魔法科高校の変人(仮)   作:クロイナニカ

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 さて、当たり前かもしれないが、未だ日付も時間も変わらない。

 

 目の前にいる襲撃者は四人。

 見たところ移動手段は普通二輪らしく、その為か全員バイクスーツを着て、フルフェイスタイプのヘルメットを被っている。

 

 それだけでも怪しさ満点なのに、デザインが統一されてるので怪しさK点越えである。

 彼等はどのようにしてここまで来たのだろうか。

 正気じゃない所からして、おそらく洗脳済みである。

 

「何者だ!?」

「見ての通り学生だけど?」

 

 今いる場所は学外だが、それでも魔法科高校はそれなりに有名なはずなので、制服を着ている時点で身分証をぶら下げているような物である。

 

 彼等には俺が学生に見えなかったのだろうか。

 ある意味では、中学校を卒業したばかりと言えなくもないのでそう見えたならしょうがないかもしれない。

 それともその逆か?

 たしかに一高の三年生には『学生服を着た事務のおじさんのような人』はいるが、しかし俺はそこまで老けていないと自負しているつもりだ。

 

「月山さん!」

 

 襲撃者によって捕らえられている仮称『転んでいた少女』の声で、俺の思考は現在に引き戻される。

 そういえば、今はこの状況をどうにかしなければいけないのであった。

 

 しかし、この後俺は何をすればいいのだろう。

 襲撃者達の武装は既に解かれている。

 キャストジャミングの波も消えたので彼女達は魔法が使えるはずだ。

 

 深雪は見て、守れと言っていた。

 

 おそらく深雪は襲撃等が起こらない可能性を考慮していたはず。

 でなければ、『見て』という言葉を使う必要は無い。

 何もなければそれでいいと思っていたはずなのだ。

 何かあっても、彼女達を守れれば、俺の依頼は達成済みなはずである。

 

 襲撃者達を捕らえろとは言われていない。

 倒せとも言われていない。

 俺にも襲い掛かってくるのであればともかく、武装を解かれた襲撃者達は次の一手を企てているのか一歩も動かない。

 捕らえられている少女達は、今の隙に逃げようと思えば逃げられるはずだ。

 

 その状況下で、俺は他に何をしろというのだ。

 

 ……そういえば、深雪は後で合流するとか言っていたな。

 であれば、襲撃者達の足止めとか時間稼ぎをするべきだろうか?

 

 俺は『未来予測』を使ってみる。

 どうやら深雪は、それほど時間を置かずここに合流するらしい。

 しかし、彼女が来るまでが少し問題だった。

 襲撃者達は、まるで示し合わせたかのように一斉にバイクに跨ると、俺や少女達を轢き殺そうと試みるようだ。

 もちろんそれは失敗に終わるわけだが、避けたり防いだりするのが面倒だ。

 

 予め全てのバイクを別の場所に移動するという手はあるが、これ以上少女達に『空間置換』を見られるのもまずい気がする。

 

 俺は然程問題ないと思っていたが、司波兄妹曰く空間転移に類似する魔法はあまり世間に知られていいものではないらしい。

 

 便利かもしれないが、他者が再現できない魔法。

 場合によっては、過去やこれから起きる未解決事件の容疑者にされるかもしれない。

 

 他にも色々言われたが、俺の中で一番知られて面倒な可能性はそれだ。

 

 さて、そうなると別の方法をとる必要がある。

 まぁ、一つ思いついた手はあるのだが、それはそれで、ちょっと面倒なのだ。

 

 ――襲撃者達は示し合わせたようにバイクに跨る。

 

 その発想に至り行動に移すまでには、それなりに時間がかかる。

 つまりはそこに至らないよう妨害をすればいいわけだ。

 

 人の思考を邪魔するには、別の思考にリソースを割くようにすればいい。

 別の思考。例えば、『問いかけに対して考えさせる』とか。 

 

 

***

 

 

淑女及び紳士諸君(Ladies and gentlemen)

 

 俺は芝居がかった口調で語り掛ける。

 会話はそれ程得意ではない。

 なので俺が語るには、思いついた単語等から適当に言葉を紡ぐしかないのだ。

 

「いや、紳士も淑女もいないかな? 後続含めて」

「なんだとコラー!!」

 

 どうやら、いきなり失敗してしまったらしい。

 真赤な髪の少女を敵に回したようだ。

 いや、残り二人の少女の視線からして全員が敵に回ってしまった可能性すらある。

 

「おや失礼、では改めて皆様こんにちは。

 呼ばれてはいないけど、同じ学校の生徒が襲われているようなので飛び出させていただきました」

 

 俺は作り笑いをして頭を下げる。

 

「名乗ることに関しましてはこの度はお断りさせていただきます。

 あぁそうそう、その乗り物に乗るのはやめた方が良いと思いますよ?」

 

 襲撃者達はその一言で動きを止める。

 自分達がやろうとしたことが読まれた上に忠告されたのだ、思考も停止するだろう。

 

 そして襲撃者達の内、転んでいた少女を押さえていた一人が動き出した。

 

 その襲撃者は倒れている少女を無理やり起こすと首に腕を回す。

 それが意味することはただ一つ、人質だ。

 

「動くな! こいつを殺すぞ!!」

 

 他の襲撃者達は、彼の行動を見て体勢を僅かに変える。

 自分達も同じように人質として命を握れるようにするためだ。

 

 しかし、こういう場面はよく物語で見かけるが、正直言ってそれが人質になる状況というのが俺には理解できない。

 

「殺したければ殺せばいい」

「!!」

 

 全員が驚愕を露にする。

 襲撃者達も少女達も、俺以外の漏れなく全員がだ。

 

「それでどうします?

