「紹介が遅れました。僕は西木野雄真と言います。真姫の兄です。」
雄真を見つめる二人の少女は茫然としていた。まあ、当然だろう。しかし硬直していた空気を先に壊したのは、やはりと言うべきか、サイドテールの穂乃果ちゃんだった。
「ま、真姫って、一年生の真姫ちゃん?」
「ええ、今年から音ノ木坂に入学した、西木野真姫です。」
雄真が答えると、今度は横でまじまじと見ていた海未さんが口を開いた。
「確かに、どことなく雰囲気が似ているような気がします。」
「た、確かに。」
「何なら保険証もお見せしましょうか?」
そういった雄真は自分の財布から保険証を取り出した。そこには自分の名前が書かれている。そのカードをさっきと同様にまじまじと見つめた二人は驚愕という言葉がそのまま顔に出ているような表情をしていた。
「ほ、本当に真姫ちゃんのお兄さんだ。」
「確かにそのようですね。ですが、お兄さんがどうしてここに?」
さすが海未さん。頭が切れるな。しかし君たちがさっきカードを見ている間に偶然入ってきた大学生雄真君の設定は考えてある。
「実は、論文を完成させるのに、中々手間取ってしまいまして、糖分が欲しくなったところ、地元に和菓子屋が会会ったことを思い出し、足を運んだ次第であります。」
「へー、じゃあ完全に偶然なんですね。」
「ええ、しかしこれも運命というものかもしれませんね、なんて。」
「そうかもしれませんね。ね、海未ちゃん。」
「そ。そうかもしれませんね。」
二人はお互いにアイコンタクトを取ったのか、見合わせると再び雄真に顔を向けた。
「あの、真姫ちゃんって家で私たちのことについて何か話してたりします?」
「・・・それが、全く話してくれなくてね、逆に君たちに学校での妹について聞きたいくらいだよ。」
「そうなんですか・・・。実は私たちは真姫さんに曲の作曲を頼んだんですよ。」
作曲を真姫に頼んだのか。ということはあの時の紙の内容は曲の歌詞だったのか。そしてしばらくの間ピアノの音色が聞こえてこなくなったのは、作曲を終えてしまったからか。
「そうか・・・作曲を。・・真姫についてはそれだけの関係なのかい?」
「・・・・実は、私が学校の音楽室でピアノを弾いていた真姫ちゃんにμ’sに入ってほしいって勧誘したことがあります。断られましたけど・・・。」
「真姫をμ’sに?」
「はい、真姫ちゃんなら可愛いし、歌もうまいからきっと人気になると思うんですけどね。」
「・・・確かにそうかもしれないな。」
「あの、もしよかったらお兄さんからも真姫ちゃんに誘ってあげてもらってもいいですか?」
「僕が真姫に?」
「はい、できますか?」
「・・・・善処してみるよ。」
少し考えてからもとりあえずあいまいにも答えてしまった。そこ答えは何となくだが答えが見えてはいるが、紳士は雄真君を演じるにはこの質問は承諾しなくてはならない。しかしその答えは穂乃果を喜ばせるには十分すぎた。
彼女は太陽かと思える明るい笑顔で感謝を述べた。
「ありがとうございます!これでμ’sもついに4人だね。」
「穂乃果、まだ入ってくれると決まったわけではありませんよ。」
「きっと、入ってくれるよ。お願いしますね。」
「はい、任されました。」
なんとスムーズすぎるとここまで流れを運んでしまうとは雄真も思っていなかったほどの結果だった。あの動画では穂乃果ちゃんがセンターを務めていた。彼女の性格が控えめではなかったので、最初のライブでリーダーがセンターという推理は当たっているだろう。となると、μ’sのリーダーさんとここまで仲が良くなれたことはなかなか好成績だと言えるだろう。しかし今も彼女の隣にいる海未さんはいまだにどことなく警戒しているような目をしている。きっとこれは彼女の家柄や性格が関係しているのだろう。こればかりはどうしようのないかな。残りのμ’sのメンバーとも親密にはなっておきたいが、どうやらここにはいないようだし、今回はあきらめるとしよう。すると、何かを思いついたかのように穂乃果ちゃんが行動に出た。きっと彼女は思いついたら行動するタイプなのだろう。一度裏に戻った彼女は手に自分のスマホをもって戻ってきた。
「これを機会にメール交換しませんか?」
「穂乃果!いきなりあったばかりの人とメール交換なんて危険すぎます。」
「大丈夫だよ海未ちゃん。真姫ちゃんのお兄さん優しそうな人だし。」
