今日、僕たちは中学2年生に進級した。2年生にになると千歌や曜と同じクラスになった。そして現在は始業式の真っ最中だ。こういう時の話はどうしても長く聞こえてしまう。これは人間の心理的な何かなのだろうか。数人前の千歌は立ったまま寝るという高度な技を披露している。あっ、先生に叩かれた。どうやら起きたようだがまだ寝ぼけているようで、きょろきょろと周りを見渡していた。千歌、口によだれが付いてるぞ。まったく、多分この光景を曜が見えていたら同じような表情をしているだろうな。こんな風に今学期も同じように始まった。
始業式の後、僕たちはそれぞれのホームルーム教室に戻っていった。今日はこの後帰りのショートホームルームを終えたら解散となる。SHLを終えると、みんなそれぞれに帰っていった。僕たち3人は去年は校門で待ち合わせをして3人で帰るという流れだったが今日からは3人とも同じクラスなのでその必要はなさそうだな。
「綾斗君、かえろー!」
隣りの席で帰りの用意を終えた曜が僕に話しかけてきた。
「そうだな。そろそろ帰ろうか。」
「うん!千歌ちゃんかえろー!」
曜は僕に声をかけた後、千歌にも声をかけた。千歌は他の友達と会話していたが、曜に声をかけられると、友達との会話を切り上げて自分の席に戻って自分のカバンを手に取った。千歌はカバンを取ると後ろの友達に向かって手を振った。
「じゃあ、また明日ねー。」
千歌の声にクラスメイトの友達も返事をした。千歌はこういう時のコミュ力が高いな。曜も同じようにコミュ力は高い方だ。同じように育ったはずなのにどうしてここまで力に個人差が生まれるのだろう。人間は平等にできていないな。
教室を後にした僕たちは帰り道を歩いていた。両側に美少女に挟まれた形で帰っていた。昔は何も感じなかったのに、今はちょっと恥ずかしい。これも成長なのだろうか。そんなことを考えながら歩いていると、千歌が話しかけてきた。
「なんだか今日の綾斗君いつもより元気がなかった気がする。」
「そうかな?」
「綾斗君、まだ春休みの気分が抜けてなくて、まだ眠いんだって。」
反対側の隣を歩いていた曜が千歌に質問に答えた。
「そうなんだ。なんだ、綾斗君も同じか。千歌もなんだよ。さっきもまだ眠くて立ったまま寝ちゃって・・・」
「それはいつものことだろ。」
「そんなことないよ。千歌だって眠くなる日くらいたまにあるよ。」
「たまにじゃなくて、毎日の間違いじゃないのか?」
「もー!なんだか綾斗君ひどいよー!」
「まあまあ、千歌ちゃん。」
というようないつもの流れを繰り返しながら、しばらく歩くと分かれ道に着いた。
「それじゃあ、千歌はこっちだから。」
「うん、また明日ね、千歌ちゃん。」
「綾斗君もまた明日ね。」
「ああ、また明日。」
千歌は僕たちに手を振ると小走りに帰っていった。千歌が帰るのを見送ると曜がこちらを見てきた。
「私たちも帰ろうか。」
「そうだな。」
曜は僕の返事を聞くと笑顔でうなずいた。すると進行方向に目を向けた。僕にはさっきから気になっていったことがあった。それは、今日の始業式の前の出来事、曜が明日の朝の家に起こしに来るという内容だ。確かに僕たちは家が向かい同士だし、幼馴染だが朝起こしに来るなんいう王道なことをしようなんて、しかもまさか曜から言い出してくるなんてこれは期待していいのだろうか。
「なあ、曜。」
「? 何?」
「・・・いや、何でもない。」
「そう?」
そりゃあ聞けないよ。明日僕を起こしに来てくれるのかなんて聞けるわけないよ。そんな勇気が僕にあればもっと人生も楽なんだけどな。まあ人生そんなうまく出来てないってことだな。はあ、弱い人間だな僕は。
