ミュージック   作:かなりかならま

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「そもそも”夢”ってなんだ?」

「夢…か。」

 

涼風と飯を食ってから彼女の印象が少し変わった。なんか、ビックリしたのだ。俺より年下で、高卒で、なのに凄いしっかりしている。ただ漠然と音楽関係の仕事に就きたいと思っていて入った場所はゲーム会社だった、なんて言う俺とは大違いだ。なんか、こう…恥ずかしさすら感じられた。

 

俺には夢はない。極論を言ってしまえばもう叶った。先程言ったように音楽関係の仕事へと就くことができた。だから無い。ある日帰りの電車を待ちながら駅のホームで黄昏ながらそんなことを思っていた。

 

夢、夢…7年前くらい前、丁度俺が中学生の頃だったかな?丁度将来を考え始めるやつも多くなる頃、道徳の授業で《将来の夢》を題材とした作文を書く時間があった。

 

もちろん俺には夢なんて無かった。

でも、その時間を通して夢について考えた。何故か手汗が凄い勢いで吹き出した。時間もあっという間に過ぎた。

 

『よしっ。』

 

俺は、もう言うまで無いだろうが音楽が好きだった。作文の内容は、人々に感動してもらえるような曲を作りたいと書いた。あまりにも具体性には欠けてはいるが作文としては自分なりには力作であった。漠然と自分の夢を綴った。

 

しかし…数日後

 

『音村、後で少し職員室に来なさい。』

 

『…?ハイっす。』

 

呼び出された理由はその時はまだわからなかった。なにか頼まれごとかな?その程度の気分で職員室へと向かった。

 

しかし、そんなことは無かった。

 

『音村。なんだね?この作文は?』

 

『…?将来の夢です。』

 

『はぁ…みんな、真剣に書いているのになんだね君のは?皆んなに感動している様な曲を作りたい?ふざけているのか?』

 

教師は俺に怒る、と言うよりは呆れた様な口調で説教を始めた。しかしその時俺は一体なんの説教をされているかわからなかった。今ならなんとなく説教くらった理由も分かる。でもその時はなんの説教かはわからなくても、その説教を理不尽極まり無い様に感じたのをよく覚えている。

 

『他の生徒は、夢を持ったきっかけを書いて、将来どんな仕事に就き、何をしたいかをしっかり書いているよ?なのに、君は…趣味と仕事は違うんだよ?』

 

意味がわから無かった。まず将来の夢=将来就きたい職業。と言う大前提が俺には理解出来なかった。教師の言動も俺の将来のことを考えてのことだとは思う。でも、なんて言えばいいかわからなかったが

 

『それは違うだろ。』

 

そう思った。その後少し怒鳴られてしまった。実は声に出ていたらしい…

 

家に帰ってこの出来事を親に話した。たぶん我慢できなかったのだろう。早くこの不満を誰かと共有してほしかったのだ。

 

『あらあら、それはちょっと酷いわね…』

 

親はやはり味方であった。少し心が軽くなった気がした。しかし。

 

『でも…あんた今の時代で作曲家は大変よ?あんたが音楽を好きなのは知っているけれど…夢なんて見ていないでとりあえず勉強頑張りなさいね?大事なのは今よ。テストもうすぐでしょ?将来安定した職業に就けないわよ〜?』

 

母は冗談半分で言っているとはわかっていた。勉強ができないのも事実。大事なのは今。わかる。それに俺の将来を思って言っているんだ。でも俺はこの言葉でトドメを刺された様な気分だった。

 

当たり前だろう?将来の夢を作文に書けと言われたのに、最終的に夢を見るな。と言われてしまったのだ。まず、極論夢なんだから何書いてもいいだろうに…皆んなはなんで夢=なりたい職業(安定している。)という世の中の常識にとらわれているんだろう。

 

 

 

ん?ちょっと待てよ?まず安定してるってなんだ。完全なる安定なんてないだろ。

 

 

いやまず、それ以前に…

 

 

 

 

「そもそも”夢”って…なんだ?」

 

 

 

 

「どうしたの?独り言?」

 

「えっ?なにが…って涼風。」

 

どうしたの?という声に反応して横を向いらそこには同期、涼風の姿が。まじか、涼風も電車通勤なのか!?いままで駅で一回も会ったこと無いから知らなかった…ん?というか独り言って?まさか、声に出てたのか!?

