魔法科高校の変人(仮)   作:クロイナニカ

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 生徒会室の中には、昼食を共にしていた人達に生徒会の副会長を加えた五人の生徒がいた。

 

「いらっしゃい、深雪さん。

 達也くんもご苦労様。

 昼は呼び出したのにお話しできなくてごめんなさいね、月山さん」

 

 俺達三人を快く迎え入れたのは生徒会長だった。

 他の四人の生徒達は歓迎していない、という意味ではなく。

 風紀委員長は達也を、生徒会役員は深雪を、といった感じで自分の委員会に入る生徒を主に歓迎していて。

 生徒会長は全員を歓迎しての発言だった。

 

 挨拶を終えた後、仕事の内容を教える為。

 深雪は書記の人が付き、達也は風紀委員長に何処かへと連れられて行こうとしていた。

 

 俺の担当は生徒会長である。

 まぁ、俺に用があるのは生徒会長だけの様だしな。

 

 案内された椅子に座ると、生徒会長は俺の隣に座った。

 それはおそらく、これからする会話は、机が必要ないということだろう。

 上座下座は考えず、生徒会長としての会話ではないということだ。

 彼女の話そうとしていることは、きっと個人的な事なのだろう。

 

「あらためて昼間はごめんなさいね、月山さん。

 早速だけどそうね、昼のときよりずっと時間もあるし、ちょっとした質問から始めようかしら」

 

 さて、生徒会長には悪いが、俺は彼女の話を聞く気にはなれない。

 呼び出されたのに放置されたことで怒ったわけではない。

 昼に話題を出せなかったのは、多分予定外の問答があったせいだ。

 本来であれば、彼女の話は、深雪の生徒会への誘いをした後で十分だったのだろう。

 

 それが深雪の達也が生徒会に入れないか、という話と。

 達也がどうせ断り切れない風紀委員入りに駄々を捏ねたせいで時間が無くなったのだ。

 生徒会長の個人的な話と生徒会の話。

 どちらが優先かなんて考えれば、彼女の役職からして、多分後者だ。

 なので、昼に話が出来なかったのはしょうがない事なのだと思う。

 

 理解と心情が一致するわけではないが、必ずしも不一致というわけではないのだ。

 

 ならば、俺が質問の内容を知っているから、というわけでもない。

 実は、俺が教室で使った未来予測は、生徒会室に入る前で見るのをやめている。

 何故かと言えば、その後に起きる出来事が、何時か見た予知の出来事だと分かったからだ。

 具体的に何をしていたかはうろ覚えなので細部は判らない。

 しかし、多少面倒になりそうな出来事だったので、何が起きたかは覚えている。

 もしこの出来事に直面しそうになったら避けようと考えた程度に。

 

 では、何が起きるのか、と言えば。

 

「渡辺先輩、待ってください」

 

 また俺の話が中断されるという事だ。

 

 

***

 

 

 俺が見た予知では、副会長が発言をしたところで終わっている。

 なのでここから先は大体初見だ。

 

 今から未来予測を使って、後の出来事を見てしまおうか。

 しかし、今それを知るのは少し怖い。

 このまま話し合いが出来ず、また明日という事になると知った場合、この後の出来事はただの苦痛になるからだ。

 

「なんだ、服部刑部少丞範蔵副会長」

 

 副会長の名前長いな、寿限無みたいだ。

 

 それから服部刑部少丞範蔵副会長と風紀委員長は名前の呼び方について口論を始め、最終的には生徒会長が二人の口論を止める。

 その様子を見て、これは未来予測を使わずに見ていた方が面白いかもしれないと思った。

 飽きたら本でも読んで終わるのを待っていよう。

 

 口論を終えた服部刑部少丞範蔵副会長は、風紀委員長を呼び止めた理由を語った。

 

 彼の言い分をまとめると。

 魔法力の乏しい生徒に風紀委員は務まらないから、達也を風紀委員に入れるのはやめた方が良い。

 という事だった。

 

 服部刑部少丞範蔵副会長の説得には風紀委員長が反論していたが、最終的には深雪が反論をし始める。

 

 深雪は達也の実技の成績は良くないが、それは評価方法が悪く、実戦で達也に勝てる者はそうはいないと語った。

 

 

 

 ……さて。

 

 飽きたな。

 

 相互が理解できていないことが理解できていない喧嘩は終わらない。

 このままなら平行線のままなのは明らかだ。

 

 終わらないのは別にいい。

 しかし、大きな変化が無いのはつまらないから飽きるのだ。

 

 俺はポケットから本を取り出す。

 昼に読んでいた本は、途中までしか読んでいない。

 なので続きから読もうとしたのだが、俺は栞を持ってきてはいなかったので、どのページまで読んだか分からなかった。

 ページを探すか、最初から読み直すか。

 

 少し悩んでいると、服部刑部少丞範蔵副会長の説教が聞こえる。

 

「身内に対する贔屓は一般人ならばやむを得ないだろうが、魔法師を目指す者は身贔屓に目を曇らせる事のないように心掛けたほうがいい」

 

 魔法師は事象をあるがままに認識する必要がある、と彼は言ったが。

 贔屓しようとしまいと、意識した時点で認識は歪むものだ。

 人間である以上そこは変わらないはずで。

 そんな人間の魔法師は大勢いると思う。

 故に、魔法師を目指すのと身贔屓をして目を曇らせるのはおそらく関係ない。

 

 まぁ、今回の件は俺には何の関りもないので口を挟むつもりはないが。

 

 よし、読んだ記憶のあるページを読み飛ばしながら最初から読もう。

 

「お言葉ですが、私は目を曇らせてなどいません!

