「真姫ちゃん、μ’sに加入してくれたんです!」
「・・・・・は?」
穂乃果の一言に雄真は硬直してしまっていた。しかしどんなに外が止まっていようとも天才ともいえる彼の頭脳はフル回転していた。
ありえないありえないありえない!真姫が勧誘を承諾しただと。そんなこと天変地異でも起こらない限りないと思っていたのに。まさか、脅迫?真姫の大事なものを取られたとかか。いや、それ以外の可能性もあり得る。じゃあどんな手を使ったんだ。もしかして暴力で要求?それか買収?いやもしかしたら・・・
外から見たらあっけにとられているようにしか見えない雄真に向かって穂乃果は心配そうな顔を向けていた。
「あの、お兄さんが説得してくれたんですよね。」
「えっ?!」
そういえばそんな約束を昨夜したような気がするな。あんな適当に言ったこと、完全に忘れていた。ここは話を合わせておいた方がいいだろうか。
「そ、そうなんだよ。」
「やっぱり、ありがとうございます!真姫ちゃん、お兄さんの言うことはには素直なんですね。」
「真姫が素直か、それはないかな。学校での真姫はどんな感じなの?」
「この前勧誘した時は『お断りしますっ!』とか『イミワカンナイッ!』とか言われました。」
「あはは、真姫らしいな。」
「お兄さんはこんなに優しそうなのに・・」
「そんなことないよ。内心何考えているかわからないよ。」
ほんと、内心では真姫に手を出したやつら全員ミンチにしてやろうかと考えてるよ。このことはいくら智哉でも予想はつかないだろうな。目の前にいるこんなにも優しそうな大学生が心の中で自分のことを痛めつけているなんて君には考えもつかないだろうな。しかし、その部活に真姫が入ったということは穂乃果ちゃんは真姫の先輩にあたるわけか。だったらとことん利用させてもらおうかな。
「あの穂乃果ちゃん、頼みがあるんだけど。」
「何ですか?」
「これからも真姫の様子とか教えてほしいだけど、いいかな?」
「いいですよ!じゃあ連絡先交換しましょう!」
「いいよ。じゃあ、これ僕のアドレス。ああ、それとこのことは真姫には内緒にしてもらってもいいかな。」
「いいですけど、何でですか?」
「スパイみたいってことと、真姫が知ったら面倒なことになりそうだから。」
「確かに、真姫ちゃんですからね。」
「あはは、我ながら面倒な妹を持つと苦労するよ。」
そんな面倒な妹に手を出したやつにはさらに面倒な兄から制裁を受けるがな。君の一人になるだろうが、今は大事は情報網として生かしておいてやろう。
~*~
饅頭と穂乃果の連絡先、学校での真姫の情報網といった思わぬ成果をあげた雄真はカバンを片手に帰路を歩いていた。今回何よりも大きい成果と言えるのは、真姫がμ’sい入ったということだろう。こんな事予想もしていなかった。何がどうなっているのか。真姫に何か心境の変化が起こったのか。もしこの勧誘が自分の意志でないものだったとしたら、帰ってから悲しいことに僕ではないが、父か母に相談するのではないだろうか。もし真姫が口止めされているとしたら真っ先にピアノに向かうはずだ。その音色を聞けば何を考えているのかくらいはわかる。すべての答えは家に帰ればわかるはずだ。残念なことに、妹に関すること以外にはフル回転しない雄真の頭脳はこれまでで最大と言っていいほどの回転数をしていただろう。
家に帰ると、真っ先に自室に戻った雄真は壁越しに聞き耳を立てると、隣りの真姫の部屋から聞こえてくるピアノの音色に耳を澄ませた。その音色は恐怖に負けているという悲しいものではなく、何か試練を乗り越えたというようなすがすがしいともいえる音だった。察するにどうやら脅迫ではないようだ。つまり、μ’sへの加入は、自分の意志だと言いたいのか。真姫が自分から何かをやりたいなんて言ったのはずっと昔に聞いたのが最後だったか。真姫がやりたいことなら兄の仕事はそのやりたいことを見守ること、部外者は見守ることしか出来ないのだ。だったらここからは少し個人的なおせっかいだ。
