おりきゃらついかします。
「なぁ、ちょっといいか?」
勧誘期間3日目。
ただし、今は昼休みの時間。
それは、俺が自動販売機で昼食時に飲むための飲み物を選んでいるときの話だ。
コップを薬指と親指だけで摘まむように持っている。
青年、というよりは少年に見える、やたらとフレンドリーな男子生徒に話しかけられた。
「あ、僕は一年D組の
よろしくな」
「一年A組、月山 読也」
お互いに軽く自己紹介を済ませると、彼は俺に問いかける。
「お前、何処の部活に入るとか決めたか?」
「……文芸部」
何故初対面の人間にいきなりそんなことを聞かれるのか、俺は疑問に思いながらも答える。
すると、フレンドリーな少年は俺の考えていることを察したのか、自らの事情を語り始めた。
どうやら彼は、何処の部活に入るかを決めかねているらしい。
フレンドリーな少年の趣味で一番近いのは美術部らしいのだが、創作のカテゴリーが合わないのだそうだ。
趣味と違うものを作ってもストレスにしかならない。
しかし、そうなると自分の入りたい部活が存在しない。
そこで、「運動部でなければどこでもいいや」と。
サイコロの目で進む先を選ぶように、文系の部活を選びそうな俺に話しかけたのだそうだ。
昼食を食べる為に近くのベンチまで移動すると、彼は俺に並ぶようについてきて話を続ける。
俺は彼の問いに対して、淡々と律儀に答えた。
「文芸部かぁ、そういえば結構ポピュラーな部活ってイメージだけど、あんまり活動内容は知らないな……。
どんな活動をするんだ?」
「とりあえず、暫くは読書会らしい」
そういえば、生徒会長からは具体的な部活内容をまだ聞いていない。
気絶した少女の男性恐怖症を治すのを手伝ってほしいとは頼まれたが、それは部活動ではないはずだ。
もう少し細かい話を聞くべきだっただろうか。
「『らしい』って詳しい部活動の説明とかはなかったのかよ?」
「一応、執筆が主な活動だそうだ」
「へぇ、執筆か。……執筆した作品とかはどうするんだ?」
「知らない」
この学校には文化祭のような物はないらしい。
なので、創作系の課外活動で作った作品や、研究等の成果の発表の場は、たぶんコンクールとかになるのだろう。
では執筆等の場合、その成果を発表する場所はどこになるのだろうか?
まぁ、どうでもいい話なのだが。
「は? その辺の説明は無かったのか?」
「無い」
「……ずいぶんと大雑把な部活なんだな。
部員は何人ぐらい居るんだ?」
「二人」
隣に座るフレンドリーな少年は首を傾げる。
「……えーっと、お前を含めて三人?」
「いや、含めて二人」
「つまり、先輩とお前の二人だけの部活か」
「いや、もう一人も一年だったはず」
「……新設された部活?」
「いや、昔からある部活らしい」
隣に座るフレンドリーな少年の思考が、目に見えて止まった。
***
フレンドリーな少年は、俺の説明では部活動の内容が理解できないらしく。
放課後、文芸部の部室に来る事になった。
まぁ、俺の説明で理解できないのは仕方がない事だろう。
なにせ、説明してる本人が判っていないのだから。
さて、時間は飛んで放課後の事だ。
俺は部室に行く前に、屋外にある自動販売機でボトル飲料を買っていた。
別に部活の後に買いに来ても良いのだが、簡単に説明すると『思い立ったが吉日』、『善は急げ』というのが理由である。
校舎の中には複数の自動販売機はあるのだが、屋内の自動販売機に向かうどのルートにも先輩と思われる生徒が居り。
予知は見えず、予測ではそのルートを通らなかったので未来は判らないが、部活の勧誘にと絡まれても面倒なので。
そのため先輩方と顔合わせをせずに済む、屋外にある自動販売機で飲料を買うことにしたのだ。
『千里眼』を使って、フレンドリーな少年を探す。
彼は昼休みの宣言通り、どうやら部室に向かっているようだった。
彼は今、部室のある階の一つ下の階にいるが、俺は別に急ぐ必要はないだろう。
部室には既にもう一人の部員がいる。
故に、彼を待たせることはないはずだ。
……はて、そういえば彼は、一応男性のはずだから、彼女は気絶することになるのではないだろうか。
急いだ方が良いか? いや、やはり必要はないな。
『未来予知』で、俺が部室の扉を潜ると気絶した少女とそれを見て戸惑う少年が見えた。
