魔法科高校の変人(仮)   作:クロイナニカ

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 眼鏡の少女、柴田 美月と赤髪の少女、千葉エリカとの自己紹介の後。

 深雪がその場の気温を低下させる珍事を起こすなどの事があったがそれ以外に特に語ることはなく。

 俺はその後一人で帰宅した。

 司波兄妹と柴田と千葉は、あの後は美味しいケーキを食べに行ったらしい。

 ちなみに俺も誘われたのだが、その日はケーキを食べたい気分ではなかった。

 俺が甘いものが好きだと知っている司波兄妹は断ったことに対して驚いていたが、別に俺は常日頃から甘いものを欲している訳ではないのだ。

 

 そんなことはさて置いて、それは高校入学二日目の事。

 登校後、俺は教室に入ると自分の席について持ってきた本を広げた。

 

 その日持ってきた本は、とある地上絵がどのように出来たのかというものを一人の人物の視点から描かれた作品だった。

 本の表紙にはその地上絵が書かれているのだが、俺にはそれが絵というよりもただの白い線にしか見えなかった。

 年月によってただの線になったのか、あるいは星座の星の繋がりのように昔の人は想像力豊かだったのか。

 まぁ、物語を読む分には些細な事柄なのだが。

 

 

***

 

 

 教室内では、既に幾つかの小さな集団ができていた。

 入学してからまだ二日目だというのに、赤の他人に一体どの様な用事があるのだろうか。

 いや、全員が他人という訳ではないらしい。

 俺の斜め前の席に座る二人の少女はそれなりに長い付き合いをしているような雰囲気だった。

 今日が入学二日目で長い付き合いだとしたら、彼女たちはきっと同じ中学の出身者なのだろう。

 

「おはようございます。ツクヨミさん」

 

 そう言って、いつの間にか登校していた少女、司波深雪は俺の隣の席に座る。

 また隣か、本当に妙な縁だ。

 

 俺は手を軽く振り挨拶を返した。

 

「ツクヨミさん、挨拶はちゃんと人の目を見て声に出してするものでしょう?」

 

 俺の返事のやり方は、あまり彼女の美的感覚に沿うものではなかったようだ。

 俺は文字列から目を離し、深雪の瞳を見る。

 

「おはよう。……ところでお前の常識は正しいかもしれないが、頭を下げる日本人の挨拶で目を合わせるのは不可能じゃないのか?」

「揚げ足を取らないでください。それに物理的に目を見なくても心の……いえ、ツクヨミさんには無理ですね」

 

 どういう意味だ、コラ。

 良い笑顔で語る深雪に、俺は表情で抗議した。

 

 能力を使えば俺だって心の目で他人を見ながら挨拶することはできる。

 あれ、じゃあ最初の俺の挨拶は結構いい線いっていたのではないだろうか。

 

 それから深雪は、机に設置された端末にIDカードをセットして何かをやり始めた。

 その行為を見ていると、俺も何かやらなければいけない事があったように思えたので、俺は深雪の使っている端末の画面を眺めていた。

 その視線に気が付いた深雪は、俺に問いかける。

 

「ツクヨミさんは、既に受講登録は終えたのですか?」

「……あ」

 

 忘れていた。

 別に直ぐにやる必要はないのだが、俺の場合忘れたまま放置するだろうと、司波兄妹に言われて受講登録を手早く終わらせるために何を受けるかは先に決めていたのだ。

 

 俺はポケットの中からIDカードを探す。

 ない、家に置いてきた。

 

 俺は『千里眼』を発動させて、自宅に置いてきたIDカードの領域を指定し、周りの人達に気づかれないように『空間置換』で手元に移動させる。

 

 IDカードを端末にセットして受講登録の作業をしていると、目の端で髪を後ろに二つに分けて結んでいる少女が勢いよく転ぶのが見えた。

 顔からいったように見えたが、手がわずかに先に地面についたようなので、見た目より痛みはないだろう。

 受講登録を終えた俺は、再度本を開いた。

 

 俺よりも早く何かしらの作業が終わっていた深雪は椅子から立ち上がると、「大丈夫ですか?」と声をかけて転んだ少女を助け起こす。

 そして、それから何故か俺の説教が始まった。

 

「ツクヨミさん、こういう時は無視せず率先して助け起こすものだと思いますよ」

「いや、こういう時は見て見ぬふりするのが優しさだと昔文香が言ってたぞ」

「それはケース・バイ・ケースですよ」

「それに、助けると言ってもどう助けるんだ。

 見たところたいした怪我もしてない。

 俺の記憶が正しければ『大丈夫か?』と聞く相手はどう見ても大丈夫じゃない相手だけだ。

 今回の場合は、彼女がどう見ても一人で何とかできるレベルの事故だったろ」

「色々反論したいのですが、とりあえず貴方の記憶の件は間違っています」

 

