「今日も今日とてルインのクエストですか…」
船に乗ってから1人愚痴をこぼし一人でため息をつく。
「ぶっちゃけルシェメル大陸は疲れるからさぁ…あんま行きたくないのよねぇ…」
私は頭が良くない。
故、この世界の歴史とかも実際はよく知らなかった。
唯一知っている女神様の歴史だって仮面の男を追いかけなければ多分、知ることもなかっただろう。
「それに私は面倒事はあんまり好きじゃないのに…」
よくわかりやすい性格をしてるねと言われる。
それはまぁ、多分バカだからだろう。
曲がったことは嫌いだし面倒事は極力避ける。
仮面の男を追ったのだってルルハちゃんに頼まれたからだし。
普通のハンターとして普通に生活して普通に家の財政を助けて普通の女の子として暮らしたかった。
でも、気付いたらここまで来てしまった。
あの時は先の見えない道を歩いていた。
今も尚先は見えない。
なのに後ろを振り返れば道はない。
どうしてだろうか。
どこで道を誤ってしまったのだろうか。
そして私は気付けば天の遣い、ヴァルキリーという役職についていた。
私は基本的に1人で過ごしている。
だってこんな姿、家族に見られたくないもん。
人間すらやめた使えない娘なんていらないもん。
こんな出来損ないの天使がいたって友達は私を嫌うだけだもん。
不安、恐怖は連鎖する。
そうしていつの間にか、実生活もハンター生活でも独りで過ごすようになった。
「…ねぇ、船長」
「ん?どうしたであるか?」
「船長はさ、家族と過ごしてて良かったってこと、ある?」
「なかなか難しい質問であるな…ワガハイには兄者がいるがアイツは好きにはなれん!
いつもワガハイの邪魔をするからな!」
「そっか…」
やっぱり私だけじゃないんだなって思った。
だけど。
「…だが、ワガハイに兄者無しの生活は考えられんよ。兄者は好きにはなれない。だが、やっぱり兄者はそれ以前に家族である。邪魔すらなければ、今頃こんなことはやってないのだ」
…なんだ、船長はなんだかんだ言ってもちゃんと生活出来ているじゃないか。
私はなんで比べようとしたんだろう。
「…貴様の事についてはよく知っている。どれだけ辛い過去があるのかも」
船長は同情か私を慰めるような言葉遣いをしてきた。
「やめてよ。私が惨めみたいじゃない」
「みたいじゃない。惨めなのだ。貴様は家族の気持ちを考えたことはあるのか?貴様自身で家族の事を分かったかのように思い込んで独りでいるだけではないのか?それは他人や家族に対する思いやりなどではない。ただの自分のためのエゴイズムだ」
「…!!うるっさい!!あなたに何がわかるっていうのよ!!」
暫くの沈黙。
私はハッと我に返った。
「…ごめん、怒鳴っちゃって」
「いや、よい。ワガハイも考えが足りなかったのかもしれぬ」
そしてまた暫くの沈黙が流れる。
「ほら、着いたぞ」
「…ありがと、船長」
「何、礼はいらん」
私はそのままその場から走り去ってしまった。
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…図星だった。
実際私は人のことが分かっていると思い込んでいただけだったのかもしれない。
船長の言う通り、私は思い込んで、話も聞かないで、勝手に独りになっていただけだ。
「…だけど、今更どうしろってのさ…」
こんな生活を1年も続けてきて、元になんか戻せるはずもない。
「…こんなことを考えてる場合じゃない。私は私のやることをするだけ」
今日はログレスのハンターが集まってルイン制圧に臨むという事らしいので私は急いで集合場所に向かった。
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「全員…集まったかしらね」
周りを見るとログレスのハンターが沢山いた。
中には羅刹を担ぐ、名の馳せたハンターですらも。
「今日ここに集まってもらった理由は…もう分かるわよね?」
先頭に立ち、皆に話を始めるリーザちゃん。
私は一番後ろであったが、ここからでも彼女の覇気を感じる。
