魔法科高校の変人(仮)   作:クロイナニカ

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 さて、時は流れに流れ、飛びに飛んで四月の春。

 その日は国立魔法大学付属第一高校の入学式だった。

 一気に時間が飛び過ぎかって?

 

 しかし、沖縄の事件の後にあった事なんて、司波兄妹が俺の受験勉強の手助けの為に俺の家に来たとか。

 

 勧誘の執拗いどこぞの家に直談判しに行って。

 その道中で司波達也をちょっと切り刻んだぐらいのことしか話すことが無い。

 そのうちに思い出話として語るかもしれないが。

 

 話を戻そう。

 

 俺は最初、魔法とは関係のない出来るだけ家に近い普通の高校に入学しようと思っていたのだが。

 司波達也と司波深雪に、魔法科高校の卒業資格は普通の高校の卒業資格より優良で、筆記も必要だがどちらかというと実技の方が重視されているから俺なら比較的に楽に入学できるはず。

 と、説得されたので、俺はこの学校に入学することにした。

 第一高校というだけあって、魔法科高校は一から九の学校があり、第一高校を選んだのは、家に一番近かったからである。

 

 魔法科高校の設備は、高校より大学の方が近いのではないかというぐらいの量がある。

 その関係で敷地の広さもすごい。

 

 これだけ広いと迷ってしまいそうだな。

 

 と、未知に対する好奇心を抱く。

 しかし考えて見れば中学の入学式もそんな感情を持っていたことを思い出し。

 きっと一週間もたたずに飽きてしまうのだろうと、俺は期待することを止めて校門をくぐった。

 

 

***

 

 

 今の時刻は入学式の開会まで、二時間以上前の時間。

 家から学校の間には何があるのだろうかと、俺は入学式に遅刻しないように早めに家を出て、キャビネットを使わずに歩いて来た。

『千里眼』で見ればいいと思われるかもしれないが、やはり生で見聞きすると色々違ってくるのだ。

 まぁ道中、ちょっと気になる洋菓子店などがあったが、歩くのが面倒なので、俺はきっとその道は二度と通らない。

 

 しかし思ったよりも早く学校についてしまった。

 迷わないように使い慣れない端末のナビを使用したのだが、たしか到着予定時刻は入学式の三十分前だったはずなのに。

 やはり住宅街を抜けるのに空間置換を使ったのがまずかったか。

 だがこれもきっと何かの運命だろう。

 早く来過ぎたことにも何か意味があるのだ。

 

 まぁ大概何もないのだけど。

 

「納得できません!」

 

 俺は普段、周りの会話などは聞き流している。

 しかし、そのとき聞こえた言葉の意図が何となく気になり、俺はその発言者を探した。

 

 国立魔法大学付属第一高校は魔法を教える、ある意味専門学校だ。

 毎年、他の魔法科高校に比べて国立魔法大学へと多くの生徒が進学するというエリート学校らしい。

 つまり、第一志望以外でこの学校に入学する生徒はまずいない。

 その学校に入学出来て、しかもその学校の入学式の日に一体何が納得できないのか気になったのだ。

 

 会話をしていたのは司波兄妹だった。

 よし、面倒なことになりそうだから離れよう。

 

 だがしかし、二人の会話もなんとなく気になる。

 このままここで盗み聞きでもしているか?

 いや、盗み聞きするなら別にここから聞かなくてもいいか。

 

 予知で司波兄妹に絡まれる未来が見えた俺は、二人に気づかれないようにこっそりと離れた。

 

 

***

 

 

「隣いいか?」

 

 俺は中庭にあった三人掛けのベンチで長編小説を読んでいた。

 最初は会場で時間を潰そうと思っていたのだが、流石に早く来過ぎていたらしく、入学式当日とはいえまだ会場の講堂に入ることが出来なかったのだ。

 

 今読んでいる本は、元はデンマークの童話作家が書いたものらしい。

 ドイツ語版も自宅にあるのだが流石に俺は読めないので、読んでいるのは日本語訳されたものだった。

 

「ツクヨミ」

 

 聞き覚えのある言葉が聞こえた。

 中々面白い所であったのだが、俺は文字列から目を離してゆっくりと顔を上げる。

 その言葉を口にしたのは司波兄妹の兄、司波達也だった。

 

 ツクヨミというのは俺の渾名だ。

 

 名前で呼んでもいいか。

 

 ある日、司波深雪にそう言われ、好きに呼べばいいと返した結果、何故かついたのがその渾名だった。

 そういえば俺は、その日を境に心の中で司波兄妹の事を下の名前で呼ぶようになった気がする。

 俺から話しかける事が無いため、未だに司波兄妹の名前を呼んだことはないが。

 

 閑話休題。

 

「満員だ」

 

 俺は制服のポケットからもう一冊本を出し、ベンチの上に置いた。

 司波達也はベンチの上に置かれた本を借りるぞと言って手に取り、俺の隣に座る。

 まぁ三人掛けのベンチだ、狭くなることもないので別にいいのだが。

 

「返す」

 

 司波達也は頭を抱えながら、俺がベンチに置いた本を渡し、それから小さく、「普通官能小説を持ってくるか?」と呟いて端末を開いた。

 

 何が気に入らなかったのだろうか?

 

 そんなことを考えながら横目で彼を見たとき、彼の制服には、俺の制服にはついている花のような模様が描かれていないことに気がつく。

 

 発注ミスではない。

 

 何故ならその模様が描かれていない制服も、この学校の制服だからだ。

 

 この学校の一学年の定員は二〇〇人。

 その内で魔法力が高い上位一〇〇人を一科生。

 そして残りの下位の方を二科生と呼ぶ。

 制服の模様の有無は、その一科生と二科生を違いを指している。

 

「お前、その制服」

 

 しかし、司波達也は多少魔法を扱うのに枷はあるが、それでもその技能は俺や司波深雪よりも上だったはずだ。

 それなのに彼の制服が二科生だということはつまり。

 

「妹の制服と間違えたか?」

「そんな訳があるか」

 

 まぁそうだよな。

 何せ男子と女子の制服のデザインは違い過ぎる。

 取り違えるはずもない。

 彼が二科生として入学したのはこの目で見て明らかだ。

 

 考えて見れば、彼が二科生だからどうしたという事もない。

 興味も無くなった俺は、再度文字列に目線を戻した。

 

 




誤字報告ありがとうございます。

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