「成神流抜刀術皆伝、成神零夜。推して参る!」
東京に来てから初日、叔父相手に抜刀術の勝負をすることになった。たとえ公式ではなくてもお互いの家の流派をせよっての勝負となる。つまり相手が誰であろうと、負けるわけにはいけないのだ。
結果は、零夜の圧倒的不利だった。零夜の初撃は軽々と紙一重でかわされてしまい、続いての攻撃も、さらにその次の攻撃も、斬撃も、連続切りも全てかわされてしまった。続いての攻撃を繰り出すと、叔父はかわすと同時に足を引っかけてきて、勢い余った零夜はつまずいてこけてしまった。そして叔父はあたかも余裕とでも言いたげに見下すと、抜刀した。
「こんなものか成神。情けないな。次は私の番だ。」
叔父は剣を零夜の頭上に木刀を構えると、一気に振り下ろした。零夜はその一撃を間一髪でかわすと、右に転がった。しかし叔父の攻撃はまだ止まず、零夜の首を狙ってもう一度剣を放った。しかし今度はよけることが出来そうになかったので、剣の柄と刀に手を当てて叔父の攻撃を防いだ。しかし叔父の斬撃の威力は零夜の斬撃の威力をはるかに上回る強さで抑えていた手にも反動を受けてしまい、斬撃を防いだ直後は手がしびれてしまっていた。しかし叔父は零夜の手がしびれていることなど気にせずさらに次の斬撃を放った。右から、左から、後ろから、下から、時には零夜が使っている剣をつかんだ叔父が、つかんだ剣を奪い取り零夜に向けて二刀流で切り掛かってくるなど、零夜は変幻自在の剣舞に翻弄されてしまった。そして翻弄され、体力を消耗しすぎて限界に近づいた零夜は立っているのでやっとになってしまった。それに比べ叔父はまだまだ余裕な太刀筋で剣を構えていた。
「斬撃は弱く、一定の攻撃方法、太刀筋はぶれる。本当にそれで皆伝なのか。成神流も落ちるところまで落ちたな。」
叔父は見下すように立ったまま、下等生物を見るかのような目で零夜を見ていた。その顔には表情が存在せず、ただただ零夜のことを見つめていた。それ以上に叔父はまだ本気を出していない。そのことが零夜にとって腹立たしく感じていた。
「こんなのもでは到底この夏いっぱいうちに置いておくことなどできないな。」
「!?」
そこにさらにかけられた叔父の一言に零夜が驚きを隠せないでいると、叔父はあたかも当たり前だとでも言うような目で見降ろした。
「なんだその目は?まさか力もないのにここにいられるよでも思ったのか?甘えるな、君の家がどうだったかは知らないがここは違う。弱いものはすぐにでも帰ってもらうぞ。」
そんな、やっと海未さんにも会えたのに。明日は案内している約束もしたのにこんなところで終わってしまうのか。そんないやだ、せっかく来た東京、やっと再開できた初恋の人。離れてしまうとまた彼女たちのことを忘れてしまうかもしれない。そんな考えが頭に浮かんだ時、しびれて立とうとすることも拒否していた足に力が入った。体の奥底から、まだやれ、忘れたくなければ今は戦うしかない。立って敵を切れ、という思いがあふれてきた。そうだ僕は元から叔父に勝つつもりで挑んだじゃないか、2,3個勝つ理由が増えたってやることは同じだ。ただ、切ればいい。相手の肉からあふれ出る赤く滴る血が枯れるまで切り落とせばいいんだ。木刀を杖代わりにしてゆっくりと立ち上がると、殺気がこもったともいえる目で叔父を睨んだ。杖代わりの木刀をもう一度構えると、視界が狭まった中で叔父を睨みつけたまま口を開いた。
「だったら・・・尚更、負けるわけにはいきませんね。」
零夜が剣を再び構えた姿を見た叔父は、その行動に答えるように今までの力を抜いているような太刀筋から一転し、剣先に力をこめるような型を取った。
「・・・ほう。そこまで言うならやってみるといい。」
