「お日柄もよく」などと平凡な挨拶から始まり、チャゴスは今回の祭典の意義、来賓とスポンサーの紹介などを、カンペを見ながらしどろもどろに読み上げる。そのせいで、モリーの活躍により盛り上がっていた会場の熱は、少し冷めてしまった。
チャゴス王子のぐだぐだな挨拶が終わり、司会が舞台に上がる。こちらは遥々バトルロードから馳せ参じた一流の男である。
ステージを中心にして群がる人々に深く一礼をする。待ちきれない観客の中から野次が飛ぶ。
司会の男は野次などものともせず、堂々とした姿勢を崩さない。息を肺一杯に吸いこみ、そして大気を突き破らんばかりの大声を張り上げた。
司会「世界一を目指して何が悪いッ!!!」
突然の大音声に、観客席はシンと静まり返る。
司会「人として、女として生まれたからには一度は絶世の美女を志すッ!世界が羨む自分の姿を一度たりとも夢見たことがない───そんな女は一人として存在しないッ!」
司会「それが心理だッ!!!」
司会「ある者は物心ついてすぐに。
ある者は友人の優れた容姿に。
ある者は近所の綺麗なお姉さんに。
そしてある者はお姫様の高貴な美貌に屈して、それぞれが一番の座を諦め、それぞれの道を歩んだ」
暴論を吐く司会を非難したり、嘲笑う者はいない。誰もがその力強い魂の叫びに共感していた。
司会「しかしッ!今日、諦めなかった者がいるッ!」
司会「偉大なバカヤロウ八名ッッッ!!!!」
司会「この世で誰よりもッ!誰よりもッ!一番を渇望んだ八名ッッ!!!」
司会「皆さん、彼女たちを盛大な拍手でお迎え下さい!選手入場ッ!!全選手、入場ですッ!!!」
司会の合図と同時にステージの幕が上がってゆく。
そして現れた八人の美女が、世界の視線と拍手を一身に浴びた。どの女性もこの大舞台に恥じぬ美を持っている。可憐、麗美、優雅。とてもではないが十把一絡げにはできない。
歓声のなか、負けじと司会もさらに声量を上げる。
司会「父親思いの町娘!その心は水晶よりも美しい!トラペッタから、ユリマだ!!」
ユリマ「あ、あの、私そんなにガツガツしてないです……」
司会「優しさならこちらも負けてはおりません!献身的な態度には逆に保護欲をそそられる!アスカンタのアイドル、その名はキラ!!」
キラ「ひいいっ、恥ずかしいよ……」
司会「あたしの物はあたしの物!お前の物もあたしの物!本大会きってのクールビューティー!麗しの女盗賊、ゲルダ!!」
ゲルダ「おいアンタ、バカヤロウってなんだい。後で覚えときなよ」
司会「王家の仕事はどーした!まさかこの人が来てくれるとは!小さな島の偉大な君主、メダル王女様だ!!」
メダル王女「これも仕事の一環ですわ」
司会「特に理由はない!バニーガールが可愛いのは当たり前!バトルロードの隠れた花形、バニー四人衆のリーダー格、マリー!!」
マリー「誉めてくれるのは嬉しいけど、私たちは皆対等よ?」
司会「元気爆発!カジノのオーナー兼看板娘!ベルガラックから、ユッケだ!!」
ユッケ「うわわ、どうしよう。すごい美人ばっかりだなあ」
司会「異種族の魔性の美しさ!悠久の時を経て、伝説の魅力が今ベールを脱ぐ!三角谷から、エルフのラジュだ!!」
ラジュ「なんて賑やかなの……チェルスもこういうのが好きだったのかしら」
司会「どうやら、もう一人は到着が遅れているそうですが、到着次第、皆様にご紹介いたします!」
次に司会は、ステージの右隣に手を仰ぎ、高台に座る男たちを示した。
司会「審査員の方々も超豪華です!カリスマ美剣士ククール、大魔導師ハワード様、そしてあろうことかクラビウス王!このお三方が厳重に審査します!ハワード様は体調が優れないようですが、審査には問題はないとのことです」
ククール「ベホマしとくかい」
ハワード「キアリーも頼む」
クラビウス「ううむ。よりどりみどり……」
司会「そして皆様、ステージの真上をご覧ください!」
司会に促され、観客たちはステージの天蓋に取り付けられている巨大なパネルを見た。パネルの中には三つのゼロが並んでいる。
司会「本大会のために特別に開発された魔法道具です!皆様の歓声が大きければ大きいほど、その選手に得点が入ります!審査員の持ち点が各々50点、観客の持ち点が150点、合計で300点満点となります!」
司会「みごと最高得点を得た一人が、優勝賞品を受け取れます!その内容は、比類なき伝説の衣とスペシャル特典となっておりますが、私も詳細は知りません!後のお楽しみというわけです!」
