ミュージック   作:かなりかならま

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「ごめん」

有休消化。それは実質社会人にとっての夏休みである。製作中出会ったゲームはついにマスターアップを終えてあとは発売を待つのみであった。俺が振られた一番大きい仕事は”犬村”の通常BGMだっただろうか。あれには何度かダメだしされたりボツがあったりで大変であった記憶がある。僅か半年弱であっという間であった。しかし、いくらもとの趣味が作曲だといってもあきらか仕事一筋という性分ではない俺はこの有休消化を会社のことは忘れ3日目にして家から出ずにずーっとゴロゴロとして過ごしていた。

 

「なんか、食うか。」

 

朝から何も食べずに布団の上でケータイをいじっていたらもう昼過ぎだ。俺は冷蔵庫から牛乳を取り出しそれをコップへと注ぎ飲み干した。

 

「はぁ……」

 

一人の部屋でために息が響く。仕事の事は忘れてたのに気づけばあいつのことを考えてしまう。

 

実はその自分の想い人には好きな人がいるらい。ついこの前発覚したことである。冷静に考えれば別になんら不思議ではないのであるが、最初それを涼風から聞いたときには少しばかり動揺してしまった。

 

この場合どうなるのだろうか。失恋という事になるのだろうか。

 

「もしも、それが俺だったらなぁ。」

 

そんな妄想もしないと言ったら嘘になる。しかし、あまり期待もしていないのも事実だ。実際高校時代にそういう自惚れたやつだって見てきたし、基本涼風は誰にでも優しい。俺はそんな彼女が好きで嫌いでもある。そもそも少なくとも俺だったら自分の想い人の前で好きな人がいますなんていうカミングアウトは出来ない。

 

今思えば、最初先に話しかけてくれたのは涼風。昼屋上に行こうと言ってくれたのも涼風、飯に誘ってくれたのも涼風。東京ゲーム展で一緒に行動しようと言ったのも涼風。ちょっとは意識してくれたりしてんのかなとも思ったりもした時もあった。しかし俺は受身ばっかで、今まであったことといえばただの同期と言ってしまえばそれで済むような出来事ばかりだ。

 

まぁ、それも悪くないかもしれない。涼風にとって俺はちょっと仲の良い男の子で十分満足……

 

 

 

 

 

ーー出来るわけない。

 

初めて、人を好きになった。初めて、人に夢中になった。少しくらい欲張ってもバチなんか当たりゃしない。諦めようとして諦められないのだ。午後の予定は何も無い。

 

「”ただの同期”はもう終わりにしてやる。」

 

まずは涼風に俺の存在、異性として明確に意識させなければならない。ネットにはそう書いてあった。まずは恋愛感情が生まれる最低限度の段階まで進展しなければ話にならない。……らしい。

 

恋愛なんてしたことがなかった。ドラマとかのキレイなエンディングを迎える未来が決まったようなそれしか俺は知らない。こんなこと初めての体験だ。

 

しかし、やる。

 

俺はスマホを手に取り、メールを打つ。

実は今日、俺の住むすぐ近くであまり大きくないが祭りがある。それに涼風を誘う!あいつの住んでいるとことは3駅ほど離れているがはたして来きてくれるだろうか?不安になりながらも俺は送信のボタンを少し強めに押した。

 

返事は案外早く帰ってきた。「いくいく!私打ち上げ花火みたい!」だそうだ。しかし俺は素直にガッツポーズを取れない。俺は重たい指を動かしながら返信メールを打つ。「ごめん、小さい祭りだから打ち上げ花火は無い」と。

 

 

 

 

 

「お待たせ〜!待った?」

 

夕方7時頃蒸し暑いというよりはむしろカラッとした様な風が吹く。そんな中結局来てくれる優しい涼風なのであるが、俺は正直待った。

 

しかし、それは俺が悪い。さすが集合時間30分前はやり過ぎであった。

 

「いや、今来たところ」

 