部屋を出た雄真はほむらのまんじゅうをもって父がいるであろう書斎に向かった。部屋の扉は閉ざされていて、中の様子はよく見えない。しかし夕食後の父は大体ここにいるが週間のようになっている。その自信とともに書斎の扉にノックをした。
「失礼します。お父様。」
「雄真か、こんな時に何の用だ。」
「少し、お時間よろしいでしょうか?」
父は自分のテーブルの上を片付けると立ち上がり、使用人に声をかけると、雄真に背を向けながら自室に戻っていった。
「談話室で待っていろ。その手に持っているものはその話の本題か?」
「いえ、これは話のつまみみたいなもので、地元の和菓子です。」
「ほう・・。」
父は再び使用人に顔を向けた。
「後で談話室に和菓子に会うお茶を持ってきてくれ。」
自室に戻る父の背中を見つめている雄真だったが、パソコンも持ってきていた方がいいかと思い自室に戻っていった。
~*~
パソコンをもって自室から戻ると、ちょうど隣の部屋から真姫が出てきた。今回ばかりは仕組みではなく、本当に偶然だった。
「お兄ちゃん、どこ行くの?お風呂だったら私先に入りたいんだけど・・・」
「ああ、違う違う。父さんとちょっと雑談してくる。」
「パパと?何話すの?」
「うーん、世間話とかかな。」
「何よそれ。」
真姫はそのまま背を向ける階段へ向かおうとした。階段に向けて歩いていく真姫は足取りも、表情もどことなく楽しそうなで嬉しそうにも見えた。
「何だか、ご機嫌だな。何かいいことでもあったのか?」
「べ、別にそんなことないわよ。」
真姫の顔はどこか晴れ晴れとしたものだった。真姫からしたらこの家の人は誰も自分がスクールアイドルに加入したなんて誰も知らないと思っているだろうが、今さっきまで君の目の前にいた兄はそのこと知っているのだよ。君の加入したチームのリーダーさんからちゃんと聞いたからな。そのことについて父と話してくるんだよ。君がお風呂に入っている間にな。せいぜい余韻に浸っているといい。
いままでは真姫がμ’sい入ったことに反対的な気持ちを持っていた雄真だったがどこか楽しそうな真姫の表情を見ていると、今の自分の意見が正しいのかわからなくなってきてしまった。もしも今父にこのことを言って止められたら、それは真姫のやりたいことを止めることになるのかな。自分は真姫のやりたいことを抑制していいのだろうか。でもそれは昔、両親が真姫を医者にしようと強制したときと同じなのでなないだろうか。今の自分は正しいことをしようとしているのだろうか。僕は、真姫を助けたい。だけど、今自分がしようとすることは真姫を助けようとしているのだろうか。それとも、・・・。不安が生まれた心を捨て去るかのように談話室に向かった。
十数分すると部屋のドアが開いた。そこにはいつものように無表情に近い顔の父が立っていた。そのまま父は雄真の目の前のソファに腰掛けた。すると再び部屋のドアが開いた。そこには使用人が一人、お盆をもって立っていた。そのままお盆に乗っていたカップを雄真と父の前に置いた。そこには抹茶と緑茶がブレンドされたお茶が入っていた。父はテーブルの上に置かれたほむらの和菓子を一つ口の放り込むと、話を切り出した。
「それで、話とはなんだ。まさか今更医者になりたくないとでも言いだすのか?」
その言葉は父の視線と同じで突きつけるよう雄真に向けられた。そこまでして後継者を逃したくないのだろうか。雄真は微笑すると返事を返した。
「そんな今あらなことしませんよ。せっかく医学部の大学にも入ったのですから。」
