魔法科高校の変人(仮)   作:クロイナニカ

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 時は進み、それは俺が中学生になって最初の夏休みに起きた出来事。

 

 その日俺は沖縄に来ていた。

 

 家族との旅行で来た。と、いうわけではない。

 

 日に日に予知で見た司波妹の姿に重なっていく現在の司波妹を見ているうち。

 司波妹が撃たれる場面に居合わせるというのがとても面倒に思えてきた俺は、未来を変えてしまおうと思いついた。

 そして未来を変えるため、司波妹と関わることがないように地元から離れようと、俺は使うことなく無駄に溜まっていた貯金を使って沖縄まで一人旅に来たのだ。

 

 

 予知した未来がいつ起きる出来事かはわからないが、俺の勘が正しければ今年か来年の長期休み中に件の事件は起きる、はずである。

 

 予知で分かるのは、そこが窓のない室内であるという事。

 そして、その場にいるのは俺と司波妹だけではなく、司波妹の身内のような人達がいるという事だ。

 

 俺と司波妹が通っている学校にも窓のない部屋はあるが、その空間に司波妹の身内がいる理由が想像つかない。

 

 つまり事件が起きるのは学校にいるときではないと思われる。

 

 そして放課後と土日祝日は基本的に外出しないので、

 もし彼女の身内と会うとしたら、偶には外に出ろと親に言われて適当にショッピングタワーなどをぶらぶらと歩き回る長期休み中のどこかだ。

 

 銃を持った人が云々というニュースを偶に見かけるが、それが俺の身近で起きたということはない。

 そんな銃をもった人が窓のない部屋にいるという事は、おそらくその部屋は避難所、もしくはシェルターのような部屋なのだろう。

 

 以上から考えて、事件はおそらくこのような流れだ。

 

 まず俺が長期休みの外出中にテロか何かに巻き込まれる。

 避難した先、もしくは避難中に司波妹とその身内に出会う。

 避難した先に銃を持った人が入ってきて、司波妹達は銃を持った人に撃たれる。

 

 と、だいたいそんなところだろうか。

 

 沖縄に一人で旅をするのによく親から許可がでたと思われるかもしれないが。

 普段部屋に引きこもっている俺が外の世界に興味を持ったという事で、俺の親は一人旅を喜んで許してくれた。

 

 危険を冒してまで司波妹を助けるほど、俺は彼女に情があるわけでもない。

 というわけで、俺は地元から離れて、嵐が過ぎるのを待つことにしたのだ。

 

 

***

 

 

 俺は海から砂浜を挟んだ奥にある道に座り、ただ海を眺めていた。

 借りていた安いホテルに籠ってずっと本を読んでいたのだが、持ってきた本にも数が限られているので流石に飽きてきたのだ。

 端末を持ってきてはいるが、俺は光る画面に書かれた文字を読むのがあまり好きではないので、必要でもない限り使いたくはなかった。

 

 気晴らしに外に出れば、またしばらく外に出る気も失せるだろう。

 

 そんな発想の元、俺はこうしてただ海を眺めていた。

 

 海で一人遊んでいる少女を見ながら退屈を紛らわせる方法を考えてみる。

 

 俺も水着でも持ってくればよかっただろうか。

 いや、少しお金に余裕もあるし、その辺の店で買ってこようか。

 

 しかし、俺には海で一人遊ぶというのが想像ができない。

 

 というか、何が楽しいのだろう。

 海水はべた付くので、水遊びをするならば風呂場かプールでやればいい。

 一人では誰かと水の掛け合いのような遊びもできないので泳ぐことぐらいしかできないはずだ。

 

 ならば、あの少女は何をして遊んでいるのだろう。

 

 遠泳でもするのだろうか?

 しかし見ている限りそんな様子はない。

 ナンパ待ちとかか?

 だが今時、しかもあんな中学生ぐらいの少女がそんなことするようには思えない。

 

 ……なんだろう、あの少女には見覚えがある気がする。

 

 他人の空似か?

