4月。僕は大学に入り、真姫は高校に入学した。今年から入った僕の通っている大学は、正直つまらない。なぜかって、そんなの真姫がいないからに決まってるだろ。まあ、中学入学も高校入学のときも同じようなことを言ったような気がする。成長しないな。いや、これに至ってはどうしようもないことか、しょうがないね。
今日の大学の授業で習った範囲の復習も、明日の範囲の予習を終わらした。というか今月の範囲の予習は全て終わらしてしまった。大学に入ってから2週間ほどたったが特にやることはなく、毎日に退屈していた。まったく、完璧すぎるもの罪なものだ。なので今は家のリビングのソファに座りながら適当に本を読んでいた。最近は世界の謎に関する本をよく読んでいる。今はクトゥルフ神話に関する本を読んでいた。大学の図書館の奥の隅の方にこっそりと置いてあったのを借りてきた。怪しそうで少し興味をひかれた。昔からこういう本をちょくちょく読んでいた。知り合いの考古学者がよく本を貸してくれたものだ。しかしなぜ今更こんな本を読もうと思ったかと思うと、自分でもよくわからない。しいていえば、何かが起こりそうだったから。僕のこういう時の勘はよく当たる、不吉なほどに。今までだと真姫が生まれる前、後はあいつと出会うちょっと前。この話はまたいつかしよう。僕はそんな妙な予感に包まれるといつも本を読む。それもSF作品が多い。今回もまた何かが起こるのだろうか。
しばらく紙の上に描かれた邪神の物語の世界に浸っていると誰かが階段を下りてくる音がした。父は仕事の出張中、母はキッチンにいる。他の使用人たちも母と一緒にいるはずだから、この足音は真姫のものか。階段からする足音がやみ、リビングのドアを開ける音がした。後ろを見なくとも、電源を切ったテレビの黒い画面に真姫の姿が見えた。真姫は僕が座っているソファの近くまで来ると後ろから話しかけてきた。
「お兄ちゃん、お風呂先に入ってもいい?」
「? ああ、いいぞ。」
僕の返事を聞くと真姫はすぐに自分の部屋に戻った。着替えを取りに行ったのだろう。しかし珍しいな。真姫が先にお風呂に入りたがるなんて、いつもは僕が入った後に入ってゆっくりするタイプなのに。先に入りたい理由でもあるのだろうか。まさか僕と不純異性交遊を・・・なんて馬鹿な考えはよそう。真姫に至ってそんなことはあり得ない。部屋に戻っていく真姫の表情はいつもと少し違って見えた。どこか悩んでいるような表情に見えたが気のせいだろうか。
1時間ほど経過すると、真姫がお風呂から上がったようだ。ドライヤーの音が聞こえる。僕は座って読む体勢に疲れてしまい、少々はしたないがソファに寝っ転がるような状態で読書に耽っていた。本もだいぶ長く読み進み、やっと中間のページに達した。ただでさえこの本は長いので読み終わるのに時間がたってしまう。一度読んだとはいえ、結構ハイペースで読めたと思う。真姫とお風呂の順番を変わらなかったらここまで読み進めることはできなかっただろう。真姫に感謝だな。本から目を離すとドアの前に立っている真姫の姿が見えた。髪をタオルで乾かしながらリビングにやってきたようだ。
「何だ、上がったのか。」
「・・・ええ、先に入らせてもらったわ。」
「そうかい。」
「お兄ちゃんも入ったら?」
「もう少し読んだら入るよ。」
「何読んでるの? またわけのわからない神話の本?」
「ああ、クトゥルフ神話な。真姫もいつか読んだら面白いと感じるよ。」
「そんなものかしら? ・・・じゃあ私は自分の部屋に戻るわね。」
「ああ。」
やはり、真姫はどこかうつろな表情をしている。何か考え事だろうか。この年の男女は扱いは面倒なんだよな。まあ、真姫が自分だけで解決できなくなったら手伝ってやるか。また本に目を戻すと、視界の端から階段を上がっていく真姫の姿が見えた。お風呂上がりの真姫の背中を見送るともう一度読書を再開した。
・・・・・・ん? お風呂上がりの、真姫? いつもは僕が先に入る。真姫はその後に入る。今日はいつもと逆? つまりいつもは僕が入ったお湯に真姫がつかるが、今日は逆? 僕が真姫が入った後にはいる。 真姫が入ったお湯に僕が入る。 ということは、今お風呂場には真姫が入ったお湯があることになる。 真姫が入ったお湯? 真姫が入ったお湯?! 真姫が入ったお湯!! 読書なんてしてる場合じゃない。はやくお風呂に行かなくては。母が入るより先に入らなくては。さっきまで真剣に読んでいた本をソファに置き、大急ぎで自室に戻ると、着替えをもって全速力でお風呂場に向かった。そして浴室の扉の前に着いた。中には誰もいないことを確認すると、中に入った。そして絞められた浴室の向こう、脱衣所からは不気味は笑いが聞こえてきた。
