あたりは真っ白な銀世界。この俺、音村楽は社員旅行で北海道にきている。それは、ゲーム制作を一本終えるごとに行われる一大イベントである。
「おい、音村。お前スキー滑れんの?」
朝食を食べ終え、今は先輩である菅原さんと一緒にスキーをするべく外へと出ている最中だ。風はあまり吹いていないからか、厚着しているからかあまり寒くない
「どうっすかね。俺、スキー初めてなんで……」
「俺もだわ」
かれこれロープウェイで山を登ってきてから30分くらい滑らずに二人で立ち止まったままだ。しかも菅原さんと俺以外の周りのお客さんは躊躇わずにスイスイと雪の上を滑り降りて行く。そこにはなんと情けない男二人の姿があるに違いないだろう
「菅原さん先行ってくださいよ、先輩なんでお先にどうぞ」
俺は手のひらで菅原さんに先頭で滑る様促すのだが
「お、俺を毒味に使うなよ!ってかお前確か運動神経良かったよな?」
と、わかった様な口ぶりで菅原さんは俺の背中を押し始める
「まぁ……たしかに成績は体育が一番良かったですけどね」
それをなんとか踏ん張って耐え、俺のその言葉を聞いた瞬間どんどんと背中に加わっている力が大きくなっていく
「はい。もうこれ行くしかねぇ」
「え?嘘っすよね?」
「いくぞー!」
「はぁぁあ!?」
ドンッ‼︎と遂に完璧に押し出され、俺は重力に身を任せ物凄い勢いで雪の上を駆け下りていく。危ないのでみなさんは菅原さんの真似はしないでいただきたい。マジで。
滑り出した瞬間から、俺は風を切り髪の毛がぶわっと逆立つ。先程までまったく寒くなかったのだが、急に凍えるような寒さである。体感温度というやつであろうか。
でも、初めてにしては意外と滑れるもんだ。神様はおれに勉強できない代わりに運動神経にステータスを振ってくれたらしい。それに結構気持ち良い。
坂道が終わり俺は減速しながら後ろを振り向く。
「わああああ!?ど、どいてー‼︎」
するとなんと、物凄い勢いでミニマムサイズの人影がこちらへ向かってくるではないか。
風が急にシンと止んだ。
「涼風!?マジかよ…!」
俺は、咄嗟に避けようとするが、スキーの板が俺の移動を阻害して当たり前のごとく間に合わない。
ドンッ。
しかし運良く上手く受け止め、余りぶつかった時の衝撃は感じない。しかし、俺は涼風を抱えてそのまま後ろへ倒れ込んでしまう
その時、ゴンと鈍い音と共に頭に衝撃が走る。雪と言っても別にふかふかな訳ではない。普通に硬い。
「す、すすすいません‼︎大丈夫ですか……って音村君!?」
なんと、涼風は今の今まで事故った相手が俺だとは気づいていない様子であった。後に手をわたわたと動かしながらごめんねとあわてて俺から離れ、謝罪の言葉を連呼する
「涼風こそ、大丈夫かよ?」
「私は全然大丈夫……音村君は?痛いところとない?」
確かにタンコブは出来ただろうが、大事ではおそらく無い。でも涼風は若干泣きそうになりながらそう問いかけてくる
「俺は大丈夫だ。それに俺こそごめんな、邪魔だったろ」
そんな涼風を見てなにか俺は心がキュッと締め付けられて、すかさず謝った
「……本当?」
「いや、本当本当!マジで大丈夫だぞ?」
打撲で頭が痛い。でも平然を装ってしまうし、俺がちょっと痛みを我慢していれば
「よかった……!本当にゴメンね」
と、涼風は安堵の表情をみせ緩く笑顔を見せてくれる。痛みを我慢する甲斐があるってもんだ。まあ、大したことは無いのだけれど。それに、何よりこんな広いスキー場で涼風に会えたのだから怪我をしたとしても、むしろ運が良位と言っていいだろう。今なら背中を押した菅原さんに感謝してやってもいい。
というか、菅原さんったら降りてこないし……あの人チキッたな。
「涼風、今一人なのか?」
「ううん。今先輩にスキーを教えてもらってるんだ。そしたら私が下手なばっかりに音村君に衝突しちゃって」
涼風は頭をかきながら若干照れ気味にそういってあたりを見渡す。すると誰かをみつけたらしい彼女はなにやら手を振り出し大声を出した
「あっ!ひふみ先輩ー!こっちでーす!」
「あ、青葉ちゃん……!大丈……夫?」
すると、髪が赤茶色のポニーテールな女の人がこちらへ向かってくる
「キャラ班の先輩か?」
俺は涼風に耳打ちでそう問いかけた
「あ、そうなんだ!紹介するね。こちらは先輩の滝本ひふみ先輩!」
すると、流石はコミュ力の塊である涼風はすかさず初対面の俺たちに挨拶を促した。
「う、うっす!こんにちわ。自分、音響班の音村と言います」
俺はすかさず頭を軽く下げるのだが、目の前の先輩は急にあたふたし始める。
「お…音村……!?」
と何故か俺の名前を聞いて驚いた様な仕草で俺と涼風の顔を交互に見る
「ど、どうしました?」
すると、先輩は涼風の肩をポンと両手で叩き
「青葉…ちゃん……ファイト……‼︎」
とガッツポーズをとる。その姿に俺は首を傾げる。
「ひ、ひふみ先輩!?」
そのまま先輩は何かしらの挨拶も無しに何処かへ走り去ってしまう。