 本当に殺せば、人質としての価値は無くなりますよ」

 

 そう、人質というのは生きていて初めて価値があると言える。

 生きていることで、対応する相手に枷をすることが出来る。

 人質を殺すというのは、その枷を外してしまうという事だ。

 

「もし本当に殺せば、私はそれ相応の対応をするだけの話です。

 少しわかりやすくシンプルに説明しましょうか?

 今の状況下に於いて、彼女達には人質としての価値は無いですよ」

 

 襲撃者達は思考を巡らせる。

 しかし、それは無駄な行為だ。

 何故なら彼等は既に詰んでいる。

 俺がいてもいなくてもきっとそれは変わらなかった。

 少女の首に回していた腕の力が僅かに緩む。

 今の状況なら隙をついて少女達は逃げ出すことが出来るだろう。

 

 しかし、

 

「時間切れだな」

 

 それすらもう必要ない。

 後ろから流れてくる冷気を感じながら、俺は一息つく。

 

「当校の生徒から離れなさい」

 

 

***

 

 

「ありがとう深雪、本当に助かった!」

 

 転んでいた少女は深雪の両手を握り涙を浮かべて感謝をした。

 

 襲撃者達は深雪の魔法により全員気絶している。

 氷漬けではなく、振動系魔法による脳震盪だ。

 判ってはいたのだが、漂っていた冷気から考えて氷漬けにされるのだろうと勝手に決めつけていた。

 

「私からも言わせて、ありがとう深雪。

 それに月山さんも」

 

 保護者の少女の感謝に対して、俺は軽く手を振って返す。

 感謝されてことが気恥ずかしく感じたからではなく感謝される謂れがないからだ。

 少女達は一頻り喜びで騒いだ後、冷静になって襲撃者達の事をどうするか問いかける。

 何もしなくても監視システムが気絶した彼等を発見する。

 しかし、バイクに乗った男達が女子高校生を襲撃するという事件、本来ならば警察に通報するべき事件だ。

 

 それに対して、難色を示したのは深雪だった。

 

 理由は至極単純、『大事(おおごと)にしたくない』だ。

 

 そしてその理由には全員が賛同した。

 

 確かにこの事件は大事で、被害者である少女達は訴えてもいい事件だろう。

 しかし、この事件には魔法が関わっている。

 そして使ったのは、正式な魔法師ではない学生だ。

 現代の社会的な評価に於いて、魔法師の扱いはあまりよろしくない。

 そういった関係で、この事件が公になるのは、火事を鎮火するために可燃性ガスを吹き付けるようなものなのだ。

 

 この場には、どうやら面倒事が大好きなもの好きは居なく、先の事を想像できる人間ばかりだったらしい。

 という訳で、今回起きた事件は『そんなこともあった』という思い出にして、襲撃者達はこのまま放置という事になり、今日は解散しようという事になった。

 

「ツクヨミさん」

 

 解散というならさっさと帰ろう。

 そう思って路地を出ようとしたとき、俺は深雪に呼び止められる。

 

「なに?」

「ほのか達を送って行っていただけませんか?」

 

 彼女の問いかけに対して、俺は一考する。

 

 少女達が最初に追っていたのは洗脳された一高生だった。

 その少女達が、尾行に気づかれ襲われた。

 つまり襲撃者達は、一高の生徒を洗脳している教団の関係者だ。

 深雪がどこまで知っているかは判らないが、襲撃者達を本当に放置するとは思えない。

 襲撃者達がこのまま警察に捕まったとして、そうなれば多少ニュースになるだろう。

 だが、深雪が襲撃者達を実家か知り合いの伝手で回収した場合、ニュースにはならない。

 そうなれば、少女達は襲撃者達がどうなったか気にするはずだ。 

 

 それらから考えて意味するところはつまり。

 

「あの世に?」

「そんな訳がありますか!!」

 

 過去最大の声量によるツッコミだった。

 深雪は息を整えてから更に続きを語る。

 

「駅まででいいのでほのか達を送ってはいただけませんかと私は言いたいのです」

 

 だろうな。

 そんな気はしていたが、それでも俺は一応聞いておきたかっただけなのだ。

 そういう仕事(・・・・・・)は、利害の一致でもない限り絶対に受けるつもりがないのだから。

 

「まぁ、それぐらいなら構わないよ」

 

 俺は軽く息を吐いて、了承の意を伝える。

 ……安請け合いしてしまったが、三人寄れば姦しいというし、これはこれで面倒事ではないだろうか。

 

「あと、道に落ちていたイチゴの欠片とツクヨミさんの口元の白い跡についてはまた後日聞かせてくださいね?」

 

 深雪の小声に対しこめかみを掻いていた指が止まる。

 何故彼女が小声だったのかと言えば、近くで待機している少女達への配慮だろう。

 魔法を使えば別かもしれないが、街から聞こえる雑音と少女達の距離からして、おそらくこの会話は聞こえていない。

 

「真面目にお願いしますよと言ったじゃありませんか」

 

 そういえば、そんなことを言われた気がする。

 しかし、その頼みに対しては不真面目に返したし、今回に関しては俺も一言いいたい部分はある。

 

「お前も隠れて待機してただろ」

 

 俺の小声に対し、深雪は言葉を詰まらせる。

 そして何故バレたのかという一瞬の顔を隠して、深雪は微笑みながら小声で語った。

 

「ほのか達を人質に取られていたのですよ。簡単に動ける訳ないじゃないですか」

 




誤字報告ありがとうございます。

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