ミュージック   作:かなりかならま

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新年度でドタバタ忙しかったですが、3ヶ月ぶりに舞い戻ってまいりました。誤字が多いかも知れませぬ


「みんないるぞ」

社会人になってから2度目の春。私の上司八神さんの

 

『お花見しよっか』

 

という一言から企画されたお花見大会が今日の夜に近くの公園で開催される。満開の夜桜に囲まれてお喋りをしながらご飯を食べる。私はとても楽しみにしていた。

 

キャラ班の先輩達とその公園へ少し早めに行き、準備をお手伝いした後のことである。

 

「ふぅ!場所取り完了!」

 

はじめさんが背伸びをして、そよ風に当たっている中続々と同じチームであるイーグルジャンプの社員の方々が集結していく。私はその集まってくる人々を淡々と眺めていた。まるで、誰かを探すかのように。

 

「お疲れ様……青葉……ちゃん」

 

「ひふみ先輩、お疲れ様です」

 

ひふみ先輩は私の肩をポンと叩きねぎらいの言葉をかけてくれた。すると、ひふみ先輩は何も喋らずにゆっくりとある方向を指差した。

 

「え?」

 

一体何かと思いひふみ先輩の指差す方向に目線を移す。

 

「あっ」

 

そこには音響班、音村楽君が両ポケットに手を突っ込みながら音響班の先輩と話している姿があった。

 

「いか……ないの……?」

 

ひふみ先輩は、顔を赤く染めてそう言った。そんな顔をされたらこっちが恥ずかしくなってしまう。

 

「あっ、いえ。今日はひふみ先輩達と楽しみますよ!」

 

すると、ひふみ先輩はびっくりしたような顔をした後急に震え出し

 

「も……もしかして……喧嘩でも……しちゃったの……?」

 

「いやいやいや!違いますよ!?」

 

安心したのか、ひふみ先輩は安堵の溜息を着く。ひふみ先輩の背後からいきなりゆんさんがニュッと顔を出した

 

「わぁっ!?ゆ、ゆんさん!?」

 

そんなゆんさんに私は驚いてしまい、後ろへたじろいでしまう。

 

「青葉ちゃん、私達のことは気にせずに行くんや」

 

「え、今日は先輩方と……」

 

「行くんや」

 

「でもちょっと恥ずかしいと言うか……」

 

「行け」

 

「は、はい……」

 

私はゆんさんの謎の気迫に思わず返事をしてしまった。確かに、メールはしているもののブースが違うので平日はあまり会えていない。でも、今日は楽君にだって先輩達がいる。迷惑にならないだろうか。それに、みんなから見られている気がしてなにか恥ずかしい。偶々楽君に会社ですれ違っても恥ずかしくって付き合う前のように声をかけられず、手を振る程度しか最近できていない。そんなことを考えていると

 

「別に、ずっと同じ人とお花見する必要はないんよ?私達のお相手は後半戦にでも頼むよ〜!普段余り会えへんのやろ?ならいってきいや!私たちのことは気にせんでええんよ」

 

「は、はい!」

 

親指を立ててニッコリと笑うゆんさんに私は今度は大きな声で返事をした。

 

 

 

 

 

 

大タイトルフェアリーズストーリーの開発が終わり、次のタイトル決定まであの忙しかった日々とは一時休戦である。就業時間になるとぞろぞろと先輩達が席を立っていく。俺もそれに乗じてお疲れ様ですという言葉とともに席を立つ。今までならばそのままエレベーターへと直行していたのだが今日は違う。俺はある理由で近場の公園へと向かっていた。

 

「いやぁ、新チームでお花見なんて一体誰が企画したんだ?」

 

俺の上司である菅原さんは両手を頭の後ろに回しながら面倒くさいと言わんばかりの表情でそういった。

 

「別に良いじゃないっすか。偶には」

 

そうやって俺はまあまあと先輩をなだめる。今回のお花見は新作タイトル開発チーム、つまりはフェアリーズストーリ3開発チームでのイベントでチームメンバーはほぼ強制参加なのだ。なんでもディレクターから大切な発表があるとのことだ。

