暗黒神ラプソーンは打ち倒されてなお、絶大な力を吸収し蘇った。
完全なる肉体を手に入れた魔神は今まさに、世界から光を奪わんとしていたのであった。
▼
~神鳥の止まり木~
エイト「なんてことだ」
ゼシカ「まさか暗黒城を取り込んで変身するなんて!」
ヤンガス「でも、ちょっと……」
ククール「ああ。太ってるな」
トロデ「お前さんよりも見るに耐えんメタボっぷりじゃ」
ヤンガス「んだとぉ!?おっさんだって似たようなもんでげす!」
トロデ「なにおう!?ワシの方が100倍はハンサムじゃろうがっ」
ヤンガス「あっしだってあんなずんぐりむっくりと並べられたくないでげすよ!見るでがす、この身のこなしを」
ヤンガスはステテコダンスを踊った!
トロデ「ううむ。確かに鮮やかよのう」
トロデはショックを受けた!
ゼシカ「こら、茶番なんかやってないで、ラプソーンを倒す方法を考えないと」
エイト「あの出っ張ったお腹を僕の槍で刺すのはどう?」
ククール「それなら俺の弓の出番だろ。シャイニングボウなら地上からでもギリギリ届くぞ」
ゼシカ「うーん。よく見てみると、あいつ結界みたいなの張ってるわね」
トロデ「魔法が効かないと言うことか?」
ゼシカ「視認できるほど強力なものなんて聞いたことないし、物理も効くか怪しいと思うわ」
レティス「その通りです。暗黒神ラプソーンの結界を破るために、七賢者のオーブが必要になります」
エイト「やった。またいっぱい旅ができるね」
トロデ「お主の場合、旅というか放浪じゃろうが」
ヤンガス「しかし、デブで引きこもりでがすか。最悪な組合せでげすね」
ククール「違いねえ。その上、部下にだけ働かせてるニートだぜ」
ククールの皮肉な笑み!
エイト達は腹を抱えて笑っている!
~上空~
ラプソーン「……」プルプル
ラプソーン「なんなのだあいつらは!?」
ラプソーン「せっかく倒した暗黒神が、さらに強大になって甦ったのだぞ?」
ラプソーン「なぜ絶望もせずに笑っているのだ」
ラプソーン「しかもその理由が、なんだ、くそぉっ!」
ラプソーン「私がキモデブヒキニートだと!?ニートは言いがかりじゃないか!どちらかと言えば社長、いや名誉会長だ!」
ラプソーン「デブはっ、デブは、デブ……」
ラプソーンは己の腹を摘まんだ!
幾重にも重なった贅肉が気味悪く揺れている!
ラプソーン「.……あいつらが来るまで時間あるよな」
ラプソーン「ダイエット、してみるか」
▼
それからラプソーンは頑張った。死に物狂いで頑張った。自分の肉体を鍛えること、それは得意の魔法では叶わぬ。
食事(魔力摂取)制限から始まり、ストレッチなどの有酸素運動、脂肪の揉み出しや呼吸改善による脂肪の燃焼促進も試みる。数日後には部下をパシらせ、本からヨガを学び始めた。結界の内側には『目指せ!レッドデビル!』と無駄に達筆な文字がデカデカと書かれている。
世界征服はどうするのですか。
そう言って嘆く部下を無視して、ラプソーンはみるみるうちに贅肉を落としていった。
そして……。
▼
~神鳥の止まり木~
ヤンガス「やっとオーブが集まったでがすよー」
レティス「ずいぶんと時間がかかりましたね」
ククール「こいつが寄り道ばっかりしてたもんでな」
エイト「いやあ、えへへ」
ヤンガス「でもその間に魔物が町を襲った話は聞かなかったでげすし、いったいラプソーンは何をしていたんでしょうかね」
レティス「それは私にも分かりません。ですが、油断はできませんよ」
ゼシカ「行きましょう。ハワードさんのとこで覚えた新しい魔法をぶっ放したくてウズウズしてるの」
ククール「えっ、仇討ちは」
ゼシカ「それもあるわ」
ククール「……」
レティス「では、いざ最終決戦へ!」バサッ
~上空~
ククール「こ、これは」
ヤンガス「どういうことで、がす?」
ゼシカ「わ、分からないわ。天才で可愛くておっぱいが大きい私にも分からない……」
エイト「や、や、や、」
一同「痩せてるぅーーーー!?」
ラプソーン「ふぅーははは!驚いたか人間どもよ。我が自慢の肉体美に!」
レティス「な、何があったのですかラプソーン。一ヶ月前のあなたはあんなにも、その、ふくよかだったではありませんか」
ラプソーン「だまれぇ!そんな過去のことなど口にするな!私はもう以前の私ではないのだ」
エイト「確かに。堀が深いジェントルマン風のランプの魔神みたいになっている」
ククール「全身紫色で、未だに全裸だけどな」
ゼシカ「汚かった尻穴もないわね」
エイト「女の子がそんなはしたない言葉使っちゃいけないよ」
ゼシカ「え、じゃあア○ル?」
ククール「もっと駄目な気がするぞ」
ヤンガス「ちくしょう、ラプソーンがイケメンになっちまったでがす……はっ!あっしも痩せればイケメンになる可能性が」
ゼシカ「ないから」
ラプソーン「おい、無駄話をするんじゃない!もっと褒め称えるがいい!」
ゼシカ「らぷそーんすごーい」
