さて、それは生徒会長による部活の勧誘があった翌日の放課後の事である。
といきたいが、取りあえず先に勧誘後にあった事を軽く語ろう。
部活に入ることを告げると、詳しい話や、もう一人の部員との顔合わせは明後日という事になった。
なんでも、その部員への連絡や、部室の再確保など色々あるので、少し時間がいるらしい。
まぁ、根回しは大事だよな。
前もって準備しておけよと思わなくもないが、おそらく彼女自身は新入部員が見つかるとは思っていなかったのだろう。
俺の返事を聞いた時の生徒会長の反応が、暗にそれを示していた。
その後、生徒会長との会話の最中に戻って来ていた達也を連れて、風紀委員会本部に向かった風紀委員長達の様子を見てくると立ち上がり、すぐ戻ると言って委員会本部と繋がる扉を潜っていった。
話し合いも終わったので、俺としてはもう用事が無い。
故に、俺は生徒会長が居なくなった後、会計の人に先に帰る旨を伝え、一足先に帰宅した。
そしてその翌日、つまりは本日の朝。
教室で深雪と挨拶を交わした後、説教された。
俺は堂々と生徒会室から出たつもりだったが、深雪の視点だといつの間にか帰っていたという状況になっていたらしい。
なので、俺は「何故先に無言で帰ったのか」と叱られたのだ。
いや、今朝のことは蛇足か。
話を戻そう。
今日から一週間程かけて、部活動の勧誘期間らしい。
大会などで高い実績を持つ優秀な部は、部活の予算や、所属する生徒個人の評価など、色々と良くなるのだそうだ。
そんな訳で、各部活は優秀な部員の確保に強い執念を燃やしている。
勧誘のためのパフォーマンスもかなり派手で、スケートボードに乗った女子生徒が一年生を抱えてレースをするという部活もあった。
コースはよくわからないが風紀委員長も参加しており、抱えられていたクラスメイトの転んでいた少女は悲鳴を上げていた。
中々楽しそうだが、あんなに振り回されたら、俺の場合は身が持たない。
全校生徒は五百人を余裕で超える。
普段は室内で活動する部活も、勧誘をするため外にテントを建てていたりするので人混みも凄い。
「部活は決まってるけど、少し他の部活でも見て周るか」
と、軽い気持ちで、特に意味もなく見学に行こうと考えた過去の自分を。
俺は校舎の陰で恨んでいた。
***
もう帰ろうかと考えながら休んでいると、達也が少し服を乱した赤髪の少女を連れて走ってきた。
さて、こういうのを何と言ったか?
俺は少ない語彙からその言葉を引っ張り出し。
手を軽く上げて近づいてくる達也に問いかけた。
「粗挽か?」
「全てが違う」
しまった、逢引きと言おうとしたのだ。
彼の言う全てとは何処から何処までだろうか。
今なら訂正は間に合うか?
「ツクヨミはこんなとこで何をしているんだ?」
しかし達也はその程度の事を気にする人間ではなく。
彼の問いかけで、俺の間違いは無かったことになった。
「見ての通り休んでいる」
「それは見れば分かる。
状況とお前の性格から考えて、勧誘の為に出来た人混みから逃げて来たんだろ?
俺が疑問に思ったのは、お前がまだ帰宅していなかったことだ。
こういう出来事は面倒だからと、先に帰っていると思ってたぞ」
「そうだな。こんなに面倒だと分かってたら、とっくに家に帰ってただろう」
誰にも追われないように空間置換で。
「意外だな。
あぁ、いや、お前は妙に『勘が良い』からな。
こういう日になることは
達也が、否、司波兄妹は、俺が『空間置換』と『疑似時間停止』の二つ以外の魔法を使えるのは知らないはずだ。
直接教えた訳でもないので二つの魔法も詳しくないはず。
予想できたとしても『空間置換』の応用で透視能力があるかもしれないとかぐらいだろう。
つまり達也は、俺が未来を知る能力があるのは知らないはずだ。
それなのに彼が、まるで俺には予知能力があると言っているような表現をしたのは、一体どのような経緯だろうか。
俺の言動から予測して、その答えを導き出したか?
だとしたら、流石お兄様だ。
能力を聞かれたら多少答えるかもしれないが、多分肯定も否定もしない。
なので俺は、会話を変えることにした。
「物事はなるようにしかならない。
……さて、ある程度休んだし、もう面倒だから俺は帰る」
「あ、月山くん。
良かったら一緒に部活見て周らない?
ルートを考えれば、多分人混みも気にならないだろうし、
いつの間にか服装の乱れを正していた赤髪の少女は、俺にそう問いかけてきた。
俺は帰ると言ったのだが、彼女は聞いていなかったのだろうか。
もしくは俺の発言の解釈を間違って捉えられたか。
赤髪の少女の誘いは断ろうとしたが、俺は少し考える。
例えばの話だが、知らない作家の内容がよくわからない本を本屋で見かけても手に取りづらい。
しかし、誰かに面白いと紹介され、そこで共感して知った作者が書いた本は何となく手に取ってしまう。
何があるか分からない部活を探してみて周るより、誰かの目的に添って周った方が楽で面白いかもしれない。
しかも彼女の言う通り、風紀委員が一緒に周るというのは唯の知人と周るより利点が高い。
折角の機会だ、達也達と行動してみてもいいかもしれない。
「そうだな、面白そうだから一緒に行こう」
それで、何処から見て周るんだ?
