三毛猫の導きのままに   作:EIMZ

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なぜ今ラブライブ!サンシャイン!!ではなくラブライブ!から書いているのか、という疑問を持つ方もいるかもしれません。僕も少し思います。ですが見ていただければ幸いです。


夏Ⅰー ⓪

人間とは忘れていく生き物だ。どこかの偉い人がそんなことを言っていた。確かに僕たち人間は気づかないうちに色々なことを忘れていってしまう。例えば自分が幼稚園か小学校低学年ころ、よく遊んだもの、好きだったお菓子、見えていた景色などを覚えている人はいるだろうか。瞬時に記憶から出てこなくても、しばらく考えれば見えてくるかもしれない。しかしどんなに思い出しても、どこかに記憶がぼやけてしまう部分があるはずだ。もしかしたら映像記憶といった特殊な記憶力を持った人もいるかもしれない。しかし僕はそんな力は持っていない。持っていないにもかかわらず、鮮明に覚えている一つの記憶がある。その記憶は昔父に連れられ、東京の道場に行った時のことだった。そこの道場は父の知り合いが運営している道場だそうだ。別に道場が珍しいから覚えていたわけではない。自分も道場の生まれだし、他にも色々な道場に行ったことがあるからさほど珍しくもないし。ではなぜ覚えていたのか、そんな疑問が浮かんでくる。その記憶の内容も大したものではない。自分が死にそうな目にあったわけでもなければ、神秘的な現象を目にしたわけでもない。もっと何気ないようだが、いつまでも覚えていられるような、そんな記憶だ。その記憶の内容は、父と一緒に行った道場で過ごした夏休みの思い出。その道場には父の知り合いのおじさんとその奥さん、そして僕と同い年の女の子がいた。その女の子は僕たちが道場に来た初日、確か8月1日だったと思う。玄関で僕たちをおじさんの家族たちがお出迎えしてくれた。しかし少女は母の後ろに隠れて顔だけこちらに向けているような状況だった。よっぽどの人見知りなのだろう。まあ、僕も父の後ろに隠れていたから同じようなものだが。その後8月いっぱいは東京で過ごしていた。その東京で過ごした間に何人か友達もできていたような記憶があるがここは思い出せない。ただ、東京にいる間に少女と話した記憶はなかった。そして8月も終わりを告げようとしていた30日、来た時と同じように玄関に全員が集合した。父が玄関を出ようとしたときのことだった。夏中会話をすることもなかった少女がおばさんの後ろから出てきて、そのまま帰ろうとしていた僕の方を見てきた。当時は何か悪いことをしたのだろうかと本気で悩んだものだ。しかし少女は、怒っているような様子もなく、小さく口を開いた。

 

「・・・ば・・・・・バイバイ・・」

 

それは細く今にも消えそうなほどに小さな声だった。周りの大人たちに聞こえていたのかはわからないが、僕にはしっかりと聞こえていた。少し呆然としたがすぐに返事をしようとした。しかし父が先に行ってしまい、あの子に返事が出来なかった。そのときのあの子のことだけがいつまでも頭に残っている。正直に言うとこのこと以外の夏の思い出はほとんど何も覚えていない。ただこの瞬間、この一瞬だけは6年たった今も覚えている。

ただそれ以外はわからないのだ。あの子の名前も、あの場所も。あの夏以来東京にもいっていない。あの子に聞こえるわけでもないのに一人の部屋でぼそりとつぶやいた。

 

「・・・君は、誰なんだい?」

 

中学生に上がって最初の夏、誰かと遊びに行くわけでも、剣術の練習をするわけでもなく、ただ自室で物思いにふけっていた。夏休みの宿題もすでに終えてしまい、暇を持て余していた。

 僕、成神零夜は今年も夏はこうして過ぎていくのだと思っていた。何もなく、適当に日々が過ぎていくのだと。ずっと昔から続くこの道場に三男として生まれ、幼いころからありとあらゆる教育を受けてきたにもかかわらず、何もない日々が過ぎていくのだと。

そんな夏のある日、急に父に呼び出された。こういう時は毎回、いいことは起こらない。この前は急にうちの流派の抜刀術と剣術を皆伝にするから他流の大人と真剣で勝負をしろ、負けたら切腹などと言われたもものだ。あの時は何とかなったが、正直6段からいきなり皆伝にされたときは驚いた。いや驚きを超えて呆れを少しあった。父は兄二人には優しいくせに僕にはどこか無理をさせてくる気がする。どうせ今回も僕にしかデメリットがないようなことだろう。はあ、もうやだ。

渋々父の部屋のふすまを開けた。

 

「お呼びでしょうか、お父様」

「零夜か・・・」

 

父はふすまに背を向けていたが、僕が入ってくるとこちらに振り向いた。

 

「零夜よ、お前には8月31日まで私の知り合いのもとに行って、向こうの流派の研修に行ってきてもらう」

「・・・お兄様たちではなくなぜ僕なのでしょうか?」

「それは、お前は小さいころにそこに行ったことがあるからだ」

「小さいころと言いますと?」

「園田だ。東京の。行っただろ、お前が6歳くらいの頃の夏に」

 

園田・・・。そういえばあの記憶の場所もそんな前だったような気がする。

 

「・・・わかりました。しかし問題があります。先方への行き方を覚えていません」

「それなら問題ない。昨日のうちに新幹線の切符を買っておいた。あと新しいケータイだ。そのケータイの中に東京駅から園田のところまでに地図が記録されている」

 

父にしては用意周到だな。ここまで進められていると何か裏があるように思えてきてしまう。父から渡されたチケットを見ると新幹線は明日出発だと書いてあった。急すぎる、流派の研修ということは道具を一式もっていかなくてはならない。

 

「ああ、そうそう。道具は先に送っておいた。向こうで泊まることになるだろうから自分の着替えとかは自分で持っていけ」

 

本当に今回は用意周到過ぎる。怪しいくらいだ。しかしこんな機会でもなければ記憶の中のあの子にも会えないだろう。明日、あの子と再会する。今までの退屈な夏が嘘のような軽い足取りで父の部屋を後にした。




誰にでも思い出せない記憶というものが存在しますよね。忘れたいのに忘れられない記憶、どうしても思い出したいのに思い出せない記憶、様々なものが存在します。僕はガチャで爆死したことをさっさと忘れたいです。

読んでいただいた皆様に神々の祝福があらんことを
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