ミュージック   作:かなりかならま

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「よ……よし!今日はツインテールじゃナッシング!」

「うーん……あっという間に2週間がたってしまった」

 

短い休みであった。今日からまた仕事が始まる。季節は秋になり少し肌寒く私は布団から出れずにいた。くねくねと布団の中で動きながら今行くぞ布団から出るぞと覚悟決めるのだが、あと1分、あと30秒、あと5秒、と中々動き出せない。

 

遂にお母さんに起こされ、朝食を取り、私はいつものスーツを身に纏い出社する。はずだったのだけれど……

 

「あ、あれ?」

 

私はクローゼットの中をあわてて漁る

 

「無い……スーツが無い!?」

 

なんと私の大事な大事なスーツが無いでは無いか

 

「クリーニングからスーツを取りに行くの忘れてた……」

 

私は手で顔を覆い少しばかりため息を吐いた。しかし、無いのならば仕方がない。恥ずかしいけれど私服で出社するしか道は無い

 

私は再びクローゼットを漁り、鏡の前へと移動する。いったいどんな服を着れば良いのやら。やはり社会人として恥ずかしくない服装をしなくてはならないと思い、服選びにも多少気合いが入る

 

フリルのついたワンピース

 

「派手かな……」

 

青いパーカー

 

「コレは……子供っぽい」

 

難しい。出社するだけなのに、まさか服を選ぶのがこんなに大変だとは思わなかった。いったい何が正解なんだろうか。

 

「あぁもうっ‼︎お母さーん‼︎」

 

もう時間も無い。結局私は母の手を借りることにしたのでした。

 

 

「流石と言うべきか」

 

チェック柄のワンピースにそれに合わせた帽子、ワンポイントでリボンがついている。派手過ぎず地味すぎず……いい感じだ。そして、私はいつものように髪を結ぶ。ツインテールは私のトレンドマークだ。……と言うのは言い過ぎかもしれないけど、何気に昔からずっとこの髪型なのです。

 

「……」

 

しかし、私は途中で髪を結ぶ手を止める。

 

「き、今日は髪を下ろして……みようかな?」

 

と自分にまるでその判断が気まぐれかのように疑問系で喋ったりもしてみる。

 

「君はどう思うかね?鏡君?」

 

終いには鏡に問いを投げかける始末だ。しかし、鏡は当たり前だけどしゃべることは無い。結局自分自身で都合の良いセリフを鏡に言わせているだけに過ぎない

 

「よ……よし!今日はツインテールじゃナッシング!」

 

私はそう叫んで髪を解く。なんか普段とは少し違う自分の姿をみて少しばかり恥ずかしくなった。……先輩達に弄られるだろうな。どうせまた背伸びし過ぎとか言われて。

 

「……変じゃないよね?」

 

今日は、会えるだろうか

 

 

 

私は気合いを入れてオフィスの入り口を通り過ぎる。キャラ班のブースまで歩き、おはようございますと挨拶をしながらブース内へ入っていくとなんとそこには誰も居ない

 

「そうか、先輩達はもう1週間長い有休消化だからまだ居ないんだった」

 

少しホッとしたが、少し寂しくもあるそんななんとも言えない気持ちな私は

 

「え?だれ?」

 

と、声をかけられる。私は反応して振り返った

 

「あっ。八神さん!おはようございます」

 

その声の主は私の上司である八神さんであった

 

「誰かと思ったら青葉じゃん!おはよ」

 

八神さんは、私を目線を下から上へと移動させながら何やら目を細めながら私を見つめている。

 

「ど、どうかしました……?」

 

私は何か言われるというのは覚悟の上で平然を装う。

 

「休み明けから気合い入れすぎじゃない?」

 

「スーツがクリーニング中なんですよ!」

 

本当は取りに行き忘れたのだけれどそういうことにした。恥ずかしいから仕方がない。

 

「あっ、そうなの?」

 

「はい」

 

