魔法科高校の変人(仮)   作:クロイナニカ

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みゆき してん


40 群情劇

 さて、今回の一幕を終える前に、テロ事件の結末を先に語ることにしよう。

 

 あの後に逃亡した司 一は、お兄様と、裏から周りこんでいた十文字先輩達によって捕縛された。

 具体的に何があったのかという詳細は判らないけど、捕らえられ、救急車で搬送された司 一は右腕の肘から先がなくなっていた。

 

 切断という現象はお兄様なら簡単に再現できるだろうけど、搬送されていく彼を見つめていた桐原先輩の視線からして、恐らくそれを行ったのは彼なのだろう。

 

 私が凍結させたテロリスト達は、ツクヨミさんが言っていたようにまだ生きていたらしい。

 幸い、と、彼等に対して言っていいのかはわからないけど、五体満足で回復したようだ。

 

 今回の事件については、様々な点で隠蔽されることになった。

 一見テロリスト達に対する正当防衛に見えなくもないが、テロリスト達の捕らえ方、手続きをしていない自己判断での乗り込みなどはあきらかに過剰防衛であり。

 仮にそれらが正当防衛だと認められても、私たち自身は正規の魔法師ではないので、『魔法の無免許使用』という罪を犯している。

 

 ただ、今回の事件の関係者には『十師族』が関わっていた。

 私とお兄様の事ではなく。

 

『テロリストの襲撃』

『潜伏場所への乗り込み、テロリスト達の捕縛』

 

 双方に大きく関与していた、十文字先輩の事だ。

 十師族は確かに表向きには権力を放棄している。

 

 ただし、兵力として、あるいは治安維持のための存在として。

 

 表からでは手を出せない程度の権力を、言うなれば『裏の権力』を持っていた。

 それがどういう事かと言えば、ある程度の正当性があれば、今回起きた事件の犯罪行為は不問という事になるのだ。

 

 また学校側も。都合としては生徒の為ではなく、学校の都合だったわけだけれど。

 テロ行為、及びスパイ行為に一高の生徒が関与していた事実は無かった事になり。

 結果的に壬生先輩、そしてその他の生徒達が犯罪者として捕まることも無かった。

 

 そして生徒達もお咎めなしで、めでたしめでたし。で、話が終われば良かったかもしれないけれど。

 壬生先輩達は少しの間、入院することになった。

 

 司 一が使った洗脳魔法。

 正式な名称は、光波振動系魔法『邪眼(イビル・アイ)』という魔法らしく。

 その洗脳による潜在的影響が残っていないかを見る為に、彼女達は入院することになったのだ。

 

 そして時が流れて、お兄様の誕生日が過ぎ、ゴールデンウィークも明けた五月。

 その日、私達は壬生先輩の退院祝いの為に病院へと訪れようとしていた。

 

 

***

 

 

 時刻は午前。

 本来は平日なので授業があるのだけれど、その日は退院祝いの為に私達は午前中だけ自主休講にしていた。

 

 私は退院祝いの為の花束を持っている。

 最初、お兄様がお祝いはデリバリーにしようとしてたけど。

 実際最近の風習はそういう物も多いが、ちゃんと心から祝いたいと思うなら直接手で持っていくべきだと、私が反対したのだ。

 

 隣を歩くのはツクヨミさん。ではなくお兄様。

 ツクヨミさんは、私達の後ろからついて来ていて。

 その理由は、ツクヨミさんが病院の場所を知らないからだった。

 

 ツクヨミさんは、最初は来ないのだろうと思っていたが、一応一緒に退院祝いに行かないかと声を掛けたところ。

 予想に反して、ある意味では予想できる範囲ではあったけど、彼も退院祝いに顔を出すと答えてきた。

 

 やはりツクヨミさんも、彼なりに、壬生先輩に対して思う所があるのかもしない

 

 今回の事件について、私達はツクヨミさんが何を考えていたのかをまだ知らない。

 図書館の事を聞いても、知りたいことがあったというだけで、それ以上の話を彼が詳しく語ることは無かった。

 彼は嘘はあまり言わないが、何でも喋るという訳でもない。

 四葉家について知っている事を公言しないという点では安心できるかもしれないけれど。

 それ故に、私達は彼が何を考えているかを時々(?)理解することができない。

 

 壬生先輩が入院中に、一度だけお兄様と一緒に彼女のお見舞いに行ったとき。

 図書館で彼と、どのような話をしたかをそれとなく聞いてみた。

 

 だけどその内容は、私達が保健室で聞いていた話とそれ程変わってはおらず。

 

 ただ、壬生先輩の話を聞いて、その考えをツクヨミさんは否定せず。

 ただ事実を淡々と語り。

 ほんの少し、考え方のアドバイスをしただけだった。

 

 ただ、その話を聞いても、私にはそこからお菓子を焼く話に至った経緯が判らず。

 壬生先輩にそのことについても聞いてみたが。

 