「しかし人を見た目で判断してはいけません。中身は何を考えているのかわかりませんよ。」
「海未ちゃん、お兄さんに失礼だよ。」
「あっ、すいません。」
「いやいや、君の言っていることは正論だ。確かに知り合ったばかりの相手とメール交換は危険だと僕も思うよ。」
「そっか、残念だな。」
「そのかわり、これからもここでお饅頭を買わせてもらうよ。その時に雑談代わりに情報交換する、ということでどうだい?」
「いいですね、それ!海未ちゃんもそれならいいよね?」
「ま、まあそれなら・・・」
「じゃ、決まりだね。これからはここの常連客で君たちの学校の生徒の関係者ということで。」
「はい!」
「じゃあ、手始めに、さっき頼んだお饅頭ください。」
「あっ!すっかり忘れてた!」
「穂乃果!ダメじゃないですか、お客様を待たせては!」
「あはは。焦らなくてもいいよ。」
あせあせとほむらのお饅頭を袋に入れた穂乃果はレジまで袋を持って行った。その袋ごと受け取り、会計を済ませると、二人に別れを告げて再び家に向かって歩き出した。その帰り道は前に通った時とは違い薄暗い道へと変貌していた。普段ならば不気味に感じるような場所だが考え事にふけるには好都合な場所だった。彼女たちは確かに真姫をμ’sに勧誘したと言っていた。その勧誘の話が作曲を頼んだ前なのか、それとも後なのか、そこも注目するポイントかもしれない。作曲を頼んだらその仕事をやってくれたから勧誘したのか。それとも最初は勧誘を試みたが拒否されて仕方なく作曲だけ頼んだということなのだろうか。推測だが可能性が高いのは後者だろう。もしも先に作曲を頼まれたとしたらもっと早い時期からピアノを弾いているはずだ。あいつも普段からピアノは弾いているとはいえ、毎日のように作曲に取り組んだことはない。以上のことから勧誘が先に行われたのであろう。推測での流れは、音楽室でピアノを弾いていた真姫が偶然か必然か穂乃果の目に留まった。そして穂乃果は真姫をスカウトするも真姫は拒否、それでもあきらめきれなかった穂乃果は作曲だけでもと真姫に頼んだ。その穂乃果の熱意か、暑苦しさに負けた真姫は折れて了解した、というのが大体の流れだろう。フフフ、次から次にピースがはまっていく。真姫をアイドルに勧誘だと。ふざけるんじゃない。あいつを見世物にするとはなかなか度胸があるじゃないか。君たちの行動は僕への宣戦布告と受け取らせてもらうよ。相手が女の子だろうと僕は容赦なんてしないからな。存在だけでも消し去ってやる。何よりも真姫はアイドルみたいな軽い音楽はあまり好きではなかったはず。大きな心の変化か覚悟の変化が短時間に起きない限りμ’sに加入することはないだろう。
~*~
翌日、大人しく大学での講義を受けていた。今日は大学の講義にかつてないほど集中していた気がするな。講義を受けることはこんなにも疲れることなのか。いつものように午前の講義が全て終わったので智哉とともに食堂に向かった。今日の二人のメニューはお互いにラーメンと珍しい日になっていた。窓際の席に座り、最初の一口のいただこうとすると、同じように席に座った智哉が何だか不思議そうな声で話しかけてきた。
「今日はいつになく真面目だったじゃないか。何かいいことがあったのか?」
「・・・いいことな。まあ、そういってもいいことが起こったかな。」
「・・・ふーん。君がそこまで言うとは、真姫ちゃん関連のことだろ?」
「まあ、間接的にだがな。」
「!?」
「・・・なんだよ。」
「・・いや、君が真姫ちゃん以外でいいことが起こったなんて言う日が来るとは思ってもみなかったよ。」
「お前は僕を何だと思ってるんだ。」
「シスコン馬鹿。」
「・・・・そんな当たり前みたいな顔するなよ。否定はしないけどさ。」
こいつ、僕のことをそんな風に考えていたのかと不貞腐れながらナルトにかじりついていると、再び智哉が口を開いた。
「で、何があったんだ?」
「まあ、色々な。」
「だから、その色々を聞いてるんだよ。」
「い、色々は色々だ。」
「・・・ふーん。」
「なんだよ。」
「女の子がらみかな?」
「なっ・・・」
「正解かな。」
「・・・そうですよ。昨日まあまあ可愛い女の子二人と出会いました。」
「ふーん、音ノ木坂の子?」
「なんでわかった?」
「何年の付き合いだと思ってるんだよ。君のことなら大概のことは予想が付くよ。」
「・・・プライバシーの侵害。」