「……変わった人だな、どうしたんだろうな急に」
「……あはは、お手洗いらしいよ」
「そっか」
冷たい風が頬にあたる
そしてお互いに顔を見合わせた。後にお互いに深いため息が漏れた
「確か、あっちに休憩所がある」
俺は指をさしていった、それに涼風はクスリと笑って
「そうだね、ちょっと休もっか」
その後、何度かおれは涼風のスキーチャレンジに付き合うも彼女が上達することはなかった。一見万能型の彼女にもまた一つ欠点が見つかったのだった。そんな涼風もまた可愛くて……やはり、なんというか守ってあげたくなってしまうんだよな彼女を。
*
「うぅ……今日のスキーは散々だった」
私は自分の運動神経の無さを恨む。音村君には衝突しちゃうし、ひふみ先輩も気を使ってくれたんだろうけど急に居なくなっちゃうなんてあんまりだ。オマケに結局滑れないまま1日終了してしまった。
お風呂から上がり、私は部屋へと戻る。八神さんと遠山さんは外に飲みに出かけてしまって今部屋には私を含めはじめさん、ゆんさん、そしてひふみ先輩のいつもの4人。
「あれ?どうしたの青葉ちゃん浮かない顔して」
はじめさんは私のどんよりとした雰囲気に気づき声をかけてくれた
「あはは、スキーが思うように上達しなくって」
私は軽く頬をかきながら恥ずかし気にそう答える
「もしかして……音村君、スキー教えるの……下手……だったの……?」
ひふみ先輩は私の肩をちょんとつつき、首をかしげる
「ひ、ひふみ先輩!その話はここじゃなくて後ででお願いします!」
私は口の前で人差し指を立て、小声でひふみ先輩に訴えかけた
しかし勿論、ゆんさんとはじめさんにはひふみ先輩の声が耳に届いていた。二人ともこちらへと近づき
「なんやー?青葉ちゃん、なんそれその話私も聞きたいわ」
「い、いつの間にそんなイベントあったの青葉ちゃん!?」
「い、いやー。その……」
早くこの場から逃げ出したい。旅行の宿で女の子がするものと言ったら恋話が定番。ネタにされ、けちょんけちょんにいじめられるのは私だ。どう考えても数の利と持ちネタの数で勝ち目はない。
ここで私は、ある事を思い出す。実はこの青葉、トランプを持参しているのである。正直、修学旅行じゃないんだからやらないだろうとは思っていたけどもしかしたらと思ってつい持ってきてしまったのだ。
ここでどうにかトランプゲームの話題を出してどうにかこの流れを有耶無耶に……
「ま、まだ恋話は早いですよ!それは寝る直前布団に入りながらする話です‼︎どうですか?今日実は私トランプを持参しているんです、良かったら皆さん遊びませんか!?」
そんな私の必死の抵抗に二人の先輩は顔を見合わせた。
「はは、ゴメンね青葉ちゃんちょっと私達しつこすぎたかも」
「うちもや、ゴメンな?」
すると二人は軽く微笑みながら謝罪の言葉をかけてくれる
「い、いえ!そんなこと!た、ただ私はトランプゲームをや、やりたいなって!」
しかし、私は頑固に話をそらすつもりはありませんでしたと言わんばかりにそう言った。
「そっかそっか、そうだよね!トランプしよっか!青葉ちゃんは可愛いなぁ……‼︎」
それにはじめさんは私を見透かしたかのようにそう言った。さっきの今なのに絶対にバカにされている気がする
「でもな青葉ちゃん、こう見えて私達も応援しとるんや。力になりたいんや。もしなんかあったらいつでも相談しいや?」
「ゆんさん……‼︎」
「わ、私……も……!」
「ひふみ先輩‼︎」
私は、てを顔の前で組んで感激してしまった。なんか、心があったかくなった。
「じゃあ、ここで提案なんだけど」
すると突然、はじめさんが注目を集めた。そしてみんながどうしたのと視線を送ると
「トランプは人数が多い方が楽しいし、青葉ちゃんが良かったら音村君をこの部屋に呼んじゃわない?」
「お、音村君を!?」
私はつい大声で叫んでしまった
「そう!それに八神さん達どうせ遅くまで飲んでくるんでしょ?」
「いや、でもそれは青葉ちゃんというより音村君がかわいそうやで?私達とはあまり仲良くあらへんのやし」
「え?別にトランプやれば自然に仲良くなるでしょ?」
ゆんさんの指摘にはじめさんはキョトンとしている。こういうところは流石はじめさんだ。
私も、はじめさんが良かれと思ってやっていることは知っているし、何より恥ずかしいけどそんな先輩の提案がすこし私は嬉しかった
「……そうですね!じゃあ私、ちょっとメール送ってみます!」
(みんな……楽しそう……だから…言えない……けど、私は……音村君と上手く喋れる自信……無い……)
私は音村君にお誘いのメールを送る。私は不思議といつもの様に文章を入力するのに悩まずに済んだ。
「これで良し!」
先輩方がいるおかげで緊張は和らぐが、その分恥ずかしいし、勿論少しは緊張する。すると、少しばかりお花を摘みにいきたい気分にもなってくる
「すいません、皆さん。私ちょっとお手洗いに……」
私はその場を後にする。その時スマホは不気味な程に静かだった