忘れ傘とグリモわーる   作:ホワイト・ラム

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さてさて、今回も投稿です。
もう少し投稿スピードを上げたい今日この頃……


魔術と雨音と逃亡者

ザザー、ザーザザー……

幻想郷の昼下がり、今日は雨が降って居た。

そのせいか今日は人里も活気が無い。

コンクリート様な、水を排水する仕組みが無い里にとって、雨は結構な問題になる。

 

「……雨音か、嫌いではないな」

オルドグラムが、作業台から手を離し背伸びをする。

部屋の中に小傘はいない。雨が降り出すと共に「出かけてくる!!」と嬉しそうに走り出していってしまった。

傘を元にしている彼女にとって、雨はやはり特別な意味を持つのだろうか?

 

「ふん――我には関係の無い事だ」

そう呟くと、オルドグラムは再び作業台に視線を戻した。

が――

 

ペキッ……!

 

小さな音を立てて、持っていたペンが折れる。

 

「チぃ……」

小さく舌打ちするオルドグラム。

もともと、無縁塚で拾った壊れかけの道具だ。

何時寿命を迎えてもおかしくなかったが、それでも作業中に壊れると色々と水を差されたような気分になる。

雨も相まって、鬱々とした気分をしながら慣れない筆を使う事にしたオルドグラム。

 

「まずは、金策か……」

そんな事をつぶやきながら、再び机で作業に戻った。

 

 

 

 

 

「チィ!良い天気だ、ああ、いい天気だよ」

人里の路地裏で、一人の妖怪がぼろ布を纏って、姿を隠すように奥へと消えて行った。

フードの様な布地から見える、黒髪に赤いメッシュと小さな角。

足元はサンダルという非常に頼りない恰好で、人目を避けるように進んでいく。

彼女の名は、鬼人 正邪。

 

「……お?アタシの手配書じゃねーか。ひひひ」

壁に在った、自身の特徴の書かれた手配書を見て正邪が口角を吊り上げる。

正邪は天邪鬼という種族であり、他人の嫌がる事を好み逆に感謝される事を嫌うという性格を種族的に持っているのだ。

 

なので、手配書という存在は彼女にとっては、むしろ喜ばしい事になるのだ。

もっとも、生活面等々不利になる場面は多々あるのだが……

 

「さぁーてと、こっからどう逆転したやろうか……

また、単純な妖怪を騙して……いや、今度はバカな人間どもを先導して――えッキシ!!

はぁ……先に、雨風の防げる寝床か……」

くしゃみをして、鼻をすすりながら正邪が歩き出す。

 

「そうだ、確かこの辺は……あの傘(小傘)の家が在ったハズ……

それを乗っ取って、しばらくかくまわせてもらおうか。

ああ、それが良い。あそこは鍛冶屋で包丁なんかもやってたし、まぁ武器の調達位できるだろうしな!」

しめしめといった顔をして、正邪は小傘の家へ向かった。

 

 

 

「……ん?」

小傘の家、その壁に耳を付け正邪が中の様子を伺う。

大きな音はしない、生活音も会話の音も聞こえない。

 

「――よし、誰も居ないな!

よぉし!!この家は貰ったぁ!!」

周囲に人の目が無い事。中に誰も居ない事を確認した後。

ガラっと、扉を開け勢い良く家の中に滑り込んだ。

素早く、そして静かに扉を閉め家の中を確認する。

 

確認した通り、小傘はいない。

不用心にモノが置かれ、まさにもぬけの殻だった。

カギを閉めて部屋を見る。

さっきまでいたのか、机の前に座布団が置かれ無縁塚あたりで拾ったのか、無数のガラクタとそれを解体した物が部屋の隅に置かれている。

 

「ンだぁ~?あいつ、ガラクタ集めなんてしてるのか?

ガラクタがガラクタ集めて、どうするんだ?

お、高そうな本が――」

机の上、上等な革で作られた高そうな表紙の本を見て、正邪が近づいた。

 

「香霖堂あたりに売れば金になるか?」

触れようとした瞬間、ひとりでに本が開き光を放ちだした。

 

「な、なんだ!?まさか、魔術が――!?

誰だお前!!」

 

「それは私の質問だな。貴様は誰だ?妖怪が我に何か用か?」

本から姿を現したオルドグラムは、正邪を見る。

当然だがこんな奴は知らないし、小傘の客とは思えなかった。

こっそり家に入って来た点、ガサガサと家を荒らしていた点、いろいろな点で怪しい部分があった。

 

「(疑わしきは罰せよ……処分するか……)」

一人小言で小さく話して、本からステッキを召喚する。

 

「お、おいおい!?何をする気だ?」

武器を構えたオルドグラムが、ゆっくりと正邪を追い込むように歩み寄っていく。

 

「まて待てまてぇ!!」

ガチャガチャと、自分でカギを閉めた扉を開けようと右往左往する。

だが――

 

