魔法科高校の変人(仮)   作:クロイナニカ

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 ――知らない天井だ。

 そんなお決まりの様な言葉が頭に浮かぶ。

 

 いつもの寝起きに比べて妙に頭がすっきりするがどれくらい寝ていたのだろう。

 そもそも俺は何をしていたのだろうか?

 

「月山さん! よかった……」

 

 記憶を整理していた俺の視覚に、何故か救われたような表情をした司波妹が飛び込んでくる。

 俺は面倒事だと反射的に判断して、再び眠るように目を閉じた。

 それからようやく俺の記憶が繋がり始める。

 

 そういえば、俺は司波妹を庇って撃たれたのだったか。

 という事は、ここは病院か?

 ベッドは固いし、掛布団もない。

 まるで床に寝転がされているようだった。

 

「なんでこの状況で狸寝入りしているんですか!」

 

 やれやれ、五月蠅いな。

 今は考え事をしているのだから少し黙っていてほしい。

 俺は仰向けの状態から横向けの状態に寝返りし腕を枕にした。

 

「もう半日寝かせてくれ」

「本気で寝ないでください! というかその睡眠時間長すぎませんか!?」

 

 俺は軽く息を吐き起き上がる。

 

「病院で騒ぐな、他の患者さんに迷惑だろ」

「……ここは病院じゃありませんよ、寝惚けているのですか?」

 

 呆れながらそう言われ、俺は周囲を見渡した。

 

 知らない天井とは何だったのだろうか。

 俺がいたのは、俺が銃で撃たれたシェルターの中だった。

 

 

***

 

 

 俺が意識を失ってから、おそらく五分と経っていないのだろう。

 捕らえられた敵兵が今いる部屋から別のどこかへと連れられて行かれるところだった。

 

 そのときに気が付いたことなのだが、壁の一部が消えていた。

 

 断面があまりにも綺麗なので、機械で切り取られたのではなく魔法を使ったのだと思う。

 床が砂まみれなところを考えると、壁がどのように破壊されたかを何となく想像することができた。

 

 俺と司波妹に怪我はない。

 周囲の状況を考えて見れば、俺と司波妹が銃で撃たれたのは夢などではなく確かな事実のはずだ。

 では、なぜ怪我がないのか。

 最初は治癒魔法のようなものかと思ったが少し違うようだった。

 

 俺の『千里眼』の応用は未来だけでなく、過去の記録をある程度探ることができる。

 一応『過去観測』と呼んでいるが、まともに使ったのは今日が初めてだ。

 

 自分自身の体を調べた結果、銃で撃たれたという記録を捉えることができなかった。

 

 ただ傷を治されたというだけなら、銃で撃たれたという記録が消えることはない。

 さらに言えば、治されていく過程すら記録の中に存在していない。

 まるで撃たれたという事実がなくなっているかのようだった。

 

 今度はシェルター内の空間に対して『過去観測』を使った。

 

 未来予測と同じく、過去観測も似たような負荷がかかる。

 ただ、二つの能力の負荷には、何に対して負荷の強弱が比例するかが変わってくる。

 未来予測の場合は演算速度によって強弱が変わるが、過去観測の場合使用した対象の物理的な大きさによって負荷の強弱が変わる。

 能力の観測対象物が小さければ負荷は軽くなり大きくなれば強くなる。

 部屋一つともなれば負荷が結構きつい。

 故にあまり使いたくない。

 まぁ今日のようなことでもない限り使い道もないのだけど。

 

 閑話休題。

 

 結果から話すと、俺と司波妹の怪我とシェルターの壁を消したのは司波兄だった。

 俺は魔法の分析もできなければ、そもそも魔法についてそれほど詳しくないので具体的に何をしたかは分からない。

 それでもしいて言えば、怪我をしている俺達に怪我をしていない俺達を上書きしている。そんな印象を受けた。

 

 床に落ちていた弾丸を拾う。

 その弾丸は、司波妹の腕に当たり、そのまま腕の中に埋まっていた弾丸だった。

 

 拾ったことに特に意味があった訳じゃない。

 ただ過去観測でそこに落ちていることが分かったので何となく拾っただけだ。

 それでもその行動に何か意味があるように思えたのか、司波兄妹の母親はずっと俺のことを観察していた。

 

 

***

 

 

 周囲の情報収集に飽きていたので、俺はとりあえず椅子に座って本を読みながら時間をつぶしていた。

 俺と司波家の関係者以外の人達は、どうやらどこぞの企業の重役とその家族だったらしく、今は別の部屋に保護されたらしい。

 

 国防軍の大尉という階級の人が司波兄を代表とした司波家の人たちと話をしていた。

 

「すまない、叛逆者を出してしまった事は、完全にこちらの落ち度だ。何をしても罪滅ぼしにはならないだろうが、望むことがあれば何なりと言ってくれ」

 

 この内容ならば、叛逆者によって撃たれた俺も望みを言う権利もあるだろう。

 国防軍の大尉という人物も、そのことは俺も含めて言っていると思われる。

 というのも、シェルターに置いてある椅子は長めのソファなのだが、俺が座っている同じ椅子に司波兄妹の母親が座っている。

 司波兄より司波家代表のような人物がその会話から離れた位置にいるわけもなく。

 司波兄妹と司波家のお手伝いさんはその周りに立っている。

 立ち位置的にその集団に俺も混ざっている形なので、この会話には一応俺も参加しているのだ。

 

 司波兄はまず大尉さんに頭を上げることを要求し、正確な状況を聞き出した。

 

「敵を水際で食い止めているというのは、嘘ですね?」

 

 大尉さんはそれを肯定する。

 ちなみに俺はそもそも外国が攻めてきている以上の情報を知らないので、水際で云々という事自体、初耳だ。

 

「慶良間諸島近海も、敵に制海権を握られている。那覇から名護に掛けて、敵と内通したゲリラの活動で所々兵員移動が妨害を受けた」

 

 地名が分からない。

 俺は現状についての話を聞き流すことにした。

 

「では次に、母と妹と桜井さん、そして彼を、できるだけ安全な場所に避難させてください」

 

 司波兄の発言に対して、思わず俺は文字列から目を離して異を唱えた。

 

「その必要はないよ、俺はそろそろ空港に行かないと飛行機の搭乗時刻に間に合わないからな」

「あの、月山さん。 おそらく今日は空港がまともに機能していないと思いますよ」

 

 なん……だと……。

 

「……防空指令室に保護しよう。あそこの装甲は、シェルターの二倍の強度を持つ」

 

 なんやかんやで俺もそのシェルターに一緒に行くことになってしまった。

 さて、どうやって帰るか。

 もうめんどくさいし、自分の部屋に空間置換を使って直接帰ろうか。

 司波兄が戦場に向かう為に武装を貸してほしいと発言している最中、俺は本気でそんなことを考えていた。

 


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