「貴方達にはルインでの制圧戦を行ってもらいます。王国だけの兵士では数が足りなかったため貴方達を招集いたしました」
皆は黙っている。これが命を懸けて戦う、という事を分かっているからであろうか。
「…では、今日の作戦について話しましょう。今日は………」
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作戦会議も終わり、ハンターのみんなは全員戦いへと赴いた。
しかし、私ともう一人の羅刹を担いでいた女の子はリーザちゃんに呼ばれ待機していた。
そして待つこと数分。
「…ねぇ、貴方は」
突然彼女はこちらに話しかけてきた。
「わ、私?」
こくこく、と首を縦に動かす。
「えっと…名前、を聞いてるのかな」
「ううん、名前は聞かない。あなたがここに来た理由」
「ええっとね…リーザちゃんとルルハちゃんの知り合いだから、かな」
「そう、なんだ」
大人しげな小さい女の子。
しかし可愛らしい子。
こんな子がペルセポネ様の力が宿った武器を担いでいるのだから世界は広いと改めて思う。
「じゃあ、あなたは?」
自分は聞かれると思ってなかったのか、少し驚いたような表情を見せた。
「…私は、強いから」
強い、か。
確かに実力が無ければこんな危ないところには来ないだろう。
だけど…ほんとにそれだけの理由でこんなところに来るのだろうか。
「ねぇ、もしかしてだけどさ…あなたの来た理由、ホントは違うんじゃないの?」
知能は高くないが、野生の勘だけは尽く働くのが私である。
本能的にこの子は別の理由で来たと考えてしまった。
「…よく、わかったね?」
「勘だけはいいから」
「私はね、家族がいないの。ううん、いるけど捨てられてる、って言った方が正しいのかな。私はいつも使えない子、あんたなんか、この家にいらないって言われて…だからここに来て、もっと名をあげれば、お母さんは私を家族だと思ってくれるんじゃないかなって」
…この子も家庭事情が宜しくない子か。
しかも私とは比べ物にならない。
私よりも幼い子が私よりも酷い状況下に置かれている。
「…辛いよね」
「…うん」
馬鹿か私は。彼女になんでこんなことを言う権利がある。彼女の方が数十倍辛い経験をしてるのに。
いつの間にか、おもむろに私は掌を彼女の頭に乗せていた。
これが俗にいう、いい子いい子なのだろうか。
彼女は手を乗せられた事に驚いていたが、目を細めてされるがままの状態になっていた。
…可愛い…
辛い経験をしても、少女は少女だ。
こんな子をこのまま放置、というわけにも行かない。
そう思っているとリーザちゃんが他の兵士と話し終えたのかこちらに向かってきた。
「さて…ってあら?貴方達、もう仲良くなったの?」
「ん、まぁ、ちょっとあってね」
「そう、まぁなんでもいいわ。仲良くしてもらうことに越したことは無いもの」
リーザちゃんはこちらを見ながら微笑んでいる。
まるで妹を見る姉の顔のように。
「…ルルハちゃんにもその顔してあげたらいいのに」
「あの子はダメ。可愛い反応を見るのが楽しいんだもの」
「性格悪いね」
「御生憎様」
「…?」
少女はこちらの会話を不思議そうに見ている。
「さてと、貴方達に残ってもらった理由は他でもないの」
コホン、といい話を続ける。
「貴方達は多分、今回集まってもらった中で一二を争う強さを持っている。だから二人で協力してルインに蔓延る闇の民の清掃戦をして欲しいってわけ」
「…なるほどね、言っちゃ悪いけど、あの人達にあの数抑えるのは無理だもんね」
「そういうこと。数がいれば制圧は出来るけど敵は減らない。そうするとまた圧されるのが見えてるもの。だから今回制圧する部分の清掃を頼みたいってこと」
「…今回、リーザちゃん達は?」
「指揮系統は私しか出来ないしルカ達も今回は支援に徹してもらうことにしたのよ。だから、最前線には出れないと思う」
「わかった。雑魚兵だけなら任せて」
幾度となくこの地に赴いた私なら地形もわかるし雑魚兵ならなんとかなる。
が、問題はこの子だ。