「それだけは本当にわからないわ……」

 

 と、遠い目をして答えていた。

 

 なので、これはちょっとした想像だ。

 もしかしたら、壬生先輩が認識できない所で、何かを調べていたのかもしれない。

 もしくは壬生先輩が来る前に調べものを終わらせていて、そのついでに壬生先輩のスパイ行為を止めようとしていたのかもしれない。

 

 まぁ、これ以上考えても判らないので、このことについては、またいずれ考えることにしよう。

 しかしそうやって、考えを先送りにしようとして、今日だけでも六回は同じことを考えている自分がいる。

 

 それは、病院が近づき、壬生先輩を思い浮かべるたびに、その間隔が短くなっていた。

 

 そうなってくると、私はこの件について黙っていることがもどかしくなってきてしまう。

 

 そして病院に付き、入り口から入る前に、我慢が出来なくなった私はツクヨミさんに問いかけた。

 

「ところでツクヨミさん。あの日、どうして図書館に行ったんですか?」

「あぁ、ちょっと調べ物の為、かな」

 

 彼の答えは案の定、想像通りの物だった。

 

 だから私は、その先の質問を用意していた。

 

 エントランスホールに入り、お兄様を先頭に、家族や看護婦に囲まれている壬生先輩に近づく最中、隣に来たツクヨミさんに私は再び小さく問いかけた。

 

「知りたいことは、わかりましたか?」

 

 チラリ、とツクヨミさんは私を見て、そして視線を壬生先輩に向ける。

 

「さて、……どうかな?」

 

 そう答えた彼の視線の意味を、そのときの私は理解する事ができなかった。

 

 

***

 

 

「やっほー達也君、深雪。

 っと、ツクヨミくんも……久しぶり?」

 

 何故か後ろから現れたエリカが、声を掛けてくる。

 

 私がお兄様と一緒に帰るとき、エリカも一緒にいる事が多いけど、必ずしも一緒に下校しているわけではない。

 さらに言うと、生徒会の用事で私が、風紀委員の用事でお兄様が時間をとられ、どちらかが先に帰ることがあるので、必ずしも私とお兄様が一緒に下校しているというわけでもない。

 

 その中でもツクヨミさんと一緒に下校出来る頻度はかなり少なく。

 考えて見れば、エリカとツクヨミさんは、意外と交流が少ない気がする。

 

「……ゴールデンウィークで一回会ってるから、そこまで久しぶりって訳ではないんじゃないか?」

「え? あ~……うん、そうね。あれ以来か……」

 

 ツクヨミさんの答えを聞いたエリカは、少し苦笑いをする。

 

『ゴールデンウィーク』と聞いて、一つ思い当たることがあった。

 

 中学三年の幾度かの長期休みの間。

 私とお兄様は、ツクヨミさんの受験勉強の手伝いと自分の受験勉強をしに、彼の家に通っていた事がある。

 ただ、ゴールデンウィークの一日だけ、彼が行方不明になっていた事があった。

 文香ちゃん曰く、何年か前から彼はその日になると、毎年行き先を告げず、何処かに行くらしい。

 連絡も取れず、夕方ごろには帰ってきて私達を見るなり。

 

「あ、忘れてた」

 

 と言っていたのが妙に記憶に残っている。

 ついでに文香ちゃんが「異世界に行ってるかもしれませんね」と冗談を言っていたのも、何となく思い出す。

 

 そしてそのことを考えながら、私はエリカに問いかけた。

 

「あら? エリカ、ツクヨミさんとゴールデンウィークに会っていたの?」

「え? あ、うん。ちょっとゴールデンウィークの半ばぐらいにね」

 

『ゴールデンウィークの半ば』というと、ツクヨミさんが行方不明になる時期とだいたい一致したはずだ。

 

「へぇ、ツクヨミさんが外出なんて珍しいですね。

 一体、何をなさっていたんですか?」

 

 そう言いながら、私は流し目で彼を見る。

 

「まぁちょっと不思議体験を」

 

 ……まさか本当に異世界に行ってないですよね?

 

「……浮気疑惑を責める彼女みたい」

 

 そうつぶやいたエリカを、私は静かに見つめる。

 一瞬動きを止めたエリカは、回れ右で振り返り、早歩きで壬生先輩に声を掛けながら近づいていった。

 

「おーい、さーやー!」

 

 もしかしなくても、『さーや』とは壬生先輩の事だろうか?

