蓬莱人と大海賊時代   作:みずはし。

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「あらすじのところで『潮風香る』っていってるけど幻想郷に海はないしなんで潮風の匂いがわかるの?」 って思った方。ご都合主義ってやつですよ。気にしたらダメです。


蓬莱人と麦わら帽子の男

鼻を掠める、独特で懐かしい香り。この香りはなんだっただろうか。遥か昔、遠いどこかで同じ香りがしたのを微かに覚えている。

香りの正体を確かめるため__ではないが、少々気になったのも事実で、ゆっくりと重い瞼を開けた。

 

「……ん」

 

広がる視界には、遠い向こうまでずっと続く深い青色の水たまり。しかしながら、ざぁざぁと波打ち、時折岩にぱぁんとぶつかっては鎮まるそれは、幻想郷では見慣れた湖や川などではなく、何百年も前に見たそれ__海である。

数百年ぶりに見る海の懐かしさと思い出に涙が浮かびかけるのとともに、疑問が生まれた。幻想郷には海がないのである。

ふと自らの姿を見るために視線を落とす。変わらない。千年以上変わらなかった、いつもの姿。白のカッターシャツにお札を貼った赤のもんぺという服装も、光の反射で眩く光る白の長い長い髪も、全て。

しかし、現に幻想郷に無いはずの海を見ているし、高い波が崖に当たって跳ねた水滴も白い肌に乗っている。

 

「……まあ、とりあえず歩くか」

 

元々、同じところに留まり静かにしているようなことが苦手な性格であり、なぜ海があるのか歩きながら考えることにした。

 

 

 

それなりに活気のある街中を歩き、姿故か好奇の視線に晒されながらも考えた結果、隙間女のせいだという考えに至った。

あのフリルで飾った白いドレスの上に紫色の道士服を着る、金髪の妖怪だ。

境界を操る能力を持つため、結界を超えること__博麗の巫女の代が替わる場合にはこうして外の世界から連れてくるらしい__も容易い。

 

「私の力では結界は超えられないし……」

 

帰る方法は無さそうで、この世界で暮らすしかないだろう。

そして歩いている内に気づいたのだが、ここは日本ではないようだ。日本語を喋っているものの、隙間女には外の世界の日本はもっと発展していると聞いた。

何より、 "海賊" という存在。日本にもいたようだが、今では遠い昔の話であるという。それがここではよくいるようで、「また海賊が来たらしいわよ」「やあねぇ、海軍さんがいるから安心だけど……」のような話をちらほら耳にする。

 

「日本じゃないならまずここに結界はないからな……」

 

刹那。歩いてきた方角から、爆発音が響いた。

 

「!? な、なんだ?」

 

ふっと地面から足を離し、爆発の音にざわつく人々の頭上を飛んで、先ほどいた場所__広場へと向かう。

広場では、来たときには確かにあったはずの噴水が瓦礫と化し、人々が見上げる先、処刑台の上には麦わらを編んだ涼しげな帽子を被る男がいた。__穴の空いた木の板で首を固定され、まるで死刑囚のように。

しかし、執行されるというのに、絶望したような様子はない。

 

「うん……? 一応近くに行ってみるか」

 

近づこうと前進を始めた瞬間、男が叫んだ。

 

「おれは!!! 海賊王になる男だ!!!!」

 

それがあまりにも突然だったのと、近海にも響いたのではないかという大声に、耳を塞ぐ間もなく、頭と耳の奥が掻き回されるような感覚になる。

 

「言いたいことはそれだけだな! クソゴム!!」」

 

叫んだ男の隣に立つ、まるでピエロのような男が叫ぶ。立っている場所と状況から処刑の執行官に見えるが、それにしては派手すぎやしないか。

邪魔する気満々の私には気づいていないのか、サーベルを振り上げた。

 

「……なんか、悪いやつじゃなさそうな気はするし、助けるか」

 

ピエロ男がサーベルを振り降ろそうとした瞬間、麦わら帽子の男がにいっと笑った。

 

「わりい、おれ死んだ!」

 

麦わら帽子の男がそれを言い終わったのと、私が炎を纏った手で木の板を叩き割ったのは同時だった。

更に天から轟く爆音と共にサーベルに向かって落ちてきた雷も同時で、私が割る必要もなかったようだ。

ただ、雷が落ちてきたということは、男二人の生存は絶望的と言っても過言ではない。

妖怪がもつ独特の気__妖力は感じられなかったから、二人ともただの人間だ。

雷の影響で崩れ落ちる処刑台を上空で見つめる。

もし二人のどちらかでも生きていたら、私が雷を呼び寄せた訳ではないと弁解しよう、なんて考えながら、大きな瓦礫となった処刑台の残骸の上に降り立つ。

 

