昔、読んだ小説の話だ。
その小説は、孤島に集められた十人が童謡になぞらえて殺されていくという長編推理小説だった。
その本のタイトルは、別の本で見たことがあるという経緯で知った物で。
大体のあらすじを知っていた俺は、落ちを先に読んでから物語を読み始めた。
その日から俺は、推理小説を読むときは先に落ちを読むという癖がついた。
それは推理小説を楽しむ為には、本来は
しかし、読者を騙そうとする小説が、先を推理しながら読むことを推奨する物語が。
俺には何とも言えない感じがして、あまり好きにはなれないのだ。
読み飛ばすという行為は、電子書籍ではきっと出来ない事だ。
俺が紙の書籍を好むのも、自分が気が付いていないだけで、そういった理由があるのかもしれない。
さて、だとしたら、それは今も変わらないのだろうか。
***
勧誘期間二日目。
今は放課後だが、毎度の如く、先にそこに至る経緯を語ろう。
休み時間、放課後に生徒会室に来てほしいという通知が俺の端末に来ているはずだ、という話を深雪から聞き。
指定された通り生徒会室に行くと、ちょっと待っててと言われて、生徒会室内で時間にして一時間程待たされた。
待つことに関しては、俺は別に苦ではない。
なので読書をしながら気長に待っていると、生徒会長が早足で駆け寄ってきた。
生徒会長曰く、前日の逮捕者達の調書の整理や、暫く席を外すための準備をしていたらしい。
十分と掛からないつもりだったらしいのだが、今年は例年より妙に忙しいらしく。
その結果、予想以上に時間がたってしまったのだそうだ。
「お待たせして、ごめんなさいね。
それじゃあ、部室に行きましょうか」
と、言われ。
生徒会長と文芸部の部室に向かう事になったのである。
そんな訳で、今はとある校舎の階段を上り始めるところだ。
その校舎の名前は知らない。
まだ入学してからそれほど日が経たっていない。
故に、まだ俺は全ての教室や学校の設備を覚えていないのだ。
一つ言えることは、その校舎はこの学校の中では一番古い校舎だった。
誰かに聞いたという訳ではないし、その校舎がボロボロという訳でもない。
ただ、その校舎の壁は、他の校舎より風情がある気がした。
さて、俺は気になった事があり、生徒会長を見つめ問いかける。
どうかしたのか、と。
俺が気になったのは、先程から生徒会長がチラチラと俺を見てくる事だった。
観察されているのは慣れているので無視してもいいのだが、彼女は俺に何かを語ろうとしていて、俺はそれが気になってしまったのだ。
生徒会長は、笑いながら目を逸らし、そして自分の名前を憶えているかと問いかけてくる。
服部刑部少丞範蔵副会長の名前は普通に呼ぶのに、自分の事は生徒会長としか呼ばないことに疑問を持ったらしい。
今度は俺が目を逸らした。
いやいや、憶えてるわけないだろう。
学校の先輩なんて、小学校から通して今までろくに関わったことが無い。
これからもそれは変わらないと思っていた。
関わる事のない人物なんて、道ですれ違う赤の他人と変わらない。
そんな人物の名前なんて一々憶えているわけが……。
待てよ?
最近、ちょっと記憶に残る会話で彼女の名前が出た気がするな。
確か、今の十師族の一つで。
「ななくさ……」
いや、
「
「……」
生徒会長は、無言で、そして笑顔で俺を睨む。
答えは藪の中。突いたら蛇が出そうなので、この話題はこれで終了だ。
***
着いた教室の入り口に掛けられた札には、何も書かれていなかった。
所謂、空き教室というやつだ。
生徒会長は教室の扉をノックして、自分の役職と名前を語った。
彼女が名前を語るときに妙に自分の苗字を強調していたが、それは中にいる人物に分かりやすく伝えるためと俺は解釈した。
時間にして五秒程。
それは、中には誰もいないのではないかと勘違いしてしまうような時間だった。
俺は『千里眼』で中に人がいるのは判っていたが、生徒会長は何で人がいるかを判断しているのだろうか。
中にいる人物の返事は「どうぞ……、どうぞ」と二回聞こえた。
全く同じ言葉と口調で、違うのは声の大きさだ。
この時点で、俺は何となく中にいる人物の性格を察した。
「失礼します。
お待たせ、いとねちゃん。期待の新入部員連れて来たわよ!」
生徒会長は俺の手を掴み、早足で教室へ入る。
想像すれば分かると思うが、俺は引っ張られて教室に入れられている状態だ。
教室の中にいた人物は、長机の上に今時珍しい紙の本を置き、椅子から立ち上がっていた。
その視線は、俺達を捉えていなかった。
何かを探すように、その人物は教室を見回していた。
生徒会長は、俺をその人物の正面、机越しに立たせて紹介する。
「彼は一年A組、月山 読也さん!