 それから深雪は何故か俺の態度に対する謝罪を転んだ少女にする。

 転んだ少女は深雪に対して助けてもらったことにお礼を言って、自己紹介を始めた。

 その光景は、どことなく園児と先生に見えた。

 

「すいません、司波さん。

 この娘ちょっとおっちょこちょいなもので」

 

 保護者の登場により園児と先生の交流は三者面談になった。

 

 転んだ少女は保護者の少女に対して抗議を始めると、深雪は保護者の少女に何者なのかと問いかける。

 

「初めまして、北山 雫です。お名前はかねがね」

 

 そういうと保護者の少女は俺に視線を合わせる。

 

 深雪の事は知っています。

 けど、あなたの事は知りません。

 

 きっと彼女の視線の中にはそんな言葉が隠れているのだろう。

 

 さて、そうなると俺も自己紹介をするべきなのだろう。

 丁寧な挨拶をされたのだから、ちゃんとした挨拶を返すべきか。

 

 俺は席から立ち上がり、本を閉じた後机の上に置き、作り笑いを浮かべて頭を下げる。

 

「初めまして、月山 読也といいます。

 同じクラスメイトとして、以後、よろしくお願いします」

 

 まぁたぶん、明日には彼女たちの事は忘れ、今後はろくに関わることもないと思うけど。

 作り笑いを浮かべたまま顔を上げると、転んだ少女と保護者の少女は真顔で俺を見つめている。

 

 その光景に疑問を抱いていると、深雪は小さく笑いながら語った。

 

「見ての通り変わった方ですけど、悪い方ではありません」

 

 彼女はフォローしたつもりなのかもしれないが、兄妹揃って人を変人扱いするのは何故なのか。

 そのことは腑に落ちなかったが、俺は考えるのをやめて席に着き読書の再開をした。

 

 

***

 

 

 今の時代、教員が教壇に立って授業をするというのはあまりないそうだ。

 だけど現在、オリエンテーションの時間に俺のいるクラスでは教員が教壇に立っている。

 

 それは何故かというと、この学校が魔法を扱う学校だからだ。

 

 ただ知識を教えるにあたって今の時代、人を必要とはしていない。

 学校で教わらなくても、調べようと思えば端末などで調べることができる。

 科学の実験も、映像記録で十分だった。

 

 しかし魔法はかなり繊細な物で、そして危険な物だった。

 

 それは機械では管理できるものではない。

 それ故に、魔法科高校では教員が直接魔法の指導を行うのだ。

 ちなみに二科生には教員がつかないらしい。危険とは何だったのか。

 しかし魔法を教えられる人には限りもあるので人員をそろえられないというのも事実。

 

 まぁ、事故が起きても巻き込まれないように努力しよう。

 

 さて、オリエンテーションの後は授業の見学だった。

 魔法科高校の授業は普通の授業とは少し違うらしく。

 この見学は、その授業に慣れるためのものだった。

 

「ツクヨミさんは午後の実技演習の見学はどちらにむかわれますか?」

 

 午前の見学は二種類ある。

 魔法学の基礎と応用の見学か、もしくは他のところで行われている授業の見学。

 俺は魔法を学び始めたばかりの人間なので、見学する授業は魔法学の基礎と応用の見学だ。

 

 しかし、俺は深雪に自分の答えを伝えることができなかった。

 

 何故かというと、答えようと思った瞬間彼女の周りにクラスの男子が群がり始めたからだ。

 俺は人口密度の高い所にいるのは好きではなかったので、集まることを予知した瞬間に椅子を蹴って離れる。

 

 その群がる集団から深雪を助ける必要はない。

 時と場合による(ケース・バイ・ケース)

 彼女はこの後、転んだ少女と保護者の少女に助けられることは判っている。

 

 空間置換を使わない限り俺が深雪を助ける方法はない。

 そして俺は人前で大っぴらに空間置換を使う気はない。

 それは彼女を助けられないのと同じだ。

 

 どうせこの後助けなかったことに文句を言われるのだ。

 ならば楽な方に、俺は行こう。

 

 俺は誰よりも先に授業の集合場所に向かった。

 




誤字報告ありがとうございます。

些細な補填
達也:二科生の中に一科生が居ればそれは変な目で見られるだろう。

深雪:不愛想で視線以外は顔や体の向きを話し相手に合わせなかった人が、一変して微笑みながら丁寧に挨拶し始めれば驚かれるでしょう。

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