「なははは、やっぱ生きてた。もうけっ!」

 

立ち上る煙の隙間から見えたのは、麦わら帽子の男が、ほぼ無傷といった状態で立っている姿。

ありえない。彼は妖怪だったのだろうか。しかしいくら妖怪でも雷が当たれば多少ながら傷は負うし、まず彼からは妖力を微塵も感じない。

 

「……タフなんて言葉じゃ片付かないぞ」

 

思わず零した言葉の後に、乾いた笑いが洩れる。

そのとき、ぱすっと私の頭に何かが被さった。触れてみると、男が被っていた麦わら帽子だった。

男がキョロキョロと辺りを見回している。帽子を探しているのだろう。

 

「ん、これか?」

 

帽子を手に取って男に差し出すと、男は嬉しそうに受け取った。

 

「そうそう、これだこれ! ありがとう!」

 

にししっと笑い、自らが被った。

そして、そうだそうだ、と口を開く。

 

「お前すげェなぁ! 雷呼び寄せるなんてよ!」

 

やはり、雷を呼び寄せたのは私だと思われているようだ。しかしながらあれは自然現象である。

現に、かなり大粒の雨が滝のように降っている。

 

「いや、あれは私じゃない。ほら、雨も降っているだろ? お天道様がお怒りになったんだろうよ」

 

「ん? そうなのか?」

 

首を傾げる麦わら帽子の男。辺りは呆然とする人間で埋め尽くされていて、なんだか見世物のようで嫌な気分になる。

ただでさえ私は妖術で炎を使うから、雨では気分も優れないというのに。

 

「うーん、まあいいや! お前仲間になれよ!」

 

「は?」

 

突然言い出した。なんだこいつは。

何が「まあいいや」なんだろうか。その一言で全てが片付くと思っているタチなのだろうか。

 

「お前おれを助けようとしたんだろ? じゃあ悪いやつじゃない! あとお前強そう」

 

にしししっと暢気に笑う麦わら帽子の男。まあ、こいつを助けようとしたのは事実だが、それだけで悪いやつじゃないと判断するのはいかがなものか。あと、強そうってなんだ。

 

「……仲間っつっても、なんの仲間だよ?」

 

「海賊さ!」

 

海賊といえば、かなり野蛮なイメージがある。そんな中に、こんな口調だが仮にも女である私が入るのは、ちょっと……いや、かなり躊躇する。

 

「まあ、いいっちゃいいんだけど……」

 

男は、待ってましたと言わんばかりに決まりな! と言う。

麦わら帽子の男を迎えに来たと思われる男二人組が何やら話しているようだが、その向こうから広場を包囲!  という声が聞こえた。

白を基調として青いラインを引いた、どことなく海を思わせるカタそうな服を、何百という人がきっちりと着ていた。制服というやつか。

そして包囲ということはつまり……。

 

「逃げろォ!」

 

だよな。

麦わら男達が走り出したのに完全に遅れると、しゅるりと肌色の何かが私の胸から下に絡みついた。困惑していると、ひゅんっと風を切って空を舞った。

 

「お前もだ! 走れぇー!!」

 

麦わら男は、必死というよりは、笑顔で楽しそうに走っていた。

よくわからないやつだが、着いていっても退屈はしなさそうだ。肌色の何かが私から離れると、私も全力で走り出した。

 

 

 

船が停めてあるところへ向かって走っているのだろうが、中々着かない。どれだけ遠くに停めたんだ。

それよりも、スタミナが切れそうなのが問題だ。最近の幻想郷じゃガチのバトルなんてなかったし、憎き蓬莱の姫との戦闘でも例外なくスペルカードルールを使用していた。体力も当然衰える。

 

「しつこいなァあいつら……止まって戦うか」

 

麦わら帽子の男が、後方に迫る男たち__海軍を指して言った。

すると、前を走る金髪の男が制止。キリがない、と。まあ確かに、なんて後ろをチラ見しながら走っていると、女性の声が聞こえた。

 

「ロロノア・ゾロ!!」

 

改めて前を見ると、短い黒髪の女性が行く手を阻むように立っていた。

 

「あなたがロロノアで!! 海賊だったとは!!」

 

