毛の大地を耕すための道具だ。

豊かなこの国ではあまり意味をなさないのだ。

ふむ、魔力だけは多少は残っているな……」

小傘の腰の魔導書に道具が取り込まれた。

 

「……これで終わりって事で良いよね?

あーもう……早く帰ってお風呂入りたい」

汗と泥に塗れた自身の恰好を小傘が気にする。

 

「終わりではないぞ?穴を掘ったからには埋めねばならん」

オルドグラムが指を鳴らすと、地面に倒れていたスコップが浮き上がり小傘の手に収まる。

 

「…………え?」

 

「ほれ、もう一仕事だ」

 

「…………やだ」

 

「ん?」

小傘の漏らした言葉に、オルドグラムが聞き返す。

 

「もうやだー!!毎日毎日!!

もう私知らない!!オルドグラムなんて嫌い!!!

だぁいきらい!!」

自身の腰のグリモワールを外すと、地面にスコップを叩きつけ逃げていく。

暗い土のなかに、オルドグラムとその道具達が残った。

 

 

 

 

 

「全く……小傘の癇癪にも困った物だ……

やぁれやれだ。

あ奴は我の有難さを理解していない!

全く……ああ、全くだ……」

オルドグラムが体を実体化させて、狭そうに穴倉の中で立ち上がる。

その時、オルドグラムが一瞬だけふらつく。

 

「な、に?……あっ……?」

ふらふらと立ち上がったオルドグラムが、バランスを崩し倒れる。

一瞬の躊躇い、そしてオルドグラムは自らに起きた現象を理解した。

否、理解して()()()()

 

「そうか……我は……我の……役目は……」

(かぶり)を振り地面を透過し空へと飛んだ。

穴倉は音もなく崩落した。

 

 

 

 

 

自身の家の中で、小傘はすっかりお冠だ。

泥だらけの服を脱ぎ捨て、下着姿だというのに未だに怒りが収まらない。

 

「まったく!オルドグラムってば!私の都合なんて全然しらないのに!

事あるごとに、私を呼びつけて毎回毎回!!」

 

小傘はオルドグラムの仕打ちによる怒りを抑えることなく悪態を続ける。

そんな中で……

 

「小傘よ、今帰ったぞ」

腰にグリモワールをぶら下げたオルドグラムが帰還する。

 

「あ、お帰――」

怒っているというのに反射的に、挨拶をしようとして口ごもった。

 

「小傘よ」

オルドグラムが音もなく、小傘の前に座る。

 

「何よ……」

 

「さっきはすまなかった。我は貴様への感謝の情を忘れていた様だ。

重ねて謝る。本当にすまなかった……」

オルドグラムが深く、深く頭を下げる。

 

「あ、あちょっと……?」

プライドの高い彼の頭を下げるという動きに小傘が混乱する。

一言でいえば非常に()()()無いのである。

 

「風呂に入る積りなのだろう?入って来い。

今日の残りの家事は全て我がやっておこう」

 

「え、なんでお風呂に入る積り……きゃぁあああああ!!!」

小傘はそこで、自身が下着姿であることを思い出した。

 

 

 

 

 

「お風呂あがったよー……」

 

「丁度食事の準備も終わったぞ」

風呂から出た小傘が見たのは、食卓に並ぶ豪華な食事の数々だった。

以前オルドグラムが作ってくれた物、外界からきた本に載っていて小傘が興味を示した物など、二人で食べるには多すぎる量が並んでいた。

 

「わぁ!どうしたのコレ?」

 

「日頃の感謝の気持ちだ。我は、貴様の厚意に甘えすぎていた様なのでな

目に見える形で、返しておきたかったのだ。

凡そではあるのだが、鍛冶の方も我が片付けておいた。

今夜はゆっくり休むと良い」

そう言って、高そうなワインの栓を抜いて見せる。

 

「さ、少し早いが、食事にしよう」

オルドグラムが優しく微笑んだ。

 

 

 

「小傘よ、道具は道具本来の役目を果たすべきだと思うか?」

食事の最中、オルドグラムがそんな言葉を小傘に投げかけた。

 

「???

なにを言ってるの?」

オルドグラムの言葉の意図が分からず、小傘の頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ。

 

「我は今、切に思うのだ。貴様の本質は『道具』。

道具とは何らかの目的の為に作られた存在。

だが、道具が意思を持ち、自らの使い方に疑問を持った時……

どうすべきなのか?

我は気になったのだ」

 

「よくわかんないけど……私はずっと傘の積もりだよ?

人を脅かすし、鍛冶屋もやってるけど、それでも傘としての仕事を捨てる積りはないよ?

