おやすみなさい。
それは、僕が小学校二年生の頃の話だ。
母親とショッピングモールを歩いているとき、とある大道芸を見た。
人形劇である。
あまり大々的なものではなく。
大学生が、サークルでやっていたものらしい。
演目は『白雪姫』。
大学生の四人はそれぞれマリオネットを操り、多いときは八体の人形を操っていた。
四人で八体、つまり片手で一つずつ。
その場面の人形は、向きを調整する以上の操作が必要ではなかったらしく、殆ど吊るされているだけだった。
糸で繋がれた人形を見て、僕は少し気持ち悪いと思った。
僕が人形に興味を持ったのは、多分それが最初だ。
***
それは、僕が小学校四年生の頃の話だ。
月の綺麗な夜だった。
運命を感じたのか、僕の魔法を扱える故の感覚がそれを捉えたのかは分からない。
その日、僕は一人、星を見に公園へと出かけた。
公園までの道を通るのは、初めてではない。
そのはずなのにその道中、僕は奇妙な家を見つけた。
と言っても、扉が開いていただけなのだが。
しかしその扉は、まるで僕を迎え入れているかのように開いていたので。
好奇心に駆られた僕は、思わずその扉を潜ってしまった。
おかしな……いや、在ってはならないのかもしれない話なのだが。
僕はその光景を見惚れてしまった。
扉を潜り抜けたその先の部屋の中には。
幾つかの死体があった。
鳥ではなく、猫ではなく、人間の死体だ。
昔、何故か見てしまったスプラッター映画の死体は、見ていて気分が悪くなった。
でも……。
その死体は美しかった。
人の形を大きく崩さず、一閃にて斬られ、断たれた死体。
赤いはずの血液と、生気を失った青白い肌が、月明かりに照らされて輝いて見えた。
幻想的だった。
だから、僕はただ。
唯々、美しいと感じていた。
***
ある日、僕は父親に連れていかれ、とあるアンティークショップに来ていた。
父は、自分のコレクションを飾る棚を探しに来たらしい。
過去話でおかしな表現だが今の時代、ほしいサイズや大体のデザインを要望すれば、ネットで簡単に発注できる。
しかし、僕の父は職人が既に作ったものを、自分の目で直接見て、これだと思うものを選んで決めたかったらしい。
僕が一緒に行ったのは、まぁちょっとした社会勉強みたいなものだった。
父は自分の目的の棚を探していたが、僕はそれを含めて、様々な家具を見ることにした。
椅子を、机を、時計を。
もし自分の部屋に置くとしたら、どれがいいかと想像しながら、実のところ本心としては何となく眺めていた。
そして店の奥へと歩いていくと、僕はガラスケースの中に居る一人の少女を見つけた。
その少女は、細かな装飾をされた見事なドレスを纏い、椅子に座って静かに眠っていた。
もちろんガラスケースの中に、人間が入っているわけがない。
少女の正体は、ビスク・ドールだった。
その少女を見たとき、不思議な感覚に囚われた。
パズルのピースが嵌ったような。
ガラス玉の濁りが取れて、透き通るような。
何十キロも走った後に飲む水のような。
どうとでも言い表せて、でも一つの事を指しているその感覚は、今となっても上手くは言えない。
とにかく僕は、その人形を傍に置きたいと思った。
ずっと、ずっと、見ていたいと思った。
でも、それは出来なかった。
その人形のお値段、なんと二四〇万円。
親におねだりして買ってもらえるような代物ではなかった。
それでも代わりの人形ではダメな気がした。
ぬいぐるみでは、小さなフィギュアではダメな気がした。
この人形でないと、ダメな気がした。
僕はどうしようもない気持ちでいると、その姿を見た父親にこう言われた。
自分で作って見たらどうか、と。
父が何故そう言ったのかは分からない。
でも、その言葉は僕にとっては天啓だった。
***
小学校六年の頃だった。
その感情は、多分不思議な事ではないのだ。
だって、そうあってほしいと思って作ったのだから。
でも、その感情は、人として、きっとおかしな事なのだ。
ある日、僕こと