その女性は海軍のようで、曹長と呼ばれていた。そして、私から見て左側の男がそのロロノアらしく、女性が構えた刀に自らの刀をぶつけ、所謂鍔迫り合いの状態。

 

「先行ってろ」

 

ロロノアと呼ばれた剣士はそう言って、麦わら帽子の男と金髪の男はそれに応えた。

しかしながら、私は数メートル走ったところで限界となり、盛大に転けてしまった。

 

「あ、おい、大丈夫かー?」

 

いち早く気づいた麦わら帽子の男が駆け寄ってきて、肩をぽんぽんと叩き声をかけてくれたが、答える余裕もない。

私は既に肩で息をしている状態。そこまで衰えていないだろうと、鍛えずに体力を維持していなかった自分を呪う。

しかし、後方に迫る無数の足音に追いつかれるわけにはいかず、ふらふらと立ち上がり空を飛んで移動することにした。空を飛ぶのはそこまでの労力も必要ないので、スピードを出しつつ息を整えることができる。

 

「すまんな、麦わら帽子……私は体力が衰えていたようだ」

 

息を整えてから、声をかけてくれたときに答えられなかった謝罪をする。

麦わらは走るのも忘れて呆然と私を見上げている。

 

「スッゲェ!! おめー空飛べんのかよォ!!」

 

「……あ、うん……とりあえず走ろうか」

 

「やっべェ!!!」

 

あと十数メートルというところにまで迫っていた海軍を見て、ようやく走ることを思い出したようだ。捕まっていたらどうする気だったのだろうか。

というか、すっかり先導している。全く見えなかった金髪男の顔も見ることができたが、船の場所がわからない私が前を行っても意味がないじゃないか、私。

 

「お……」

 

金髪男が走りながら小刻みに震える。お?

 

「お美しいぃぃい!!!」

 

金髪男は、私を見て目をハートの形にして叫ぶ。私が美しい? 女を見る目ないんじゃないかこいつ。

というか、目がハートの形になる人間を初めて見た。

 

「私のこと言ってるなら、お前女を見る目ないぞ」

 

少なくとも、憎き蓬莱の姫の方が美しい。誠に遺憾だが。

そんなっ、とか言ってる金髪男は放っておく。

ふと前方を見やると、誰かが立っていた。またしても男だ。……いや、軍に女がいる方が珍しいくらいか?

 

「なんだ? また誰かいるぞ!」

 

「またか」

 

「来たな、麦わらのルフィ……」

 

麦わらのルフィとは、麦わら帽子の男のことで間違いないだろう。ルフィというのか。

ルフィの名を呼んだのは、白いジャケットを羽織った白髪の男だが、ジャケットは前を全開。露出狂と疑われても仕方ない程度には肌が出ている。年頃の女の子には嫌われてそうだな。タバコ吸ってるし。しかも二本。

 

「お前誰だ!」

 

ルフィが走りながら問う。

 

「おれの名はスモーカー。海軍本部の大佐だ」

 

言い終わると、スモーカーとやらは両手を突き出した。

よく見れば、指先が煙のようにモクモクと蠢いている。

 

「お前らを海へは行かせねぇ!!」

 

そのセリフと共に、スモーカーの手首までが煙と化して襲いくる。煙とはいえ、かなりのスピードだ。

元々上空にいたが、こちらにも煙が向かってきている。

煙は幽霊と同じで実体を持たないから、いくら物理攻撃を叩き込もうとしたって無駄だ。かといって煙を打ち消すような魔法は使えないし、存在も知らない。避け続けるしかなさそうだ。幸い、空中では移動できる範囲がとても広く、楽に避けられる。

一方、地上では金髪の彼がスモーカーに蹴りを入れたが、頭が煙となってダメージは与えられなかった。

 

「頭も煙に……くそ、厄介だな。雨さえ降ってなけりゃな……」

 

そう、雨さえ降っていなければ、炎を使ってスモーカーに攻撃ができるのだ。しかし、あいつは手と頭が煙になった。全身煙になれるという可能性もゼロではない。

無謀だとはわかっているが、小さな火の玉をいくつも作り出し、スモーカーに向けて発射した。

火の玉は小さくなることなくスモーカーに向かっていって__スモーカーに、ダメージを与えた。

火傷程度のものだったが、スモーカーは呆然と火傷を負った箇所を見つめている。

私も、火の玉が雨で消滅しなかったどころか、小さくなることもなかったことにとても驚いている。

 

「なぜだ……? なぜ煙にならず……」

 