「好きでこんな能力得たわけじゃないよ。だけど、ただでさえ何を考えているのかわからない親友のことが知れることはいいことだと僕は思うよ。」
「・・・いくぞ、午後の講義に遅れる。」
そういって立ち上がった雄真はラーメンが入っていたお皿が乗ったお盆を持ち返却口へと向かった。歩いていく雄真の背中をしばらく見ていた智哉は自分の腕につけているうで時計に目をやった。
「まだ30分以上間があるのに。」
~*~
大学の講義を終えた雄真は、いつもならすぐさま家に帰るのだが、今日ばかりはそういう訳にもいかず、大学の図書館で同期の友人数人(智哉は含まない)の論文作成を手伝うことになってしまった。彼彼女らとはとくに話すことが多いとはいいがたいが、全く話さないという仲でもなく、今日の午後の講義が終わった瞬間に雄真と智哉は手伝ってほしいと頼まれた。雄真は忙しいと断ろうと思ったが後ろから智哉の殺気を放つような視線を送られてやむなく引き受けた。そして時は流れて講義終了から1時間ほど経過して、雄真の集中力は切れてしまい、自主スペースの下の階にある図書スペースから適当な本を持ってきていた。一気に何冊か持ってきたが、正直何を持ってきたか覚えていない。そんな本の中には和菓子に関する本も置いてあった。昨日のこともあるし今はこの本でも読んでおこうかな。
和菓子の本の中身は誕生からの歴史や、家庭で作るときのコツ、有名な和菓子店など色々乗っていた。どうやらこの本はこのあたり周辺のことが多く書いてあり、穂乃果の家のことの少しだが書いてあった。彼女の家は古くからある和菓子屋らしい。だからなんとなく古い、基伝統を感じたのか。今まで色々な本を読み漁って様々な知識は蓄えてきたはずだが、まだまだ僕も無知だったということか。
「あの、西木野君。これであってるかな?」
「んー? ・・あってるよ。」
「ありがと。」
雄真に一人の同期の女子がある質問をしてきたが、軽く確認してまた読書に戻った。その様子を横目で見ていた智哉は、もう少しかまってやれよ、と言いたいかのような目で見てきたが、そんなことは読書中の雄真の頭には入ってこなかった。さっきまで読んでいた本がひと段落したのでさらに次の本へと手を伸ばした。その本は考古学に関するものがまとめられたものだった。その本の中には知り合いの学者のことも乗ってあった。そういえば昔、この学者の子供と遊んだことがあったな。あの時は確か高校一年生だったか。ただ、そのころの僕は結構な中二病をしていて遊んでいた子に色々と中二病の知識を与えていたっけな。あれは思い返すと結構な黒歴史だな。
~*~
手伝った感覚はあまりないが友人たちの論文も無事に完成した。自主スペースにもってきていた本数冊を元あった場所に返して図書館から外に出ると、辺り一面夕日に照らされて真っ赤に燃えているようだった。そんな炎が広がっているような中をカバンをもって大学を後にした。智哉と別れた後、雄真は和菓子やほむらに向かって足を運んだ。目的の場所の数メートル前に着いた頃には夕日も沈んでしまい、すっかり真っ暗になってしまった。昨日ここから帰ったくらいの時間にほむらに着くと、まだほむらは明るく照らされていた。どうやらまだ営業中のようだ。どうせ中では穂乃果ちゃんは落ち込んでいるのではないだろうか。今日も真姫に勧誘するもあっさり断られただろうな。真姫のことだ、アイドルには興味ないとか言って断っただろう。などと考えてながら中に入ると、そこには昨日のように真姫の通っている高校のスクールアイドルのリーダーさんが立っていた。
「いらっしゃ・・雄真さん! ありがとうございます!」
「・・・何が?」
「何ってとぼけないでくださいよ。真姫ちゃんの説得。」
何を言っているのだろうかこの子は。僕の予想をはるかに超えるほど真姫に盛大に断られてショックを受けて現実が見れていないのだろうか。そうか、それは大変だな。こう見えて僕は医学部だから見てあげようか。そんなことを考えているも穂乃果は今まで以上の笑顔を向けられた。
「真姫ちゃん、μ’sに加入してくれたんです!」
「・・・・・は?」
さあ、本日は12月31日。ついに一年も終わり。この年が過ぎれば遂に高校受験か。そして中学は卒業。さてどうなることやら。勉強もしないとなー、無事に受かったら高校一年生か。はあ、まきりんぱな、よしまるルビィと同い年・・・・。うれしいような、はかないような・・・。
読んでいただいた皆様に神々の祝福があらんことを