司会「ではこれから、審査に移りたいと思います!選手たちは最高の衣装に着替え、各々が一人ずつアピールを行います!それまで、もうしばらくお待ちください!」
熱狂冷めやらぬ。衣装替えを待っている間も、客たちはそれぞれ夢中で予想を立てている。場繋ぎとして来賓席から一言ずつ挨拶が行われているが、耳を傾ける者は少ない。そしてそんな観衆を咎める無粋な者もいなかった。
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それから数十分ほどして、大変身を遂げた美女たちが次々に再登場した。
タイトなドレス、ミニスカートのメイド服、社交ダンス用の薄絹の羽衣など、それぞれが持つ魅力を遺憾なく発揮する。
七人全員の審査が終わり、狼を模したヘアバンドと尻尾を着けたマリーが260点で現在トップとなっている。その可愛らしさを兼ねた美しさは、万人が認めるものだ。
しかし、まだ皆納得がいっていない。最後の一人、八人目がまだ来ていないのだ。
運営にも何の連絡も入っていないようで、司会もこのまま審査発表に移ってもいいものか迷っている様子である。
しばらく大臣と話し合い、やがて司会は「申し訳ありません」と観客に言った。
司会「最後の一人はどうやら来られなくなってしまったようですので、これから審査発表を行います。主催者であるチャゴス王子のボーナス点も加味し、最終的な優勝者を決めます!さあ、気を取り直して、レッツ──」
「待ったあーーーーーーー!!!!!」
レッツゴーと言おうとしたのだろう。しかしそれは、上から降ってきた声に遮られた。
全員が呆気に取られる。
突如として、ステージの真ん中に、一人の女性が音もなく降り立ったのだ。女性を纏っている青白い光は、見る者によってはルーラによるものだと気付くだろう。
肩と胸の谷間を存分に見せ付ける大胆な服を来ているその女性、ゼシカ・アルバートが現れた。
司会「な、なんということだあー!このタイミングで、待ちに待ったシード選手の登場です!」
いち早く我に帰った司会が叫ぶと、観客たちも遅れて声援を上げる。男たちはその豊満な胸に釘付けである。
司会「どこへ行っていたンだ賢者様ッ!俺たちは君を待っていたッ!立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花ッ!!暗黒神ラプソーンを打ち倒した四英雄の一人、リーザス村のゼシカだぁーッッ!!!」
ゼシカ「よろしくお願いしまーす!」
元気よく頭を下げるゼシカを見て、来賓席に座っているエイトは怪訝そうな顔をする。
エイト「レベルが、上がっている……?」
司会「それでは早速着替えて来ていただきましょう」
ゼシカ「その必要はないわ。私は今のままの姿で、優勝を狙う!」
司会「おおっと、大胆不敵な発言だ!それでは審査員の方々、採点をどうぞ!」
ククール「やれやれ、相変わらず騒がしいな。だが美しさも変わっていない。ま、新しい衣装を見たかった不満も含めて、45点かな」
ハワード「やはりあの胸は素晴らしいな。他の部位にも、以前より磨きがかかっていると見える。しかし化粧くらいはしても良かったのではないかな。ワシは40点をつけよう」
クラビウス「おっぱいだ。50点だ」
合計値がパネルに映し出される。そして次に控えるのは観客たちの歓声を点数に換算した一般票。
数字が目まぐるしく回り始めたところで、ゼシカは「度肝を抜いてやるわ」と呟いた。
ゼシカ「私が今まで何処にいて、何をしていたか、結果で教えてあげるわ」
その時、全ての人がそれを見たと言う。
ゼシカから立ち上る、膨大な気炎を。
△
~竜神族の里、教会~
竜神王「ううむ、恐ろしや……」
長老「いったい何があったのですか、竜神王様。あなたが倒れてしまわれるなどと」
竜神王「ゼシカ……彼女が、何度も竜神の試練に挑みに来たのだ……恐ろしい強さと気迫だった……」
長老「なんと、人間の女がそれほどまでに……しかし、そやつは一体何を目的に挑み続けたのでしょうか」
竜神王「わからん。だが、私を倒したあと稀に、何かを拾って喜んでいたが。あれは何だったかな。そう、確か──────」
『スキルのたね』
△
竜神王を倒し続けて得たスキルのたね。それによって得た莫大なスキルポイント。
その全てを、おいろけスキルに注ぎ込む!