俺は振り向きざまに超テンプレなフレーズを声に出す。待ちました、嘘をつきました。でもしょうがない、言ってみたかったのだから。それに、ここで待ったなんて言う性格の悪いやつはそうそういないだろう。

 

「よかった」

 

「……き、気合い入ってんな」

 

俺は涼風を見て正直少し驚いた。なぜなら、今日の涼風は一味も二味も違ったからだ。

 

「まままぁね!どうせならってお母さんが着付けてくれて……」

 

いつものもツインテールの髪型をお団子にし、ピンク色の浴衣を身に付けた彼女は少し恥ずかしそうな表情をしながらその場で「どうかな?」と一回転して見せた。俺はその姿に少しばかり見入ってしまった。

 

「に、似合ってるよ」

 

「えへへ。ありがと」

 

もちろん心の中では「可愛い!」と大声で叫んだ。しかし現実では、似合ってると一言発するだけで耳が熱くなる。

 

「しかし、ごめんな。今日急に誘っちゃって。」

 

「いやいや全然!せっかくの有休消化ずーっとゴロゴロしてるよりもこうやって有意義に使わないとって思って……でも私なんかで良かったの?」

 

「え?」

 

「あっ!もしかして友達にドタキャンされちゃった?」

 

すこしイタズラな顔で涼風は俺を覗きこむようにして言った。

 

「……ドタキャンなんてされてねーよ」

 

「え、まさか。音村君友達が居な……」

 

なにか悪いことをしたという感じに、涼風は俺に同情の眼差しを送ってくる。はい、天然ご馳走さまでした。

 

「いや、いるって」

 

「え、じゃあ何で?」

 

本当に、素で言っているのだろうか?それとも実は気づいていて、単に意地が悪いだけかはよくわからない。それとも、やはり彼女からしたら俺と涼風の仲だと夏祭りに誘われるほど仲良く無いと言うことだろうか?

 

「別に理由なんかねーよ」

 

ただ、俺の気持ちはしっかりと伝えたかった。涼風は別に俺が誰かを誘えなかったから代わりに誘われたわけでは無いって事を。

 

「俺が今日誘ったのは涼風だけだ」

 

「え……」

 

わざわざ、言わせないで欲しい。言うこっちの身にもなって欲しいものだ。

 

「す、涼風と此処に来たかったんだ。ただそれだけ」

 

軽く彼女から目線を逸らし、頭を掻きながら俺は言った。

 

「そっか」

 

涼風はそう言って、屋台がある方へ歩き始めた。

 

「おい!ちょっと待てよ」

 

たった一言だけだった。やはり、彼女にとっては俺はその程度ということか。興味のない奴から向けられる好意は時に不快を生む。嫌われない無いためには引くのも大事だ。とネガティヴになるのは俺の悪い癖である。俺は涼風に追いつき隣を歩く。

 

「ありがと。」

 

涼風は、こっちを見ずにそう呟く。取り敢えず俺は涼風に取って不快では無い。そういう事だという事にしておこう。もっとも、礼をされるような事はしていないので「どういたしまして」は言わなかった。言いたくなかった。

 

「チョコバナナ食おうぜ」

 

代わりに俺はそういって、涼風の手を取った。

 

「…え!?ちょ、ちょっと!」

 

初めて女子と手を握った。俺がここまで恋と真剣に向かい合ったのはおそらく初めてだ。”不快では無い”

 

 

ーーそこで止まるな。

 

 

今回、俺は菅原さんから何一つアドバイスを貰っていない。俺なりに一歩、いや2歩踏み出せ。しかし、涼風には好きな人がいる。

 

 

ーーそれがどうした。

 

 

本当に俺が入り込める余地は無いのか?同期という間柄に甘えてはいないか?