千歌と別れた後、僕たちの間に会話はなかった。僕たちが二人の時にここまで会話が少なかったのも珍しいな。沈黙のまま家の前についてしまった。曜の家の前で曜が振り返った。
「じゃあ、また明日ね、綾斗君。」
「あ、ああ、またな。曜。」
曜は別れの挨拶だけすると、家に帰っていった。僕は最後まで彼女の後姿を見ていることしかできなかった。僕も変な期待は捨てて今日はさっさと寝よう。もう新学期早々精神が疲れてしまった。
家に帰ってから、ベッドに横たわっていたが、まだ心が落ち着かなかった。もしも本当に明日の朝曜が僕を起こしに来るとしたら、僕はどんな反応をしたらいいのだろう。というかどうして僕はここまで必死に悩んでいるんだ。たかが曜だろう。ああ、もう!色々考えたら段々寝付けなくなってきたな。
考え事がさらなる考え事を読んでしまい、遂には深夜にまで到達してしまった。ここまでくると頭が回らなくなってきた。考えることをやめたくなってくる。それはまるでテスト前に勉強を詰め込んだ時のように。どうやら僕の体も睡魔には敵わないらしく、体がだるくなってきた。仕方ないもう寝よう。明日起こったら起こったらで考えよう。その場しのぎ、ケースパイケースだ。そのまま瞼を閉じると、体から力が抜けていくような気分になった。
ベッドに横になって寝ていたら、だんだんと意識がもうろうとし始めて身体中に感覚が戻っていった。しかし意識が戻っていくのと同時に腰のあたりに重いものが乗っているような感覚が生まれた。その重さはだんだんと確かなものになっていき、一分もたたない頃には確かに重量を感じた。そんな感覚の次に目覚めたのは聴力だった。耳の中に小さいが僕を呼ぶ声が聞こえる。その声は耳の中に響いていく。どこかで聞いたことがあるような、ずっと昔に聞いたような、いつも聞いているような、そんな声だった。僕の聴力はだんだんと覚醒していき、今では声の主が誰かもわかるようになった。間違えるはずがない、さっきから僕の名前を呼ぶこの声の持主は、曜のものだ。ではなぜベッドで寝ていたはずの僕の耳に曜の声が聞こえるのか。疑問に思い、まだ少し重い瞼をそっと開けた。そこに見えたのは僕の体にまたがりこちらを向いている曜の姿だった。曜は僕が起きたのを確認すると、またがったまま敬礼をしながら話しかけてきた。
「綾斗君、起きた?おはヨーソロー!」
「な・・なんで曜がここに?」
僕が質問すると曜はあたかも当然のことを言っているような顔で返答した。
「なんでって、昨日約束したじゃん。」
「いや、そうだけど、なんでここにいるの?」
もう一度僕が質問すると曜はくすりと笑った。
「そっか。綾斗君、まだ寝ぼけてるんだね。」
すると曜は僕の首のすぐ横に両手を突いた。曜の腕のせいで僕は顔が左右に動けなくなってしまった。逃げ道が無くなったような気分だ。すると曜は僕の右耳まで顔を近づけた。曜の髪が顔に当たってしまう。曜の髪からはシャンプーのいい匂いが漂ってきた。いやそれ以上にほとんど体が引っ付いてしまっているから、曜の胸があったてしまっている。まだ小さいが確かに発展した胸が。これもわざとなのだろうか。さらに曜は自分の口を僕の耳の部分まで近づけた。耳に彼女の息遣いが聞こえてくる。そしてそのまま曜は僕の耳元で囁いた。
「私が起こしてあげるね。」
いきなり曜の声が耳元で聞こえてきたことに体が動揺して全身がぞくっという感覚に包まれ、跳ね上がりそうになってしまった。曜は一度体起こすと改めて僕の正面に体を持ってきた。曜は僕の目を見ながらゆっくりと口を動かした。
「目覚めのキス、しよ?」