エイト「ば、バカな!ゼシカ、君のおいろけスキルはもう一杯だったはずだ!何の効果があるっていうんだ!君がやっていることは、たねの無駄使いだぞ!」
ゼシカ「常識に囚われていては辿り着けない領域があるわ……」
ゼシカ「設定の壁を今!私が越えてみせる!!」
ククール「う、うそだろ、おい」
ヤンガス「そんな、セクシー・ダイナマイトのさらに上があるなんて……!」
アローザ「何が始まるんです?」
ゼシカ「はあああああ!!!」
ゼシカのおいろけスキルが限界突破した!
ゼシカは超絶アルティメット・セクシー・ギャラクティカダイナマイトになった!
その瞬間、ゼシカ以外の全ての人間が固まった。まるで時間が止まったかのような静寂が流れる。
そして一瞬の空白の後、爆発的な大歓声が鳴り響いた。
審査員の三人はあまりの出来事に口をあんぐり開けている。来賓の王や貴族も総起立し、無意識のうちに拍手を送っていた。
ゼシカのお色気は今や、この地上で比肩しうる者がいなくなった。モンスターどころの話ではない。無機物すら魅了せんばかりの傑物である。
パネルの数字が高速で動く。
歓声を数値化しようと尽力するが、情報があまりに膨大だったため処理が追い付かず、ついにオーバーヒートを起こし沈黙してしまった。
司会「け、け、計測不能ーーーー!!!」
司会「第一回ミス・コンテスト!優勝者はゼシカ・アルバートだあああーーーー!!!」
拍手喝采が巻き起こる。他の七人の選手たちも、負けを潔く認めたように清々しい笑顔でエールを送る。
ゼシカは成し遂げたのだ。
満場一致。誰の文句もなく、ゼシカこそが、史上初となる世界一の美人の座に輝いたのだった。
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司会「皆様、大変お疲れ様でした。激戦を乗り越え、ついに王者が誕生いたしました」
司会「これより授賞式に移ります。優勝者であるゼシカ様には、チャゴス王子より直々に賞品が手渡されます。それでは王子、よろしくお願いします」
チャゴス「うむ。おほんっ……ゼシカよ。この度の結果、僕も非常に嬉しく思うぞ。お前こそが世界一にふさわしい」
ゼシカ「チャゴス王子から言われてもなあ。ま、ありがたく賜っておくわ」
チャゴス「ぐぬぬ、どこまでも無礼なやつめ。まあいい。それでは受け取るがいい。これこそが、比類なき伝説の衣だ!」
チャゴスの言葉と共に、掛けられていた布が取り払われる。
宝飾に彩られた衣紋掛けにかかっているそれは『紐』だった。
ゼシカも司会も観客も、一様に首を傾げる。どこからどう見ても紐である。防具どころか服ですらない。
一見して、ただの紐がそこにあった。
ゼシカ「なにこれ」
唖然とするゼシカに、チャゴスが高笑いする。
チャゴス「ぶわっはっはっは!ただの紐ではない。これはな、水着なのだ!名付けて、超あぶない水着!ほーれほれ、ここで局部を隠すのだあ」
チャゴスの鼻の下は下品に伸びきっている。
ゼシカは意味が分かったようで、徐々に頬を赤らめ、そして激怒した。
ゼシカ「は?はああ!?まさか私にこれを着ろっての!?ふざけんじゃないわよ、バカ!変態!こんな紐でどこが隠れるってのよ!」
そこで立ち上がり異議を唱えたのは、なんとトロデーンの若き国王、エイトであった。
エイト「大丈夫だよゼシカ!」
ゼシカ「何が大丈夫ですって!?」
エイト「デザインは確かにアレだけど、性能は完璧だよ!なにせ竜神王様に改造してもらった錬金釜でも、三日も錬成に時間がかかったんだ!ドラゴンローブがボロ布に思えるほどの防御力と耐性だよ!」
