時は六日程流れて。
現在、俺は未だ沖縄にいた。
早めに帰ろうとか考えておきながら何故まだ沖縄に居るのかというと、飛行機の予約の変更が面倒くさかったからである。
もし俺の事情を知る者がいて今の状況を聞けば、未来を変える為に沖縄に来たはずなのにそれでいいのかと問いてくるかもしれない。
実を言うと、俺は件の事件はまだ先の出来事ではないのだろうかと考えていた。
その理由は、俺の見た未来には司波兄がいなかったことに由来する。
六日前の邂逅の際、浜辺には司波兄妹の保護者、もしくは家族旅行に同行しているというお手伝いさんと思われる人物が周辺にはいなかった。
そして司波妹は海で遊んでいて、兄の方は海岸で休んでいた。
これは勝手な想像だけど、司波兄妹の家族はこの旅行中一人で行動することを避けているのではないだろうか。
例えばあの日、彼女たちの母親とお手伝いさんが何処かに行こうとしていて、その行先に司波妹が興味を示さなかった。
もしくは、年齢制限などで別れることになり、海に行くことにした司波妹に司波兄が傍ついていくことになったとか。
もしそうだとしたら、海で遊ぶことに興味が無かったにも関わらずそれでも海に来ていた司波兄の行動も理解できる。
まぁ実際はどうなのかは分からないけど、大事なのは司波一行は一人で行動しないという事だ。
テロが起きて避難しているときに一人だけ別行動しているとは思えない。
しかも中学生になったとは言え、どちらかといえば彼はまだ子供だ、別行動は親が許さないだろう。
何処かの部屋に避難する間に司波兄がテロに巻き込まれて亡くなっているという事も考えられるが、その可能性はない。
俺の話の中心が件の事件だけなので勘違いされているかもしれないが、俺は他にも様々な予知をみている。
その中には今より少し成長した、多分2年ぐらい先の未来の司波兄が手足を切り落とされている未来を見ている。
なので仮に今回の沖縄でテロに巻き込まれたとしても司波兄が今日の段階で死ぬような目に遭う事はない。
しかも俺の沖縄の滞在予定日は今日で終了だ。
以上のことから、件の事件は冬休み、もしくは来年に起きるのではないか。
そんなことを考えながら、俺は国防軍のシェルターの中で現実逃避をしていた。
***
能力を考えると、俺はカテゴリー上BS魔法師という『一芸に長けた魔法師』という扱いになる。
先祖にちょっとした縁のようなものがあって、俺の能力はたぶんその先祖返りか突然変異かなにかだと思うが、俺の家柄自体は百家だとかの魔法師の一族とは何の関係もない。
何が言いたいかというと、俺の家はごく普通の一般家庭だということだ。
自分の持っている能力のことを大っぴらに話したことはない。
暴発しても周囲に迷惑をかけるような能力ではないので、その道では有名人というわけでもない。
親の年収を聞いたことがないので詳しくは知らないが、自宅にローンを組んでいるぐらいの家庭だ。
比較的裕福かもしれないが、富豪ではない。
仮に誰かが俺の個人情報をみて評価したとしても平凡以外の評価は難しいだろう。
精々魔法を使うことに適性があるかもしれないと思われるぐらいだ。
そんな俺が、何故国防軍のシェルターに匿ってもらっているのかというと、ただ俺が馬鹿だったからである。
沖縄旅行最終日。
で、あるならば家族に土産の菓子ぐらい買っていこうかと、その日俺は町の中をふらふら歩いていた。
しかし何故かどこの店も開いておらず、祭りでもあるのか大勢の人や沢山の車が一定の方向に向かって進んでいた。
店が開いていないなら仕方がないと思い、空港に行く予定の時刻まで海でも眺めていようかと考えてた俺は海岸に向かって歩いて行く。
そしてその道中、俺は国防軍の人に捕まった。
不審者を見るような目で見てくる軍人さんに事情を説明したら、「警報を聞いていなかったのか!」と叱られて現在いるシェルターに連れてこられたのだ。
今更気が付いたことだが、どうやら俺は周囲のことにあまり関心が向かないらしい。
周りの話を聞くと、どうやらどこかの外国から攻撃されているらしかった。
もしこれが予知で見た未来で起きる事件なのだとしたら、ヘタなテロよりも面倒だ。
俺は暇つぶしにポケットに入れていた掌編小説を読みながら事が終わるのを待つことにした。
どうか今日が、予知した未来ではないようにとお祈りをして。
「月山さん! どうしてこちらに!?」
おい、バカ、来るな。
顔を上げると、そこには居てほしくない人物がいた。
司波妹とその家族である。
「深雪さんのお知り合いですか?」
ショートヘアの女性が司波妹に問いかけた。
司波妹に問いかけた女性より、もう一人の女性の方が何となく司波兄妹と顔立ちが似ている気がするので、多分ショートカットの女性がこの前聞いた旅行について来たというお手伝いさんだろう。
「はい、私と同じ学校に通っている
紹介されてしまったので、俺は印象をよくするために作り笑いをし、本をポケットに入れて立ち上がり、自己紹介することにした。
「初めまして、月山 読也といいます。司波さん達にはいつもお世話になっております」
「ご丁寧にどうもありがとうございます。初めまして、私は深雪さんと達也さんの母でございます」
作り笑いに対して作り笑いで返す、これが社交辞令か。
ちなみにお世話になったことは一度もない。
挨拶を終えたので特に話すことも無くなり、俺は再度座り手に持った本に目を戻し今後のことを考え始める。
「月山さん」
司波妹は俺を呼び掛ける。
はて、まだ何か用があるのか? そんなに話すこともないだろうに。
それに俺は、あまり人に関わるのは好きではないのだが。
「どうして月山さんが、国防軍のシェルターにいるのですか?」
忘れていた、そういえばそんな質問もされていたな。
「海を見に行こうと歩いてたら軍人さんに捕まってな。ここに連れてこられた」
「何やってるんですか」
その言葉は過去の俺に是非とも言ってくれ、俺も過去の自分に会うことがあるなら一こと言いたい。
俺も少し気になったので同じ事を聞こうと思ったのだが、聞いた結果の答えを予知してしまったので聞くのをやめる。
正確にははぐらかすような答え方をされた未来が見えたので、聞くだけ無駄だと思ったのだ。
俺は本に視線を戻し、色々な音や喋り声を聞き流しながらこの先の事を考える。
この部屋には見覚えがある。
この部屋にいる人物達には見覚えがある。
間違いなく今日が予知した日で、もう直ぐ予知した事件が起きる。
遠くで銃声のような音が聞こえる。
だけど、そんなことより気になるのは司波兄の存在だった。
俺の見た未来には司波兄の姿はなかった。
こんな状況だ、一人で部屋の外に出ていくとは思えない。
もしかしたら、彼は何か特別な存在なのだろうか。
俺の予知や予測で計算できないような、そんな規格外の人間なのかもしれない。
「分かりました。様子を見て来ます」
そう言って、司波兄は部屋を出ていく。
……どうしてそうなった。
まずい、未来で見た光景と条件は、現在の状態とそろいつつある。
俺は能力の応用で出来ることの一つ、『未来予測』を使うことにした。
誤字報告ありがとうございます。