下地がだんだん出来てきたので大きく動きたいですね。
春の陽気がわずかに感じられる様になった幻想郷の人里のとある家で――
小傘が大層疲れた様子で、金鎚などの鍛冶に使う道具の手入れをしていた。
まさかのタイミングの包丁の製作の依頼が入り、さっきまで必死に作っていたのだ。
タイミングが悪いというか、まだ手付かずの包丁製作に依頼が3件も残っている。
修理とは違い、一から包丁を作るとなると結構な労力で、最近野外での散歩もとい無縁塚でのガラクタ漁りに付き合わされる小傘には、なかなか体力的な意味でつらい日が続いている。
「うん、これでいいかな?」
ある程度手入れして納得できる状態になったのか、道具を工具箱に戻して自身の家に居る半場無理やり同居し始めた、魔法使いを見る。
「オルドグラムー?おーい?」
なぜか静かな同居人、いつもは基本ローテンションな彼だが気に入った物や、興味が湧いた物を見つけると途端に元気になるという、テンションのアップダウンが非常に激しい男なのだ。
聞いても居ない道具や魔術の説明をしてくる場合はまぁ良いだろう。
適当な相槌を打っていればなんとかなる。
しかし、静かな場合はそれはそれで要注意。
何か、彼がとんでもないモノを製作している可能性も否定できないのだ。
「………ふむ……」
小さな返事というか、つぶやき。
思い出したくない事だが、彼の発明のおかげで『驚き』の感情を多く手に入れた小傘は僅かに余裕のある生活が出来ている。
少なくとも、以前の様に空腹で目がかすみ倒れるなんて事は無かった。
(これもオルドグラムのおかげ……だよね?
おどかしちゃえ!!)
おかげというとなぜか、非常に釈然としない。
小傘はそんな感情を振り切る様に、彼を驚かすべくその背後に近寄る。
両手を振り上げ、彼の肩の上に勢いよく振り下ろす!!
「オルドグーラム!!なーにして……何してるの!?」
「おお、小傘か。脅かすな」
オルドグラムの手の内には、怪しい一振りの日本刀の様な物が!!
一目で血が渇いたと分かる鞘の無数のシミ!!
鎖と注連縄、さらには『封』と書かれた札を大量に張られた全体!!
そして、最も恐ろしい事にその刀自体がわずかに揺れ、勝手に刀身を抜こうと震えているのだ!!
オルドグラムの足元には、破られた数枚の札が落ちている!!
一目で分かる、分かりやすすぎる妖刀だった!!
「ちょちょちょちぉ!!どうしたのそれェ!!」
「無縁塚で拾ったのだ、呼ばれたような気がしてな。
この国の言葉はある程度、分かるのだが……この『封』というのはどういう意味なのだ?すまないが教えてくれ」
尚もオルドグラムは、妖刀の札を剥がしつつ説明を求めてくる!!
「剥がしちゃダメぇ!!明らかに封印されて――」
キィン!!
小傘の声もむなしく、刀は鞘から抜けて宙にその刀身を晒した。
【クけけけけけけけけけけ!!】
鞘から黒い靄が現れ、人の形をぼんやりと作る。
右手に当たる部分で持ち主の居ない妖刀を靄が握る。
「ほぉう!この小さな刀にこれほどの機能が……!
素晴らしい!!小傘、これは一体どういう原理なのだ?」
フォン!!
オルドグラムが首を曲げた瞬間、さっきまで頭があった部分を妖刀の切っ先が通り過ぎて行った。
妖刀は次はお前だ!と言わんばかりに今度は小傘に向かっていく!!
「いーやー!!来ないで!!」
妖刀の攻撃を小傘がしゃがんで躱す!!
青い髪の毛が数本切れて、宙を舞った!!
「飛行機能が?いや、剣事体に持ち主に対する剣術のハウツーを教える機能が……」
「違うって!!ただの妖怪だよ!!ただの妖刀!!」
「そうか……詰まらんな……」
叫ぶように言った小傘の言葉に、オルドグラムの目に浮かんでいた興味は一瞬で霧散した様だった。
【くぅ嬉々鬼気危機鬼気斬キキ!!】
妖刀が再びオルドグラムに狙いを定めるが――
「もう、貴様に興味はない」
自身の持つ、鳥の意匠が成された銀のステッキを横凪に振るった。
ペキッ!
【き……ケ?】
妖刀の刀身、その持ち手から3分の1程度の部分で刀剣がへし折れられていた。
折れた刀身を空中でもう一度オルドグラムが真っ二つにして、結果妖刀は3つにバラバラに破壊されてしまった。
ズッサ!!