ここはルシェメル大陸、ログレスよりも環境が悪いため体調変化によって何が起こるかわからない。
「貴方も。覚悟はいい?」
「…だい、じょうぶ」
「そう、ならよかった」
「ま、任せてよ。この子は私が守るから」
「…そうね、貴方なら傷を癒せるものね」
リーザちゃんは心配していたようだが、私がその心配を消した。
不安の種は取り除くに越したことは無い。
「貴方達には期待してる。だから…お願いね?」
「任せて!」
「うん」
私達は早速戦地へと赴いた。
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「…貴方達は下がって!私達が雑魚兵を退かす!」
「だが…!」
「だいじょーぶ!見た目だけじゃないってとこ、見せてあげる!」
そう言うと、私は翼を広げ、そして翔ぶ。
飛翔をし、剣を構え、急降下をする。
兵士を全員切り裂き、敵兵は姿を消す。
「す、すげぇ…」
「ふふん、凄いでしょ!」
実際は私だけの力じゃない。
神剣グラム。
天使の力を得たものに渡される神の剣。
剣を振るえば闇を切り裂き、皆を強くする、まさに神の名に恥じぬ剣である。
「私の強さはわかったでしょ?だから一掃するまでは下がってて!」
「あ、あぁ!」
みんなを一時退かせた。このままいても巻き添えを食らってしまうためである。
…同時に後ろから気配を感じた。
振り向くと兵士が私に向かって突撃してくる。
「おい!逃げろ!」
ハンターたちが私に声をかけるがもう遅い。
突然の事に足がすくみ、動けなくなる。
「…全ての闇の力を集結させ、異端なる闇を振り払え…」
声が聞こえた。
「…ハァ!!」
突撃してきた兵士は全員、何者かによって切り裂かれる。
そして、空から少女が舞い降りる。
「…すごい…」
あれほどまでに虚勢を張っていた私も、声を失う。
…名を馳せているだけはある。少女でも強者は強者であると。
「だいじょうぶ…?」
「う、うん!あなたのおかげで助かった!
ありがとう!」
「ううん、私達は仲間だもん。仲間を助けて、当たり前」
少女はニコッと私に笑ってくれた。
彼女を守るどころか、私は守られている。
…これだから中途半端な私は嫌いだ。
守る為にいるのに、守られているなんて。
自分を憎んでいると少女はふらっと私に倒れてきた。
「ちょっ…!!あなたこそ大丈夫なの!?」
「へ、平気…力を使うと、ちょっとふらっとしちゃうだけ…」
やはり、疲れてしまうのだろうか。
…あまり消耗戦はやらせない方がいいのかもしれない。
「…もう少しだけ頑張れる?」
「うん」
「…じゃあ、早く終わらせちゃおうか」
少女はこくこくと首を振る。
少し経つと少女も元気になったようでまた戦いに赴いた。
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「…遅い!!」
彼女は素早く後ろに回り、敵を切る。
「ほらほら、ちゃんと狙って!」
私も彼女を支援しながら敵を倒していく。
そうして少しずつ私達は前進し、制圧をほとんど終わらせた。
「…ふぅ、ここまで来れば終わったも同然だね」
「うん、ここまで助けてくれてありがとう」
「いいっていいって。仲間なんだから!」
その言葉が嬉しかったのか、彼女は微笑んでくれた。
しかし、事態は急変する。
「おい!なにか大きなものがこっちに来るぞ!」
一人のハンターが大声を上げる。
そして。
ズシン…ズシン…と大地の揺れる音が聞こえる。
「な、何!?この音…!!」
恐怖は連鎖する。
周りのハンターはその場から逃げ出し、ここには私達以外居なくなってしまった。
そして、音の根源が発覚する。
「…!!これ…!!」
紫色の大きな機械。
確か、名をダイナマジンと呼んでいただろうか。私にはよくわからないが。
「何でここに…」
やばいことだけは分かる。
「…逃げて」
「!?何言って…」
「足止めが必要。無駄な犠牲は避けたい。なら、私が残る。そのための私」
「足止め…?」
足止め、ただそれだけでこの子1人をここに置いていくというのか。
「そんなこと出来ないよ!」
