一応今回で大きな山が一つ終わりました。
「ふむ、嵐が来るか……」
オルドグラムが濃灰色に染まる空を見て小さくため息を付く。
幻想郷を覆う雲はもう10日以上もしとしとと雨を降り続けさせている。
強く成る事も弱くなる事もあるがそれでも雨は止みはしなかった。
それどころか最近は風が強く吹き始めている。
「ふむ……」
霊体化した姿で家の屋根の上で胡坐をかいて、雲の様子をじっと見ている。
「ちょっとー!いつまでぼーっとしてるの!?
そろそろ台風が来てもおかしくないんだから、少しは手伝って!!」
小傘が屋根によじ登り、手に持った金鎚と口に咥えた釘を見せる。
その言葉通り、小傘の家には木の板で多少だが補強がされている。
全部小傘が一人でやった事だった。
「……我は肉体労働は得意ではないのだ」
「私だってそうだよ!!っていうか、普通は何も言わないで手伝ってくれるモノじゃないの!?」
「はんッ!これだから……良いか?魔術師は契約で動く。
我はお前が他者を驚かす手伝いをしているのだ。コレ以上何を望む?」
腕を組んでオルドグラムが小傘に語る。
「そんな事言ってる場合!?台風ってすごく怖いんだよ?
お家なんて簡単に飛ばしちゃうんだから!!」
「ふん、我には関係ない事だ」
小傘のセリフを遮って、オルドグラムが手をひらひらと降ると姿を消す。
家の中にあるグリモワールの中へと戻った様だった。
「もぉおおお!!なんなの!!」
余りに他人行儀なオルドグラムの態度に小傘が憤り屋根の上で地団太を踏む。
つるん!
「わわわわわ!?」
足を滑らし、小傘がぬかるんだ地面に尻餅をつき全身が泥だらけになるのをオルドグラムは小さく嗤いながら見ていた。
びゅぅうううう、びゅるううううう!!
ガタガタ、がたがた、ガコン!!ガタガタ!!ガタガタ!!
ヒュルルルるウル!!ガタガタガタガタ!!
深夜――雨や風は治まる所か、どんどん激しくそして強くなっていた。
「そろそろ頃合い……か」
布団で眠る小傘を横目に、オルドグラムが本から実体化する。
黒いハットに、赤黒のマント全身に巻き付く複数の黒いベルト。
腰にグリモワールと銀色のステッキを構える。
「今は眠れ。不安を抱えて……だが明日にはその不安は杞憂だと思うだろ。
我は契約は守る。お前はただ眠っていればいい」
うなされる小傘の頭を撫で、オルドグラムが扉を開けて外にでる。
その瞬間風と横殴りの雨がオルドグラムの体を打ち付ける。
「ふっ『貴様』が欲しいのはコレだろう!持って行くが良い!!」
オルドグラムは自身の腰のグリモワールをベルトから外すと、風の吹き荒れる空に向かって投げすてる!!
その瞬間、極小の竜巻が素早くそして
「案内してもらうぞ、貴様の主の所までな!!」
再度霊体化したオルドグラムの魂がグリモワールに引かれ嵐の夜の中を一直線に飛んでいく。
びゅぅうううう、びゅるううううう!!
ガタガタ、がたがた、ガコン!!ガタガタ!!ガタガタ!!
ヒュルルルるウル!!ガタガタガタガタ!!