ゼシカ「何言ってんのか分かんないわよバカ!あんたが共犯か!」
エイト「だって、チャゴスが研究のための資金と素材をくれるって言うから」
ゼシカ「この錬金バカ!」
ゼシカは二人の王族に「バカ」と連呼する。
しかしチャゴスは余裕たっぷりのニヤケ面で「まあまあ」と宥めすかした。
チャゴス「無理に今着ろとは言わんさ。さて、それとは別にもう一つ、賞品があるぞ」
ゼシカが嫌な予感に冷や汗を流し、観客たちも固唾を飲み込んだ。
そしてチャゴスは何も持っていない両手をバッと広げ、高らかに叫んだ。
チャゴス「喜ぶがいい!優勝者であるお前を、このチャゴスの第一婦人として迎え入れてやろう!」
今度こそ、ゼシカは言葉を失った。
あまりに突飛な宣言に、先ほどまで熱弁を振るっていたエイトさえ困惑している。
チャゴス「その水着は結婚初夜に着るのだ!なんなら結婚式でも良いぞ!わーい、わーい!」
司会「あ、あの、チャゴス王子。これはいったい、どういうことでしょう」
チャゴス「やかましい!引っ込んでろ!」
チャゴス「いいか、王子の妻だぞ!一番の美女が一番の王子である僕と結ばれる!これこそ真理だ!」
そんな真理があってたまるか。
観客たちがその言葉を飲み込めたのは奇跡に近い。
チャゴス「もちろん僕は寛大だ。優勝できなかった女たちも、皆側室にしてやる!がははははっ」
よだれを垂らしたチャゴスに近寄られ、参加者の七名は露骨に嫌そうな表情をしたり、顔を背けたりした。
そんなチャゴスの後ろから、ゼシカがゆらりと歩み寄った。
チャゴスが振り向きゼシカを見て「ヒッ」と短い悲鳴を上げる。
ゼシカは紫色の闘気を滾らせていた。言わずもがな、スーパーハイテンションである。
ゼシカ「まさか、そんな下らないことのために乙女のプライドを利用したとはね。許さないわよ」
グリンガムのムチが床をぴしゃりと打つ。ゼシカの異常な攻撃力により、それだけで石畳に亀裂が入った。
チャゴスが助けを求めるように周りをキョロキョロ見渡すが、皆は明後日の方を向いて知らんぷりした。
七人の女性たちも、各々が反逆の眼差しでチャゴスを射ぬいていた。
チャゴス「なんだ貴様ら!大国であるサザンビークの王家に嫁げるのだぞ!これほどの名誉はあるまい!」
ゼシカ「遺言は以上ね。覚悟はいいかしら。歯あ食い縛りなさい」
チャゴス「やめ、止めろお!誰か、誰か助けてくれええええ」
チャゴスは なかまを よんだ!
しかし たすけは こなかった!
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その後、チャゴス王子は何故か、井戸に脇腹がつっかえ挟まっているところを発見された。本人に前後の記憶はなく、事実関係は曖昧であったが、国は問題なしとの見解を表明した。
それと、騒ぎのどさくさに紛れて、エイト王が妻であるミーティア王妃に耳をつままれ引っ張られて行くのを見たと言う人間が何人かいたが、こちらも真偽は定かではない。
歴史には、この祭りは阿呆の極みであった、と記されることとなる。
しかし同時に、夢の塊であったと述べる識者も多く、似た内容の大会が各地に普及し、聖地サザンビークでは毎年ミス・コンテストを開催している。
とにもかくにも、世界は平和であったということだ。
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おわり
ミスコンの話は以上です。お読みいただきありがとうございました。