叔父の構えを見届けた零夜はゆっくりと足を交互に動かし横移動をした。叔父も零夜の移動とともに体を動かし木刀の柄を常に零夜に向けていた。その体制が数分続いた直後、先に行動をとったのは零夜だった。零夜は5ステップで叔父の横に回り込むと、その勢いのまま抜刀した。しかしこの斬撃は叔父に紙一重で止められた。今度は叔父の防御の反動で勢いのまま後ろに下がると少し後ろにあった壁を蹴って、叔父の頭上から斬撃を放った。今度の斬撃を防御できないと判断した叔父は横にかわした。そして零夜は地面に着地するとともにさらにもう一度斬撃を放った。今度も叔父は零夜の斬撃をかわそうとしたが、今度の斬撃には少し反応が遅れたため服に零夜の剣がかすった。さらに零夜の攻撃は止まらず、前後左右上下斜めと繰り返し斬撃を放った。零夜の剣舞は何度も続き、叔父が零夜の攻撃をかわすことしかできなくなり、逃げ場を失ったころには計23連攻撃となっていた。もう一度攻撃をすると、叔父の手に握られた木刀を遠くまで飛ばすと、最後に叔父の首元に木刀を当てた。
「・・・やるな。」
「・・・・」
叔父は攻撃を受けた手を抑えながら微笑み、零夜を見つめてきた。勝った・・・。そう思った瞬間、零夜に少しの油断が出来てしまった。この一瞬の油断は、零夜から剣を奪い取り反撃を始めるには叔父にとっては十分すぎる時間だった。木刀を握る力が緩んだ瞬間、下から叔父の足が伸びてきた。叔父の足は回し蹴りを繰り出してきたのだ。その蹴りで零夜の手から木刀は叔父の地面に落ちる前に叔父の手に握られてしまった。しかし零夜もすぐさま元立っていた場所から離れると、遠くに転がっていた叔父の木刀のもとへと駆け寄った。そして叔父の使っていた木刀をつかむと、すぐさま叔父への反撃を開始した。今までにない速さで抜刀し、叔父の頭に向かって切りかかった。叔父は零夜の攻撃速度に反応が遅れてしまい、頭が完全にがら空きになってしまった。勝った、と確信を持った。しかしその直後、自分自身の頭に何かが強く当てられ、切りかかろうとした瞬間、その場に倒れてしまった。意識がもうろうとするなか、視界がどんどん暗くなっていき、最後には気絶してしまった。
どこか遠くから自分を呼ぶ声がした。その声は、父のものでも亡くなった母のものでもなければ、兄や海未さん、叔父や叔母の声とも違っていた。しかしどこかで聞いたような、記憶の奥底に秘めらて記憶の中から響いてくるような、そんな声だった。その声はだんだんとはっきり聞こえるようになった。その声とともに瞼を開けると、そこは真っ白な空間だった。自分以外は何も存在せず、さっきまで聞こえていた声の主も見当たらない。この空間は何もない白の壁なのか、どのまでも続く廊下のようなものなのか、それすらもわからなかった。ここがどこなのか確かめた方がいいと思い歩き出そうとしたがどういう訳か足が動かなかった。するとまたしてもあの声が聞こえた。しかし今度は自分の名前を呼んでいた時とは違い、よりはっきりと聞こえ、自分に語り掛けてくるのだった。
「そうあわてるな。人生はまだ終わっておらんよ。」
どういう訳か声はすぐ近くから聞こえた。しかも自分の足元から。見下げると、そこには今日であったばかりだが見慣れた子猫がちょこんと座っていた。
「まさか、君がしゃべったの?」
「ああ、私と主以外にこの空間に何が存在する。」
「・・・いやそうことじゃないのだが。」
「何が違うというのだ。人間のことは何年たっても理解できんな。」
「・・・・」
この何もない空間にこの子猫がいることにも驚いたが何よりも驚いたのはこの子がしゃべったことだ。最近の猫は人間の言葉も話すようになったのか。こんな進化もあるのか、などと感心していると、子猫が話しかけてきた。
「ところで主は自分がどうなったか、覚えておるか?」
子猫の問いかけを聞いた零夜は自分の額に手を当てた。
「・・・確か、頭に何か強い衝撃を食らって、その後は・・・」
