三毛猫の導きのままに   作:EIMZ

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夏Ⅰー ①

「そびえたつビル・・・道行くサラリーマンたち・・・見慣れない景色・・・電池の切れたスマホ・・・」

 

現在僕はどう考えても絶望的な状況に陥っていた。

 

「ここ、どこ・・?」

 

僕は迷子になっていた。意気揚々と家を出て、新幹線に乗って東京駅に着いたところまでは順調だった。いや、問題は新幹線の中から始まっていた。新幹線に乗ってから、妙に不安が込め上げてきてしまって、ずっとスマホに搭載された地図機能を使っていたら、いつの間にか電池の残量が40%にまでさだがっていた。その後もそのことに気づかずにスマホを触っていると、突然画面が真っ暗になってしまった。気が付いた時にはもう遅く、もう一度電源ボタンを押しても画面の下に赤い充電器のマークが現れるだけだった。新幹線の駅を降りてからはスマホを見ていた時の記憶をたどり電車に乗り変え、目的の駅までは来れたのだが、ここからの道をどうしても思い出せない。しばらく駅周辺を歩いていたら昔の記憶を思い出すかと思い、駅を中心にして周辺を歩いていたはずなのだが、見事に迷子になってしまった。駅への帰り道もわからなくなってしまい、どうしようかと悩んでいるところだった。

 

「さて、どうしたものか・・・」

 

通り過ぎる人に聞くという手もあるが、さっきからこの道を通るのはサラリーマンか高校生が多い。サラリーマンは僕になど目もくれず、そそくさと通り過ぎていく。男子高校生の多くは耳にイヤホンをしていて聞くに聞けなかった。あとは女子高生らしき人たちも通ったが、異性の、それも顔も知らない人に話しかけるなんていう高度な技、僕は気が引けてしまう。まったく、こういう時に内気な自分が嫌になる。ああ、誰か勇気を僕に下さい。

この後、誰にも聞けずしばらく一人でさまよっていた。さまよい続けること1時間、僕は神社についた。ここはなんとなく昔来たことがあるような気がする。もしかしたら前に来た時に、こっちでできた友達と一緒に遊んだのかもしれない。少しだけ昔の記憶が復元されたような気がした。

神社を後にした僕は、30分ほど歩いた。慣れない場所、しかも今日は晴天で現在は丁度午後1時。一番熱い時間帯になっていた。そろそろ僕も体力の限界を迎えようとしていた。どこかで休憩できそうな場所はないかと探していると、公園が見えた。少し公園で休憩しようと思って、公園に向かってもう一度歩き出した。公園の中に入ると、誰の姿も見当たらなかった。公園の端にあるベンチに向かおうとしたとき、ふと公園の中でひときわ大きな木の下に置かれたダンボールが目に入った。何かに吸い寄せられるかのようにダンボールに近づいた。ダンボールの中には、一匹の三毛猫の子どもが入っていた。

 

「にー。」

 

三毛猫はダンボールをのぞき込んでいる僕を見ながら小さく鳴いた。公園の木の下に置かれたダンボールには、拾ってくださいと書かれた紙も同封されていた。どうやらこの三毛猫は捨て猫のようだ。僕は捨て猫を持ち上げた。

 

「こんにちは。君はこのあたりに詳しいかい?」

 

暑さでもうろうとしていたのか他に頼る手段もなく猫の手も借りたほど困っていたのかわからないが、子猫に問いかけた。すると子猫は、

 

「にー」

 

ともう一度僕の方を見ながら鳴いた。この子猫の返事をYESと受け取ったのか、もう一度子猫に問いかけた。

 

「ここの近くにあるであろう園田っていう道場に行きたいんだけど道わかるかい?」

 

子猫が僕の返事を聞いて交番のおまわりさん顔負けの道案内をしてくれるわけでもないのに、どうして聞いたのか、自分でも疑問に思っていた。

 

「にー」

 

子猫は僕の質問に答えるように又も鳴いた。まったく何をしているんだろうな、僕は。こんなところで子猫と遊んでいる場合じゃないのに。こうなったら近くの交番かさっきの神社で聞くしかないのかな。気のせいか、この子猫を見ているとさっきまで少し暑さでやられて体がだるかったが、今は少し楽になっていた。これがアニマルセラピーというやつなのだろうか。しかし今は小動物に癒しを求めている場合ではない。僕は迷子なのだから。さて、そろそろ行くか。子猫に別れを告げてまた歩き出そうと思って、子猫をダンボールに戻そうとしたとき、子猫が僕の腕をひっかいてきた。

 

「いてッ!」

 

いくら子猫とはいえども、ひっかく力はそれなりにあった。おかげで右腕から血がこぼれてきた。僕は思わず子猫を持っていた手を放してしまった。そのすきに子猫は逃げてしまった。

 

「ああ、おい!」

 