再度風の中に身を置き、オルドグラムが周囲を探る。
この雨の中には多少の魔力が含まれている。
よってこれは、魔術に関係した水そしてその雨は何かを探しているというのをオルドグラムは気が付いていた。
風に運ばれ、一冊の本がとある場所にたどりつく。
それはオルドグラムも知っている場所だった。
「魔法の森か――」
再度物質化して、風の中から自身のグリモワールを奪いかえす。
そこは以前来た森とは大きく様変わりしていた。
空を見上げれば月も雲も見えない、雨と風で作られたドーム。
とある一点を囲む様に悠然と周囲をめぐっている。
そしてもう一つは、目の前に積まれた家よりも大きな様々な『物』の集まり。
何か高そうな物もあれば、何でもないその辺に落ちて良そうなゴミまで、様々な物が整頓や使い勝手など全く考えていない風で周囲に積み上げられていていた。
「む?」
オルドグラムが物の山の奥。
何かの扉の様なモノを見つける。
いや、扉だけではない。じっと見るとそれには壁があり屋根があり、煙突があった。
「家か?」
ゴミ屋敷という言葉が浮かんだが、ひょっとしたらあの家も此処に集められた『物』も一つなのかもしれないと思いなおす。
ガチャ――
オルドグラムの目前――家の扉が開き一人の少女が姿を見せる。
黒いウィッチ帽に、白黒のエプロンドレス、そして金色の髪の毛。
「その姿――伊達や酔狂で無ければ貴様も魔法使いか?」
オルドグラムの問に目の前の少女は答えない。
何か口元がかろうじて動くことから、何かを言っていいるのは確かだが雨風の音に阻まれオルドグラムには聞き分けることが出来なかった。
「……だんまりか……構わない。貴様に対して興味はない。
我が欲しいのは貴様が持つ――」
オルドグラム言葉を無視して、その少女がポケットから六角の道具を取り出す。
モノによっては八卦炉と呼ばれるそれは、超火力を生み出す魔力であった。
だが――
「……き、起……ど、う……」
「む?」
その道具が起動すると同時に、自然風ではありえない風の流れをその肌で感じとる。
少女の前に風が凝縮される様に集まっていく。
『プ・ロ・グ・ラ・ム は・つ・ど・う。
アツメル・あつめる・集める』
集まった風は手足の長い人型へと変化していく。
回転し、集まる風が人型を取った姿。
「集めるだと?なるほど……こいつが今回の事件の正体か」
ひゅるるうる!!
人型は唸る音と共に、オルドグラムにとびかかって来た。
それを飛びのいて躱す。人型は近くにあった石と土、それと生えてた木の一部を抉り取って少女の元へと女王に忠誠を誓う騎士の様に戻って傅いた。
「あ、……あ、お」
少女の目の前で、人型が両腕を横に大きく広げた。
コン――!カラッ……パラ、コツン……
土が、石が、そして木が器用に整理され少女の目の前に積む。
「なるほど。『集めた』モノをそうやって続けた結果が
オルドグラムが恐らく少女のモノと思われる家を見る。
不用か必要か、全く気にせず手あたり次第『集めた』と思われる物品の数々。
それらはすべて、目の前のヒトガタに仕業なのだろう。
ひゅるるうる!!ヒュルルル!!
人型の風が、オルドグラムの体を集めようと鋭い体で飛び込んでくる。
その風は様々な物を、削り取ってその体積を増やしていく。
そしてある程度集めると、少女の元へ戻り自らの成果を積み上げる。
「集める物に、区別はなし……そして――」
オルドグラムの視線の先、少女がうつろな目を浮かべて八卦炉を突き出したまま動かない。
「魔力に飲まれたか……さして珍しくない、魔術師の終わりか――うお!?」
その時オルドグラムの前を風が通り過ぎる。
被っているシルクハットが攫われ、風が再び少女の元へと帰っていく。
「む――?」
オルドグラムのその帽子は、石や木の破片で傷つけることなく成果としておかれる。
「なるほど――集めはするが傷つけることも無いのか……ならば!!」
オルドグラムが視界の端に合った、木々の生える間に自らを投げる。
それを追尾して風がオルドグラムを追う。
「我を支えよ!!」
オルドグラムの全身のベルトが、素早く伸び周囲の木に絡みついていく。
腕を前でクロスさせ、飛び込んでくる風を待ち受ける。
「ぐぅ……く!」
ミシミシッ!!
周囲の木が地面から離されそうになる。
『集める』は木さえも回収してしまう様だ。
「?」
少女がうつろな目で、異常を知覚する。
オカシイ。何か変だ。
魔力を奪われ、薄れる意識の中でなおも、おかしな違和感に気が付く。
「な、に……が?」
「ふっ――どうやら、お前は戦いを知らぬようだ。相手の理外を見せる。
それが魔術師の戦いだ。常識という檻を如何に抜け出すかが、重要なのだよ」
吹きすさぶ風の中、オルドグラムが地面に立っていた。
その両足から伸びるベルトはすべて地面に埋もれている。
「……!?」
「地中深く、木の根の様に伸びている。
我を吹きとばしたと思ったか?違うのだよ。
そして――トリックはもうわかっている!!」
オルドグラムが自身のステッキの先端を構える。
「我もプログラムを起動しよう――かつて、我に逆らった妖刀から奪いし力――『切断』だ」
ステッキと魔法使いの間に、隔てるモノは何もない。
コーン!