煙にならず。全身が煙になれることを示したようなものだった。

しかし、煙にならなかった理由がわからない。妖術の場合は当たると煙になれないということだろうか。

それならば、簡単だ。手に炎を纏わせ、スモーカーの腹を殴りつけた。

スモーカーの体は建物の壁に叩きつけられ、煙は全て消えた。

 

「よしっ! 今の内だ、走れ!」

 

内心ガッツポーズをしながら、ルフィと金髪男に走るよう促した。

ぽかんと間抜けに口を開けて呆然としていた二人は、ハッと思い出したように走り出した。

 

「おい! もっと急げ! バカデケェ嵐だ!!」

 

「おぉ〜、ナミさんが言ってたのはこういうことか〜!」

 

追いついたのか、後ろから全力で走ってきたロロノアに急かされ、全力で船の元へ向かう。

金髪男は猫撫で声でうっとりとしている。率直に言えば気持ち悪い。

少し先に帆船が見えた。あれがルフィたちの船だろうか。

 

「ルフィー!! 急げ急げ!! ロープがもたねぇ!!」

 

船に乗っていた者のうちの一人、鼻が人間のそれではない方が叫ぶ。あんな感じの童話を呼んだことがある気がするが、なんだったか。

というか、私はともかく、こいつらは無事に乗れるのか?

 

「……よし」

 

三人のうち二人……ロロノアと金髪男の首ねっこを掴み、船に向かって投げた。

 

「えぇぇぇええ!!?」

 

「おいおいおい!!!」

 

叫びながら船に無事乗ったのを確認すると、ルフィの腕を掴んで飛び、一緒に船に乗る。

雨で濡れてビシャビシャのシャツを絞りながら、こちらへと向かってくるロロノアと金髪男を見る。

 

「てめぇもっと優しいやり方なかったのかよ!! つーか誰だ!!」

 

「片手で男一人を軽々投げ飛ばす力を持つ荒々しい貴女も美しい……!!」

 

やはり文句を言われた。一名違うが。

 

「すまんな、あれしか思いつかなかった。そして美しくはないからやめろ」

 

一息吐いて切り出す。

 

「私は藤原妹紅《ふじわらのもこう》だ。ルフィに仲間に誘われた」

 

「おう、誘った! あとおまえ、後でもう一回さっきのやってくれよ!!」

 

はいはい、と軽くいなし、仲間になるということについて拒否の声が上がらないかと心配しつつ船員の声を待つ。

 

「……まあ、ルフィが誘ったんだからいい奴なんでしょうね。私は別にいいわよ」

 

橙色の髪の女性が声を上げる。かなりルフィを信頼しているようだ。

 

「俺は勿論賛成だぁ〜!!」 

 

金髪男。海藻のようにくねくねと動く。ちゃんと骨あるのか?

 

「……俺も構わん。寝る」

 

そうとだけ言って、マストの支柱に頭を預け寝始めるロロノア。背中痛めるぞ。

 

「お、おお俺も全然いいぜ!」

 

鼻が人間のそれではない男。あ、思い出した。鼻高天狗だ。ん? 鼻高天狗は童話に出てない? そんなバカな。

とりあえず今甲板にいる船員からは仲間になる許可を貰えたようだ。

 

「よろしくな」

 

にっと笑って言うと、おう、と返ってくる。

この船にいれば退屈はしなさそうだ。

ついでに航海をしていくうちになぜこの世界に来たかわかるかもしれない、と淡い希望を抱いた。

 

 

 

ちなみにこの船には私含めて六人しかいないんだと。海賊ってもっと大所帯のイメージが強いが……。

あと、船にみかん畑があるのは航海士のナミ__橙色の髪の女性のこと__の思い出……らしい。




蓬莱の姫
 蓬莱山輝夜。月の姫。竹取物語のかぐや姫。姫だからニートじゃなくて正当な引きこもり。というかこもってないと叱られる。

スペルカードルール
 幻想郷での戦闘方法。強さより美しさを競う。弾に当たればコンティニュー。コインいっこ。身体能力は問わないので引きこもりの魔法使いでも大丈夫。

火傷したスモーカー
 もこたんの火は効く様子。手も足も煙も出ません。実はもこたんの火が小さくならなかったことにも驚いてる

ロロノア呼び
 日本名ではなさそうだと思って、ロロノアが名前でゾロが苗字だと勘違いしてます。普通そうなるよね。違和感あるけど。次からはたぶん直ってる。
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