三毛猫の導きのままに   作:EIMZ

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夏Ⅰー ④

東京に来て初日、叔父の剣術の一撃を頭にくらい脳震盪を起こしてしまい、今は横になって頭に氷を当てている。夏ということもあってか、額に当てている氷の解ける速度はいつも以上に早く、氷から溶け出した冷たい滴が顔にしたたり気持ちよく感じる。それだけ疲労で体温が上がっていたのか、それとも夏だからか、それすらも考えると少し頭が痛む。今は大人しく縁側で横になっていることが最適だろう。外からの涼しい風が肌に優しく触れては吹き抜けていく感覚を味わえた。目を閉じると、その感覚はさらに正確に感じ取れた。さっきまで木刀を握っていた手に、強く地面をけった足、首、腕、体全体は風に包まれているような気分だ。さっきまでの疲れも飛んでいきそうなほど気持ちい縁側だった。顔を傾けて庭に目をやると視界の隅に錦鯉が9,10匹泳いでいるのが見えた。あいつらもこの涼しい環境を楽しんでいるのだろうか。すると頭の方から小さな足音が聞こえた。庭から視線を戻し足音がするほうに耳を澄ますと、人のものとは思えない小さな足音だった。その足音の元凶は先ほどの試合の際に海未さんに抱かれていたり、気絶した時に現れたりした、朝拾った子猫だった。子猫は横向きに倒れている零夜の頭のすぐ横まで歩いてくると、その場に座り込んで先程の零夜と同じように庭の方を見つめ始めた。

 

「君は、ホントは喋れるの?」

「・・・・」

 

子猫は黙ったまま庭の方を見つめている。何かしゃべったり聞いたりすると、頭に響いて頭痛が起きるのだが、その頭痛をも我慢したが子猫はただ静かに庭を見つめていた。すると今度は頭の中にさっきまでの声が頭に響いてきた。

 

『こちらの世界では、わっちは話すことができないがこういう風に頭に直接語り掛けることはできる。』

 

頭に響いてきた声は、確かにあの子猫の声だった。その声は頭痛が起きている頭には少し痛みを伴って、頭に届いてくるはずなのに痛みは何一つ感じない。まるで痛みを通り越した先の部分に声が届いているようだ。痛みにこらえながらも零夜は再び口を開いた。

 

「・・・それどういう仕組みなんだ?」

『どうと聞かれても、魔術のようなものとしか言いようがないの。』

「・・・それ僕も使えたりする?」

『まあ、あいつの息子じゃし、センスがあれば使えるかの?』

「・・・センスってなんだ?」

『そうじゃな、例えばあの池には何匹鯉が見える?』

「・・・10匹?」

『ふむ・・・・。魔力の大きさは親譲りか。ならできるかもな。やり方を教えよう。発したい言葉を頭に浮かべる、そしてその言葉に魔力を乗せるようなイメージをする。イメージはメールを送るよう感じじゃ。』

『頭痛い。』

『・・・最初の言葉がそれか。』

『最初の言葉なんてそうそういいものが思いつくわけがないさ。』

『まあ、主の母の最初の言葉も同じような言葉じゃったな。』

『へー、どんなだったの?』

『おなかすいた、だったかの』

『似たような感じだな。』

 

などと意識の中での会話を進めていると、急に頭の中に声が届かなくなったかと思うと、辺りが静寂を取り戻し遠くの音までしっかりと聞こえるようになった。するとかなり遠くから再び廊下を歩く音が耳に入ってきた。今度の足音はさっきの子猫の足音とは大きさが異なり、人間が歩いてくるほどの大きさがあった。現在頭を起こすことができないため音源の方向に目を向けることができない。しかしその足音は徐々に確実に大きくなっていて、この場所に向かっていることがわかる。一歩また一歩とゆっくりとした足取りで近づいてくる人物は誰だろうか。海未さんか、叔母か叔父か、はたまたそれ以外の人物か。その正体はすぐそばの角を曲がったところで目に見えた。角を曲がる瞬間長く伸びたきれいな髪が風になびいて美しく目に映った。その髪は真っすぐ腰まで伸びいている。こんな髪を持っているのは零夜の知る限り二人しかいない。一人は叔母だが身長はもう少し高いはず。となると残りは、海未さん一人だろう。