クックック。ついにこの時がきた。真姫がつかったお湯、それはもはやただのお湯ではなくなる。それは神の水浴び場にも相当するほどの価値になる。効能も疲労回復にセラピー肩こり予防に若返るほどだ。(実際にはそんな効果はないと思います)一度見ただけでですべてのものを魅了する真姫が入ったお湯だ。一口飲めば全てを癒す力を持った万能薬にだってなるだろう。(実際にはならないと思います)このお湯は瓶か何かに入れて永久に部屋に飾っておこう。さあ、この水蒸気で曇った扉の向こうには楽園が広がっているのだ。この奥のバスタブの中には天使の泉が待ち構えている。ここにさっき真姫が入ったと思うと・・・ぐふふ・・・うぇへへ・・・興奮が収まらない。これは相当は覚悟が必要だな。一度深呼吸をしておこう。ふぅー、はぁー。よし落ち着いた。いざ、楽園に参ろうぞ。勢いよく問らを開く真っ先にバスタブに向かった。そしてその勢いのままバスタブに入るとざっぶーんという音とともに水しぶきがたった・・・・・・・はずだった。かわりにガンッという固いものに思いっきりあたるような音がした。それと同時に足の裏に衝撃が走った。数秒何が起こったのか、理解できなかった。なぜお風呂の床に足をぶつけたのだろう。なぜお風呂にお湯が入っていないのだろう。どうしてあるはずのものが無くなっているのだろう。横を見ると、お風呂の線が抜けていた。・・・真姫が線を抜いたのだろうか。もしかして真姫は僕が真姫の入ったお湯に入るのを阻止するために抜いたのか。僕が真姫の入った残り湯を売り飛ばすとでも思ったのだろうか。そしてお湯を抜いてから自分の愚かさに気が付き、僕に謝るためにリビングに行ったはよかったが僕が先に話しかけてしまったため、謝るタイミングを逃してしまった。それで少しうつろな顔をしていたのか。いや、まだそうと決まったわけではない。もしかしたらもっと違う理由があったかもしれない。例えば真姫がお風呂に入っていると、急にお湯の一部がいきなり血に変わり、徐々に赤く染まり始めて、じわじわと赤く染まった部分が広がって、最終的にお風呂一面が血で赤く染まってしまい、真姫のSAN値が減ってしまって、その血に驚いてお湯を抜いてしまった。それでさっきリビングに来た時にうつろな顔をしていたのは、悩みではなく、動揺だった、とか?いや、それはクトゥルフ神話の読みすぎか。いや、自分で考えるよりも真姫に問いただしたほうが早いか。まだ少し衝撃で痛む足を動かし2階の真姫の部屋に直行した。そして真姫の部屋の前に着くと、足を痛めることを覚悟して真姫の部屋のドアを蹴り開けた。少々切れ気味の僕であった。
「まぁぁぁぁぁぁきぃぃぃぃぃ!!!」
少々ではなくだいぶ切れ気味の間違いだったか。いきなり自分の部屋のドアが開いたことに真姫は驚いたようにこちらを向いたが、こちらを向いていた顔はすぐに赤くなった。
「ちょ、ちょっと!お兄ちゃん、服着てよ!!」
真姫の発言の意図が分からず、自分の体をに目を落とすと、そこには腰にタオルを巻いただけの自分の体があった。
「おっと。」
大急ぎで隣の自室に向かい適当に服を着ると、もう一度真姫の部屋に向かった。
「真姫!どうしてお風呂の線を抜いた?!」
「えっ?」
真姫は訳が分からないというような顔をしたがすぐに自分の行ったことに気が付いたのか、はっとした。
「ま、間違えてお湯抜いちゃった。い、いつも最後だから、その癖で・・・。」
「なんだ、そんなことか。」
「そ、そんな事ってお兄ちゃん怒ってたんじゃないの?」
「いや、あれはちょっと行き過ぎた考えだった。」
「何を考えたのよ・・・」
「聞かないほうがいいぞ。SAN値が削れる。」
「そ、そう。」
真姫は何かを悟ったようでそれ以上は追及してこなかった。兄の考えが瞬時に理解できるとはさすが我が妹だ。しかし今回はそんな完璧な妹のうっかりミスだったということか。
「しかし珍しいな。君がこんなミスをするとは。何か考え事か?」
「別に・・・」
何かを隠すように真姫は視線をそらした。そして一瞬だがその視線が机の上に向いたのを僕は見逃さなかった。視線の先のテーブルの上には一枚の紙が置いてあった。すこし遠くて見えないがそこに書かれているのは詩か歌詞かポエムだろう。これが原因なのだろうか。
「テーブルの上の紙のことで悩んでるのか?」
「?! な、何言ってるのよ、イミワカンナイ。」