 

俺だってやる時はやる。彼女の手は暖かくて、手を握った時涼風も少し緊張していると分かった。

 

 

 

 

もう夜10個時頃、楽しい時間は直ぐに過ぎる。しかし、二人で3時間間が持つのは奇跡に近い。涼風とじゃなければこれを成し遂げるのは至難の技だ。ちなみに俺たちは屋台も一周回り近くの公園のベンチで一休みしていた。

 

「ハァ…いつも座ってばかりだからちょっと遊んだだけで疲れちゃったよ」

 

涼風は若干息を切らしながらベンチにもたれかかる。

 

「すまん、ちょっとずつ休憩挟めば良かったな」

 

「い、いや!音村君のせいじゃないよ!それに、”遊び疲れた”なんて久しぶりでなんか幸せだし」

 

街灯が不気味な程にチカチカと点滅を繰り返す中で夏の生暖かい風が吹く。

 

「それにしても、涼風疲れ過ぎだろ。大丈夫か?……今日はそろそろ解散と行こうぜ。家まで送るか?」

 

俺は、立ち上がりながらそう言った。涼風は軽く頷き「駅まででいい」そう言いながらベンチから立ち上がろうとする。その時だった。

 

「あれっ?」

 

涼風は上手く立ち上がれずにベンチにの方へ再び倒れこもうとしていた。

 

「あぶねっ。」

 

俺はとっさに涼風の手を取った。そして握った彼女の手は明らかに先ほどまでの手ではなかった。先ほどよりもはるかに暖かい。いや、温かいと言うべきか。いや、温かいなんてもんじゃない。熱い。

 

「ごめん音村君ありがと」

 

涼風は先ほどまで座っていたのにもかかわらずまだ息を切らしていた。いつもの彼女の笑顔はもうそこにはない。

 

「涼風お前……」

 

「ごめん」

 

「なんで涼風が謝るんだよ」

 

そうとう余裕が無いのか、涼風は折角の日に自分がこんなんでごめん。と自分を責め始めた。どうしたものか、駅までと言っても歩いて15分くらいはかかる。タクシーを使おうにもこの辺で拾える可能性は低い。

 

「取り敢えず、乗ってくれ。」

 

俺はしゃがみこんでいる涼風の方に視線をやる。涼風は何も言わず俺の背中に身を預けた。

 

「ごめんね。」

 

俺の耳元で涼風は苦しそうにそう呟いた。いつもなら涼風は絶対に「ありがと」と言いそうなものを。その元気ない「ごめんね」がことの重大性を語っていた。

 

 

 

 

俺は、一先ず自宅へと戻った。涼風を取り敢えず玄関で降ろし。スポーツドリンクとを持ってくる。

 

「ほら、取り敢えず飲め」

 

「本当にごめん」

 

「あとこれ、体温計」

 

「うん」

 

38度七分であった。それはフラフラになる。涼風は何も言わずにスポーツドリンクをチビチビと飲み続けていた。涼風がこんな状態では今からおぶって駅へ向かうと言うのも少し心配である。

 

「涼風出来ればケータイで親呼べるか?ちょっと涼風の家こっからだと遠いしさ。仕方ない、迎えに来てもらおう。」

 

「遠い……?あれ?ここどこ?」

 

状況を飲み込めてないようにもとれるその言葉が俺をさらに焦せらせる。

 

「俺の家だ。無理そうなら俺が電話するから家の番号教えてくれないか?」

 

「無理」

 

「なんで‼︎」

 

「今日は私の家に誰もいない」

 

聞くところによるとお父さんは遠くへ出張でここのところいないらしく。お母さんはちょうど今日の夕方から友達と旅行へ出かけてしまったという。タイミングが悪すぎて俺は思わず頭を抱える。

 

「くそ……」

 

時間は進んでいく中、おでこに貼るヒンヤリシールを探しにゆく。しかし、いつまでも涼風を玄関に座らせるわけにもいかない。

 

「やっぱり、俺が家まで送っていくよ。涼風立てるか?」

 

そう言って、再び涼風のいる玄関へ向かうと彼女は床に倒れ込んでいた。

 

「おい!?」

 

「スー……」

 

スヤスヤと寝息を立てている彼女の横で俺は深くため息をついた。

 

「どうすんだよ。これ」

 

 

 




次回へ続く。
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