魔法科高校の変人(仮)   作:クロイナニカ

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 頭に軽い衝撃を感じ、俺は目を覚ます。

 寝惚け眼で講堂内を軽く見渡すと、先程までほぼ満員だった座席からは何人かいなくなっており。

 残った生徒の殆ども、既に座席から立ち上がっていて、詰まっている講堂から出る道が解消されるのを待っていた。

 その光景を見て、俺は入学式が終わったのだと気がついた。

 

「起きたか? ツクヨミ」

 

 呼びかけた達也を見ると、彼は俺が貸していた本を差し出していた。

 ……こいつ、背表紙で俺の頭を叩きやがったな。

 しかし、起こしてもらったことにも感謝している。

 感謝と怒りで差し引きゼロになったので、俺は無言で本を受け取った。

 

 それにしても首が痛い、寝違えたか?

 そういえば、叩けば治るというような話を古い小説で読んだことがあったな。

 ああいうのは、例えSF小説でも、現実感を出すために実際に起こりうる現象や、一見正しいように見える知識が書かれるものだ。

 何となく首を擦るよりも効果があると思えたので、俺は少し強めに首を叩く。

 

「何してるんだ?」

 

 傍から見ると、自分の首を叩く行動は奇行に見えるらしい。

 俺は言い訳をするように、その行為の意図を達也に伝えることにした。

 

「いや、寝違えたらしくてな。叩いたら治ると思って」

「お前は何世紀前の機械だ」

 

 首を叩くのは間違っていた民間医療法だったらしい。

 

 

***

 

 

 講堂を出た後、俺はこの学校の生徒だと証明する為に必要なIDカードをもらう為に窓口へ向かった。

 

 窓口には先に講堂から出ていた大勢の生徒が並んでいる。

 俺は最後尾に並んで順番が来るのを待つことにした。

 達也は俺の前に並んでおり、更にその前には何故か俺達と一緒に行動していた四人の女子生徒が並んでいる。

 

 旅は道連れという奴だろうか。

 

 それにしても、こうやって並んでいるのは非常に面倒だ。

 IDカードなんて、先に生徒の自宅に届けておけばいいのに。

 今の時代、輸送先を間違えるといったことはそうそう無いだろう。

 

 そんなことを考えていると順番が来たので、俺は個別認証を終わらせてIDカードを受け取った。

 

 ……失くしそうだな、このカード。

 とりあえず、俺は持ってきた本の中に栞のようにカードを挟んだ。

 

 後ろに並ぶ人の邪魔にならないように少し広い場所に移動すると、茶髪の少女が達也にどこのクラスに所属するのか問いかける。

 

「E組だ」

 

 その答えに対して、二人の少女が同じクラスだと喜び、残った二人は別のクラスだと少し残念そうに答えた。

 一通りの反応を見た後、達也は俺に問いかけてくる。

 

「お前は?」

「いや、まだ知らないけど」

「? IDカードに書いてあったろ」

 

 そう言われ、俺は右ポケットに手を突っ込む。

 ……ないな。

 

 左ポケットに手を突っ込む。

 ……ないな、早速失くしたか?

 

 いや、そういえば本に挟んだったか。

 

 IDカードに記入された内容を読むと、俺の所属クラスがA組だと表記されていた。

 

「A組。お前とは別のクラスみたいだな」

「だろうな」

 

 俺と達也は中学時代、一度もクラスが同じになったことがない。

 なので俺も、高校でも別のクラスで三年間過ごすのだろうと何となく思っていた。

 しかし、達也の話を聞くと、どうやら別のクラスなのは必然らしい。

 なんでも、一科生はクラスがA組からD組、二科生はE組からH組というふうにクラスが決まっているのだそうだ。

 俺が一科生で達也が二科生だから、俺達が同じクラスになるのはあり得ないということだった。

 

 さて、何故彼は別のクラスと分かっていたのに俺が所属するクラスがどこかを聞いたのだろうか。

 一見無意味な彼の質問には、何か意味があるように思えた。

 場の流れ故に、という訳ではないと思う。

 そういえば、校門で深雪を見かけたとき、彼女の制服には花の模様が描かれていた気がする。

 これが記憶違いでなければ、あいつも一科生ということになる。

 ひょっとして、俺と深雪が同じクラスかどうか聞こうとしたのだろうか。

 しかし、IDカードが配布されるまで同じクラスかどうか確認する方法はないはずだ。

 いや、帰ってから妹のクラスを聞けば同じかどうか確認できるか。

 

 ところで、今気が付いたのだが深雪が見当たらない。

 沖縄の事件の後、兄妹なのにどこか他人同士のように見えていた達也と深雪の仲は深まった。

 そのせいか、以前と違い別のクラスであるにもかかわらず、司波兄妹が別々に行動するという印象は殆どない。

 だというのに深雪が今、この場にいないことに今更ながら違和感を覚えた。

 