拾った石をまるでビリヤードの玉の様に弾き飛ばす。
プログラム魔術により、なんの変哲もない石はその小さな破片までもが『切断』する道具としての機能を持つ!!
その瞬間、使用者を失った『集める』の集合体は形を失って、ほどけて消えた。
「ふん、あっけないな」
ベルトを切り離し、オルドグラムが悠然と歩んでいく。
そして地面に落ちた八卦炉を見下ろす。
「……返せ、それは…………私の、見つけた魔法……の……」
雨でぬかるんだ泥に体を埋め、顔にはねた泥をぬぐう事もしないまま魔理沙がオルドグラムの持つ道具に、届くはずのない手を伸ばす。
「違うな――返してもらうぞ。
そう言うとオルドグラムは自身のステッキを振り下ろして、その六角形の道具にたたきつけた。
バキィ!
「あ、ああ……」
魔理沙が目の前でひび割れる道具を見て、呆然と声をもらす。
「――盗んだ力で偉くなった積りか?この力は我が研鑽を積み自らの手で己の物にした術だ。拾ったからといって、小娘が気軽に扱っても良い道具ではないのだ」
オルドグラムは道具の中から、紙きれを取り出すとじっと見つけた。
「我ページの破片よ……あるべき場所に戻るが良い」
オルドグラムの腰のグリモワールに吸い込まれてその紙は消えて行った。
「くっそ!!」
魔理沙が地面に自身の拳をたたきつける。
再度泥水が跳ねて魔理沙の帽子が汚れる。だがそんな事も些細なことだと言わんばかりに拳を強く握る。
「名も知らぬ小娘よ、勉強になったか――?」
「魔理沙だ!!」
「ふむ?」
「霧雨 魔理沙……この森に住む普通の魔法使いだ!!
覚えておけよ、今回は……今回だけは、後れを取ったが次は絶対に
地面に倒れたまま、オルドグラムの啖呵を切ってみせた。
それを見て一瞬だけオルドグラムは固まった。
この相手は自身のしたことに対して、ほとんど悪びれることなく『次』を意識しているのだ。
無意識にオルドグラムの喉が鳴っていた。
「くくく……良いぞ、良いぞ。その欲にまみれた目はとても良い……
欲望には力が宿る。欲しいと思う感情には何より大きな力が宿る。
力を欲して、再び我の前に立って見せろ!その日を楽しみにしてやるぞ?
そう言うとオルドグラムはマントを羽ばたかせて飛んで入った。
「まだ名前を覚えることすら、値しないってか?
良いぜ、その傲慢な態度を絶対見返したやるんだぜ!!」
魔理沙が何処か気分の良さそうな顔で、泥だらけの拳を突き上げた。
「……って!おい、おーい!!せめて助け起こす位はしても良いんだぜ!?」
魔理沙の声が遠く、一人寂しく森の中に響いた。
「ふぅ……少しばかり疲れた……」
小傘の家へと戻って来たオルドグラムが、自身のマントについた雨粒を払いながら家の扉を開ける。
「あ、オルドグラム!?ちょっと、一体どこ行ってたのよ!!
昨日も台風対策の準備を手伝わないし!!どうせ勝手に遊びに行ってたんでしょ!!
まったく!いっつも好き勝手して!!もう少し協調性を持って――」
ギャンギャンとわめく小傘の声にオルドグラムが耳をふさぐ。
「うるさい」
「あっさりー!?って言うか、全く聞いてない!?
一応私たちはお互い助け合うべき……」
「今回は助けてやったぞ?台風とやらも終わった」
小傘の言葉をオルドグラムが断ち切った。
「それはただの自然現象でしょー!?」
「腹が減った。朝食は?」
「あ、今日はお味噌を変えて――ってちがーう!!」
小傘の空しく叫ぶ声を聞きながら、オルドグラムは振り返って雲の合間から見える、久方ぶりの太陽に眩しそうに眼を顰めた。
何も言わず、守ってくれるオルドグラム。
彼は約束は果たしますがそれ以外は結構冷酷です。