経験則からして、こういう場合の『未来予知』で見た未来は変えられない。
どう足掻いても結果が変わらないのであれば、諦めて少しでも自分の都合がいいように動くことにしよう。
取りあえず、走ると疲れるので、俺は歩いて部室に向かうことにした。
***
何故、俺がそうしたのかは分からない。
ただ、何となく、俺はとある校舎の屋上に目を移す。
その校舎の屋上には、三人の女子生徒が、双眼鏡で何かを探すように屋外を見回していた。
その内の一人である、赤いルビーのような髪の少女は多分知らない人物だったが。
他二人は見覚えのある女子生徒だった。
クラスメイトの保護者の少女と、転んでいた少女である。
確か、
いや、違う気がするな。
名前の事は置いておき、俺は三人の女子生徒が何をしているのかを考察することにした。
三人の恰好は、制服ではなく、どこか部活のユニフォームを着ている。
一見、部活動の勧誘の為に屋上から一年生を探す生徒にも見えた。
しかし、ルビー髪の少女は違うかもしれないが、他の二人は一年生で、勧誘する側ではなく勧誘される側のはずだ。
同じ一年を探すのを手伝っている可能性もあるが、ルビー髪の少女とクラスメイトの二人のユニフォームが違う。
部活の勧誘は、部員の取り合いのような物だったはずだ。
別々の部活が協力して一年を探しているとは考えにくい。
三人の女子生徒が何かを探している事を繋げて考えると、おそらく彼女達の恰好は、探し物をする際に邪魔されないための隠れ蓑だろう。
では、何を探しているのか?
それはたぶん、落とし物の類ではない。
彼女達の恰好は事前に準備しないと出来ない物のはず。
三人の探し方はかなり広範囲を調べるやり方だ。
探している物は決まった場所には存在しないという事だろう。
おそらく探している物は、物は物でも人物だ。
その人物を見つけて終わりとは思えない。
故にその目的は、探すことではなく、観察することだろう。
そこまで考察していると、俺は保護者の少女と目が合ってしまった。
彼女達の距離と俺のいる場所の距離は、何をしているのかと問いても問われても答えが通じ合えない距離だ。
それでも目が合ってしまったので、何かサインを送るべきだろうかと考えていると、転んでいた少女が探し人を見つけたらしく何処かに向けて指をさす。
俺は彼女の指の先を追った。
彼女の指先の直線状に探し人がいるとは限らない。
故に探し人の候補は何人かいるのだが、
『決まった場所には存在しない』
つまりは『広範囲を移動する人物』という条件に当てはまりそうな人物が、一人だけいた。
校則違反を行っている生徒が居ないかと、校内を巡回をする役割の生徒。
風紀委員だ。
というか、達也だ。
彼女達は達也を観察しようとしていたのだろうか?
そう考えた直後、達也は何者かに魔法による襲撃を受ける。
しかし達也は、その魔法をあっさりと無効化した。
その後、達也は襲撃者を追おうとしていたが、他の生徒のもめ事に巻き込まれ逃がしてしまう。
襲撃者の顔にはどこか見覚えがあった。
その顔は強く記憶に残っていた顔。
千里眼越しに幾つも見た、剣道部員達の顔だった。
なるほど、大体把握できた気がする。
一昨日だったか、達也は剣道部がどこかの部活と起こした事件を止めたはずだ。
おそらくその事件の結末に納得できない剣道部員が、その事件に関与した達也に復讐をしているのだろう。
そして、その現場を見かけた三人の女子生徒は、犯人を特定するために達也を観察しようとしていたのだ。
ルビー髪の少女は分からないが、クラスメイトの二人は校門での事件で達也に何かしらの恩を感じているようだったので、動機としてはその辺りだろうか。
そこまで考えていると、特に切っ掛けがあった訳ではないが、ふと、俺はあることを思い出す。
……そろそろ急いで部室に向かわないと、面倒事が増える気がするな。
俺は少し駆け足で校舎に入っていった。
俺が並木道の、幾つもの木々の先にいる達也を見ていたのだと気が付いた、保護者の少女に気が付かずに。
大変お待たせして、申し訳ございません。
ここまでの話を読み直すと、文章汚くて設定の粗も目立って泣きそうですね。
それからこの話とは全く関係ない話なのですが、ペルソナ5面白かったです。
誤字報告ありがとうございます。