「ひぃ!?」
へたり込む小傘の足と足の間に、妖刀の切っ先が落ちて畳に突き刺さった。
【きけぇぇぇぇ……ぇ、……え……】
小傘の目の前で、刀身に映った黒い靄が文字通り霧散して消えた。
「は、はは……」
僅か数センチ差で危機を逃れた小傘が、畳を這う様にして後退し折れた刀身から身を遠ざける。
「今回もハズレか……」
小傘の目の前に刺さった刀の一部を畳みから引き抜き、オルドグラムがつまらなそうに、指先で弄ぶ。
「外界の……外の世界の、技術が見れると思ったが……」
酷く残念そうに、オルドグラムがため息を付く。
その手には、折れた妖刀の刀身部分が三つとも、乗っていた。
「オルドグラムは、外の世界の技術が見たいの?」
少し気に成った言葉に小傘が反応する。
「ああ、勿論だ。我は本来外の世界の住人……だ。
外の世界へ向かいたいのだよ」
バラバラになった、妖刀の欠片を布で包んで机に置く。
「幻想郷に居る気はないの?」
「無いさ。ああ、無いね。
此処は忘れられたモノたちの楽園……聞こえはいいが、所詮それは必要がなくなった為忘れられたのだ。
人々が祈りを捧げ、それに対し神が恵みをもたらす時代は終わり、人は自ら望みの物を手に入れる様に進化した。
停滞とは、退化であり、退化とは緩やかな死だ」
その表情は彼にしては珍しく悲し気に見えた。
「そっか……」
小傘がオルドグラムはの身の上を思い出す。
彼は人間ではない、人間ではないと言っても魔法使いとか幽霊とか言いたいわけではない。
彼は自身の本に自分の魂を閉じ込め、長い時間を眠っていたと言っていた。
モノに宿る魂――そう言う意味では、オルドグラムは僅かにだが自分と近いのではないかと小傘が思う。
自分は妖怪――妖怪は変化しない。なら、人としての生を終えた彼も……
「我は力を再び外の世界で振るうのだ!!
……もっとも、使えそうな人間に憑りつき、上手く利用してやるつもりだったが……
はぁ……」
小傘を見て、非常に深いため息を付いて見せた。
「ちょっとー!そのため息どういう意味!?」
立ち上がって小傘がオルドグラムに向かって走っていく。
「ふん、理想は魔術を収めた人間――贅沢を言うのならば生活に余裕のある力を求める魔術師が良かった。
ましてや、今にも消え入りそうな妖怪に取りつく事に成ろうとは……
我が不運ながら、嘆かわしい……」
「むっきー!!言わせておけばー!!」
両手を振り回す、小傘の頭に手を置いてそう話すオルドグラム。
小傘の手が空しく空を切る。
「そうだ、小傘。金が欲しい、具体的にはこの家3つ分ほどの家を買う金がだ」
「ある訳ないでしょ!?ていうか何に使うのよ?」
受け取った包丁を抱えながら、小傘が驚く。
「実験施設を作りたい、正確には『工房』だ」
「本の中じゃ、ダメなの?」
オルドグラムの本、今の所有者は小傘という事になっているがその中は、ある種の特殊な空間であり、オルドグラムの家といった面持ちなのだ。
以前小傘はそこでお茶をごちそうに成ったことが有る。
「ダメではないが――リアライズするのに魔力を使うのでな」
「うぐ……それは困る……」
小傘が小さく、つぶやいた。
オルドグラムは魔力を小傘の妖力を変換して使用してる。
ただでさえ、空腹で妖力の少ない小傘にはオルドグラムが力を使うとさらにお腹が空いてしまう。
僅かな魔力の浪費は所謂死活問題であり、なんとしても回避するしかないのだ。
「うーん、足りないものが多すぎるよ。
出来る事と必要な物をリストアップしようか」
お互いに必要な物を整理しようと、小傘が髪とペンを持ってくる。
「リストアップ?」
「そう、私たちってお互いにお互いを助け合うべきだと思うんだよね!
オルドグラムは、私の妖力が欲しい。
私はオルドグラムの魔術で驚いた他人の感情が欲しい。
どう?今のうちに、細かい約束、決めておかない?」
小傘の言葉にオルドグラムが一瞬キョトンとした、その後――
「くはははは!魔術師の契約を求めるか!