「・・・図星だったか。君の癖はすべて把握している。動揺すると目が一瞬大きく開く、そして高確率で『イミワカンナイ』という。どうやら正解だったようだな。それで、その紙に書かれているのは・・・詩、かな?大方、誰かに渡すか、誰かに渡されたといったところだろうか?それのどこに悩む要素がある?」
「ちょ、それ以上は見ないで!もう!お兄ちゃんには関係ないでしょ!出てってよ!」
そういうと真姫は部屋の扉から僕を追い出し、しまいには鍵をかけた。まったくツンデレさんは扱いにくいな。ここまでされては僕もどうすることもできない。しかしテーブルの上の紙の内容は全て暗記さしてもらったよ。フフフ、瞬間記憶にはたけているからね。さて、後はお風呂に入りながら考えるか。
一回に降りてお風呂にお湯を張ろうと思って浴槽に向かった。もう一度お湯を入れていると、お風呂のふちにろうそくの溶けたろうが少し残っていることに気が付いた。そのろうから漂う香りをかぐとほのかにバラのにおいがした。これは真姫が好んで使うキャンドルセラピーのにおいだ。そして真姫がキャンドルセラピーを使う時は、緊張と説く時か、何かに悩んでいる時。真姫が何かに悩んでいることは確実だろう。
しばらくするとバスタブにお湯がたまったのでさっそくつかることにした。今度はちゃんとお湯が張ってあることを確認してから。お風呂につかりながら今までのことを整理しよう。まず何かに悩む真姫。次にテーブルの上に書かれた詩らしきもの。この二つがファクターだろう。まずあの紙について考えていこう。最初に、あの紙は真姫が書いたのまず書いたのか、それとも他の誰かが書いたのか。この答えは多分他の人が書いたもので真姫に渡したという説が良好だろう。証拠に真姫の机の上においてあった紙の文字は、和風なものだった。真姫が書く文字はもっと楽譜に使うような文字だ。何より真姫が個人的に書くものには自分のサインを書いている。さっきも確認したが、脱衣所に置いてある、真姫専用のキャンドルが入った箱にもしっかりと真姫のサインが入っていた。次に真姫の悩みについてだ。悩むとしたら原因はあの紙でいいだろう。ではなぜあの紙に悩むのだろう。紙を貰って悩むとなると、テストの結果とかだろうか。いやそれはないか、真姫に至ってテストが悪いなんてことない。それに数日前にテストの結果を父に見せていた。では他の紙だろう。例えば、ラブレターとか?でも真姫の入った学校は女子高だしな。たしか国立音ノ木坂女学院高校だったか。女子高についての知識はないが、もしかしてそっち系の子がいて真姫に『私のお姉さまになってください』なんて展開だろうか。いやいやいや、入学したてでそんなこと言うやつはいないだろう。たしか中学から同じ奴も少なかったはず。しかも真姫の学年のクラスは1クラス。その可能性はないだろう。もしかしたらイレギュラーな先輩がいて『君に一目ぼれした。私の妹になってくれ。』とか言った戯けがいたのだろうか。ふざけるな、真姫を妹にしていいのは天命を受けた僕だけだ。でもこのルートは確率が低い。除外してもいいだろう。となると他は他校の生徒か、中学の同級生か。何かを貰うとしたら女子よりも男子の方が可能性委は大きか。とりあえず手っ取り早く全員皆殺しにしてやるか。人の妹に手を出したことあの世で後悔させてやる。・・・・いかんいかん、まだそうと決まったわけではない。落ち着け、決行はまだ早い。とりあえずは先に音ノ木坂に接点を持たないとな。1年生の生徒の兄とかではなく、もっと確実なつながりか、他方からのつながりが必要だな。まずは・・・そうだな、適当な生徒に接触してみるか。
浴槽にはかつてないほどに不気味な笑いがあふれていた。
「ククク・・・フハハハハ・・・・アッハハハハ!!」
クトゥルフ神話のせいじゃないからご心配なく。
最近クトゥルフ神話にまたはまったのですよ。3年くらい前は友達と集まってクトゥルフ神話のTRPGやったんですけど、集まってた友達も大半が引っ越しちゃったし、なかなかできない。ああ~また誰かとTRPGやりたいな。SAN値!ピンチ!SAN値!ピンチ!SAN値!ピンチ!ってみんなで言った日が遠く感じるよ。学校に一緒にやる友達はいない。
べ、別にボッチじゃないからね!勘違いしないでよね! というねツンデレの練習もしながら、これからもがんばろー。
遠く離れた君よ 元気にしているかい。たまにはメールくれ。
すいません、なんか愚痴みたいになっちゃいました。
読んでいただいた皆様に神々の祝福があらんことを