「悪い。妹と待ち合わせているんだ」

 

 声に出していないのに、まるで噂をすればといったタイミングで彼女の話題が上る。

 ここは話題に乗らせてもらおう。

 

「そういえば、あいつ見当たらないな」

「今更か? ていうか……あぁ、お前寝てたな」

 

 一人で納得しないでほしい。

 それから『妹はどうしたのか』という話題は、赤髪の少女の『どんな妹か』という質問によって流される。

 しかし、俺が聞きたかった答えは眼鏡の少女の質問によって得ることができた。

 

「もしかして……新入生総代の司波深雪さんですか?」

「総代?」

「代表者、という意味だ。

 深雪は新入生の代表者として入学式のときに全校生徒の前で答辞をしていたんだ」

 

 誇らしそうに達也は語った。

 

 総代ぐらい俺でもわかる、馬鹿にしないでもらいたい。

 

 ところで、答辞とは何をするのだろう。

 校長の話すらまともに聞かないからよくわからない。

 体育祭の時の選手宣誓みたいなものか?

 だとしたら則るのはスポーツマンシップではなく、きっと校則だな。

 

 くだらない事を考えてると、達也たちの会話は二人が似ているかという会話になっていた。

 

「似てる似てる。司波君、結構イケメンだしさ。

 それに顔立ちがどうこうとかじゃなくて、こう……雰囲気みたいなものが」

「イケメンって、いつの時代の死語だ。

 それに顔立ちが別なら結局似てないってことだろう?」

 

 赤髪の少女はフォローが下手だった。

 

 イケメンって死語だったんだ。

 よく見かける単語だから知らなかった。

 

 赤髪の少女が言葉に詰まっていると、眼鏡の少女が、「達也と深雪の二人のオーラは、面差しがとてもよく似ている」と、赤髪の少女の言いたいことを翻訳するように言った。

 

 なるほど、赤髪の少女はフォローが下手だったのではなく、語彙が足りなかったらしい。

 

 しかし達也は、俺が気づいた事とは別の事を気にし始める。

 

 彼が気にしたもの、それは眼鏡の少女の瞳だった。

 オーラが見えるというのは、どうやら普通のことではないらしい。

 

 俺の『千里眼』はたぶんオーラのような靄を見ることができる。

 たぶん、と付けた理由は、それがオーラなのかという見分けがあまりつかないからだ。

 

 彼女が二人が兄妹だと気が付いたのは、どのオーラだろう。

 二人の繋がりというのなら、中学二年ぐらいの頃から見えた二人を繋ぐ靄のことだろうか。

 

 

***

 

 

「お兄様、お待たせいたしました。

 お久しぶりです、ツクヨミさん」

 

 噂が終わったのに影が差す。

 深雪が来たとき、そんなくだらない言葉が思いついた。

 

 実は彼女と達也の二人に最後に出会ったのは中学の卒業式だった。

 故にこの再会は一月ぶりのものである。

 

 そんな彼女を見たとき、俺は「こっち来るな」と思った。

 それ程の人口密度が、彼女の後ろに出来ていたのだ。

 

 その人混み中から一人の女子生徒が、後ろに一人の男子生徒を連れて現れる。

 

「こんにちは、司波君。また会いましたね」

 

 男子生徒に見覚えはなかったが、女子生徒の方は見覚えがあった。

 まぁ、見覚えがあるだけで思い出せないが。

 

「生徒会長の七草 真由美さんです。

 入学式の時、挨拶をしていたでしょう?」

 

 俺が首を傾げていると、深雪がこっそりと教えてくれた。

 挨拶は知らないが、何処で見たのかは思い出せた。

 たしか予知で彼女を見たのだ。

 じゃあ知らないな、直接会ったことが無いのだから。

 

 それにしても、さえぐさ、ね。

 たしか漢字は漢数字の三に木の枝で三枝だったかな。

 

 実技重視の魔法科高校の生徒会長で、十以下の数字が入っている苗字ということは、二十八家の人だろうか。

 

「ところでツクヨミさん、そちらの方々は?」

「さぁ、あいつがナンパしたんじゃないか?」

「違う」

 

 小声で話をしていたのだが、どうやら達也には聞こえていたらしい。

 それから達也は、深雪(と俺)に二人の紹介をする。

 

 赤髪の少女の名前は千葉 エリカ、そして眼鏡の少女は柴田 美月というらしい。

 ……柴田?

 

「柴田って、お前達と同じ苗字か」

「……ツクヨミ、ちょっと俺の名前を言ってみろ」

「? 柴田達也」

 

 あれ、何か『た』が多い気がする。

 

「言ってて気づいた様だが訂正させてもらう、俺達の苗字は司波だ」

 

 俺は目をそらした。

 




誤字報告ありがとうございます。
私は赤髪と茶髪の見分けができないので助かります。

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