すると八神さんは今度はキョトンとした顔で

 

「じゃあ、なんで髪型まで今日は違うの?」

 

「え……」

 

八神さんのくせに何やら痛いところを突いてくる。私は「たまたまですよ〜?」とそっぽを向きながら口笛を吹く。すると八神さんは

 

「ふーん?まあイメチェンもたまには良いよな!」

 

と横目で私を見ながら言った

 

「そ、そうですよね。あはは」

 

「ふふ。褒めて貰えると良いな」

 

「うっ……」

 

八神さんは誰とまでは言わずに親指を立てている

 

「あの八神さん?なんで今日はそんなに鋭いんですか」

 

「そ、そう?まぁ、青葉がわかりやすいだけじゃない?」

 

そう言われて私は両手で自分の顔を挟みそんなにわかりやすいかなと考えていると、なんだか段々と恥ずかしくなってきて

 

「あっそうだ八神さん!今日って私、お仕事は何をやれば良いんですか?」

 

と話を逸らす。と言うよりも寧ろこれが本来するべき会話の内容ではあるのだけれども。

 

「あ、そうそう。これ前作のゲームの攻略本なんだけど3Dのキャラ画像がのってるでしょ?」

 

「はい」

 

「これをこっちで用意して出版社に送るんだけどそのスクリーンショットを青葉にとってほしいんだ」

 

八神さんは、その攻略本を実際にパラパラとめくりながら私に仕事内容を伝える

 

「なるほど、どこからどこまでですか?」

 

と私が聞いたところ

 

「んぁ?全部」

 

「え…?」

 

私はつい拍子抜けな声を出して八神さんを見つめる

 

「だってまだみんな休みだし!ガンバ!」

 

「りょ、了解しました」

 

私はトホホと自分のデスクへと戻ろうと八神さんから背を向け歩き始めようとするのだけど、ここで八神さんが私を引き止めた

 

「でも、安心しろ青葉!流石にそれを1人でやるのはは大変だろうと実は協力な助っ人を呼んである」

 

「協力な助っ人?」

 

「うん。音響の音村」

 

私は、ピクリと耳を動かしすぐさま八神さんの方へと向き直る

 

「や……八神さん‼︎」

 

八神さんはドヤ顔をしながら腰に手を当て鼻の下を指でこする。

 

「へへっ。まあ、今日のところは私に感謝しとくんだな青葉!もうじきくると思うけど……あっ。話をしていれば!」

 

「おはようございます、八神さん。音響の音村です」

 

ブースの外から、音響班である音村君が八神さんに軽く頭を下げながら顔を出した。私はとっさに自分のデスクへと向き直り、あたかも今まで集中して仕事をやっていますよと背中で訴えかける。

 

「おはよ。ごめんな急に手伝ってくれなんて頼んじゃって」

 

「いやいや、そんなこと。俺の班今全然忙しくないですし、先程なんてディレクターの花さんから仕事は自分で探してね何て言われてしまいまして。寧ろちょうどよかったですよ」

 

「ならよかったよ。そんじゃ詳しい内容は青葉に聞いてね。私はこの後取材があってちょっと席を外すから」

 

「了解です」

 

八神さんは取材へと向かい、音村君はキャラ班のブースへと足を踏み入れ、私の肩をトントンと2回叩いた。

 

「おはよ。涼風」

 

「うん。1週間ぶりだね……!」

 

そう言いながら私は椅子ごと彼の正面に向かい合うように方今転換した。音村君は、少し驚いた様子だが私はその様子を見て息を呑む

 

「イメチェン?」

 

彼はそう言って隣の席、ゆんさんの席へと腰を下ろす

 

「ううん。実はスーツがクリーニング中でして……」

 

もじもじとしながら私は言う、本当のことは恥ずかしいので彼にも隠しておくことにした

 

「そっか、大変だな」

 

音村君がそう言ってから少しの間デスクの上にある時計の針が動く音がよく聞こえる

 