と、俺は続きを言おうとしたが、予知でこの後に剣道部の演武を見に行くことが判ってしまった。
確か、赤髪の少女は剣術を嗜んでいるみたいな話をしていたはずだ。
それに関わる部活に興味を示しても不思議ではない。
既に判っている答えを、わざわざ問いかける気はない。
しかし、俺の口は少し開いており、何かを語ろうとしている雰囲気になっていた。
ここでやめてしまったら、変に思われるかもしれない。
なので俺は、適当な言葉を紡ぐことにした。
「それで、何処の剣道部を見に行くんだ?」
俺は何を言っているのだろう。
しかし俺の奇妙な発言は、幸いにして誰の気にも止まることはなかった。
「え? ここって剣道部があるの?」
「あぁ、たしかもう直ぐ第二小体育館、闘技場で演武を行うはずだ。
いってみるか?」
『未来予知』は、俺が未来を知った前提で行動した未来が見えることがある。
今回の場合、俺の発言によって剣道部の見学に行くことが決まってしまった。
***
剣道部の演武は素直に感動した。
俺の見た予知では、剣道部が他の部活と揉め事を起こし達也が止める未来まで見ている。
つまり俺は、一度その演武を見ているのだ。
赤髪の少女は詰まらないと思ったようだが、掛け声も、力加減も、振る舞いも、竹刀が放つ音の振動も。
それは、俺が頭で理解しても到達できないものだった。
気に入った本を読み返すように、もう一度見てみたいと思えた。
しかしそんな感動は、演武を行っていた剣道部員の顔を見たときの衝撃で消えてしまった。
その顔を見たのは剣道部の揉め事を赤髪の少女先導で見た時だった。
「ふーん、達也くんとツクヨミくんはああいうのが好み?」
語り忘れていたが、体育館に向かう道中。
名前で呼んでいいかと赤髪の少女に問われたので、ご自由にと答えたら「じゃあツクヨミくんで」とよくわからない流れで渾名で呼ばれることになった。
いや、たしか深雪も、俺の下の名前が呼びにくいみたいな理由で渾名で呼ぶようになったのだから、不思議でもないか。
閑話休題。
赤髪の少女の問いを達也が気のない答えで返すのを無視して、俺はその様子を眺めた。
最初に感じたのは違和感だった。
俺の見た予知とは少し何処か違うように思えた。
次に気が付いたのは、類似点だった。
言い争っている剣道部員とその近くにいる剣道部員の顔が似たように見えた。
それに気が付いたとき、少し鳥肌が立った。
剣道部員達の顔つきが、見分けがつかないくらい同じに見えたのだ。
予知で見たときと、争っていた部員たちの顔つきが違うのだ。
その原因は直ぐに判った。
何故同じに見えたのかではなく、何故見えるのかの原因だ。
俺は一度目を閉じ、『千里眼』を完全に使えないよう塞いで再度目を開く。
その光景は予知で見た光景だった。
千里眼で、俺は何かを捉えたのだろう。
俺は達也に耳を貸せと指で合図した。
「なんだ?」
「俺は帰る、後は頑張ってくれ。じゃあな」
「……は?」
まぁ、それはそれとして、この後の騒動に巻き込まれるのは面倒なので。
俺は達也と別れて帰ることにした。
***
人混みを避けながら、俺は人気のない所に来ていた。
空間置換で帰るためである。
隠しているわけではないが、人目の多い所で使えば騒がれるのでそれは避けたいのだ。
千里眼で周囲を確認する。
少し進んだ先には部活動をしている生徒もいるが、俺のいる位置は死角なのでそれは問題はない。
唯、もの凄いスピードで近づいてくる人物たちがいるので、空間置換をするのはその後にした。
近づいて来たのは、スケートボードに乗った女子生徒達だった。
確かレースのパフォーマンスをしている部活だったか。
抱えられている生徒は、何故か最初に見かけたときと変わらず、転んでいた少女と保護者の少女だった。
相も変わらず転んでいた少女は叫んでいるが、喉が痛くなったりしないのだろうか。
そんな「もう無理ー!」とか「降ろしてー!」とか「たすけてー!」とか叫んでいる少女を見て、一つ気が付いたことがあった。
あれは攫われている所なのか。
風紀委員長もいるし、関わりたくないし、多分大事にはならないだろう。
魔法科高校の部活勧誘は本当に過激だと思いながら、俺は帰宅した。
ささやかな補足
・俺は堂々と生徒会室から出たつもり→全員の視線が外れた隙に空間置換。
・前回の後書きに書き忘れたのですが、部活動強制は原作の改変です。
主人公を部活に入れる理由が思いつきませんでした。