「いい加減に諦めたらどうですか!」
日付はまだ変わらずその日の下校時間。
場所は魔法科高校の校門。
事態は面倒な事になっていそうだと一目で分かった。
事の起こりは知らない。
俺は帰宅前に学校でボトル飲料を買って帰るときにその事件に遭遇した。
ちなみに何故わざわざ学校で買ったのかというと、学校で販売されていた飲料が他の店で買うより安かったからである。
閑話休題。
最初に遠目でその事件を目撃したとき、興味もなかったので無視して通り抜けようとしたのだが。
その事件に絡まれているのが司波兄妹だとわかってしまい、通り抜けるのを躊躇しているのが現状である。
いや、それすら無視して通り抜けてもいいのだが、たぶん司波兄妹に捕まってしまうだろう。
それに司波兄妹の方も、俺が近くにいる事に気が付いたらしい。
これは逃げたら後が面倒そうだ。
何故こんな事態になっているのだろうか。
せめて校門でなければまだマシなのだが。
というか、司波兄妹は事件に巻き込まれ過ぎではないだろうか?
旅先で外国からの攻撃に巻き込まれ、襲撃者達の
それはさておき、状況を考察しよう。
言い争っているのは二つのグループ。
二つのグループは、制服を見る限り一科生と二科生のようだ。
二科生のグループの方に深雪が混ざっているが、グループの後ろにいるという立ち位置的におそらく例外なのだろう。
二科生のグループには見覚えがある人物達で構成されていた。
二科生グループの一番前で言い争っている少女は今時珍しい眼鏡を掛けている少女だったので覚えている。
その他の人物達も、午後の授業見学で見かけた人物達だ。
……はて、一科生にもどことなく俺の所属するクラスで見かけた人物達で構成されている気がする。
「深雪さんは、お兄さんと一緒に帰ると言っているんです!」
ふむ、巻き込まれているのではないのか?
「一緒に帰りたかったら、ついてくればいいんです!
何の権利があって二人の仲を引き裂こうとするんですか!?」
どうやら今回の事件の中心は、司波兄妹のようだ。
***
事件をできるだけ簡単に整理すること以下になる。
司波兄妹が一緒に下校しようとする。
達也のクラスメイトが一緒に下校しようとする。
深雪のクラスメイトが一緒に下校しようとする。
二人のクラスメイトが喧嘩する。
眼鏡の少女も言っていたが、お前ら全員一緒に帰れよ。
まぁしかし、人間関係がそう簡単に上手くいくわけはない。
反りが合わなければ、人間はどうあがいても仲良くなるのは難しい。
友人の友人が、友人になれるとは限らないのだ。
感情としては分からないが、それはそういうものだと知っているので、仲良くしろとは言えない。
それでもいい加減何とかしないと、俺は帰れないし、深雪の何とかしてほしいという視線も鬱陶しい。
今の時点で一体自分たちと何が違うのかという眼鏡の少女の問いを他所に、俺は『未来予測』を発動した。
未来予測で一通り結果を見た後、俺は一度未来予測を発動しなおす。
未来予測の処理速度を十秒後の時点で等倍にして、俺は立ち位置を調整した。
一科生の一人が構えた特化型のCADが、赤髪の少女の持つ刻印型の術式が刻まれている警棒型のCADで弾かれる。
調整した位置に飛んできたCADをキャッチし、俺は髪を二つに結んだ少女に近づく。
飛んできたサイオンの塊を手で弾いた後、俺は拾ったCADのグリップの底で魔法を使おうとした少女の頭を小突いた。
小突かれた少女は驚いて魔法を止め、小突いた俺を見る。
ここまで行動すれば、とりあえず深雪からの文句もないはずだ。
小突いた少女の視線を誘導するように、俺は近づいて来る生徒会長を見つめた。
***
生徒会長と風紀委員の介入後。
達也の言い訳と深雪の誠意により、事態は終息した。
ここまでが、俺が見た未来の結果である。
例え俺が茶々を入れなくてもこうなることは知っていた。
それでも手をだしたのは、ただ見ているだけだと、深雪に文句を言われることが能力を使わなくても分かったからだ。
さて、これで特に障害もなく帰れるだろう。
達也と言い争っていた一科生にCADを返し、俺は帰宅しようとした。
「ツクヨミさん。よろしければ、一緒に帰りませんか?」
深雪に呼び止められ、俺は一考する。
そういえば、俺は深雪とは長い付き合いだが、一緒に下校したことは一度もなかったな。
しかしだからといって、今更一緒に帰る理由もない。
達也のクラスメイト達に関わるのも面倒な気がしたので、俺は冗談を交えて拒否することにした。
「土にか?」
「還りません。
心中したいように見えましたか?」
「いや、軽いジョークだ、気にするな。
悪いけど、歩幅を合わせるのは苦手でね、俺は一人で帰らせてもらうよ」
「そんなことは言わず、折角駅までの道が同じなのです。
一緒に下校しましょう?」
それ以上の問答は無駄に思えた。
どうやら彼女は俺を一人で帰らせる気はないらしい。
俺は軽く息を吐いて、司波兄妹達と下校することに同意した。
「あの!」
さっさと帰ろうと達也に目配せをすると、先程小突いた二つ結びの少女に呼び止められる。
彼女が呼び止めたのは正確には俺達ではなく達也だった。
「光井 ほのかです。先は失礼なことを言ってすいませんでした」
こいつ何か言ってただろうか?
それはさておき、彼女の名前は何処かで聞き覚えがある。
はて、何処で聞いたのだったか。
そんな考え事をしているうちに話は進み。
二つ結びの少女と、彼女のそばにいた無口そうな少女達は俺達一行と一緒に下校することになった。
まぁ思い出せないのは仕方がないと、俺は思考やめる。
すると、無口そうな少女は俺の前に立ち、何かを言いたそうにしていた。
……これはさっさと思い出さないと不味いか?
そう思っていると、深雪は俺に問いかける。
「まさかとは思いますが、今朝二人と会っている事をお忘れですか」
少し冷ややかな声だった。
お忘れでしたが、『今朝』という単語で、俺は彼女たちの事を思い出す。
「あぁ、転んでた人達か」
「何か変な覚えられ方してる!?」
「……私は転んでないよ」
聞き耳を立てていた二つ結びの少女改め、転んでいた少女は驚き。
無口そうな少女改め保護者の少女は訂正した。
そして保護者の少女は語る。
「月山さんも、ほのかを止めて頂いてありがとうございました」
「気にするな。何もしなくても、どうせ生徒会長に止められただろう」
「ううん、それでもほのかの為にしてくれたのは事実だから」
「物事はなるようにしかならない。気にするなとはそういう意味だ。
それに、別にそいつの為にやった訳じゃないよ。
何もしないと『あれ』が煩いからやっただけだ。
故に自分のためにやったことだから、礼を言う必要はない」
「人を物みたいに言わないでください」
「……いや、否定するのもおかしいか。
素直に受け取ろう、どういたしまして」
保護者の少女の感謝の言葉を受け取ると、彼女は目を大きく開いて少し驚いた後、微笑んだ。
「月山さんって、変わってるね」
どうしてそうなった。