 

「うん。お疲れ様。音村君も電車通勤だったんだね。」

 

「お疲れ。ま、まあな。」

 

毎度の事だが、なんか目を合わせられない。緊張しているからだろうか?

 

「へぇ、始めて知ったよ。言ってくれれば良かったのに…」

 

「ハハ、そんなこと言ってどうするんだよ。」

 

「え!?い、いやぁ…どうするんでしょうね?」

 

何故、涼風のやついきなり疑問系で敬語なんて使ってんだ?まあそれは置いといて、そうか…”同じ”電車通勤か。なにか共通点があるってだけでこんなに心が躍るもんなのか。凄いな恋って言うのは…

 

そのことを思っている間に電車が到着した。涼風が入ってから奥の席に座ったので俺は向い側の席に座る。涼風の両隣は空いているのだが、やはり距離感を間違えそうで怖いと理性も本能も言っていたのだ。仕方が無い。ただ、後悔していないと言ったら嘘になる…しかし、今更立って隣に座るなんて無理に決まってる。

 

「ねぇ。」

 

電車が走り出し、時間も遅くこの車両には俺たちしかいない。少し時間が経ち静かな車内の中で涼風が口を開いた。

 

「なんだ?」

 

「なんで、そっちに座ったの?」

 

少しふてくされた様に彼女は言った。

 

「なんだよ。その質問。別に何処座っても、いいじゃん。」

 

「い、いやそうだけどさ。なんでわざわざ遠くに座るのかなって…」

 

自分が避けられた。とでも思ったのだろうか。なにか涼風がちょっと不機嫌にみえる。

 

「遠くでは無いだろ。あっ、それにこうやって向かい合って座れば話しやすいじゃん?」

 

ダメか?

 

「…」

 

「どうしたの?急に黙って。」

 

「…私は絶対隣同士の方が話しやすいと思うけどな?」

 

「えっ?」

 

まって、それってどういう …?隣に座れ、とでも…?そして俺が素っ頓狂に反応したからか涼風は少し考えてから

 

「ごめん…やっぱり今の無し!うん。このままの方が話しやすいよね。」

 

と前言撤回。あぁ、まあそんなわけ無いっすよね。…クソっ。耳が熱い。顔、俺の赤くなってないだろうか。

 

「そうだな。」

 

「うん。」

 

時間は経ち気付けばあと一駅で降りなければならないところまできていた。涼風もまだ降りない。家あまり近く無いんだな。

 

「涼風、いきなりだけど質問いいか?」

 

そう電車から降りる前にに聞いてみたかったことがある。

 

「あ、うん!いいよ。」

 

「”夢”ってなんだと思う?」

 

「えっ?つまり?」

 

「うまく言えないけど…夢の定義っていうか、なんというか…」

 

「うーん…人それぞれじゃない?…って!これじゃ答えになってないよね。アハハ…ごめん。」

 

そう言いながらポリポリと頬を掻きながら笑う涼風をみて、俺は何を悩んでいたんだろうって思った。

 

「いやいや!いきなり変なこと聞いてごめん!なんか…俺がバカだっただけだ。」

 

「…?」

 

 

価値観なんて人それぞれで夢も人それぞれ、夢は自由なのだ。自分にとって夢が他に当てはまるかといったら全くの否。その証拠に作曲という嘗て趣味だったことが今俺の仕事になっている。昔思い描いたイメージとは少し違うものの、俺は今作曲家だ。

 

一番世の中の常識に囚われていたのは俺だったらしい。

 

 


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