エイト「かっこいいー」
レティス「クッ……悔しいですが、彼の努力は本物のようです」
ラプソーン「ぐはははっ、そうであろう。さらに見よ!はあああああ……!」
レティス「ラプソーンの身体が闇に包まれていく!皆さん、警戒してください!」
ヤンガス「いやあ、この流れで警戒しろと言われても」
ラプソーン「どぅおーーーだぁーーーー!」バアアン
ゼシカ「ああ!人間の姿になってる!」
ヤンガス「マッチョでがす!」
エイト「サイズも僕たちと同じくらいになった」
ククール「ちゃっかり燕尾服まで着こなしてるな。くそっ、俺にはないダンディズムを醸し出してやがる」
ラプソーン「わっはっはっ!これはモシャスなどではないぞ。努力の末に手に入れた、私のもう一つの形態だ!これでもう誰も私をバカにできまい」
レティス「ら、ラプソーン……」
ラプソーン「なんだ忌々しき神鳥よ。貴様も我が肉体美に呆然としておるのだろう」
レティス「いえ、それもあるのですが……その、結界が」
ラプソーン「結界?……あああああ!?」
ゼシカ「あっ、ラプソーンの結界がいつの間にか消えてるわ」
レティス「恐らく、人間サイズに変身したことで魔力が分散してしまい、結界を維持できなくなったのでしょう」
ヤンガス「さすがレティス。素晴らしい解説でがす」
エイト「じゃあ、もうオーブがなくても普通に倒せるってこと?」
レティス「正直に言って……楽勝かと」
ゼシカ「よっし、じゃあサクサクっとぶっ放すわよ」
ククール「やれやれ、旅もこれで終わりか」
ヤンガス「長かったでがすなぁ」
エイト「トロデーンが復活したら祝勝パーティーしようよ」
ラプソーン「ま、待て待て待て待てぇ!」
レティス「なんですか暗黒人ラプソーン。往生際が悪いですよ」
ラプソーン「お前らそれでいいのか!?正義の勇者であるならば、敵の弱味につけ込むなど、してはならんことではないのか!」
レティス「別に私は正義の味方ではありませんよ。強いて言うなら平穏の味方です」
ククール「俺は腐れ縁でここまで来ただけだ」
ゼシカ「私は兄さんの敵討ち。正義って言えるかは怪しいけど」
ヤンガス「あっしは只の山賊崩れでげすし」
エイト「僕のスキルは勇者じゃなくて勇気だよ」
ラプソーン「き、貴様らあ……!」
ヤンガス「じゃあ、さっさとやっちまいますかい」
エイト「そうだね。トーポ、はりきりチーズお食べ」チーズ
ククール「善は急げだ」タンバリン
ゼシカ「やっと試せるわね」テンション
ラプソーン「やめっ、やめろぉ!ああ!?MPが足りなくて流星が唱えられんだと!?」
ゼシカ「マダーンテー!」ペカー
ラプソーン「うわああああ!!」
ゼシカは すべての魔力を ときはなった!
▼
~晴れた上空~
エイト「やー、綺麗なキノコ雲だね」
ゼシカ「魔力空っぽになっちゃってダルいわ。ヤンガス、魔力ちょうだい」
ヤンガス「ほいほい」マホアゲル
ククール「塵も残らなかったのは少し引いたぜ」
レティス「皆さん、お疲れさまでした。まさか本当に暗黒、神?ラプソーンを倒すとは。いや、あれは倒せて当然だけど……人間の可能性をこの目に焼き付けまし……いや別に言うほどでもなかったような」
レティスはなにかをつぶやいている!
ヤンガス「細けぇことはいいんでがすよ。今は純粋に喜ぶのが一番だって。ねえ兄貴?」
エイト「そうそう。あ、トロデーンが見えてきたよ」
~トロデーン城~
トロデ「おーい!ここじゃここじゃー!」ピョンピョン
ククール「まだ元に戻ってないのか」
レティス「ラプソーンの魔力の気配が消えかかっています。間もなく呪いは解けるでしょう」
トロデ「そうか、なら心配はいらんな」
トロデ「しかしお前たち、よくあんなのに勝てたのう。誉めてつかわす!よくやったぞ!」
ゼシカ「いやぁ、よくやったっていうか、ねえ?」
ククール「肩透かしだったな」
トロデ「なんじゃ、ずいぶん余裕そうに」
エイト「トロデ王。それよりも祝勝会を開きたいのですが」
ヤンガス「兄貴はブレねぇなあ」
トロデ「そうであるな。世界を救ったのだからパーっとやりたいところじゃ!」ペカー
ヤンガス「げっ!お、おっさんが光っているでがす!」
トロデ「む?フフフ、ようやくお前もワシの光輝かんばかりの美しさが分かったようじゃのう」ペカー
ヤンガス「ちげぇって!自分の体よく見るでがす!」
トロデ「何?……お、おお!?」ペカペカー
トロデ「ぬ、お、戻っ、た……?戻ったぞー!やったー!」
ゼシカ「魔物の頃とあんまり変わらないわね」
ククール「惨めだ」
トロデ「なんじゃと貴様ら!はっ、さてはワシの余りのかっこよさに嫉妬しておるな?」
エイト「それはない」
ヤンガス「……おっさん」
トロデ「なんじゃい。しんみりしくさって」
ヤンガス「お互い、ラプソーンには勝てなさそうでがすなぁ……」
トロデ「???」
▼
おわり
陣痛のごとく唐突にドラクエⅧ愛が炸裂しました。すごく安産でした。