涼風は床に倒れこんだままぐっすり眠ってしまい、額に汗を滲ませ苦しそうに息をしている。彼女を起こすのは流石に気が引けた。俺は涼風をベットへと運ぶ
「…シーツ変えよ」
ちなみに掛け布団も冬用の厚いものを用意。涼風を持ち上げベットへと横たわらせた。なにかイケないことをしている様にも感じたが俺は首を横に振り俺自身はベットの外側に背中を預ける。
「スポーツドリンク買ってこよう」
熱の時には飲みたくなるものだ。そう思って俺は立ち上がる。その時だった
「いか……ないで」
俺は腕を掴まれ後ろを振り返る。改めて彼女の手は熱くて
「涼風。ごめん起こしちゃったか?俺ちょっくら買い物して来るから、気にせず休んでてくれ」
「行っちゃ……やだ……」
しっかりと俺の方を見ているのに、まるで俺を見ていないかの様な様子で涼風は涙目になりながらそう訴えてきた。
「ご、ごめん」
俺は再び腰を下ろす。しかし涼風の手は俺を離さなかった。
「どうした?」
「……手握ってよ」
「なっ……」
頬を赤く染めながらそう言う涼風に俺はいつもの様に目をそらすことさえできなかった。まあ、彼女の顔が赤いのは熱があるからなのだが。
「俺なんかでよければ」
手なんて祭りで一度繋いだ筈なのに、俺の胸の鼓動ははやくなるばかりだ。多分一生このような緊張には慣れないんだろう。
「ごめんな。俺一人暮らしだからさ、風邪の時一人だとどんな気分かわかんだ。」
「……」
「俺はいるぞここに」
それからと言うものものの1分くらいで涼風は深い眠りへと着いてしまったのだった。可愛らしくて本当に撫でてやりたかったけれどなんか卑怯な気がしてやめた。
*
なにか、いい夢を見ていた気がする。暖かい何かが私の手を握ってくれて見守ってくれているような
「朝……?」
私は目を覚まし重い体を起き上がらせてちょっとした違和感を覚えた。
「あ、あれ?此処どこ?」
私の部屋では無いということはすぐにわかった。そして私の右手になにかひんやりとした感触が。私は布団を退かしベットの横を見るとそこにはベットに寄っ掛かりながらうたた寝をしている音村君の姿があった。
「っ!?」
瞬間私の心臓の鼓動は一気に早くなり、顔に熱がものすごい勢いで集まってきた。私は握っていた手を離す。
「そっか……私、あのまま倒れて」
昨日、公園のベンチからの記憶が曖昧だけどなんとなく覚えている。今はまだすこし息が荒れているのが自分でも良くわかるが立ち上がれないほどじゃ無いし大分楽になった。しかし、そのことが私に冷静さを取り戻すことになり結果的に私は昨日までは意識していなかったことを急に意識してしまう。
「そうだった。此処は音村君の家……」
ついついあたりをみわたしてしまう。なにかと綺麗な部屋だ。いや、何も無いというのが正しいかもしれない。馬鹿にしているわけではなく、無駄のものが無いというか……
私は彼の寝顔をよこから眺めながら流石にこんなところで寝ていたら体を痛めるだろうと思い彼を起こそうとベッドをおりたその時
(あれ?今の今まで私が寝ていたところって……)
「って、何考えてんの私。変態かっ!」
ついついそんなことを考えてしまい。声をだし自分で自分を突っ込みを入れてしまう。
「んぁ?あっ。やばい俺ってば寝ちゃって……」
その私の声で音村君は目を覚ましてしまった。
「あ…」
彼と目が合い、私は酷く同様してしまった。私はすぐに目をそらして
「あ、ありがとね」
と一言。
「具合、大分良くなったみたいだな」
音村君はそう言って蹴伸びをしながら立ち上がり私な方へ振り返りながら「腹とか減ってる?」聞く彼に対して私は首を横にに振った。
それよりも彼は何も思わないんだろうか。私だけがバカみたいにドキドキしているんだろうか。一つの部屋で二人きりだと言うのに……
「はい。涼風」
音村君はヨーグルトを私に差し出しす
「え?」
「何かは腹に入れとかないと」
「そうだね。いただきます」
音村君と私は、テーブルへと移動して座布団へと腰を下ろした
「それで涼風。これ食ったらどうする?」
「え?あぁ……どうしよう家には誰もいないし、お母さんは今日の夜には帰ってくるけど」
それを聞いた音村君は「そうか」と呟いたあとに
「じ、じゃあ良かったら夜まではゆっくりしてけよ」