 

「でも、花見ってそんな大勢でやるもんじゃないだろう?それに他の班の人とも一緒だしなあ。」

 

「菅原さんにしてはそんなこと言うの珍しいですね」

 

「花見とかは他人に気を使わずパーッとやりたいわけよ俺は‼︎」

 

声を若干荒げる菅原さんに対して俺は段々と近づいてきた公園に咲いている満開の桜に少々見惚れていた。夜桜ってこんなに綺麗だったろうか。

 

「最近音村お前なんつーか、雰囲気変わったよな」

 

そんな俺を見ながら菅原さんは意味不明なことを聞いてくる。

 

「はい?いや、いつも通りですよ」

 

「なんか、明るくなったわ」

 

俺は鼻で笑って

 

「なんすかそれ」

 

自分の口では決して言わないが精神的には確実にその実感はあった。俺の中で色々と変わっている。

 

「彼女ができたからかよ?」

 

そう、俺には今お付き合いさせて貰っている子がいる。同じ会社に勤めている涼風青葉だ。先輩にはこの件についてかなりお世話になった。

 

「……違いますよ。でも確実に青葉の影響ですかね」

 

照れを隠すようにわざといつもよりサラッとした口調で俺は言う

 

「ほら、入社当時のお前からは絶対聞かないような言葉だ。でも”おかげ”とかじゃなくて影響とか口ではいっちゃうとこはまだまだお前らしさが残ってやがる」

 

しかし、わかったような口ぶりで菅原さんはやれやれと手のひらを上に向けながらそう言った。

 

「作曲……昔思い描いていたのとは少し違うけど、俺が子供の時からやりたかった仕事です」

 

ここは、俺が今いる場所は音楽が主役の世界では無い。

 

「どうしたいきなり?……まぁ、作曲ってもBGMだもんな」

 

菅原さんは俺の言葉を聞いて苦笑いをみせる

 

「みんな絵やストーリーに夢中ですからね。BGMはそれらを完璧にする隠し味、俺はこの仕事結構好きですよ」

 

でも俺はそれに純粋な笑みで返した。

 

菅原さんは、びっくりしたような表情を見せた後クスリと笑ってその場を去る。気づけばもうそこは公園で、大きな桜の木の下にブルーシートがひかれていた。気持ち良い風が吹いている。花見なんていつ以来だろう。そんなことを考えていると俺の背中を誰かがチョンチョンと突いてきた。誰だ?と振り返ると誰の姿も無くて、はっとして目線を少しばかり下へと向ける

 

「今日も仕事お疲れ様!」

 

笑顔でそう言ってきたのは青葉であった。菅原さんは多分青葉が近づいてくるのが目に入っていたのだろう。気を使ってくれたのだろうか

 

「おう。青葉もな」

 

「うん!ってそれより楽君今、突いたの私じゃないと思ったでしょ」

 

登場早々青葉は悪戯な顔でこっちをみてくる

 

「え?」

 

「最初目線が明らかに私から逸れてました〜‼︎小ちゃくて悪かったですねっ‼︎」

 

青葉は冗談交じりにあっかんべーっと舌を出している。俺はそんなつもりじゃないというように手を横に振る。すると俺の少し困った顔を見て満足したであろう青葉は後ろで手を組んで俺に背を向け歩き始めた。その後くるりとこちらへと振り返る。

 

「まっ。冗談はこの位にしておいて、どう?私と一緒にお花見しない?」

 

夜桜とともに風になびいて舞うその彼女の髪はとても綺麗で思わず魅入ってしまいそうだ。当たり前のように俺を誘ってきてくれて、なんか嬉しかった

 

「今日俺饅頭買ってきたんだ。食おうぜ」

 

ブルーシートを親指で差しながら俺は言った。

 

 

今回の花見は急に企画されたもので特ににイベントも無いし、各自で楽しんでくれというものらしい。

 

「キャラ班の人達とはいいのか?」

 

「う、うん!実は色々とありまして……」

 

青葉はなぜかともじもじとしていて、下を向いてしまいなかなかこちらを向かない

 