ほら、月山さんも挨拶して!」
そう促され、俺は正面に立つ人物に視線を合わせる。
何と言うか、内外変わった少女だった。
黒髪は真直ぐ癖無く下ろしているのに、前髪の長さが一定ではなく、片方の目が前髪の一房で一部隠れている。
眼鏡を掛けているが、特別な加工のされていない唯の伊達眼鏡。
中々奇抜なのだが、自然に見えるという意味で似合っている。
そして、中身も凄い。
コミュニケーション能力に難があるとは聞いていたが。
まさか俺が自己紹介する前に気絶するとは思わなかった。
***
気絶した少女の紹介をしたのは生徒会長だった。
一年F組、
彼女は幼少期、家庭の事情であまり人と関わらない生活をしていたそうだ。
ある日、経緯は不明だが、同い年ぐらいの男の子にかなり強烈な頭突きをされたらしい。……どんな状況だ?
まぁ、とにかく、それ以来彼女はコミュ障だったのに
結果、男性を前にすると逃げ出し、逃げ場がなければ気絶するようになったのだとか。
この話を聞いて思う事は一つ。
その疑問を、俺はそのまま口に出した。
「俺は彼女の中ではアウトの部類だと思うのですが?」
生徒会長は、「まぁね……」と、苦笑する。
もちろん、苦手な部類のはずである俺を選んだのには訳があるはずだ。
何故なら彼女の探していた人には『できれば男性』という条件があったからだった。
生徒会長の考えている事は想像できるし、これから彼女が語ることは予知した。
故に、俺は事の説明をしようとした生徒会長の説明を止めさせる。
代わりに俺が要約して語った。
「つまりは彼女の対人、及び男性恐怖症を治す為に部活に入ってくれって事ですね」
「まぁ、そういう事ね」
生徒会長は柏手を打って、俺に願いかける。
「……お願い! 他の部活に入りたいならそっちを優先して、空いた時に顔を出すだけでもいいの!
文芸部の活動内容は基本的に執筆とかだけど、最悪、読書会だけになってもいいから!」
「いいですよ」
「え、いいの? 本当に!!」
ただ部室に来て、ただ居るだけで、ただ本を読む。
大得意である、下手に活動を強制されるよりは明らかに楽だ。
まぁ、少し前途多難な気もするが、そこまで気にすることもないだろう。
俺は気絶した少女を見る。
……まぁ、前途多難な気もするが、そこまで気にすることもないだろう。
***
「あ、そうだ」
今日はもう帰っていいし、いとねちゃんが起きたらそう伝えて。
と、難題を残し、気絶した少女を俺に任せて部室を去ろうとした生徒会長は足を止めた。
「月山さん、学校内で空間置換を使うのはやめた方がいいわよ。
センサーには引っかかってないみたいだけど、カメラには映ってるから。
大丈夫、証拠は隠しておくから。
じゃあ、いとねちゃんをよろしくね!」
そう語り終えると、生徒会長は早足で去っていった。
廊下は走ってはいけない。
それとは別に、魔法科高校であっても、無断で魔法を使うのは罰則になる。
つまり今のは脅迫だろうか。
とりあえず、その日から俺は登下校に於いては空間置換を使う事はなくなった。
何となくサイトの日間ランキング見たら、更新してないのに何故か上がっていたので申し訳なく思い、書き上げました。
重ねて申し訳ございません。
私的な話なのですが、明日からちょっとモンハンやります。
なのでちょっとの間、更新できないかもしれないです。