我に、我にか?いい度胸だ、気に入ったぞ。
うむ、久しく契約などしていなかったからな、良いだろう。
その誘い乗ってやるわ!」
なぜか上機嫌になって笑い出した。
いいものがある。と言って羊皮紙を取り出す。
「そう言えば、具体的にオルドグラムが欲しいモノは?」
「我が欲しいモノ……世界だな!!」
「あー、そう言うの良いから……手初めにって事で」
恐ろしい事に一切冗談に見えないオルドグラムの言葉を聞き、小傘が密かに冷や汗を垂らす。
そしてお互いに、お互いのルールを作っていく。
結局のところ、オルドグラムが欲しいのは自身の興味を満たす手段。
そして小傘が欲しいのは自身の空腹を満たす手段だった。
「では……我が魔術を使用するにあたっては――」
「うん、私の妖力を致命的じゃない程度になら使って良いから。
その代わり――」
「応。小傘お前が必要とするなら我はお前に対して協力は惜しまない。
無論魔術だろうが、発明だろうが貸してやろう」
オルドグラムが羊皮紙に書き込んでいく。
いわば契約の様な物だ。
魔術師は、契約という物は非常に重要視する傾向にある。
「では、ここに調印しろ」
「え、朱印まであるの?」
若干渋ったが小傘が指を朱印で濡らし、判をおす。
これで二人の契約は完了した。
「改めてよろしく頼むぞ、小傘」
「うん、この前みたいに成らないでね?」
二人はそれぞれの思惑を持って、手を握った。
「しかし不思議な物だな……妖怪に拾われた挙句、魔力を取り込むどころか、むしろ助ける事に成ろうとは……」
「仕方ないでしょ?私は驚きの感情が欲しい、オルドグラムは私の妖力。
妖力は誰かを驚かさないと手に入らないんだから!」
小傘の言うように、二人は非常に、非常に奇妙な協力関係にあった。
オルドグラムの魔術は、多くの驚きを手に入れれる。
小傘の驚きはオルドグラムの魔力へと変わる溜め、互いが互いを助け合う形に成ってるのだ。
「ふぅ、まず先立つ者からだ……
これをやろう」
オルドグラムが手を差し出すと、さっき回収していた妖刀の破片を渡す。
「え……?」
しかしその破片はもう、刀の折れた一部ではなくなっていた。
切れ味はそのままに、形が大まかに加工されて包丁に様になっていた。
「金属の加工は錬金術の初歩でな。
残りの細かい作業――刃を研いだり、持ち手を作ったりは任せるぞ?
多少ならお前の仕事の手伝いをしてやる」
「あ、ありがと……」
思いがけず仕事がかなり進んだ小傘は、切っ先と真ん中を加工した包丁2本を受け取る。
持ち手――柄の部分はそのままもらっておく事にする。
金物を扱っているのにおかしな話だが、そろそろ使っている包丁を変えようと思っていたのだ。
「ふん、協力関係にあるのだ。これ位は……な」
そっぽを向くオルドグラムの表情は見えないが、小傘には照れている様に見えた。
(悪い人じゃ……無いのかな?)
自分勝手で常識が通用せず、野望が大きく、そのくせ変に力がある彼を見て小傘が小さく微笑んだ。
3日後……
「ほう、これは身近なニュースだな」
台所で朝食の準備をしていた小傘が、オルドグラムの声を聞く。
貰った包丁は調子がよく、料理が楽しくなってしまい、小傘の口から笑みがこぼれる。
それに対して、オルドグラムは小傘の家で取っている『文々。新聞』という新聞に載っている記事を読む。
「何か、気になる事件でも有ったの?」
「ああ、これだ」
珍しく彼が興味のある事が起きたのかと、新聞を覗き込むと、オルドグラムが一つの記事を指さす。
そこには――
『危険!!人里の中で人斬り事件!!』
の見出しが有った。
内容を詳しく読んでいくと被害者の、証言が2件載っていた。
『なんか、使っていた包丁が急に手を滑って……師匠に怪我がなくてよかったですよ……』
証言するS・Z少年。
『いやぁ、びっくりしたよ。危うく一緒にいた友達を怪我させる所だったよ』
同じく被害者の青年Y・Kさん。
どちらも、『急に包丁が滑って』というのが共通している。
そして嫌な事に、
「これがどうしたの?」
「僅かに妖力があるらしい……」
オルドグラムの言葉に、小傘の中にサーっと嫌な予感が走った。
動き出す包丁、それも2件、自身の店に来た客……
「まさ……か?」
小傘の後ろ、さっきまで使っていた包丁が音もなく浮かび上がる!!
「そんな、まだ……」
【奇っヒヒヒヒヒヒ!!】
包丁の刀身に、黒い人の顔が浮かび小傘めがけて飛んでくる!!
「嫌ぁ!!ひぃいい!!」
フォン!!ヒュンヒュン!!
空中を踊る包丁!!
そして包丁は、オルドグラムに狙いを定めた!!
「あ、危ない!!」
オルドグラムの喉めがけて包丁が飛ぶ!!
「……またか」
パシッ!!
オルドグラムは『封』と書かれた札を張り付けると、そのまま包丁は床にコテンと落ちた。
「うむ、この文字は『封じる』という意味で合っていた様だな!
東洋の魔術は面白いな!!はっはっはっは!!」
何事も無かったかのように、オルドグラムは笑った。
「さ、我が渡した包丁だ。大事に使うのだぞ?」
ずいっと封印された包丁を指しだすオルドグラム。
「こんな危ないの要らないよぉおおおお!!」
必死で小傘が否定した。
基本妖怪は必死にがっつかないイメージです。
時間があるからいいや、とそこまで必死に成らないイメージ。
例えるなら夏休み中盤の小学生。
時間はあるし、やりたい事はやったし……
なので、適当にゲームやら、プールやらたいしてやりたくない遊びを堕勢でやってる感覚……
ま、考え方なんてそれぞれですよね!!