子猫はそのまま公園を飛び出してしまった。子猫がどこに向かっているのかも何のためにいきなり走り出したのか考えるのはあとにして今はあの子猫を追いかけなくては。

子猫は公園を飛び出した後、曲がり角を3回曲がり、坂を下っていき、しばらく走ったままだったが、5分ほど走ったら急に走るのをやめた。僕は子猫の後ろをついていくので精一杯だった。あの子猫、まだ小さいのにこんなに早く走れるとは、全く予想もしていなかった。息切れしながら子猫が止まった先を見ると、一匹のアゲハチョウが舞っていた。そしてそのアゲハチョウの先には、青みがかった黒髪を腰まで伸ばした一人の少女が立っていた。

 

「あら?アゲハチョウが飛んできたらと思ったら子猫まで走ってくるなんて珍しいものですね。」

 

少女はしゃがんで自分の目の前に走ってきた子猫を眺めた。その姿は美しく、凛とした一凛の花のようだった。すると少女は後からやってきた僕の存在に気が付いたのか、不思議な表情を浮かべながらこちらを見てきた。しかしその表情はどこか懐かしいものを見るかのようにも見えた。

 

「あら?あなたは?」

 

僕には確信があった。この子はあの時の、6年前のあの子だと。理由とか証拠になるようなものはないけれど、直感的にこの子があの少女だと悟った。

 

「初めまして・・・いや、お久しぶりです、なのかな?成神零夜と言います。」

「成神?もしかして今日からうちに来る予定の方ですか?」

「うち、ということは君が・・・」

「はい。私は園田道場のもので、園田海未と言います。お久しぶりですね、成神さん。」

 

やはり彼女は6年前のあの子だったのか。6年前の面影がなんとなく残っているからそうだと思ったよ。あの時から髪の長さも、瞳の色も、声も変わってない。しかしここで一つの疑問が浮かんだ。

 

「あの・・・園田さん。どうしてここに君がいるんですか?」

 

僕は腕をひっかき逃げていった子猫を追いかけてここまで来た。ではなぜ子猫が追いかけていった先に彼女がいたのか、ずっと不思議に思っていた。しかし僕がこの状況に疑問を持っていることと同じように僕の質問を聞いた途端、彼女にも疑問が生まれた。

 

「どうしてって、ここは私の家の前ですよ。」

「えっ?!」

 

彼女は自分の右側を指さした。彼女の指の先に目をやるとそこには立派な和風建築の建物が建っていた。どこか懐かしいようで、自分が住んでいる家に似ているような不思議な感覚に包まれた。まさか子猫を追いかけていったらその先に目的地があったなんて、まるで奇跡が起きたようだった。今の状況に頭が驚きと疑問でいっぱいになっていると、足元から子猫の声が聞こえた。

 

「にー」

 

子猫は今まで園田さんの方を向いていたが、今は僕の方を向いて見上げている。まるで案内してやった、感謝しろとでも言いたげな顔をしていた。このとき僕の頭に数分前の発言がよぎった。

『ここの近くにあるであろう園田っていう道場に行きたいんだけど道わかるかい?』

まさか本当にこの子猫が僕を案内してくれたのだろうか。だとしたらこの子猫は人間の言葉が理解できたうえにこのあたりの土地感もあるということになる。不思議に思いながらも膝とついて子猫の頭の撫でた。ありがとう、という感謝の意味を込めて。

そんな僕たちの様子を見ていた園田さんが話しかけてきた。

 

「その猫、成神さんの猫ですか?」

 

園田さんは膝に手を当てて中腰になり、僕と子猫を見下ろす体勢で問いかけてきた。

 

「いえ、詳しい話をすると長くなるのですが、要約すると途中の公園で拾ったということになります。」

「まあ、そうなんですか。ではその猫は捨て猫さんなんですね。」

「はい。こいつが入っていた箱の中に、拾ってくださいという紙も置いてありましたし多分そうです。」

 

ここまで知能が高いかもしれない子猫を捨てるなんて、とんだ馬鹿者がいたものだ。すると園田さんもさっき僕がしたことと同様に子猫の頭を撫でた。

 

「あなたも大変だったのですね。」

 

そういいながら子猫を撫でる彼女は柔らかく微笑んでいた。すると今度は僕の方へと顔を向けた。

 

「さあ、ここで話をしていては暑さで倒れてしまいます。まずは家に上がってください。その子も一緒に。お父様たちが待っていますよ。」

 

園田さんに案内されるように僕は子猫を抱えながら、今年の夏を過ごすことになる、園田道場へと入っていった。

 




皆さんは忘れられない夏ってありますか?僕は中三の夏ですかね。ずっと一緒だった友達が急に転校しちゃったんですよ。
あとは沖縄に行ったときですね。ルードビアは二度と飲まないと心に決めた夏でした。
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