「そう言えば、小傘と約束が有ったのだったな……」

そう、小傘との約束で無為に他者を傷つけたり対処するのは止められている。

ひょっとしたら、小傘の客人である可能性も考慮して武器を収めた。

 

「すまない、無礼を働いた。許してくれ」

オルドグラムが、頭を下げ正邪に謝罪をした。

 

「へ、へ……?」

すっかり怯えていた正邪はなぜか自分が助かった様だと理解して、目を白黒させた。

 

 

 

 

 

「ほぉ、お前も妖怪か」

 

「おうよ!天下御免の天邪鬼様だ!!」

ちゃぶ台に愛飲している紅茶を出しながらオルドグラムが話す。

胡坐をかき、出された紅茶を一瞥して正邪が頬杖をつく。

 

(ったく……なんだコイツ?妖怪じゃないっぽいが……)

とりあえずこちらに対する敵意が無いと分かった正邪は、油断なくオルドグラムを観察する。

赤い服に、黒い無数のベルト。

マントにハットという露骨なまでの外界を意識させる格好。

 

「それで、今日は何の用だ?」

 

「え、よ、用?」

オルドグラムの言葉に、正邪が再度固まる。

正直にこの家から金目の物を奪いに来たとも言えず、しどろもどろになる。

 

「どうした?我か、小傘に用があるのではないのか?」

怪しさを感じたオルドグラムの目に再び鋭い光が宿った。

本の表紙に手を向けると――

 

「あ、雨宿りだよ!!雨宿り!!

キューに雨が降って来ただろ?雨風をしのぐために、この店に入ったんだよ」

必死で誤魔化す正邪、じっとオルドグラムがこちらを見る。

数舜の時間の後。本から手を離した。

その様子をみて、正邪は安堵しため息を漏らした。

 

「そうか、雨宿りか……ならば、少し待っていろ」

 

「?――!?」

そう言うと、オルドグラムが本に触れると同時に姿を消した。

そしてすぐに、何かを持って姿を現す。

それは、一枚の紙とドアノブだった。

 

「なんだよ、コレ?」

 

「我魔術を利用し、過去に作った発明品だ。

我は『偽室錠』と読んでいる」

 

「ぎしつじょ~だぁ?」

効きなれない言葉に、正邪が訝し気に声を上げる。

 

「そう、空間を写し部屋を作り出せるのだ。

実際に見せた方が早いな……」

紙に貼ってあるシールの一枚を剥がすと、部屋の壁に貼り付けた。

すると、そのシールを起点に一枚のドアを描くように四角線が出来た。

 

「この向こうに、この部屋と同じ大きさの疑似空間を作った。

そして、これがその部屋に入るためのキーだ」

四角い線のシールの上に、ドアノブを差し込み回すと――

 

「な、部屋だ……本物、か?」

正邪がドアの向こうを覗き込むと、鏡のように左右反転した小傘の部屋があった。

家具は無いが、壁の傷の大きさまでそのまま完全に形がコピーされていた。

 

「本物ではない、まごう事なき偽物だ。

このシールが空間をコピーし、ドアノブがそこに入るカギとなっている。

いざとなればこのドアノブは安全装置の役割も果たしている」

扉を閉め、シールをはがすとさっきまであった部屋は一瞬にして消失した。

 

「スゲェ!スゲェよ!!あんた本当に魔法使いか!!

なぁ旦那!!オルドの旦那!!アタシにコレ売ってくれよ!!

金位なら、出すからよ!!」

興奮気味に正邪が、財布を持ち出し話す。

壁さえあればどこにでも部屋を作れる道具。

しかも、撤収も一瞬で完了する。

いや、それだけではない。中が分からない建物の内部を知るなんて使い方もある。

そして、それを使うのは小さなシールと、ポケットに入るドアノブだ。

逃亡生活が長い正邪にとって、持ち運べる隠れ家程助かる物は無い!!

 

「ふっ、かまわんぞ!今の我はたいそう機嫌が良い」

 

「ッシャ!!なら、交渉完了!!」

正邪から財布を受け取ると、シールとドアノブを渡した。

 

「へへへ、流石旦那だ!話が分かる!

んじゃ、また何かあったら頼んます~!」

思わぬ収穫に、正邪が喜び勇んで家を出た。

 

「ふふふ、気の良い奴だ。小傘もヤツの様に我の偉大さが分かればよいのだがな?」

上機嫌でオルドグラムが笑う。

 

 

 

その一方、雨に濡れるのも気にせず正邪もにやにや笑いを浮かべていた。

今、自分の手には素晴らしい道具が手に入ったのだ、今日ほどいい日は無いだろう。

 

「へへへ、なら早速――!」

正邪が向かったのは、里でも有名な米商の家。

中に入るのはかなわなかったが、外から大よその形は分かっている。

シールを張り付け、ドアノブを押し当て開くとそこは米商の家の中を成功にコピーした空間。

 

「いいねぇ、良いんじゃねーの?」

一瞬にして、広大な家を手に入れた正邪が新しい自分のアジトを見て回る。

家具は一切ないが、まぁかまわないだろう。

外に在るのはシール一枚。誰しもこの場所に気付きはしないだろう。

正邪は上機嫌で、ドアノブを手の中で弄んだ。

 

「へっへっへ、明日は早速米商を――えっきし!!