まてまてまて、何でだよ!どうしてこうなった。そもそも目覚めのキスは男からやるものじゃないのか。というか何だか今日の曜は様子がおかしいぞ。いやおかしいというより大胆というべきなのだろうか。それ以前に僕たちは付き合ってもいないんだからキスも早いって!そんな反論の言葉を述べたかったが動揺してしまって動かなかった。それをいいことに曜の顔はだんだんと近づいてくる。近づくほど曜の顔が、唇がはっきりと見えてくる。赤く柔らかそうな女の子の唇。それに多分曜もファーストキスのはず。初めてをこんな展開でいいのだろうか。付き合ってもいないのに相手にまたがって自分からしようとする展開なんてどんな痴女だよ。しかし赤い果実のような唇は進行を止めることはなく今も前進してくる。気が付けば曜の唇が後3センチほどの距離まで来ていた。あと2センチ・・・1センチ・・・。ここまできたら僕にも決心ができた。曜が僕のために、僕を起こすために、僕を思ってキスをしようとするなら受け入れようと。そして責任をとって僕たちは結ばれて彼女を幸せにしようと。あと5ミリにも満たないときお互いの思いは一つになった。そして遂に唇が触れあおうとした。
その瞬間、現実世界に引き戻された。あたりを見渡すとそこはいつもの自分の部屋で、曜もいない。時間を確認すると、6時30分。どうやら寝ているうちに見た夢だったようだ。なんだ夢落ちか。少し残念な気もするが曜とのキスはもっとムードとかを大事にしたい。こんな展開じゃなくてよかった。複雑な気持ちになりながらも制服に着替えると、自室を出て階段を下りてリビングに向かった。この時間帯ならお母さんが朝食作っているはずだ。そう思いながら階段を降りると、キッチンからいい匂いが漂ってきた。
「あ、綾斗君。おはヨーソロー!」
あれ?お母さんはヨーソローなんて言ったっけな。僕の周りにヨーソローなんて言うには曜くらいしか知らないぞ。キッチンを見ると、いつもの制服の上にエプロンを着ている曜の姿があった。キッチンに立ちながら料理をしている様子はまさに新妻、いや曜は幼馴染だし幼な妻だろうか、のようだった。
「なんで・・・曜がここに?」
「なんでって、昨日起こすって約束したじゃん。起こせなかったけど。」
そんな、僕の方がおかしいこと言ってるみたいな顔しないで。本当に混乱してくるから。
「だから、どうして僕の家のキッチンにいるの?」
「ああ・・それは。朝、綾斗君を迎えに行ったらおばさんが出てきてしばらく出張に出るからって鍵を渡してくれたの。」
何してんだよ!しかも何で曜に鍵渡してるんだよ。
「それでね。鍵を使って家に入ったら綾斗君の部屋に行ったら、綾斗君気持ちよさそうに寝てるから起こさないようにして部屋を出て、私は朝ご飯作ってあげようと思って、料理してたら綾斗君が起きてきて今に至るというわけ。」
「・・・・はあ、そうですか。」
朝のあの夢といい、今日は朝から疲れるな。心身ともに疲労中だよ。
「それとおばさんがこれからしばらくごはんを作ってあげてほしいって。」
「・・・ご飯くらい自分で作れるのに。」
「レンジでチンしたり、カップラーメンにお湯を入れるのは料理じゃないからね。」
「・・・」
何も言い返せないな。その通り、僕は料理ができない。できなくもないができない。おにぎりくらいは自分で作れる、はずだ。その分は曜が来てくれるのはありがたいかもしれないが、お母さんの出張くらい言ってくれればよかったのに。ふと、テーブルの上に目をやると、母からの置手紙が置かれていた。『ゴメンね☆』と書いてあった。それだけかよ。出張ということはもしかしてしばらくは帰ってこないのか。
「・・・もしかして曜、これからお母さんが帰ってくるまでずっと朝来るの?」
「うん!そのつもり!」
マジかよ。
夢落ち、そんなことがこの前あったんですよ。で、起きたら髪がマリーみたいになってたことがあったんですよ。鏡見たら驚きましたよ。