期待してないと言えば嘘ではあったけど、私にとって彼の反応はやっぱりなという感じで、多分私が今日少しでも彼の事を思って鏡の前に立っていたことは、私が言わなきゃ下手したら一生彼は気づかないかも知れないーー

 

「……今日は髪下ろしてんだな」

 

ーーでも、最近の彼はちょっと変わった気がする。少しの沈黙、時間で言えばほんの10秒程度のあとに彼が発したその一言に私は嬉しくなって

 

「えへへ。どうかな?」

 

と思わずポーズを取ってしまう。確かに私はわかりやすいのかも知れない

 

「やっぱり、俺はこっちの方が好きだ」

 

対して音村君は軽く微笑みながらそう言ったのだった。私は精一杯顔を緩ませないよう努力したけれど、それでもやっぱり無理そうだ。最近の彼の何気無いこういう一言に私は弱い。私は、彼と違いそんなにストレートに言葉に出来ないと思う。

 

そしてだらしない顔を見せまいとパソコンへと向き直り先ほど八神さんから受け取った本を音村君に仕事内容を伝えるべく手に取った

 

「き……今日手伝って欲ちっ…欲しいのは」

 

音村君の髪型の好みが今日の私の髪型とマッチングしただけ。ただ単にツインテールよりロングの方が好きだと言っただけ。でも、それだけで浮かれてしまう私はチョロいのだろうか。朝から少し今日は音村君に会えるかなと想像していたせいか、口がうまく動かない

 

「落ち着け落ち着け。というか今話そらしたな?」

 

「え!?違っ‼︎……っていうか、むしろ今までがそれてたんだもん‼︎」

 

「もしかして照れてる?」

 

「……」

 

「沈黙は肯定なり」

 

「あーーん‼︎もぉ‼︎」

 

ポカポカと私は音村君の肩を叩く。彼は柄にもなくその少し低めの声で私をからかってくる。でもそれがなんか少し嬉しかった。……別にMってわけじゃあないですよ!?でも、なんか仲良くなれていってるような気がするのだ。私だってねねっちとか仲の良い人達とは冗談を言い合える。それに音村君にたまにちょっかい出しちゃうけど、音村君は私にそういうこと今までしてこなかった。

 

そんなことを考えながら、先ほど手に取った攻略本を彼に差し出した。

 

「これ!コレを今作の分スクリーンショット!私は前半半分やるから、残りをお願い!」

 

それでもちょっと素直になれなくて、私は若干声を張り上げ、ツンとそっぽを向きそう言い残した。後に、「了解」と言ってやれやれと頭を掻く彼を横目で見ながら私は彼に見えないように顔を緩ませた

 

「これからもその髪型なのか?」

 

お互い背を向けている状態で音村君はそう問いかけてきた

 

「ううん。これからこの髪型は特別な時だけにしようと思う」

 

少し考えたが、私はそう答えた

 

 

 

*おまけ

 

 

 

「ちょっと、ブースの前で立ち止まって何してるのコウちゃん?取材はもうないわよ?」

 

「げっ。りん!?しーっ!静かに」

 

「え?どうしたの?」

 

「二人にばれちゃうだろ!?」

 

「あら?もしかしてあの子は噂の音村君?」

 

「そうそう!青葉ったら音村と話す時私たちと話してる時より声が少し高いでやんの」

 

「あらあら、でもコウちゃん覗き見は趣味悪いわよ?」

 

「と、言いながらりんも覗いてるじゃん」

 

「違うわよ?私はあのリア充空間をお邪魔するのは悪いなって」

 

「ハイハイ……ってかなんなのあいつら?もう結婚しろよ」

 

「もしかしたらあれ音村君も青葉ちゃんに気があるんじゃないかしら?」

 

「あ!私もそれ思ってた、なんたって青葉によると私は鋭いらしいからな‼︎」

 

「コウちゃんに限ってそれはないわ」

 

「うぇ?」

 

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