「いいの!?」
思わず音村君のその提案に少しばかり声をはってしまう。私は赤面しながらも口を押さえる
「い、いいけど。いきなりどうした?」
それに彼も少しばかり驚いたのかなんとも言えない表情で私を見つめる
「いえ。なんでもありません」
とても嬉しいなどと言う感情を隠そうとするも油断するとちょっと顔が緩んでしまう
「そっか。じゃあずっと浴衣ってのもアレだし汗もかいてただろ。風呂貸してやるからシャワー浴びてこいよ」
「なんか、何から何まで……」
「Tシャツとスウェットどっちがいい?貸してやるからさ」
「スウェットでお願いします」
*
「涼風青葉、只今サッパリしました〜」
彼から借りただぶだぶスウェットをみにまとい音村君に軽く敬礼のポーズをとった。
「……」
しかし、音村君は何も言わずにこちらを見つめている。私は耐えきれず目線を下へ逸らす。お祭りのあとというものなんかいつものようにいかない。いつもならこんな事は無いのに。
「どどどうしたの?」
「え!?い、いやなんでもない」
私はそれでも、音村君の隣に腰を下ろす。私はちょっと深呼吸をして
「本当かな〜?」
からかうように私は音村君の顔を覗き込む
「でたよ。その悪戯な顔」
そして音村君はそんな私からすぐに目をそらしてそう言った。彼には決して言わないがちょっとコレが可愛かったりする
「あっ。今話をそらそうとしたでしょ!」
「エスパーかお前」
「音村君が分かりやすいんだよ」
私は昨日から音村君に私の心は振り回されっぱなしで少し仕返しをしてやろうと彼が誤魔化したその内容を問いただす。きっと私が小さすぎてスウェットがだぶだぶ過ぎるとか思っていたに違いない。すると彼は観念したのか。
「……髪」
「え?」
彼は急に一言そう呟き私が首を傾げた
「髪下ろした涼風も良いもんだな……と」
「う……」
完全に不意打ちだったまるで後ろから心臓を貫かれたかのような。そして瞬間少しばかりの沈黙が続く。ほんの数秒なのにとてつもなく長く感じられた。
私は「そうなんだ」とものすごく早口でかつ小さくつぶやいた。音村君にしては帰ってきた返答が意外で仕返しのつもりが結果はただ単に自爆したと言ってもいい。耳が熱い。
「どうしたんだよ涼風、顔赤いぞ」
音村君はいつものトーンでそう言って私は彼の方に視線を戻す
「お、音村君だって……」
すると、音村君もなにやら耳を赤くして頭をぽりぽりとかいている。一見彼が普段やる様な仕草ではあるが私はこんな音村君を初めて見た。
「慣れない事を言うもんじゃないな」
確かに、慣れられてこんなこと言われ続けても私の心臓がもたない。嬉しいが慣れては欲しく無いものだ
「君はそういうキャラじゃないからね」
「バカにしてる?」
「クス……褒めてるんだよ」
「どうだか」
音村君はそう言ってリモコンを手に取りテレビの電源をつける。
「そう言えば、終わったなフェアリーズ3の製作」
「いろいろあったよ。まだ数ヶ月しか働いてないのに」
「結構賑やかそうだもんなそっちのブース。俺のとこも居心地は悪くないけど」
「うん楽しい。でも会社がまた始まっちゃったらまた音村君とはたまにしか会えなくなるね」
「まあ、ブース遠いからな……」
「またラインするね」
「おう。同期が頑張ってるって連絡がくればモチベーションもあがる」
「うん」
そんな事を話しているうちに彼ははっとしてこちらを向き
「あ、そう言えば具合は本当に大丈夫なのか?よくなったと言ってもまだ万全じゃないだろうし、寝るか?」
「ううん。大丈夫。ちょっとまだ熱はあるかもだけど寧ろ元気かも」
「そっか。じゃあ、なんかするか?」
「なんかとは?」
音村君は手を顎に当て
「ゲームでもするか?」
「あるの!?やりたい!」
熱は37度の微熱であったけれどそんなことは忘れていた。こんな事思っちゃいけないのは分かっている。分かってはいるけれどちょびっとあることを思ってしまう。
結局夕方までずっと彼の家でゲームをしてその後音村君が私を家の前まで送ってくれた。そのあと「今日は早く寝ろよ」手を振って、帰っていく彼の後姿を見ながら私は
「風邪を引いてちょっと良かったかも」
そう呟いた。
次に会えるのは何時だろう。この有休消化のあとの出勤日だろうか。あと一週間だ。長いなぁ……