 

「あら? 起きていらしたのですね。」

 

予想通りというか、何というか。角を曲がってきたのは両手でタオルの入った水桶を持った海未の姿が視界に入った。ゆっくりとした足取りの原因はあの水桶を持っていたからだろう。タプタプと歩くたびに小さな水滴が水桶から飛び出て見える。こぼさないように慎重に水桶を持ってくると、零夜のすぐそばに置いた。

 

「あなたもここにいたのね。」

 

海未はさっきまで零夜の頭のすぐ横で座っていた子猫は少し移動して、横になっている零夜の斜め前にちょこんと座っていた。

 

「にー。」

 

子猫は先ほどのように頭に響いてくる声では答えず、最初の時のように普通に泣いて答えた。すると海未はそんな子猫を優しくなでた。その目は自分の主人を見守っているなんて偉いですねと言っているように見えた。海未は零夜の頭のすぐ横に膝をついて正座をすると、水桶の中につけていたタオルを取り出した。

 

「痛みは治まりそうですか?」

「さっきよりは大分ましになりましたが、言葉を話すとまだ痛いです・・・イテテ・・・。」

「あまり無理はなさらないでください。私はあなたが苦しむ姿はあまり見たくありませんから。」

 

海未が口にしたその言葉の意味を聞こうとするが、今までで一番の大きさの頭痛に襲われて起き上がることもままならなかった。その様子を見た海未は零夜の額に自分の手を当てた。彼女の手はさっきまで水桶の中に入っていたタオルを触っていたからひんやりと冷たく、その白い肌と合わさって冬の雪のようだだった。零夜の頭痛が引いていくのを引届けると、海未は大半が解けてしまった氷に変わって濡れたタオルを零夜の額に当てた。そのタオルはさっきまでの氷とは違い表面積が大きいため零夜の目まで覆いかぶさっていた。そのせいで自分を見下ろす海未の姿も見えなくなってしまったが、確かに彼女が自分を見つめているような気がした。何も見えないのになぜそのことだけはわかるのだろう、と不思議に思っていると、自分の頭が誰か、自分ではない他者の力によって持ち上げられた。その瞬間、再び頭に頭痛が訪れたがそのわら痛みを和らげるかのように柔らかい何かの上に頭が置かれた。自分が頭が置かれた何かはかすかに熱を持っていて、今まで冷たさだけ感じていた頭にはその温かさが気持いいほどに心地よく、眠気を誘ってきた。その眠気の効果は縁側の子の環境だけでもなかなかのものだったにもかかわらず、そんな状態にさらにこんなものが追加されるとなると瞼がより一層重くなってしまう。ここまでの眠気を誘ってくる何かの正体を突き止めようと思ってもタオルのせいで視界は真っ暗になっていて現愛の状況の把握すらもままならない。この行動は海未の天然なのか、それともわざとなのか。今、零夜の資格は無価値になっているが、聴覚はまだ機能していて、耳に自分の真上絵から聞こえてくる海未の声が届いた。

 

「どうですか? 和らぎました?」

 

その声は優しさに満ち溢れていてるがどことなく恥じらいを含んでいたようにも聞こえたが気のせいだろう。その言葉に答えようと思って眠気を我慢しながら言った。

 

「・・・大分ましです。」

「そうですか。ならやったかいがありました。」

「・・・何がですか?」

「フフッ、秘密です。」

 

今自分がどういう状況になっているのかもわからないまま、時間だけが過ぎていき、かれこれ30分ほど経つと零夜の体調もどんどん回復し頭痛も収まってきた。この気持ちい空間にはいつまでも痛いような気もしたがそういう訳にもいかないのでゆっくりと思い頭を持ち上げようとすると、今までひたい、というよりも顔の上半分を覆っていたタオルが海未によってはがされると、閉ざされていた視界に再び光が戻ってきた。その目に見える景色は最後に見えた昼過ぎの庭の景色から少し変化して、夕暮れ時の庭になっていた。空も赤く染まり、夕日に照らされた廊下も輝いて見えていた。痛みが止んだ体で後ろを振り向くと、先ほどの廊下と同様でなのか顔が赤く染まった海未がこちらを見ていた。