「青葉お前先輩達に茶化されたりしたんだろ?」

 

「なななんでそれを!?」

 

「会社のみんなもいるのに、さっきはいつもよりほんのちょっとだけハイテンションだったからな」

 

どうやら図星らしい。普段の青葉は会社では基本的に大人しい、おそらく気恥ずかしいのだろう。今でも班が違うから平日はなかなか会えないし偶にあった時でさえ手を振る程度だ。毎日、メールは相変わらず続いてるんだがな。

 

「そ、そうかな」

 

ほおをかきながら青葉は目を横にそらす。やはり先ほどのあっかんべーなどの行動はちょっとした照れ隠しってやつであろうか。なんだよ、可愛いやつめ。

 

「まぁな」

 

次に、なぜか青葉は急にムスっとした表情で

 

「でも、楽君は相変わらず声のトーンは低いままだよね」

 

とまるで私と会えて嬉しくないのとでも言わんばかりに、俺の顔を覗き込みながらそう言った。

 

「おいおい待ってくれ。俺は楽しいよ」

 

俺は、青葉といるのにローテンションなんかでは決してない。これでも、ハイだ。

 

「ん!?何が楽しいの?」

 

すると青葉は俺にねぇ、言ってよ。とグイッと身体を寄せそう聞いてきた。まったく、コイツはすきあらば攻めにまわる。この小悪魔め。そんな顔で俺は青葉を睨みつける。青葉もしてやったりという表情でこちらを睨み返す。しかしらちがあかないので溜息をついて

 

「お、お前と花見するのがだよ」

 

俺はそう言って斜め上へと目を反らす。

 

「えへへ、楽君照れてる〜」

 

「別に、照れてない」

 

「楽君って照れてるときや恥ずかしいときは大体目を反らすんだよね〜」

 

得意げにそう言う青葉に俺は反論する気にはなれなかった。する必要もなかった。

 

「っ……」

 

俺は頭をかいて、青葉の肩を掴んで自分から遠ざける。

 

「みんないるぞ」

 

青葉に聞こえる小さい声で俺は呟いた。

 

「……恥ずかしいの?楽君?」

 

ニヤニヤと青葉は問いかけてくる。それともまた照れ隠しで強がってるのだろうか。先ほどから青葉は強気な態度である。

 

「まぁ、少しは……そう言う青葉はどうなんだよ?」

 

俺がそう聞き返すと

 

「私も、ちょっと恥ずかしいかな。……でも嫌じゃないよ」

 

クスリと軽く微笑みながら言う青葉を見て俺も自然と笑みがこぼれてしまった。

 

 

「……楽君、ちょっとあっち行かない?」

 

花見の中盤、少し不安な表情でそういった青葉が指をさしたのはなにやら俺が顔を知っている先輩方の方向である。キャラ班の先輩達だ。

 

「……いいよ」

 

「ありがと。ごめんねワガママ言って」

 

「大丈夫。青葉らしいな。みんなでお花見がしたいんだろ?」

 

「う、うん!」

 

青葉は立ち上がり、歩き出したかと思えば振り返って

 

「あ、あの……音響班の人達は?」

 

「気にしなくていいよ。男なんてそんないつも一緒に居ないって」

 

菅原さんだってあっちの方で俺のあまり知らない女の子と一緒に飲んでいるしな

 

「大丈夫だよ。みんな優しいから!」

 

「大丈夫だよって、別にビビったりなんかしてないぞ……」

 

ワイワイと明るい声が俺たちを包む。最初に目があったのは、社員旅行で出会ったあの先輩であった。すると、先輩はビクッと肩を震わせ、辺りをキョロキョロとし始めた

 

「あ、あの……の、飲む?」

 

すると、先輩は日本酒の瓶を両手で進めてきた。俺は、すいませんと言いながら近くにあったコップにお酒を注いでもらう。しかしどうしたものか、先輩の名前が思い出せない

 

「先輩、お名前なんていうんでしたっけ?」

 

「え!?あ……た、滝本…です……」

 

滝本さん……か

 