 空似であってほしい。

 何故なら俺は彼女から離れるために沖縄まで来ているのだから。

 

 そんな俺の視線に気が付いたのか、俺と目が合った司波妹は凍ったような表情を浮かべていた。

 

 

***

 

 

「こんにちは、月山さん」

 

 司波妹と、近くで妹を見守っていた司波兄との会話はそんな挨拶から始まった。

 実を言うと、司波兄と会話をするのはこれが初めてだったりする。

 というか司波兄に限らず、他人との交流はクラスメイトとすらほとんどない。

 俺が学校で会話する人物なんて、何故かいつも近くの席にいる司波妹ぐらいだ。

 

 故に、俺は司波兄のことをあまり知らない。

 いや、それを言ったら妹の方のこともあまり知らないか。

 

 この兄妹は双子ではないが同じ学年に在籍している。

 二人とも学校の成績は優秀で魔法が使える。

 

 考えてみると、司波兄妹について知ってる情報はそれぐらいだけだった。

 

 そういえば。

 基本的に他人に興味を持たない俺だったが、性教育を学んだあとに司波兄妹の年齢差を考えて。

 

 両親頑張ったな。

 ぐらいの感想を懐いたことがある気がする。  

 

 さて、閑話休題。

 

 先ほどまで水着姿だった司波妹は、今はその上に前開きのチュニックを着ている。

 海に入っていたのにほとんど濡れた様子がないのは、タオルで拭いたからではなく、魔法を使ったからだ。

 

 肌についた水滴や汚れを落とす便利な魔法である。

 

 魔法については少し齧った程度の知識しかないが、こういうこともできるのなら、もう少し真面目に学んでみてもいいかもしれない。

 

「月山さんはどうしてこちらに?」

 

 挨拶を終えた後、どういう会話をして切り上げようかと考えていたら、司波妹からそんな質問を投げ掛けられる。

 

 その質問は、俺も彼女に問いかけようと思った質問だった。

 

 しかし、よく考えたら旅行に来たという以外の答えしかないと思ったので、俺は聞くことをやめた質問だった。

 

 そんなわかりきった質問を何故する必要があるのだろうか?

 

 少し考えてみる。

 もしかしたら彼女は、何故俺が海岸に居るのかを聞いているのかもしれない。

 

 例えば、砂浜で戯れる水着の女性を下卑た目で見に来ていたとか。

 さっきまで俺は、司波妹をそういった視線で見ていたと思われているのかもしれない。

 

 だとしたら名誉棄損である。

 

 俺は海岸に来た理由を簡潔に、淡々と述べることにした。

 

「散歩」

「……ここ沖縄ですよ?」

 

 もちろん知っている、馬鹿にしているのか?

 

 ……はて、何となく会話が噛み合っていない気がする。

 

 何言ってんだこいつみたいな表情をしている理由。

 それはもしかしたら、俺が聞く必要のないと思っていた事は、彼女には聞く必要があって、だから聞いていたからなのかもしれない。

 

 だとしたら俺は沖縄まで散歩に来たと思われたのではないのだろうか?

 

 それを知るために、俺は司波妹に問い返した。

 

「お前達は?」

「私達は家族旅行ですよ」

 

 司波妹がそう言うと、司波兄はそれに同調するように頷いた。

 どうやら彼女たちは答えが分かりきった質問をしていたようだ。

 

 しかし、彼女は何故そんな質問をわざわざしたのだろう?

 

 いや、会話を円滑に動かすのにはそういったことが必要な事なのかもしれない。

 何となく、自分が少し賢くなったような気がした。

 

 そのあとも、俺は司波兄妹は淡々とした会話をこなす。

 いや、会話というよりは、近状報告と言った方が正しいのかもしれない。

 

 内容としては。

 今回の司波家の家族旅行では父親が参加していないだとか。

 代わりに家で雇っているお手伝いさんが一緒に来ているのだとか。

 俺は沖縄に一人で来ている事とか。

 中学生になったので一人旅をしようと思っただとか。

 

 お互い本当か嘘か分からない事を、ぽつぽつと語る会話だった。

 

 そして切りのいいところで話を止めて、司波兄妹には何やら用事があるということで、俺たちはその場で別れることになった。

 

 さて、どうやら彼女達はあと十日以上沖縄に滞在するらしい。

 

 何か嫌な予感がした。

 具体的には予知した未来がもうすぐ起きる気がする。

 

 予定よりも、俺は沖縄から帰る日程を少し早めた方がいいのかもしれない。

 




誤字報告ありがとうございます。

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