 

「痛みはやみましたか?」

「ええ、おかげさまで。」

「それならよかったです。そういえばそろそろ夕食の準備ができる頃ですね。参りましょう。」

 

現在の正座をしている状態から立ち上がろうとした海未は、膝が真っすぐに伸びようとしたときに、バランスを崩してしまい勢いよく前にいる零夜の方に倒れてきた。あまりに突然のことに戸惑ってしまい零夜もろとも廊下に背を向けて倒れてしまった。

 

「おわっ!だ、大丈夫ですか?」

「は、はい。なんとか。」

「どうしたんですか、急に?」

「ちょっと足がしびれてしまって・・・」

「正座でですか?」

「い、いえ、その・・・・」

「どうしたんですか?」

「・・・な、何でもありません。さあ、居間に向かいましょう。」

 

さっさと立ち上がり零夜に背を向けて歩き出した海未の背中を不思議そうに見つめる零夜はあたりを見渡し彼女の足がしびれた原因となるものを探っていた。それよりも立ち去った海未はクッションらしきものは何一つ持っていなかった。ではさっきまで自分の頭が置かれていたものは何だったのだろうか。その答えに零夜がたどり着くことは十分なかった。

 

~*~

 

夕食を終えて、園田家に用意された零夜の部屋にいた。部屋の中には既に家から送られていた荷物が置かれていた。その中には日頃使っている道具から、何やら見たことのない怪しげな道具など色々と置かれていた。この見た子のない者たちはきっと父が送ったものだろう。なぜ送ったのかは謎だけど。しかしその送られてきた摩訶不思議なアイテムたちに子猫は興味津々な様子だった。

 

『ほう。これは珍しい品じゃの。』

 

愛用している弓の隣に壁に立てかけられた弓らしきものを前足でひっかいていた。どうやらこっちの誰かが弓と間違えてここに立てかけたのあろう。他には解読不能な文字が並べられた札が閉じられた古めかしい本、大量の黒い折り鶴、謎の木箱に入れられた木製の矢、形が定まらないスライムのような赤い物体、なんの生地なのかわからない真っ黒な着物、調味料としてよく使う塩化ナトリウム、猫じゃらし、用途が全く分からないものばかりだが父が送ってきたものなので何に使う出なくても理解が出来なくもないが、わざわざ東京まで送ってくるのだからきっと何か意味があるのだろう。あると信じたい。

 

「なあこれ、何に使うんだ。」

『何と言われると、色々としか言いようがないな。』

「この猫じゃらしも?」

『それはわっちのおもちゃじゃ。』

「・・・なんでここにあるんだよ。

『きっと昔に主の母がわっちと遊ぶ際に使っていたものだからな。』

「・・・ふーん、そうなのか。」

『どうした?』

「・・・いや、母親について自分はこんなにも無知だったのかと思ってね。」

 

 

零夜の母はずっと前に亡くなってしまっている。そのうえその死因もはっきりとは解明されていず、警察には交通事故ということで処理された。そんな母について覚えていることも少なく、母がこんな猫を連れていたかもよく覚えていない。それよりも今では母の顔すら思い出すことができない。

 

『母について知りたいか?』

「・・・」

『知りたければ今夜、わっちとともに夜の世界にくるといい。母が見ていた世界が主にも見えるじゃろう。』

「何だよそれ?」

『丑三つ時という言葉くらいは聞いたことがるじゃろう。その時間に外の世界を見に行くのじゃ。』

「それって、歩道対象にならない?」

『・・・・多分心配いらん。』

 




 少々更新が遅れました。冬休みだからと言って気を抜いていたら風邪を引いてしまいました。その間頭痛がひどく画面を見るのもしんどくて・・・。多分回復はしたので日に日に更新速度を上げていく予定を作ることを善処します。

読んでいただいた皆様に神々の祝福があらんことを
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