 たしかエリカは、壬生先輩のお見舞いに何度か行ったという話を聞いた気がする。

 だとしても、短い間にそこまで親しくなる辺り、エリカの人柄には舌を巻く。

 

「あ、エリちゃん。それに司波君も! 来てくれたの?」

 

 壬生先輩は、お兄様を見ると驚きと共に嬉しさを隠さない満面の笑みで迎えた。

 その隣にいる桐原先輩は、壬生先輩の反応を見て、一瞬、顔をしかめた。

 

 嫉妬でしょうか? 嫉妬ですね。

 素直に微笑ましいと思える。

 

 思わずニヤついてしまいそうになる頬を隠すように私は笑顔を浮かべて、両手に持った花束を差し出した。

 

「退院おめでとうございます」

 

 差し出された花束を、壬生先輩は感謝を込めて、お礼を言いながら嬉しそうに受け取った。

 

 あぁ、やっぱり。直接渡せてよかった。

 

「君が司波君かね」

 

 ほんの少し遠くで、名前を呼ばれた気がした。

 だけど、それはきっと、呼ばれたのは私ではなくお兄様だ。

 

 だからと言って、ここで聞こえないふりをするのは良くない事なので、私は振り返り、お兄様の後ろに立つ。

 

 話しかけてきたのは壬生先輩の父親だった。

 ただ立っているだけ。

 それでもブレのない姿勢からは、何かしらの武術、或いは何かしらの訓練を受けている事が窺える。

 

 そんな人が、お兄様に話しかけてくるという事は。

 

 おそらく、この人は軍の関係者だ。

 だとしたら、彼は唯の一軍人ではないだろう。

 お兄様が軍属だということを知っているのは、軍の中でも一部だけのはずだからだ。

 

 互いに挨拶を終えると、お兄様は静かに振り返り、私にこの場から離れるように遠回しに伝えられる。

 私はお兄様の指示に従って、壬生先輩の父親に一礼して、私はその場を離れることにした。

 

 ……少し壬生先輩の父親が動揺していたけれど、小父様と呼んだのは失礼だったのだろうか?

 

 元の場所に戻ると、エリカが桐原先輩をトークで追い詰めて、壬生先輩は微笑ましそうにそれを眺め、そしてツクヨミさんが空気になっていた。

 

 そんなツクヨミさんがいたたまれなくなった訳ではないけれど、それとなく、私はツクヨミさんに問いかける。

 

「ツクヨミさんは、壬生先輩にお祝いの言葉はかけましたか?」

「……え、なんで?」

 

 貴方は何をしに来たんですか?

 

「ツクヨミさん、私達はお祝いに来たのですから、ちゃんとそれを言葉や形にするべきですよ。

 何を想っていても、他人の評価なんて、行動でしか測れないんですからね?」

 

 いつかの言葉を返して、私はツクヨミさんの背中を押す。

 壬生先輩の前に立つと、ツクヨミさんは、真直ぐに、彼女と視線を合わせる。

 そんな彼を見つめる壬生先輩も、笑みを隠し、真剣な眼差しで彼と向き合った。

 エリカと桐原先輩は、二人の雰囲気を察して、静かに見守る。

 

 彼は笑わない。

 

 だからこそ、それはきっと彼の心からの言葉だった。

 

「ご結婚、おめでとうございます」

「まだしてねぇよ!!」

 

 流石ツクヨミさん、私達の思考の斜め上を行く。

 私は良く言ったと内心面白がって、その顔を見られるのが恥ずかしくて顔を隠し。

 エリカは『まだ』と付けた桐原先輩を問い詰めていた。

 

 壬生先輩とツクヨミさんは、そんな二人を見ながら小さな声で語り合う。

 

「何をするかは、決めましたか?」

「……そうね。……料理の勉強も、してみようかしら」

 

 そうですか、とツクヨミさんが静かに納得し、再び問いかける。

 いや、問いかける、ではなく、それはきっと。

 

「赦されても、無辜にはなれませんよ」

 

 きっと、それは戒めだった。

 

「わかってる。司波君にも教えてもらったから。

 だから、あたしは忘れない。絶対に」

 

 

***

 

 

 あの日桜井さんと出会って、何を思ったのか。

 あの日私と話をして、何を思ったのか。

 そしてこの日、壬生先輩を見て何を思ったのか。

 

 それを知るのはずっと先、或いは少し後の話。

 

 だから、私は後になって、彼を考える。

 仮に神がいたとして、神が作家であり観客で、誰もが役者などしたら、これはどのような演目なのだろうか?

 

 喜劇か。

 

 悲劇か。

 

 リアリズムか。

 

 不条理か。

 

 

 彼の人生はどうだろうか。

 

 短い間に起きた一幕。

 様々な鉱石を砕いて混ぜ合わせた群青のように。

 それは様々な彼の感情が、砕けて混ざった物語。

 

 様々な人の目線によって変わる物語。

 様々な人の行動によって引き起こされた物語を『群像劇』という。

 

 過去に起きた事件、今よりもずっと後に起きる事件。

 しかしその二つの事件は、元をたどれば、彼が引き起こした救われない物語だった。

 

 名前のないそれにもし、名前を付けるとしたら。

 

『群情劇』

 

 とでも名付けてみようか。

 

 




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