「ふむ、ならば安心して聞けるというものだ。それで、何の話だ?留学なら資金の問題は・・・」
父の言葉が続く前に雄真は素早くパソコンにタイピングをして父の言葉を遮った。そしてその検索で出たページを開くと、パソコンの画面を向けた。父はパソコンに開かれた画面に目を凝らした。
「音ノ木坂学院のサイト? 真姫に何かあったのか?」
雄真は画面を父に向けたままコードをつなげずに使えるワイヤレスのマウスを駆使して画面を見ずにスクールアイドルのページを開いた。
「このチャラチャラした部活はなんだ?」
「スクールアイドル。最近有名になってきている部活動です。」
「その部活がどうした?」
思った通りの質問を返してきた。きっとこの質問に真姫が入部したと答えると父は否応でも真姫を退部させようとするだろう。その時部屋を出たときに偶然出くわした真姫の表情がよみがえった。あの時の真姫はここ数年で一番楽しそうな顔をしていた。これで答えたら真姫のあの表情は二度と見られなくなってしまうのかもしれない。でもアイドルなんて何が起こるかわからない。それも女子高校生ともなればR指定の漫画みたいな展開だって確率がないわけではない。自分が周りの危なそうなやつらを滅多切りにしたらいい話なのかもしれないが、それは僕に疲労がたまる。それならば根本的に真姫が入らなかったらいい話だ。しかしその行動は兄として正しいのだろうか。でも妹の安否が今の僕には一番大事だ。しかしそれと同じくらい真姫の喜ぶことは守ってあげたい気持ちがある。いやしかし・・・。
「どうした雄真、私には言えないことだったのか?」
「・・・国立音ノ木坂女学院高校のスクールアイドルに真姫が加入しました。」
「確かな情報なのか?」
「はい・・このグループ、μ’sと言うらしいのですが、そのμ’sのリーダーから直接聞きました。ちなみにその饅頭はそのリーダーの家の和菓子です。」
「ほう。」
父は今自分が半分ほど食べている和菓子に目をやった。すると再び父はパソコンに目を向けた。そのまましばらくサイトを下にスクロールすると画面にメンバー紹介と書かれた欄があった。そこには今は6人の名前が並べられいた。一番目には穂乃果の名前が、二番目には、穂乃果から聞いたことのあるだけのことりという名前の少女が、3番目には一度だけ会ったことのある海未の名前が、そして4番目には西木野真姫と、妹の名前がしっかりと書かれていた。5番目と6番目には星空凛と小泉花陽というまだあったことのない少女たちの名前が書かれていた。それを見た途端、父の目つきが変わった。
「確かなようだな。・・・雄真、この部活の主な活動内容はなんだ?」
「主に普通のアイドルのように歌い踊る、彼女たちはいわゆる学校の顔のような存在です。」
「学校の顔、か。普通ならば名誉なことなのだがな。このような形ではあまりいい解釈はできそうにないな。医学の道にこんなチャラい音楽は必要ない。音楽はピアノだけで十分だ。」
父はパソコンから視線を外すと眼鏡越しに雄真を見ていった。
「雄真、お前に頼みがある。私は明日から再び出張に行くことになっている。私が家にいない間に真姫の足かせを取り除け。」
「足かせ、ですか?」
「ああ、具体的に言うとこの部活から真姫を退部させろ。期間は私が出張に出ている間だ。医学に関係のないものは速やかに取り除くのだ。」
皆さんは音楽って何か聞きますか?僕は数学の問題を解くときにアップテンポな曲をよく聞きます。例だと赤髮のともさんのダイヤモンドや、佐香智久さんのキラキラとかですかね。まあ、国語をしている時に聞いたら全く問題が頭に入ってこないのですがね。音楽というのは受験前の学生には少しの心の癒しになってくれるのですよ。
読んでいただいた皆様に神々の祝福があらんことを