「あっ、すいません。上では無く下のお名前です」

 

「あ……ひ、ひふみ……滝本……ひふみ……です……」

 

危なかった、実は挨拶しようにも先輩の名前が出てこなーー

 

「とか言っちゃって楽君、実はひふみ先輩の苗字すら……もごっ!?」

 

俺は即座に青葉の口元を塞ぐ。なんでこう変なとこで鋭いのだろうか。せっかく失礼のないように誤魔化したというのに

 

「そうでしたか、ありがとうございます。因みに僕のことは?」

 

「お、音村君だよね?」

 

「はい、改めてよろしくお願いします」

 

「う、うん……」

 

ぺこりと頭を下げた後、青葉の口元から手を離す。

 

「ぷはぁ!?ちょっと楽君!」

 

青葉がプンスカとこちらを見つめる。そんな青葉に俺は口に人差し指を立て

 

「黙ってろ青葉……!」

 

と小声で叫ぶのだった。その横から差し出されたのはマグロとサーモンが乗った紙皿。差し出された方向を振り向くとそこには八神さんの姿が。

 

「ほれ音村。食え」

 

「あ、ありがとうございます」

 

俺が紙皿をうけとると八神さんは俺と青葉の間に座り

 

「私、実は結構前から二人が両想いなんじゃないかなぁ〜?って思ってたんだよね!」

 

「ちょ!?八神さんいいですよそう言う話は‼︎」

 

得意げな顔でうなづきながら急に話をぶっ込んでくる八神さんに青葉はワタワタとしたながら話をやめるよう促す。俺は黙って寿司を頬張り話を聞いてない振りをしていよう。

 

「ちょっと私、こういうのに鋭いんだよね〜」

 

八神さんは、俺たちをからかいたくてしょうがないのか、ただ酔っているだけなのか……いや、これは酔っているだろう。

 

「コウちゃんに限って鋭いなんてことはあり得ないわ」

 

そこに現れたのは、紫色のショートボブの先輩だ。偶に見かけるが、俺は喋ったことがない。

 

「え、りん!そんなこと」

 

「コウちゃんは……寧ろ鈍いよ……」

 

八神さんの反論も滝本先輩は一刀両断であった。

 

「ひふみんまで!?冗談でしょ?」

 

「いや……にぶちん……だよ……」

 

八神さんは涙目になりながら青葉の肩をガシッと掴む

 

「あ、青葉は?青葉はどう思う!?」

 

「えぇ!?」

 

うわっ……こんな面倒くさい上司にはなりたくない。下手したら、酔った菅原さんよりも……

 

「ら、楽君……!」

 

青葉は助けてと目線をこちらへと向けてくるので、俺は八神さんの肩を叩き

 

「俺は、八神さんの観察力の鋭さは凄いなと思いますけどね」

 

すると、八神さんはパァっと顔を明るくしておれの肩に手を回す

 

「おぉ!音村はわかってくれるか!ほらほら!飲むぞ!」

 

「八神さんほどほどにしましょうね」

 

そんな時だった。パンッ!と誰かが手を叩き俺たち社員の注目を集めた。葉月さんである。

 

「お楽しみのところ悪いが、みんなに聞いてほしいことがある!」

 

 

葉月さんの話内容は次回作の企画が決定したということが1つ。そしてもう一つが

 

「キャラコンペって私も参加していいんですか?」

 

「もちろん、そしてそのコンペで採用された人が次回作のキャラクターデザイナーだよ」

 

キャラコンペ。そのままの意味でキャラクターのコンペティションだ。そしてキャラクターデザイナーとは青葉の小さい頃からの夢だ。

 

俺が横に振り向くと、目を輝かせている青葉の姿があった。目の前にチャンスがある。掴もうと手を伸ばす彼女を俺はずっと応援してやりたい。

 

『クスッ。ありがと。見ててよ!叶えてみせるから!』

 

1年前くらいに屋上で一緒に飯を食べたあの日のことを思いだした。

 

ずっと見てたよ。いや

 

「見てるよ。青葉」

 

「……?クスッ。ありがと」

 

 

 

 


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