「いいから行って!」
彼女は怒鳴る。
「…私は捨てられた子、どうせ死んだって誰も悲しまない。だけど、あなたは違う。あなたにはまだ、温かい家族がいるでしょ…?」
「…それは…」
「私にはわかるよ、あなたはいい人。ならきっと、あなたの家族もいい人だと思ってる。だから、こんなところで死んでる場合じゃないでしょ?」
それが嘘といえば嘘である。
私はまたみんなに会いたい。仲良く過ごしたい。笑っていたい。
私はこんな姿になってしまってもみんなと過ごしたい。
「私はね…もういいんだ、こんな世界にいるぐらいなら。あんな家族といるぐらいなら死んだ方がマシだって。それでもみんなのために死にたいって。だって、こんな私でも命を救えるんだから…」
彼女の目に光はない。もう、すべてを諦めているかのように。
「あなたに会えて嬉しかったよ。さよなら」
「待っ…!!」
彼女は唱え出す。
「全ての闇を収束し、虚無であろう闇を全て喰らい尽くせ!!」
羅刹から闇のオーラを感じる。
まるで私までもが呑み込まれてしまうかのように。
「はああああああ!!!!!」
闇のオーラを纏った羅刹は大型機械を切り込みに行く。
その手数は私の肉眼では追いつかない。
何千、いや、何万と切り裂き続ける。
やがて攻撃は終わり、着地をする。
「ハァ…ハァ…」
彼女は過呼吸になっている。
今にも倒れそうなのを剣を杖のようにしてかろうじて立っている。
だが。
「傷がない…!?」
切り傷一つすらついていない。
どこをどう見ても、全くダメージを受けていないのだ。
「やっぱ…り…だめ……だった…か…」
彼女はその場で倒れる。
私は思考が追いつかなくなる。
でも、気付いたら彼女のところへ走っていった。
「起きて…!!起きてってば!!」
彼女は何も答えない。
「早く!目を覚まして!」
彼女は何も答えない。
「お願いだから!ねぇってば!」
それでも、彼女は何も答えない。
私は確かめたくなかった。
でも、私は彼女の胸へと耳を当てた。
彼女の心拍音は全く聞こえなかった。
脈拍が止まっている。
つまりどういうことか。
死。
彼女は、死んだのだ。
「嘘…だよね?嘘だよね!?こんな事って…!!」
私は悔いた。
なぜ助けなかった。
なぜ傷を癒そうとしなかった。
そこにいながら。
なぜ何もしなかった!
「もう…嫌だよ…」
後ろで大きな機械は大きな音を立てていた。
後ろを振り返ると、機械は真っ二つにされていたのである。
「誰、が」
機械が破壊されると、後ろから男が出てきた。
「…なんだ、ただの女子供が襲われていただけか…」
大きな剣を持った男は興味がなさそうに去っていって行こうとする。
「あ、あの」
「ん?なんだ?」
「助けてくれてありがとうございます…」
「あぁ、別にお前の為じゃない。自分のためさ」
男はそういうと去っていってしまった。
…あの大きな剣はもしかして…
「違う、そんな事より」
私は自分の事を心配している場合ではない。
彼女をどうするかだ。
「…やっぱり、使うしかないよね」
私は杖を構え、詠唱を始める。
「…闇により消えし幼子よ、今、闇の力により地より甦れ」
そして詠唱を終え、唱える。
「…腐道転生…」
__________________
…暫くしてログレスのハンター達は最前線組の二人の元へ戻っていった。
しかし、そこには羅刹を持った少女しかいなかったという。
翼を生やした少女は倒れており、心拍音は聞こえず、事切れていた。
少女は「この人を助けて」と繰り返すも、蘇生技術を持ったハンターは存在せず、また、名の馳せたハンターも彼女に肩を貸す義理はない、だそうだ。
そして、制圧戦が終わりログレス大陸に戻ると羅刹を持った少女は王国で一躍有名となった。
彼女の功績は認められて、彼女の親もその日は娘を一人の家族として受け入れ、今までの事を深く謝ったそうだ。
しかし、その枠に翼を生やした少女の名前はなかったそうだ。
それから翌日、羅刹の少女は置き手紙を残し、この世を去った。
内容はこう。
「あなたのいない世界に、用なんてない」