日付は変わるが翌日の事である。
時刻は昼。
現在俺は生徒会室にいた。
何故俺がそんなところにいるのかというと、それは登校時間の事である。
入学式と二日目に比べて、俺は少し遅めに家を出た。
俺は出来るだけ朝はゆっくりしたい。
なので、家にいられる時間を見極めるため、初日から数日間はこうやって時間を調整しながら登校している。
その結果、駅に着いたときに司波兄妹と出会い。
駅から学校までは一本道、わざわざ別れて登校するような通学路ではないので一緒に登校することになった。
そしてその道中に達也のクラスメイトと遭遇する。
この調子だと、深雪のクラスメイトの女子生徒二人とも合流するのかと思っていたら、次に出会ったのは生徒会長だった。
生徒会長は、達也を呼びながら近づいて来て、司波兄妹を代表に全員に挨拶する。
司波兄妹は丁重に挨拶を返したが、俺は会釈だけで済ました。
最初は、俺に対してのものではないと思って無視しようとしたのだが、達也のクラスメイトが生徒会長に挨拶をしたので、俺は空気を読んだのだ。
生徒会長を交えた俺達は、俺を先頭に登校することになった。
何故俺が先頭なのかというと、生徒会長に気圧された達也のクラスメイト達には少し後ろに下がった位置で達也達について来たのだが、俺も関わりたくないので下がろうとしたら、俺が逃げられないように達也が先頭に押し出したのだ。
さて、生徒会長は、偶々司波兄妹と遭遇したわけだが、全く用事がなかったわけではないらしい。
用事というのは、生徒会の事のようだった。
深雪が新入生総代を務めたという話から考えて、おそらく生徒会に入ってほしいという話だろう。
生徒会長は、しっかりとした説明をするために、昼食の時間に生徒会室に来ないかと深雪を誘った。
「生徒会室なら、達也君が一緒でも問題ありませんし」
と、生徒会長は、一科生と二科生という立場のせいで一緒にいられない深雪と達也が一緒に昼食を取れるというメリットを提示する。
その話を聞いた司波兄妹は幾つか質問をした。
そして検討した結果、二人は今日の昼食は生徒会室に行くことに決めたらしい。
生徒会長は、達也のクラスメイト達にも一緒にどうかと誘う。
しかし赤髪の少女を代表に、達也のクラスメイト達はその誘いを辞退した。
俺も断ろうとしたのだが、俺も昼食の時、できれば一緒に来てほしいと頼まれてしまった。
来てほしいと頼んだのは、深雪でも、達也でもなく、生徒会長だった。
なんでも、生徒会長は生徒会とは別に、個人的に聞きたいことや、場合によっては頼みたいことがあるらしい。
今から未来予測をしても昼の出来事まで演算するのは難しい。
断ってもいいが、何故生徒会長が俺に目を付けたのかも気になる。
迷った結果、俺も同伴することにした。
***
そんな訳で生徒会。
生徒会長は、話し合いの前に食事をしようと言って、何が食べたいかと問いかける。
昼食を生徒会長が作るので、何が食べたいか。という話ではなく。
彼女が聞いていたのは、生徒会室に設置された自動配膳機のメニューだ。
種類は肉、魚、精進。
司波兄妹は、精進を選んだ。
生徒会長は俺を見つめて、何にするか問いかける。
「月山さんは、何にしますか?」
「パン」
別にふざけたわけではない。
生徒会室で昼食をとらないかと誘われたときに、自動配膳機があることは聞いていた。
しかし、自動配膳機で食べられるものが俺の好きな物とは限らない。
なので、俺は先にパンを購買で買ってきておいたのだ。
買って来たものを見せると、姉御とか呼ばれてそうな気の強そうな先輩に話しかけられる。
「おいおい、若い男子がパン一つで足りるの……、何故カステラ?」
美味しそうだったから。
もちろんそれだけで腹が満たせるわけがない。
彼女から死角の位置にはカステラがもう一つある。
お茶を買い忘れたので貰っていいか?
と、俺は生徒会長に聞こうとしたのだが、生徒会長を見たとき、彼女は何故か俺を見て苦笑していた。
***
食事の準備が終わるまでに、とりあえず自己紹介をすることになった。
入学式で既に紹介されているらしいのだが、もちろん俺は誰一人知らない。
最初に紹介されたのは副会長。ではなく会計の人だった。
これは通学中に聞いたことなのだが、副会長は昼食を別の所でとっているらしい。
次に紹介されたのは、先程俺に話しかけてきた気の強そうな先輩。
彼女は風紀委員長なのだそうだ。
そういえば昨日。
校門での事件のときに、こんな人を見た気がする。
そして最後に、書記の人が紹介されたのだが。
彼女のその容姿を見て、俺は思わず言ってしまった。
「下級生?」
「それだけはない」
隣に座る達也に指摘されたが、俺もそれぐらいは判っている。
俺達は一年だ、下はない。
しかし書記の人は、少なくとも俺には年上に見えないような容姿だった。
小さくつぶやいたつもりだったのだが、思いのほか俺の声は響いていたらしく、生徒会長は笑いながら訂正する。
「ふふ、あーちゃんは二年生よ、月山さん。
……あーちゃんは二年生よ、月山さん。」
「そうですよ。私はちゃんとした……どうして会長は今二回言ったんですか!?」
そう語る書記の人の姿は、やはり年上には見えなかった。
そんな茶番劇をしているうちに、自動配膳機から五人分の料理が出てくる。
ちなみに今、この場に居るのは七人。
俺の分を除いても、料理が一人分足りない。
そんなことを考えていると、風紀委員長は弁当箱を取り出した。
彼女が自分で作ったのだろうか?
だとしたら、随分と家庭的な人である。
食事が始まると、深雪は風紀委員長にその弁当は自分で作ったのかと問いかける。
彼女の答えは肯定だった。
それは意外かと彼女は深雪に問うと、深雪の代わりに達也が意外ではないと否定した。
達也を見ると、彼は風紀委員長の指を見つめていた。
さて、大体その辺のことである。
俺は食事を終えた。
空になった袋を折りたたみ、俺は本を広げる。
どうせ俺より先に、深雪に生徒会の話をするだろう。
話題が俺に向くまで、話を聞き流しながら俺は読書をすることにした。
その日持ってきた本は、結構有名な人造人間の話である。
読み始めようとしたとき隣で達也が語る声が聞こえた。
「血のつながりが無ければ恋人にしたい、と考えたことはありますが」
あまり話を聞いていなかったが、俺はとりあえずドン引きした。