 ツクヨミさんも何か言ってください!」

 

 深雪の冷静さの欠片もない語り声が聞こえた。

 

 ……俺を巻き込みやがったな、こいつ。

 

 

***

 

 

 巻き込まれてしまった以上、何かをしなければならないだろう。

 何もしないという選択肢もあるが、最悪凍死しそうな気がするので、それを選ぶ気はない。

 

 取りあえず、俺は彼等彼女等の話を整理して考えてみる。

 

 深雪の考えは正しい。

 実技の評価方法で達也の強みが分からないのは確かだ。

 そして俺も、風紀委員の仕事は達也に適任だと思っている。

 しかし、深雪は服部刑部少丞範蔵副会長がそれを知らないことが前提として分かっていない。

 

 服部刑部少丞範蔵副会長の評価は正しい。

 達也は普通の魔法の発動が遅い。

 例えそれを知らなくても、それらの評価が悪い二科生が、一科生のいざこざを、少なくとも事前に止められるとは思えないだろう。

 しかし服部刑部少丞範蔵副会長は、いざこざを止める技量と普通の魔法の技量が同じ(イコール)だと考えている気がする。

 だから深雪の語る達也の実力が想像できていないのだと思えた。

 

 人間は誰かの味方にはなれない。

 自分の正しいと思った行動をする。

 その結果が誰かの味方に見えるだけだ。

 

 俺はどちらの味方もするつもりはない。

 どちらも知りえる情報に於いて間違いのない正しい答えを出しているからだ。

 

 故に、俺は自分の答えを語ることにした。

 

「どちらも冷静に考えて見ればいいと思う。

 

 ……例えばだけど。

 何かしらの罪を犯した罪人がいくら罪を償ったとしても、世間の人々はそれを許さないなんて珍しい話じゃない。

 

 何故そうなるかと言えば、世間の人々は罪人の思想も思考も知らない。

 世間の人々の知っている情報は罪状だ。

 罪人が反省していないのに、好き勝手して許されるなんて癪だろ?

 世間の人々から見れば、罪人がいくら口で反省していると言っても、それが本当かどうか判る情報が無い。

 だから世間の人々がそれを許さないなんて不思議な話じゃない」

 

 俺は服部刑部少丞範蔵副会長を見る。

 

「服部刑部少丞範蔵副会長の場合はどうですか?

 彼の何を知っていますか?

 自分の知っていることが全てだと思っているのですか?」

 

 俺は彼から視線を外して、今度は深雪を見た。

 

「お前はどうだ?

 服部刑部少丞範蔵副会長が分からないことが理解できているか?

 まぁ、あいつの事を伝えるのに言葉だけでは難しいだろうが」

 

 視線の遣り場に困った俺は、持っていた本の開いていたページの文字列を見た。

 

「魔法師は事象をそのまま認識するべきだというのなら。

 俺から見るとどちらも正しく認識できてるとは思えない」

 

 俺が語り終えると、達也が口を開く。

 

「服部副会長、俺と模擬戦をしませんか」

「……」

「彼が云う俺の情報を知るのはそれが早いかと。

 別に風紀委員になりたいわけじゃないんですが。

 妹の認識が間違っていないと証明する為なら、やむを得ません」

 

 服部刑部少丞範蔵副会長は一度目を閉じる。

 そして目を開くと、何故か俺を見た。

 

「月山、だったか。

 確かに彼の言う通りだ。俺はお前のことを知らない。

 

 いいだろう、証明してみろ」

 

 こうして、達也と服部刑部少丞範蔵副会長は模擬戦とやらをすることになった。

 達也が勝つ気がするが、俺も服部刑部少丞範蔵副会長の実力を知らない。

 

 もしかしたら、服部刑部少丞範蔵副会長は達也を圧倒できる実力者なのかもしれない。

 であれば、この後の戦いがどうなるかなんて分からない。

 

 ……だったら面白かったかもしれないが、予知で達也があっさり勝つことがわかってしまったので、俺としてはさっさと帰りたい気持ちでいっぱいである。

 

 

***

 

 

「月山」

 

 服部刑部少丞範蔵副会長に呼ばれ、俺は視線を彼と合わせた。

 

「その……なんだ」

 

 何度も語っているが、俺は人の心は読めない。

 彼が何を言いたいのかなんて当然わからない。

 別に放置しても良いのだが、後味が悪い気がしたので、俺は催促することにした。

 

「なんですか? 服部刑部少丞範蔵副会長」

 

 唯の催促のつもりだったが、服部刑部少丞範蔵副会長は、その言葉を待っていたように答えた。

 

「その呼び方はやめてくれ。

 それに呼びにくいだろう? 服部副会長か、服部刑部副会長。

 いや、副会長じゃなくて先輩とかでもいい。

 とにかくフルネームで呼ぶのはやめてくれ」

 

 なるほど、服部刑部少丞範蔵副会長は自分の名前があまり好きではないらしい。

 ……しかし、困った。

 

「そんな短い名前覚えられる気がしません」

「そんなこと言われたの初めてだぞ!?」

 

 何故か服部刑部少丞範蔵副会長は頭を抱えた。

 




誤字報告ありがとうございます。

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