……先ずは着替えか?」

気が付くと正邪はびしょぬれ、このままでいるのは良くないと新居で着替えよと服を脱ぎだす――

その脳裏には、手に入った道具のアイディアが浮かんでは消えて行く。

空間を出せるのは非常に便利だ、隠れて良し、誰かを閉じ込めて良し、道具を貯蔵して良しと、様々な悪だくみが思い浮かぶ。

 

が、正邪はとある大切な事を忘れていた。

このシールは剥がすと空間が消える。

剥がれると消えるのだ、そして不幸な事に今日の天気は――『雨』

風と雨にさらされ、正邪の張ったシールが剥がれる!!

 

「うっひっひっひ、下克上も近――」

 

グンッ!!

 

突如空間がたわむ!!何かに引っ張られる感覚を正邪が味わうより先に――!!

外へはじき出される!!

一瞬にして、空中に放りだされる正邪。

その瞬間、ドアノブの安全装置が作動する!!

その装置は万が一、外に追い出された対称を保護する機能だった!!

ドアノブから、大量のベルトが射出され、正邪を保護するため絡みついた!!

 

「な、なんだいきなり!?」

絡みついたベルトは、そのまま米商の軒に正邪をぶら下げた。

余談だが、正邪は着替え中の為勿論半裸と呼べる姿!!

公衆の面前に、その姿のままぶら下げられることに成る!!!

 

ひそひそ――ひそひそ――

 

道行く人が、チラチラ正邪をみて噂話をする。

「痴女」だの、「変態」だの、「ドM」だの嫌なワードが並ぶ!!

そんな正邪の前を小傘が通りかかる。

 

「さでずむ?」

 

「ち、違う!!あ、アタシはそんな積りは――」

正邪がいくら言おうとも、周囲の人間たちは興味など無し!!

寧ろ「触らぬ神に祟りなし」とでも言いたいように、その場から離れていく。

だが正邪からして、下に見ている人間のこちらをバカにした様な、奇妙でおかしな物を見る目は、いくら天邪鬼な正邪でも心地よいモノでは無かった!!

 

「ち、ちくしょー!!あんな奴、信用したのがバカだったぁー!!」

正邪は騒ぎを聞きつけて飛んで来た人里の守護者に捕縛されるまで晒し者に成ったのだった。

 

 

 

 

 

「小傘よ……妖怪とは奇妙奇天烈(きてれつ)な者が多くいるのだな……」

 

「な、なに、いきなり?

ハッ!また何かやらかしてないよね!?私怒られたりしないよね!?」

胡乱な目で語るオルドグラムに、何か嫌な予感を感じた小傘が詰め寄る様に話しかける。

 

「ふん、馬鹿を言うな。我は偉大なる魔術師なのだぞ?

むしろ、お前との約束通り、他者を助けたくらいだ。

上手く行けば、今度も店に来てくれるやもしれん……」

 

「ん?それって、鍛冶の仕事って事?

今日は休みにしちゃったからな~、出直しさせちゃったかな?」

オルドグラムの言葉から、小傘は留守の自分を訪ねてきた客がいたがオルドグラムが接待してくれたのだと、解釈した。

 

「そういえば……さ。

オルドグラムって結構腕っぷしに自信あるよね?

魔法使いだし、始めた会った日、何か退魔師簡単に倒してたし……

ねぇ、今月ピンチだしさ、何人か捕まえてこない?」

おずおずと小傘の出したのは紙の束。

この紙は里の中で出回っている、公私合わせたお尋ね者の手配書のまとめだ。

食い逃げなどの軽度から、妖術を勝手に使用した人間など、大小さまざまなお尋ね者が載っている。

 

「この紙だけでは無理だな」

 

「え~、なんで?」

 

「特徴が割り出せん、探すのに手間がかかりすぎる」

机の上に紙束を投げ落とすとそのままため息を付く。

魔術と言えど、人里の中全員からピンポイントで特定の人物を探し出すのは不可能だった。

 

「そんな~」

 

「まぁ、見つけたなら、確実に葬ってやる心配するな」

自信ありげに笑みをオルドグラムが見せた。

 

「さっすがオルドグラム!頼りになるー!」

 

「無論だ。我が力がお前には憑いている居るのだからな!」

 

「「ははははははっはっは!!」」

二人が楽しそうに笑い合った。




アイテム紹介①

『偽室錠』
部屋の偽物を作る道具。
部屋のどこでもいい(壁を挟んだ外も可)ので、シールを張りその部屋をコピーさせる。
そして疑似的に空間を作り、ドアノブでそこに入っていく。
入るときにドアノブを外せば、外からは入れなくなる。
部屋をコピーするが、一部屋限定なため、他の部屋の続くドアはあっても機能しない。

オルドグラムはこの道具を物置として使う予定だった。
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