「覚えていないのが普通じゃ。私が説明してやろう。」
「その前にここはどこだ?そもそも君は何者?」
「おお、そうじゃった。ここは私が作り出した空間、時間が存在しない異空間じゃ。私のことを説明すると、長くなるが要点だけで言うと君の母親に仕えていたものじゃ。」
「お母様に?」
「ああ、私は君たちの言葉で言い表すと式神というやつじゃな。」
「式神って、昔陰陽師が使ってたとか言われている?」
「うむ。そういうやつじゃ。主の母親の家系は先祖が陰陽師でな。主の家の蔵の中から怪しい札を見つけたことくらいあるじゃろう。」
そういえば、昔兄に無理やり入れられて箱を持って帰ったら母に物凄く怒られた思い出があるな。あの箱を荒れようとしたら札が張ってあったんっだたな。あの札はもしかして封印のお札だったのだろうか。
「心当たりがあるようじゃな。これで信じてくれたかの。」
「うーん・・・いきなり信じろって言われてもなあ。」
「まあ、当然じゃな。主にこのことを伝える役目は主の母親だったのじゃが、その役目を終える前に死んでしまいおったからな。だから代わりにわっちが来たということじゃ。」
「はあ・・・・」
「いずれすべてを理解する日が来るじゃろう。それまではわっちがいてやる。では話を戻すぞ。」
「僕がどうして意識を失ったのかだよね?」
「うむ。主が倒れる直前の話じゃ。主が倒れる前相手を切りかかる前に相手からの攻撃を受けたのじゃ。その時の主は自分に対するほころびが生まれた。わっちはそのすきをついてこの世界につれこんだのじゃ。」
「でも君もあっちの世界にいたじゃないか。」
「そうじゃな。確かに若いおなごに抱かれていた。」
「・・・・」
「そんな羨ましいというような顔をするな。」
零夜が慌てて表情を変えようとすると、またしても頭に響くように声が聞こえた。今度の声は聞いたことのある声で、それは忘れられない記憶の中にも残っている声でもある。聞き間違えるはずがない。海未さんの声だ。海未の声が零夜の名前を連呼しているのを聞くと子猫は元居た場所から少し離れた場所に座った。
「わっちの力もまだ完全に力が戻ったという訳ではないようじゃな。ではまたあちらの・・・そうじゃな、夜にでも続きを話そう。ではな。」
そういうと子猫の後ろから白い光、といっても全て白色の空間だからわかりづらいが、その白い光に子猫の体が包まれると、再び零夜に頭痛が訪れた。その痛みに耐えきれなくなり、もう一度気を失った。
次に目が覚めると、そこはさっきまでの白い空間ではなく、ちゃんと色が存在し、横に木刀が転がっていた。どうやら戻ってきたようだ。だんだんと視界が慣れると、目の前に海が立っていた。いや正確には零夜が寝ている状態を海未が膝をついて見下ろしていた。
「ああ、よかった。気が付きましたか?」
「・・・はい。ってて・・・」
零夜が少し残っている痛みに額を抑えると、とっさに頭を海未が抑えた。
「大丈夫ですか?」
「はい。何とか、生きてます。」
ほっと一息を突いた海未は目線の先に立っている自分の父を見た。
「お父様も、あまり本気を出さないでください。」
「すまんすまん。本気で負けそうになったから。」
零夜は後ろから聞こえた叔父の方を向くために海未の肩を借りながらゆっくりを立った。その様子を見た叔父もすぐさま腕を差し伸べた。
「無理はするなよ。」
「はい、ありがとうございます。」
「軽い脳震盪だと思うから後で氷で冷やすといい。それと・・・合格だ。私にここまでさせたのは君の父親くらいだよ。」
「ということは・・・・」
「ここでの訓練は厳しいぞ。弱音は許さないからな。」
「はい!」
今回海未ちゃん要素が少なかった気がするな。次からはできる限り多くしていく努力をすることを検討することを善処していきたいと思います。
読んでいただいた皆様に神々の祝福があらんことを