だって、(道具)はその為に生まれたんだもん!」

 

「そうか……」

小傘の言葉を聴いてオルドグラムが納得したように頷いた。

 

「変なオルドグラム」

そうやって、小さな違和感を残し、二人の何時もの日常は過ぎていった。

 

 

 

 

 

「あ、もうこんな時間……そろそろ、寝よ?」

壁に掛けてある時計を見て、小傘が口を開く。

 

「そうか……もう、こんな時間か」

オルドグラムが立ち上がると同時に、姿が変わる。

何時もの部屋着から、黒と赤の魔術師としての服装へ。

 

「どっか、出かけるの?」

 

「小傘よ、世話に成った。

我はもうじき我に与えられた本当の役目を果たす事に成る」

 

「本当の役目?」

意味が分からず、小傘が聞き返した。

 

「我の本体であるグリモワール(魔導書)には、魔術師オルドグラム・ゴルドミスタの英知の結晶であると同時に彼の者の復活装置なのだ」

オルドグラムが一呼吸付き、一瞬の躊躇いを見せた後もう一度口を開く。

 

「自らの死を予知した我のオリジナルの『オルドグラム』は、自らの魂を複製しこの魔導書に残したのだ。

だが、完全なる復活には異様な時間と膨大な魔力が必要となる。

だから、魔導書その物にその機能を持たせたのだ。

自らの英知をあえて狙わせ、常に魔力を持つ者の手の中に置く事で、時間と魔力をこの中に溜め続けた。

誤算があるとすれば魔導書に『我』という自我が芽生えた事と現代では魔術が廃って、復活には大分時間が掛かってしまった事だな。

今思えば、我が魔導具を回収して魔力を得ようとしていたのは、無意識に本来の目的を果たそうとしていたからなのかもしれん」

ペラペラとオルドグラムにしては珍しく饒舌に話す。

 

「えっと……まず、オルドグラムのグリもわーる?がもともと本物のオルドグラムが自分を復活させる為の道具で……

それで、復活には時間が掛かって……

けど、もうすぐ、復活出来るって事?」

 

「うむ、その通りだ」

オルドグラムが満足気にうなづいた。

 

「ねぇ、けど、それって……えっと、本物?のオルドグラムが目覚めたら、今のオルドグラムはどうなるの?」

 

「さぁな」

一瞬の迷いも無く、オルドグラムは『分からない』と答えた。

小傘の背に、冷たい物が走った気がした。

 

「我のこの人格自体がイレギュラーな存在。

いや、本物のオルドグラムからすれば自身の魔術をしる魔導書に発生した疑似人格など面白いハズもない。

順当な所で消去、いや、オリジナルが復活した段階で我自身が消滅する可能性も十分だな」

諦めたように力なくオルドグラムが笑った。

 

「……さっきかららしく無い事ばっかりだね」

知らないという事を平然と認めるというのはプライドの高い彼からしくもない。

諦めた笑いなど、自信過剰な彼らしくもない。

 

「ねぇ、じゃあさ。『本物』を目覚させない方法ってのが有るんだよね?」

半場祈る様な気持ちで口を開く。

 

「ある。当然存在する」

 

「じゃあ――」

 

「だが、我はその方法を実行する気は無い。

貴様が言ったのだ。

『道具は己の役目を果たすべき』だと。

ならば、ならば我もその役目、果たすのみ!!」

オルドグラムが指を鳴らすと、姿が半透明になる。

彼が体の実体化を解除したのだろう。

 

「小傘よ、世話に成った。

貴様と結んだ契約は、これにて終了だ。

お前という、存在に出会えたことを我は忘れる事は無い」

 

「まって、待ってよ!!」

 

「さればだ!!」

一陣の風が吹くと、そこにはオルドグラムの姿はもうなかった。

小傘が慌てて家の外に出る。

下駄を履くのも忘れて、周囲を探し回る。

 

「待って!!待ってよ!!!私だって、まだお礼言ってない!!

さっき言い過ぎた事、まだ謝ってない!!

まだ、まだ一緒に居たいって、キチンと言ってない!!」

小傘の声が、むなしく里に響いた。

 

 

 

 

 

オルドグラムの降り立った場所は、外界の道具が流れつく場所の一つだった。

外の世界で忘れられた、不要になった道具たちの中でオルドグラムが、壊れた椅子に腰かける。

 

「我の終の場所が、ここか……いや、道具の廃棄場所としてこれ以上相応しい場所などないか」

自嘲気味に話すオルドグラムが、自身の手を見る。

僅かに色が透け、細かな粒子がこぼれ落ちていく。

 

「!!」

自身の中で、鼓動を感じオルドグラムが胸を押える。

胸の鼓動と呼応する様に、オルドグラムの体にヒビが入っていく。

 

「我は……我の役目は……今、果たされる!

だが、だが、我は真に望むのは……!」

オルドグラムが()()に脳裏に浮かべたのは、今日までずっと一緒にいた、一人の傘の妖怪少女だった。

 

 

 

『ソレ』は始めは小さな球体の様な黒い物体だった。

だが、ソレは次第に巨大化し始め人の形を象っていった。

そして最後に黒い人型が、弾け飛び中から人が姿を見せた。

 

若い顔つきの男。

黄金の髪と、白磁の様な肌。

美しいという言葉が浮かびそうだが、あまりに作り物めいた姿に殆どの者は不気味ささえ覚えるだろう。

黒と黄金と赤に彩られた、ローブは怪しく華美な印象を与える。

嘗て、一つの国を滅ぼした最低最悪の魔術師『オルドグラム』が今ここに蘇った。




さて、この物語もシメが近づいてきました。
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